リリなのinボクらの太陽サーガ
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激突
前書き
暗黒少年サバタLv99 VS 条件付きSSランク魔導師プレシア
突然部屋が暗闇に閉ざされる事でサバタを一瞬見失ったプレシア。しかしこの部屋は元々彼女の領域、すなわち部屋のどこに何があるか位置を把握する事は、全盛期より衰えたとはいえ大魔導師には容易い。
「味な真似を……!」
デバイスを展開したプレシアは、サバタの気配が感じられる方向に向けて8発のフォトンランサーを発射する。彼女の魔力光が周囲を僅かに照らし、射線上にいたサバタの姿をあぶりだす。避けるそぶりを見せなかった彼に対し、非殺傷設定を切断している事で魔力弾はそのまま彼の身体を突き抜け、痛々しい大穴を開ける。
「あの威圧感から少しはやると思ったけど……拍子抜けね」
そう呟いたプレシアはふと気づいた。なぜあれだけの穴を開けられて血が出ない? いや……まさか!
その直後、目の前に降り注いだサバタの身体が蜃気楼のように揺らいで爆発した。寸での所で気づいた事でどうにか回避が間に合ったが、懐に入られて爆破攻撃を仕掛けられた事にプレシアの背に冷たい汗が流れる。
―――攻撃されると自爆する幻影魔法だなんて……厄介な!
慎重に行かないと反撃を受けると気づいたプレシアは、改めて部屋の内部を探知するとさっきの幻影と同じ気配がいくつも感じられた。これではどれが本物なのか判別できない。
「クッ、それなら!!」
プレシアが使える広域殲滅魔法サンダーレイジ、そのバリエーションの一つを発動。部屋全体を攻撃する事で本体ごと幻影を殲滅しようと企む。しかしサバタがそれを放置する訳もなく、プレシアの眼前に一つの小さな物体が放物線上に飛来してくる。
ナイトメア。
ダーク属性のグレネードの内部から凄まじいエネルギーを感知したプレシアは詠唱を中断、障壁を展開する。
爆ッ!!
「な、障壁が……ッ!?」
魔力を消滅させるダーク属性の特性を知らなかったプレシアは、強固なはずの障壁を容易く突破してきた爆風に吹き飛ばされるが、空中で態勢を立て直した彼女はお返しと言わんばかりにフォトンバーストでグレネードが飛来してきた場所を爆破させる。
「ぐっ! ……やるな、プレシア!」
攻撃した事で幻影が解除されていたサバタは、もろにその反撃を受けて負傷してしまうが、ダメージの度合いで言えばプレシアの方が格段に上だった。
「あなたもやるわね……でも、同じ手は二度も通じないわよ!」
「だろうな。おまえはこちらの力を解析しながら、次の対策を考えている。長期戦はこちらの不利を招くだけだ」
「へぇ……やはりただのガキじゃないわね」
そうやって不敵に笑うプレシアは内心、自分の魔法の威力が妙に減衰している事に戸惑いを覚えていた。本当なら先ほどのフォトンバースト一発で仕留めるつもりだった。しかし実際は彼に少し大きめのダメージを与えただけで終わった。その理由と障壁を破ったグレネードから推理したプレシアは、サバタの力は周囲の魔力素を消失させ、魔法の威力などを弱める効果があると見抜いた。
「でもこれならどうかしら!」
手間はかかるがフォトンスフィアを発生させて、魔力弾を大量に発射する物量戦を挑むプレシア。対するサバタ、構えた暗黒銃にエネルギーをチャージして迎え撃つ。
「フォトンランサー・デストロイシフト!!」
12個のスフィアから秒間60発の光弾が30秒、全部で21600個という桁違いな量の魔力弾が一斉にサバタに降り注ぎ、凄まじい轟音と比例して土煙が巻き起こる。その威力は時の庭園全体が振動する程であり、建物の外にいたアルフはぞわっと背筋に冷たいものが走っていた。
「ハァ……ハァ……、いくら魔力が消されるとしても、これだけの量は消せないでしょう……!! ゴホッ、ゴホッ!」
