| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

会談

 
前書き
説明回その2 

 
「時空管理局……!?」

「執務官だって!?」

苦々しそうにその名を口にしたフェイトとアルフは、すぐさま逃走を開始する。ジュエルシードに向かわず踵を返して一目散に逃げる辺り、ちゃんと覚えていてくれたようだ。ならおれも仕事をしなければな。

「動くなっ!」

黒い格好の少年が彼女ら目掛けて魔力弾を放つ……前におれは彼が最優先で手にしなければならないはずのジュエルシードを手にする所を見せ付ける。

「貴様、何をしている!」

すると職務に忠実な彼は咄嗟にデバイスの矛先をこちらに向ける。おかげでフェイト達が攻撃される事は避けられた。

「フッ……暗黒転移!」

「転移魔法!? ま、待て!!」

少年が魔法を放つがもう遅い。魔力弾が到達した頃には既におれはその場からいなくなっていたのだから。しかし暴走する可能性があるジュエルシードの傍で魔法を使うとは、彼はこれの特性を理解しているのだろうか?

『暗黒転移ってさぁ、すぐに発動できるから便利過ぎるよね』

アリスの言う通り、確かにフェイト達の使う転移魔法は発動まで割と時間がかかる。それに比べて暗黒転移は瞬時に発動できるから、上手く使えば転移回避の鬼にもなれる。尤もそれだけ連続使用するとエナジーの消費も凄まじくなるが。

『ジュエルシードも封印したし、今日はもう休むね』

そう言ってアリスはおれの中に戻って行き、しばらく彼女は眠りについた。幽霊だろうと疲れれば寝る事もあるのだ。
そして追っ手がかからない程度に離れた地点で一度フェイト達と合流し、先程手にしたジュエルシードを譲り渡す。

「恐ろしい程上手くいったね」

「うん、これもお兄ちゃんが事前に色々決めてくれたおかげだよ」

アルフがしたり顔で笑い、フェイトもホッとしたようにジュエルシード越しにおれの手を握る。
……以前フェイト達とヴァンパイア対策に考えておいた逃走案、それを応用したのが今回のやり方だった。管理局がとる行動を先読みし、即時離脱が可能なおれがフェイト達の転移時間を稼ぐ。内容自体はそれだけなのだが、俺の知らない組織である管理局が実際にどういう行動を取るか、どんなタイミングで彼らが現れるか、など様々な状況を推測する必要があり、今回のパターンは大まかに表すと“ジュエルシード封印後”、“ヴァンパイア無し”、“管理局員単独”の要素が揃ったものであった。

「さて、手筈通りにおまえ達は探知されないように多重転移してから帰――――ッ!?」

この気配は……ヤツめ、このタイミングで動くか!!

話している最中に感じた爆発的な闇の気配。これほどの濃厚な闇の気配を出せるのはイモータルのみ。ヤツも結界内部に入れる事には少し驚いたが、それよりもヤツが向かっているのは先程の連中がいた場所。彼らが対処を間違えて噛み付かれでもしたら、そいつがアンデッドにされる。それは色んな意味でマズい。

「フェイト達は先に帰れ。おれは一度戻る必要が出て来た」

「ど、どうして? せっかく逃げられたのに……まさか、例のヴァンパイア?」

「そうだ、この件はおれの果たすべき役目だからな。済まないがはやてに少し遅れると伝えておいてくれ。アルフ、フェイトを頼むぞ!」

「あいよっ! 必ず帰って来るんだよ、サバタ!」

「……気を付けて、お兄ちゃん」

多重転移で帰ったフェイト達と別れたおれは、暗黒転移を使って目標地点から少し離れた場所に身を潜める。ヤツはまだ来ていないが、空中にモニターを表示させている時空管理局と高町なのはの勢力との会話が聞こえる。

『初めまして。私は時空管理局、次元航行艦アースラの艦長、リンディ・ハラオウンです。あなた達に訊きたい事があります。どうかアースラに来てもらえないでしょうか?』

「そう言われても俺達はこの状況がさっぱりわからない。だが、なのはが関係しているとなれば話は別だ。むしろ話を聞かせてもらえるのなら好都合だな」

「そうね。いきなり巻き込まれた以上、私たちにも知る権利ぐらいはあるもの。でも時空管理局? なんて聞いた事も無い組織の戦艦に行くのは流石にごめん被るわ。だってさっき警告も無しにいきなりサバタに攻撃してたし、ホイホイついて行った所で何をされるかわかったものじゃないから」

「あれは彼が勝手に危険物を手にしようとしたからで、僕はそれを止めようとしたまでだ!」

「そうは言うけど、アイツの行動は飛んでいったあの金髪の女の子たちをあんたから守るためにとったようにも見えたわよ?」

「うん。私もちょっと羨ましいかなって思うぐらい妹思いの良いお兄さんだったように見えたね」

「確かに、サバタさんは何だかんだでフェイトちゃん達をしっかり守っていたの。それに少し前に私も危ない所を助けてもらった事もあるの」

「………僕も、彼は悪い人ではないと思います。色々大切な事を考えるきっかけもくれましたし」

「だが彼は無許可でロストロギアを―――」

『よしなさいクロノ執務官。すみませんが私たちも彼らの事を知らないので詳しく教えてもらいたいのです。なので話し合いの場を持つためにもこちらに来てくれませんか?』

「話し合いたいのならむしろそちらから来てもらいたいわね。なぜわざわざそちらの拠点に赴く必要が―――」

―――ある、と言おうとした月村忍の傍を、突如黒い弾丸が通り過ぎた。一瞬の事で動けなかった忍が恐る恐る振り返ると……。

「ウグワァアアアア!!」

初日に遭遇したヴァンパイアが叫びながら小太刀を再度振りかぶっていた。あまりに突然の襲撃に流石の彼女も動けなかったものの、瞬時に踏み込み間に入った恭也が持参した小太刀で追撃を防ぐ。

「こいつは……あの時の! なぜこんな所に!!」

恭也が叫ぶが、一方で忍は不意打ちで放たれたヴァンパイアの剣を一度弾いた先程の暗黒ショットのおかげで自分が命拾いしたことに気付いていた。

「おまえ達は下がっていろ。こいつの相手はおれの務めだ」

『サバタ!?』

そして転移したはずの彼が再び現れた事にこの場の全員が驚愕する。しかし一方でヴァンパイアは懐に所持していた鋼糸を使用して変則的な妨害攻撃を行ってきた。それを対処しながら正面から目の当たりにした恭也は愕然とする。

「この戦術は、間違いなく御神流……! 神速といい虎乱といい徹といい、なぜこいつが使えるんだ!?」

ハイレベルな近接戦闘に魔導師連中や一般人組は茫然とするか、急いで安全な場所へ離れるかしていたが、その様子を見て恭也の戦闘に加勢していたサバタは怒鳴る。

「管理局、さっさとこいつらを安全な場所へ移せ! 見殺しにする気か!!」

『ッ! 皆さん、クロノ執務官の近くに集まってください! アースラへ転移させます!』

「待って! まだお兄ちゃんとサバタさんが!」

「彼らは後だ! 今は君達だけでも転移させる!!」

「でもっ!!」

「君達ではあの速度に追いつけない! 僕も悔しいがここにいると彼らの足かせになる! 今は撤退するんだ!!」

「嫌だよ! 待って、お兄ちゃん!! サバタさん!!」

わめく高町なのはを抑えながらクロノはサバタと恭也以外の全員を上空のアースラへと運ぶ。激闘の最中、それを見届けたことでサバタと恭也は本格的に戦いに集中できるようになり、微かに笑みを浮かべる。

「恭也、そろそろおまえも本気を出さないとやられるぞ?」

「それぐらい知ってるさ、こいつはどういう訳か御神流を俺以上に使いこなしている。手加減する余裕も一切ない。確実に仕留めるぞ、サバタ!!」

「元よりそのつもりだ。これからおれはブラックホールのチャージに入る。その間攻撃をこちらに届かせるな!」

「了解だ!」

以前にも同じ構図で一度共闘した事があったためか、彼らは互いの意思を瞬時に把握し、恭也は持てる力の全てを出し切ってサバタがヴァンパイアの動きを封じ込めるブラックホールを完成させる時間を稼ぐ。サバタは事情を知らないが膝に故障がある恭也にとって、本当の意味での全力は使えないが、それでも自分より格上の相手であろうと引けを取りはしない。

「あと10秒だけ耐えろ! それで完成する!」

「このレベル相手に10秒はキツイが、やり遂げてやるさ!」

「何を言う。おまえならまだ30分以上は持ち堪えられるだろう!」

「いつの間にか過大評価されてる気がするが、悪い気はしないな!」

高速で振るわれる刀の激突。飛び散る火花。夕闇に染まりかけている空を背景に恭也とヴァンパイアの圧倒的速度の剣劇が映し出される。それは鋼糸や飛針の流れ弾で地面を削り、小太刀でかまいたちが巻き上がる程である。
そしてヴァンパイアの放つ搦め手の鋼糸や徹のこもった飛針による流れ弾をゼロシフトで器用に避けながら、それでもサバタは自らの体格並に大きくなったブラックホールを更に大きくしていく。

「残り5秒。貴様は恋人に二度も手をかけようとしたんだ、償ってもらうぞ!!」

神速を使った事で景色がスローになる恭也。対するヴァンパイアも同じ技を使うことで両者の間にありえない剣速の応酬が炸裂する。上空で見ていた管理局はその人の域を超えた速度に目をむくが、もう一方の特異性も目を離せなかった。

「3………2………1………完成だ! 吸い込め!!」

光をも飲み込もうとする吸引力にヴァンパイアは足を止めざるを得ない苦境に追い込まれる。そこを狙わない恭也ではなく、次々と背後から光速の太刀を入れてブラックホールにヴァンパイアを追い込む。そうしてブラックホールにヴァンパイアを封じ込めると、これまで耐えた分のカウンターのごとく恭也が立て続けに斬る斬る斬る斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!