いかにも具合が悪そうに咳き込み、押さえた手にこびりついた血を密かに拭う。とある事情で体力にあまり余裕の無いプレシアは、その体力が残っている内に決着をつけようと先程の大技を使う事を決めたのだ。最初に放たれた闇も消えていき、攻撃した場所から物音がしない事で勝ちを確信したプレシアは不敵に笑う。
土煙が晴れればそこには倒れた彼がいる、そう思っていたプレシアだが……その予想は覆された。
「……ハァ……ハァ…かろうじて耐え切ったか」
相当負傷しながらも、サバタは立っていた。あの弾幕の中、暗黒独楽で魔力を消滅させながら火炎弾の爆風で衝撃を外にそらすという方法を使う事で、被弾のダメージを最小限に抑えたのだ。
「久しぶりに驚いたわ……即席で考え付いたとはいえ、あの魔法を耐えるなんて……」
「正直に言うと、かなりきわどかったがな。尤も、おかげで頭が冷えてお互いに少しは冷静になれたか」
そう言ってサバタは銃口を引き、暗黒銃をホルダーにしまう。それを訝しんだプレシアは眉間にしわを寄せる。
「少々手違いがあったが、まあ勘違いするな。元々おまえを倒しに来たんじゃない。フェイトの事で訊きたい事があるだけで、わざわざ家庭内の事情をかき乱すつもりは無い」
「いや、十分かき乱しているわよ。計画の邪魔をする気が無いなら別にいいけど。それで? フェイトの何を知りたいのかしら?」
「おまえがジュエルシードを集めさせている理由もそれなりに気になるが、大方叶えたい願いがあるのだと推測できる。が、その願望自体には大して興味が湧かん。それよりフェイトが愛に飢えている理由だ。……これは俺の推測なんだがプレシア、おまえはフェイトに愛を注いだ事が無いのか?」
「ッ……なぜそんな事を訊くの?」
「別に……俺なりにあいつを理解しようとしているだけだ。あいつの心が闇に堕ち、暗黒の世界で育った俺と同じになる前に、あるべき場所に戻れるようにな」
「どういう意味かしら? まさかと思うけど、あなたは……」
「質問をしているのはこちらだ。それで? おまえはフェイトをどう思っている?」
「フェイトは………フェイトよ。私の命令をちゃんと聞けない不肖の子だから相応にしつけているけど」
「…………」
妙に認めたくなさそうな言い方をするプレシアの様子だが、それを見逃さなかったサバタは彼女の内側に潜む何かを感じていた。それが何なのか当人達では無く第三者がわかるとは、それも一種の皮肉だろうと思い、サバタはため息を吐いた。
「まあいい、話を戻そう。次に……以前から気になっていたのだが、そもそもジュエルシードとは何だ? なぜあんな物があの街にあるのか、集めさせているおまえなら知っているはずだろう?」
「ふん……それは私から聞くより、白い魔導師の傍にいる小動物に訊いた方が良いわ。なにせ当事者なのだから」
「そうか。……ひとまずおれの目的は達した、ここから帰らせてもらう」
あっさり踵を返してフェイトの所に帰ろうとするサバタに、力が抜けたプレシアは思わず間の抜けた声を出す。
「あ、あら? 私の計画の内容を訊かなくていいの?」
「先程も言ったが、今の所何が何でもと言う程興味が湧かない。最低限フェイトのしつけとやらだけは改めてもらいたいがな。おまえがジュエルシードを使ってどうしようと構わないが、せいぜいあの星は巻き込まないでもらいたいものだ」
「……もし巻き込んだら、その時は?」
「わざわざ言わなくても、聡いおまえならわかるだろう」
そう言って一度振り返り、試すような笑みを浮かべたサバタを前にしてプレシアも久しく動かさなかった頬の筋肉を吊り上げる。
「そうね、私とした事が野暮な質問をしたわ」
「フッ……流石は研究者といった所か。話が早くて助かる」
「帰る前に言っておくけど、管理局にはここの事や私の事は話さないで。あいつらに計画の邪魔をされるわけにもいかないから」
「そっちが邪魔さえしなければ、こちらも不利にするような事はしない。おれとしてはあの星から危険物を取り除き、さっさとイモータルを片付ける準備をしたいのだ」