「ウグゥアアアアア……!!」

耐久力の尽きたブラックホールが爆散すると、ヴァンパイアは胸を押さえて膝をつき、乱れた呼吸を整えていた。恭也の剣によって至る所を切り刻まれたヴァンパイアは着ている服も刀傷だらけとなり、顔を覆っていた覆面もボロボロとなった事で風が一瞬吹いた瞬間千切れて落ちる。

「な!? そんな……馬鹿な!」

それで露わとなったヴァンパイアの顔を見た途端、殺気立っていたはずの恭也の表情は一瞬で驚愕に彩られ茫然自失の言葉を紡ぐ。

「嘘だ……こいつは……こいつは……!」

「恭也? ……もしやと思うが、このヴァンパイアを知っているのか?」

「何故だ……行方不明になるまでに、一体何があったんだ……

“父さん”!!!!」

こいつも……同じだったのか。おれ達の親父と同様に、恭也の父親もまた、イモータルの手でヴァンパイアにされていたようだ。

「ウ……! キョウ……ヤ、強く、なったなぁ……!」

「父さん!? 俺の言葉がわかるのか!?」

「時間が、ない。よく聞け……! “白装束の少年”、そいつが……元凶だ!」

「白装束の少年!? そいつの名は何なんだ!」

「名は…………ラ……タ…………、ぐ……ウアァアアアアア!!!」

裏に潜むイモータルの名を口にしようとした途端、ヴァンパイアは頭を押さえて叫びながら多数のバットに分裂し、いずこかへ飛び去ってしまった。

「父さん! ……父さん……クソォッ!!」

肉親と知らずに戦っていた現実に恭也がやりきれない雄叫びを上げる。だが……おれは彼のおかげで敵の正体に見当が一応つき始めていた。しかし……奴は浄化されたはずだ。なぜ生きて、いや、そもそも何故ここに……? まあもし本当に奴が来ているならば、世紀末世界での借りを返す良い機会となるだろう。

『あの……そろそろお話を伺っても大丈夫でしょうか、サバタさん?』

「管理局か……一応聞いておくが、余計な強硬手段を使ったりはしないだろうな?」

『それはそちらの立場にもよるので保証はできませんが……出来れば手荒なことはお互い避けませんか?』

「……先に転送させたあいつらは無事なんだな?」

『それは保証します。こちらで丁重に扱っていますのでご安心ください』

「そうか。……恭也、おまえはどうする?」

そうして視線をうなだれている恭也に向ける。すると彼は静かに立ち上がり、周りへのプレッシャーがダダ漏れになりながらも言葉を発した。

「無論、行くさ。なのはが隠れて何をやっていたのか、この街に起きている事態とか、そしてサバタ、おまえとヴァンパイアの事もおれには知る権利がある。現に親父がヴァンパイアとなっていた以上、無関係ではいられない!」

「だそうだ。一応おれもついて行ってやるが、余計な真似はするなよ?」

『可能な限り善処します。それではアースラへ転送させていただきます』

そうしておれと恭也は転移装置によって時空管理局の戦艦アースラの内部に入った。内装の雰囲気はメカメカしいとでも言うべきで、よくあるメルヘン要素というものは欠片も見当たらなかった。ニーズホッグ辺りが狂喜しそうだ。

「……彼女たちのいる所へ案内する。ついてきてくれ」

おれ達が最初に降り立った部屋に先程あの場に現れた黒づくめの少年が道案内役として訪れる。なお、彼は一瞬おれに不機嫌な表情を向けてきたが、興味ないので無視しておく。

「クロノ……だったか。なのはには何もしていないんだな?」

「もちろんだ、と言いたいがあの後、彼女があの場に戻ろうとしたからどうにか止めはした。今は落ち着いて大人しくしてくれている。あと聞いておきたいんだが、君たちは魔導師じゃない……んだよな?」

「お前たちの使う魔法を使える者の事を言うのならおれは魔導師ではない。恭也もそうだろう?」

「ああ。そもそも魔法自体存在していると思わなかったから、こうして実際に目の当たりにして奇妙な気分になっている」

「それなのにあれだけ強いのか……どうなってるんだこの世界は……」

そうやって辟易するクロノの案内でついていった先は、艦長室とは名ばかりの似非日本庭園だった。恭也はポカンとしていたが、日本に詳しいわけではないおれもはやてのおかげで正式な方を知っているため軽く頭痛を覚えた。そんな部屋の中心には先に避難させていた彼女たちが集まっていた。

「そういえば君、そろそろ元の姿に戻ってもいいんじゃないか?」

「あ、ずっとこの姿だったことを忘れていました」

“獣”とクロノのやり取りに皆が首をかしげる中、急に“獣”が光り高町なのはと同年代の淡い雰囲気の少年が現れた。

「ふぅ、この姿をなのはに見せるのは二度目だったよね?」

「……………」

恐らく本来の姿であるユーノが高町なのはに話しかけるが、当の彼女は、いや、彼女に関わりのある全員が唖然としていた。

「あ、あれ? なのは? 皆さんもどうし―――」

『ええぇえええええええええええええええええええええ!!!!????』

瞬間、彼女らの絶叫がアースラ全体を揺るがした。耳がじんわりと痛い……。
なおこの後、温泉で妹の裸を見たことなどでユーノが恭也から制裁を受けたりするのだが、それはおれの知るところではない。







おれの事は後で話すということで先に優先事項であるジュエルシードに関する一通りの説明をしてもらった。それによるとあれの発掘者はユーノ・スクライア。それで管理局へ輸送しようと護衛艦を待ってから行こうとしたものの、諸事情で護衛艦が遅れていた事から輸送船だけで出発。しかし事故によってジュエルシードが地球にばら撒かれ、回収のために単独で降りたものの、力及ばず現地の魔導師に救難信号ならぬ救難念話を放つことで偶然魔法の才能を持っていた現地の住人、高町なのはが釣れて協力を要請。彼女に魔法少女稼業を務めさせる事になったらしい。道理で初対面の時、素人の雰囲気しか感じなかったわけだ。

「なるほど……あのロストロギア、ジュエルシードを発掘したのはあなただったんですね」

「はい、それで発掘者としての責任を感じて僕が回収しようとしたのですが……」

「立派だわ」

「だけど同時に無謀でもある」

その時、「ん?」と首を傾げたアリサが挙手する。

「ちょっと待って。なんか引っかかるんだけど、その言い方ってぶっちゃけ“そちら側”の見解であって、“地球側”の意見は反映されていない気がするわ」

「うん。知らない間になのはちゃんが巻き込まれていたのは少し納得いかないけど、それはそれでしょうがないとして、もし誰も対処できる人がいなかった結果、大惨事が起きていたらと思うとゾッとするよね」

「二人の言う通りね、私たちは知らない間に時限爆弾を持たされていたようなものだもの。そう考えると依頼された護衛もしないし事故が起きてもすぐに対処してくれなかった管理局と比べて、失敗はしたけど責任を感じて来てくれたユーノ君の方がはるかにまともだと思うわ」

「結果的に俺の大事な妹を勝手に命にかかわる危険にさらした事には変わりないがな」

「う……」

「ゆ、ユーノ君は悪くないの! 私がやりたいと思った事だから、お兄ちゃんもあんまりいじめないで欲しいの!」

秘密にしていた分家族から責められて針の筵の構図になっている高町なのはとユーノ・スクライア。何だか大変そうだが、ある意味自業自得とも言える。

「ところであなた達の言う“ロストロギア”って当方はまだ理解できていないのですが、要するにそれは何なんですか?」

「確かに説明不足でしたね。ロストロギアとは、過去に何らかの理由で滅んでしまった世界、もしくは古代文明の技術で作られた遺産などの総称です。そのほとんどが既出の技術では真似できない超高度の技術や生半可な技術では制御が難しい、または不可能な物で構成されています。下手に扱えば世界が滅ぶかもしれない危険性も持っていますので、私たち時空管理局はそれを確保して管理しているのです」

「では何故あなた達は今のタイミングで訪れたんですか? 事故が起きたと知らせが届いているのなら、もっと早く来れたのでは?」

「数日前にこの世界で次元震と呼ばれる、次元世界に作用する地震が確認されたので。遅れてしまったのは人材不足も理由の一つですが、事件現場の検証や被害の報告などに時間がかかってしまったからです」

この前のジュエルシードの暴走か……あれは確かに中々危ない所だったな。なお、ネゴシエーターには当事者の高町なのはを差し置いてこの面子の中では最も交渉慣れしている月村忍が表に立っている。あちらはしばらく任せておいて……っと、そうだ。

「ところで“獣”、この前の宿題の答えはわかったか?」

「人の姿を見せたのに“獣”呼ばわりはまだ変わらないんですね、サバタさん。でも……その理由も今ならわかるかな」

「ユーノ君、答えって結局どういう事なの?」

「……僕はこの前こう言ったよね。『なのはの家族には伝えていません。魔法の事を管理外世界に漏えいするのは管理局法で違法でもあります』と」

「うん。でもそれって確か魔法がばれると混乱が起きて大変な事になるからって私がレイジングハートを手にしたあの日に家で言ってたよね?」

「うん。だけどそれを意識し過ぎた結果、僕はなのはの命を必要以上に危険にさらしてしまった。いや、もっと取り返しのつかない事態になっていたかもしれない。もし……もしもの話だよ? なのはが暴走体に負けて命に関わる大怪我を負ったりした場合、何も知らないなのはの家族は自分たちの知らない間に瀕死になっている家族の姿を見てどう思うか想像できる?」

「それは……何があったのかどうしても知りたいと思うの。でもそれ以上に無事に治るのか凄く心配になるし、何で話してくれなかったのか悔しく思う…………あ!」

「なのはもわかったよね。家族に何も知らせないという事は、この話の通りになっていた可能性があるって事なんだよ。そしてそれは違法になるかもしれないからっていう僕の保身が生み出した悲劇にもなる。これに気付いたからサバタさんはあの時、幻滅したって言ったんだよ。うん、全くその通り、言い返せる言葉は一切見当たらない」

説明し終えると無力感に満ちた様子でうなだれるユーノ。高町なのはもそんな彼を励まそうと言葉を探しているが、元々文系が苦手である彼女には何も思い付きそうになかった。
おれはおれで予想を上回る質の答えに内心感嘆していたが、今の内容を理解したのならまずすべき事があるのを彼に伝える。

「……“ユーノ”。それに気づいたのなら何をしなければならないのか、おまえならわかるな?」

「ッ! 今、僕の名前を……」

「幸いここにはその“なのはの家族”がいる。……今の話は聞いてただろう、恭也?」

「ああ。ジュエルシードを集めなければ地球が滅んでいた危険があるとはいえ、俺達家族に黙ってなのはに手伝わせていたのはどうしても納得がいかない」

「おっしゃる通りです。だから恭也さん、魔法の事を隠したまま、なのはの力を借りている事をずっと黙っていてすみませんでした」

「待ってお兄ちゃん! ジュエルシードの回収は私が自分からやろうと思ったの! だから……!」

「…………」

無言のまま佇む恭也の前でユーノは何も言わず頭を下げ続けている。高町なのはも必死に弁護しようとしているが、耳に入っているかどうか疑わしい程恭也は無反応だった。リンディや月村忍たち他の面子もその重い空気に誰も言葉を発せられなくなる中、感覚では一時間ぐらい経った気がする頃、徐にため息を吐いた恭也はユーノの近くに歩み寄り……、

「……なのはに大した怪我は無いようだからな、特別に許してやろう」

彼の肩に手を置いてそう告げた。瞬間、ユーノは「ありがとうございます!!」と大声で涙混じりに礼を言う。まるで父親に娘との結婚を許可してもらった新郎のような流れだが、ある意味高町家では似たような扱いだろう。

「まあもし……なのはに大怪我させていたら、この世の生き地獄に叩き落としていたがな?」

「誠に申し訳ありませんでしたぁ!!」

「そう必要以上に脅すな、恭也。妹が毎日ジュエルシードを集めに出かけていた事に気付かなかったおまえにも責任はあるのだからな?」

「ずっと俺達が探していたお前が言うか、それを……」

「今日までの間、恋人優先で家族を顧みなかったおまえが何を言う? 少しでも兄らしくして妹の行動に気をつけていればおまえなら見抜けたはずだ」

「ぐ……そ、その通りだ……!」

「あ~コホン、そろそろこちらの話にも合流してもらえませんか、サバタさん?」

論破されて言葉に詰まる恭也の様子を見て、矛先を変えようとしたのかリンディがおれに話を振る。確かに話を切り替えるには丁度良く、おれは管理局との会議に参加した。おれが入るまで主に話していた月村忍やアリサ・バニングス、月村すずかは後ろに一歩下がった所でこちらを伺っている。

「さて、それでは色々訊きたい事があるのですが、まず……」

「さっき君が回収したジュエルシードを僕たちに渡してもらいたい。管理局の事を知った今なら渡す理由ぐらいもうわかるだろう?」

「催促している所残念だがおれは既にジュエルシードを持っていない。転移した後、フェイトにすぐ渡したのでな」

「あの金髪の魔導師ね。それなら彼女達の潜伏先を……」

「教えるとでも? 義理でもおれはあいつらの兄だ。もう二度と家族を裏切るつもりは無い」

「なっ! 僕たちは時空管理局なんだぞ!? 危険なロストロギアを個人の手に委ねる訳にはいかないんだ!」

「ほう? では最初に依頼したはずのユーノの護送船が来なかったのはどうしてだ? その時点で管理局は自分から個人の手に委ねざるを得ない状況にしているじゃないか」

「そ、それは……管理局が慢性的な人材不足で手が足りなかったからだ」

「それは一切弁護にならん。組織というものは設立した以上、最低限の役割は絶対に果たさなければならない。だがおまえ達管理局は“ロストロギアの管理”を設立理念としているのに、今回ユーノが依頼した“ロストロギア・ジュエルシード輸送”の任を放棄した。この時点でおまえ達は管理局の存在意義を自ら捨て去っている事がわからないのか?」

「……確かにサバタさんの言う通りですね。それについては謝罪させて頂きます」

「かあさ……艦長!」

「それと執務官、おまえにも言っておきたいことはある」

「なんだ、何を言うつもりだ!?」

「ジュエルシードは魔法の発動による刺激で暴走が起きる可能性がある。それにもかかわらずおまえは近くで魔法を行使した。運が悪ければ再び暴走して次元震が起きるかもしれなかったのだぞ? ロストロギアの危険性を知っているとは思えない迂闊な行動だったな」

「な! あれは君が勝手にロストロギアを持っていこうとしたから、管理局員として止めようと」

「では訊くが、爆弾の導火線の近くで火を振り回している奴がいたらどうする?」

「それは……急いで爆弾を取り除くか、火を振り回している奴を止めるか、火を消すかだろうけど……」

「当然その通りだ。ならばおれが言いたい事もおのずと理解できるだろう?」

「あ………ああ」

「それと……ここがおまえ達の言う管理外世界である以上、普通は時空管理局の存在を知るわけがない。ゆえにおまえ達が本物の管理局なのか判断もできない。だから信用ならない人間の手に渡すよりも信頼できる人間に渡したのだ」

「でも君は魔法を……ああそうか、君は魔導師じゃないんだったか。ならあの少女から管理局の事を聞いていた所で僕たちが本物か判断がつかないのも当然か。そして君は基本的に被害を抑えようと行動していただけなのに僕は義務感に駆られて攻撃した。……確かに僕が悪かったな、すまない」

これまでの状況を冷静に思い返し、血が上って迂闊な言動や思い込みをしてしまっていたことに気付いたクロノは、大人しく自分の非を認めて謝罪した。このままではサバタに話の流れを持って行かれたままだと判断したリンディは話を変えるべく本題に踏み込んだ。

「…………ところで先程からずっと気になっていたんだけど、魔力が探知できない瞬間転移に、攻撃が当たらなくなる高速移動、ブラックホールを作れるその銃といい、あなたの力は一体何なのですか?」

「……ヒトを滅ぼし、魔を喰らう闇の力だ」

「なんなのその恐ろしい力!? もしかしてレアスキルですか?」

「フッ……この呪われた力はおまえ達の使う魔法のように都合のいい代物ではない。……おれの居た世界を知らないおまえ達では、まだ理解が及ばないだろうがな」

「私たちの知らない世界……?」

仮にも次元世界の守護者を名乗っている管理局にとって自分たちの知らない世界の出身とは聞き捨てならない言葉だった。数多ある次元世界、当然未知の世界が発見される事も多々ある。そして新たな魔法体系や、特殊な異能もその世界に応じて見つかる時もある。それらは大抵“ミッド式”という自分たちが使っている魔法体系で応用できる場合がほとんどであった。
しかし管理外世界が独自で次元を渡る術を発見した場合、もちろん可能な限り友好的関係を構築しようとはするが、下手をすれば管理局とその世界との大抗争に発展してしまう恐れがある。そのため管理局の重鎮であるリンディとクロノは内面でサバタに対する警戒心を一段と強めた。だがサバタが放った次の言葉でそれは一気に覆された。

「改めて自己紹介しよう。世紀末世界……滅びがすぐそばにある並行世界の地球からやってきたのがこのおれ、暗黒少年サバタだ」

「並行世界!? あなたは次元世界の出身じゃないの!?」

「次元世界について知ったのはごく最近だ。フェイト達に教えられ、同じ地球と呼ばれる世界が存在しない事からここが並行世界だと判断したのだ」

「ならどうやってこの世界に来たんだ? 並行世界を渡る術を君は持っているのか?」

「どうやってと言われても答えようが無い、気づいたらこの世界にいたのだから。故に自力で並行世界を渡る術なぞ持ち合わせていない」

「という事は管理局法の扱いとしては次元漂流者になりますね……それでフェイトさん達と暮らしていたと。では魔力反応が探知出来なかった瞬間転移や高速移動は、あなたの世界の魔法ですか?」

「魔法には違いないが、あくまで一部に過ぎん。それと一度見ればわかるが、おまえ達の使う魔法とは内容も性質も異なる。おれのエナジーは暗黒物質ダークマターだから使える月光魔法も特殊だ」

「月光魔法?」

「世紀末世界の魔法の仕組みについて詳しく説明するとなると小一時間は余裕でかかるぞ? 今は他の話をする方が賢明だと思うが?」

「……そうですね、サバタさんの世界に存在する別の魔法体系について色々訊きたい事もあるけど、優先すべき事はそこじゃありませんね。……それで、ヒトを滅ぼす力とあなたは言ってましたけど、それはどういう意味があってそのように?」

リンディはサバタの使う力が見た目からして人体に危険性の高いものだと見ていた。といってもそれはあくまで非殺傷設定の効果が及ばない程の攻撃力や殺傷能力が必要以上に高過ぎる程度だと思っていた。しかし……サバタの言葉は何一つ誇張が含まれていない事を次の言葉で思い知らされる。

「簡単な事だ。この暗黒物質によって……世紀末世界の人間の多くが死に絶えたからだ」

「なっ……!」

沈黙。

この場にいる全ての人間が言葉を失う。それもそのはず、サバタの使う力は文字通り“ヒトを滅ぼす”力であった事を使い手である彼自身の口から聞いてしまったのだ。誰も何も言えない空気の中、サバタは暗黒物質に侵された人間がどうなるかの説明を始める。

「暗黒物質に浸食された人間は吸血変異を引き起こし、反生命種アンデッドとなって生きとし生ける存在を襲う。アンデッドは理性を失い、生命を奪う活動を永久に続ける。ちょうどさっきの奴のようにな」

その言葉を聞いた恭也は父親の現在の状態を理解した事で辛い表情になる。また、この世界の吸血鬼である月村家の人達は、世紀末世界に吸血変異が引き起こされた事で人類が絶滅しかけている真実に複雑な気持ちを抱いていた。

「……なぜ、サバタさんの世界はそんな事に?」

「人類を超越したとある存在が地球に吸血変異を引き起こしたからだ。……銀河意思ダーク、宇宙を作り出した存在だ」

「銀河意思ダーク……」

「あ! だから初対面の時、アンタは知らないかって私たちに訊いたのね!」

「……あの時尋ねてきた理由は今の話を聞いたらもうわかるよね。……あれ? じゃあもう一つ訊いてきたイモータルって何なんですか?」

「……銀河意思が生み出したイモータルとは地球の……銀河の存続のために、いずれ銀河系を侵す存在である人類を無害な反生命種アンデッドに変える事で延命しようとしているヴァンパイアの事だ」

「無害だと!? 大勢の人の命を奪う事を延命するためと言って正当化するとは、なんて奴らだ!」

「人類が銀河系を侵すって決めつけるなんて……サバタさん、その銀河意思ダークをどうにかする事は出来ないの?」

「不可能だ。ダークは銀河宇宙の意思そのもの、たかが人間の身で到底倒せる相手じゃない」

世紀末世界の行く末に対する残酷な現実に、誰もが沈痛な気持ちになる。そんな中、何かに気付いたユーノが挙手する。

「……サバタさん、宇宙を作り出したって言ってましたけど、それは要するに人類も銀河意思によって生み出された事になりませんか?」

「突き詰めればその通りだ、ユーノ。生命を育んできた太陽も含め、全ての存在は銀河意思の手によって創造されたという事実に収束する」

「ならどうして……自分で生み出したはずの人類をわざわざ滅ぼそうとするの? 皆……頑張って生きてるんだよ? なのに……」

「高町なのは、おまえの感情も理解できるが……ダークに慈悲の心はない。宇宙の存続のため、ダークの行動理念はそれに尽きる」

「……そんなの……変だよ……おかしいよ……」

どうしても納得できない高町なのはは頬に涙を流しながら落ち込んだ。アリサとすずかが彼女を抱き留め、慰める。サバタの世界の未来があまりに絶望的すぎて自分たちが今生きているこの世界がどれだけ恵まれているか、地球の人間も管理局の人間も分け隔てなく噛みしめる。

「……あれ? それだと少し疑問があるんだけど……」

ユーノが更に何かに気付いたように尋ねる。

「どうしてそこまで容赦なく攻撃されているのに人類はまだ滅びていないんですか? もしかしてイモータルに対抗できる術があるんですか?」

「察しがいいな。そう、おれの弟のジャンゴ、父の跡を継いだヴァンパイアハンターであるアイツがイモータルを倒す力を持っている」

「ヴァ、ヴァンパイアハンター!?」

やはりというべきか、月村忍を始めとする月村家の事情を知る者全員が過剰な反応を示した。それも当然で、この世界にも性質は異なるが存在するヴァンパイアハンターとは何度も月村家は戦った経験がある。故にヴァンパイアハンターの弟を持つサバタを同じヴァンパイアハンターではないかと警戒したのだ。

「あの……?」

「放っておけ。それより話を進めるぞ」

「は、はい。とりあえずサバタさんの弟が世紀末世界で戦っているおかげで人類が存続している事はわかりました。でも僕が言うのも何ですが、力があると言っても暗黒物質に侵されたらアンデッドになる危険が…………ん? あれ? ちょっと待ってください」

重要な真実を思い出したユーノは不思議そうにサバタを見つめ、問いただす。

「なぜ暗黒物質を操ってるサバタさんはアンデッドにならないんですか?」

その瞬間、この場にいる全員の視線がサバタを警戒心マックスで見る。今までの話を聞き、サバタは実はイモータルではないかと、そう思ってしまったのだ。それを察した、というよりそうなる事を想定していたサバタは軽く息を吐く。

「おれの中に流れる月光仔の血のおかげだ。それでアンデッド化せずに済んでいる」

「月光仔の血……?」

「既に滅亡した月の一族の血だ。おれ達兄弟は太陽仔の父、月光仔の母の間に生まれ、それぞれの血を濃く受け継いでいる。ジャンゴが太陽仔の血を、おれが月光仔の血を、とな」

「要するに凄い血筋の混血児とも言えるわけなんですね。……あれ? じゃあ月光仔は普段から暗黒の力を使うものなんですか?」

「使えない事もないが一応違うと言っておこう。というよりおれの出生だけが特殊とも言える」

「へ? サバタさんは家族と一緒に育ったんじゃないんですか?」

「…………」

軽くため息を吐いたサバタは、ふとアリサとすずかの二人を一瞥する。なぜこちらを見るのかわからない彼女たちが首を傾げるが、忍と恭也、リンディなどの社会の裏を知る大人は一瞬訝しげに思った後、まさか、と言わんばかりの表情になる。フッ、といつもの苦笑をしたサバタは真実を語った。

「物心もつかない幼少の頃に、おれはクイーン・オブ・イモータルの手で親元から誘拐された。銀河意思ダークに仕組まれた計画によって暗黒物質を注がれたおれは、いずれ太陽の戦士として来るだろうジャンゴに対するカウンター、暗黒の戦士として育てられた」

「そ、そんな…………誘拐された挙句、家族の敵として育ったなんて……」

世界の差は関係なく性根が優しくて純粋な少年少女達が絶句する中、サバタの闇の一端を聞いてしまったリンディは知らずに血を分けた兄弟同士で戦うように仕組んだダークに抑えきれない憤りを抱いた。子供を持つ身だからこそ誘拐された後、彼の両親がどれだけ彼を探し回ったのか想像も出来た。そして自分ももし夫を失ったあの時、クロノまでいなくなっていたらと考えが及び、湧きあがった恐怖で全身に怖気が走った。
また、誘拐された経験があるアリサとすずかは自分たちは誘拐されても助けられたが、サバタはそうでなかった事実に深く心を痛めていた。そして月村忍は、サバタがヴァンパイアによって育てられた事とその経緯を知った事で自分たちの事情にどうやって始末をつければいいのか表に出さず苦悩していた。

「だからおれはイモータルと同じ暗黒の力を使えるというわけだ。それと……大事なことを言い忘れていた。不死者であるアンデッドを浄化するには太陽の光が必要だが、比較にならない量の暗黒物質を宿すイモータルは太陽の光を浴びせただけでは浄化できない。太陽の光を増幅させるパイルドライバーという特別な装置が必要だ」

「太陽の光……私たちの魔法で代用できたりするのかしら?」

「魔法を動力に使うならともかく浄化に関しては難しいだろうな。なにせ活性化した暗黒物質は魔力素を喰うから、浄化には効果が薄い。フェイトのように魔法を属性変換できるならある程度期待できるダメージは与えられるが、せいぜい棺桶に入れるまで弱らせるのが限度だな」

遠まわしに“自分たちの魔法では倒せない”と言われた事に複雑な気持ちを抱くリンディとクロノであったが、何も知らずにイモータルと相対していた場合を考えると、今この場で属性変換した魔法ならそれなりに効果があると知る事が出来た分むしろ良かったと思うべきだと強引に納得していた。なにせ噛まれたらそれだけで死にも等しいアンデッドにされるのだから。

「……という事は、もしや君がフェイト達と行動を共にしているのは、彼女たちがアンデッドにされないためなのか……?」

「いくつかある理由の一つではある。で、そのついでにそこの高町なのはもある程度面倒を見る羽目になったのだが……」

急に話の焦点が向いた事で高町なのはは「にゃっ!?」と少々テンパった声を上げる。それはそれとして恭也は自分の力で妹を守れていなかった事に内心複雑な気持ちになっていた。

そんなこんなでサバタが世紀末世界の事とアンデッド、イモータルなどの話をあらかた説明し終えた所でコホンッと咳払いをするリンディ。そうして空気を区切った彼女は管理局員としての言葉を放つ。

「これよりロストロギア、ジュエルシードの回収については時空管理局が全責任を持ちます」

『えっ!?』

突然の宣言に高町なのは及びユーノが呆けた声を出す。

「君たちは今回のことは忘れて、それぞれの世界に帰って元の生活に戻るといい。それとサバタ、君は少々複雑な立場だが次元漂流者となるから君のいた世紀末世界は……あまり行きたくないが責任をもって見つけ出すつもりだ」

「でも、そんな……」

「これは次元干渉に関わる事件だ。民間人が出る話じゃない」

「まぁ急に言われても気持ちの整理がつかないでしょう。今夜一晩ゆっくり考えて、それから改めてもう一度お話ししましょう」

熟練の交渉術を相手に何も反論できず口どもる高町なのは。だが、一方でサバタはそんな対応をしてきた管理局を嘲笑していた。

「フッハッハッハッハッハッ! おまえ達が全責任を持つだと? ならばジュエルシードの被害を受けた者に対する賠償責任もしっかり負うのだろうな?」

「それは……」

ジュエルシードによって受けた被害は原因不明という事なので、国や市から補償金は出て来そうにない。それをテレビで把握していたサバタは、時空管理局が全ての責任を負うと言った時、被害者に対して賠償金を払うように交渉するつもりだった。確かにサバタにとってこの街の人間は赤の他人で、ここに来る前の彼なら場合によっては無視していたかもしれない。しかし共に暮らしているはやての影響で地球の(一部偏ってはいるが)常識を学びつつあった彼は、フェイトと共に“責任”の重要さを少しずつだが理解していた。そしてその“責任”を背負うと言ったのだから、管理局がその言葉を真に理解出来ているか確認したのだ。

「まさか管理外世界だから踏み倒してもいい、なんて思ってはいないな? ま、次元世界の守護者がこれ以上不信を抱かせるような規約違反をするはずもないよな?」

挑発するようにサバタが放った言葉に、リンディはつい難しい顔を浮かべる。実は彼らの年代からそういう方向の保証を追及されるとはあまり考えていなかったため、こうして言われると少し口どもってしまうのだった。管理局の管理外世界に対する偏見の現れとも言える。

「……私たち管理局は地球に対する権限を持ち合わせていません。なので、賠償金を支払う方法がありません」

「それなら私の家や月村家を介せばいいじゃない。どちらもそれなりに大きな権力を持っているから、保障代理人みたいな感じで支払えるわよ?」

「私もアリサちゃんと同じ意見かな。この前ユーノ君を預けた後に壊れた動物病院、あれってジュエルシードの暴走で壊れたんですよね? 私の家には猫がたくさんいて、あの病院も時々利用させてもらっていたので、直さないでいられると困るんです」

「……わかりました。しかし、流石に管理局もすぐに大金を用意できませんので、都合がついたら支払うということでお願いします」

「そうか。では暗黒ローンから自動的にかつ定期的に支払えるようにセッティングしておこう。もし金が用意できても払わない事が無いようにな」

「次元世界の守護者が……ローンですか……」

「ちなみにもし用意できなかったら、管理局の人間全員が“新”おしおき部屋という場所に強制的に連行されるから十分注意しておけ」

というわけで管理局は地球に対してローンを作る事になった。なお、借金を管理局がしっかり支払ったかどうかは、暗黒ローンの受付嬢のみが知る。

 
 

 
後書き
原作でツッコミたい所はツッコみます。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