「イモータルとかはあなたの事情らしいけど、そっちが計画の事を訊かなかったのに私だけが訊くのはフェアじゃないから、あえて訊かない事にするわ」
「そうか。後でどうしても知りたくなったのなら、既に話してあるフェイトに訊くのだな。何度も説明するのは少々面倒だ」
この言葉を最後に暗黒少年はこの部屋を立ち去り、後には先程の戦闘で少し荒れた部屋と、彼に言われたある言葉が耳に残って離れない大魔導師がいるだけだった。
「『愛を注いだことが無い』か…………的確過ぎて耳が痛いわね。……でも、もう退く事は出来ないのよ。私の愛しい娘アリシア、あなたにもう一度会うためなら、例え全てを引き換えにしてでも私は……!」
時の庭園へ転移してきた場所の近くで、フェイトとアルフは自分たちの代わりに部屋に残ったサバタを心配していた。なお、フェイトの手当ては一応済んでいる。
「お兄ちゃん……」
「サバタ……!」
不安に満ちた表情を浮かべるフェイトに対して、自分が頼んだ事で彼に何かあったらと思うと気が気でないアルフは怒りと悔しさが混じり合った拳を握りしめて耐えて待っていた。そんな二人の下に、当の本人であるサバタは悠々と歩いて帰ってきた。すぐさまアルフは彼の下へ駆け寄る。
「サバタ! 身体のあちこち怪我してるけど大丈夫かい!?」
「心配するなアルフ、この程度かすり傷だ。それよりフェイトは大丈夫か?」
それをアルフが答える前に、フェイトは無言のままサバタの服に顔を埋めた。小刻みに震えている様子から彼女が彼を失う事をどれだけ恐れていたかがわかる。
「……お兄ちゃん。母さんは?」
落ち着かせようとしばらく撫でていたら、フェイトが不安そうに小さな声で尋ねてきた。まるで迷子の子供のようだ。
「安心しろ、おまえの母親とはいくつか話をしただけだ。少し荒っぽい事はあったが、怪我はさせていない」
怪我は無くとも重い病気はあったようだが、そこはおれの知るところでは無い。
「そうなの……?」
「ああ。それより今日はもう疲れたから帰るぞ。家ではやてが待っている」
「そうだね。こういう暗い気持ちは、はやてのごはんみたいな美味しいものでも食べて吹っ切っちゃおう!」
少々強引にだがフェイトの意識を切り替えさせようとアルフが意気込む。内容が少し単純というか純粋というべきものだったが、この二人なら十分効果的だな。
帰宅後。
「またか? またなんかサバタ兄ちゃん? この間右腕火傷してからそんな経っとらんのに……心配するこっちの身にもなってもらいたいもんや!」
「いや、これにはそれなりに深い事情があってだな……」
「それぐらいフェイトちゃんの傷も見てるから大体わかっとるわ! そうやなくてサバタ兄ちゃんも怪我しとるのに無茶せんといてって話や!!」
おれの目の前に狸のオーラが降臨した。変化の無い日常が劇的に変わったきっかけとなったこの面子が欠けるのを嫌う彼女が怒るのも納得ができるし、怒りの分だけ心配をかけていたのだろう、
ちなみにフェイトとアルフは余程前回の説教が応えたらしく、矛先が向かないように二階の部屋に避難している。あいつら……逃げたな。
「……なんかなぁ、最近のサバタ兄ちゃんを見ると時々不安になるんよ。知らん間にふらっとどこか遠い所……私の手の届かない所に行ってしまうんやないかって……」
「……………」
「嫌や……。知らない場所で勝手に傷ついて、勝手にいなくなるなんてのは嫌なんや……。人のため、世界のために戦う。立派な大義名分やけど、そんなのよりも私はここに帰って来てくれる方がもっと嬉しいんよ。サバタ兄ちゃんとフェイトちゃんとアルフさんが帰って来て、皆であったかいご飯を一緒に食べたり、一緒に出掛けたり、一緒に遊んだり、一緒に寝たり……それだけで私は十分幸せなんや。だから……無茶とか危険な事とかして帰って来れへんような事になったら、絶対に許さへんから。帰って来なかったら私は這いつくばってでも探しに行くから」
コンプレックスを自ら皮肉にしてまで言うとは……はやてなら有言実行しそうで怖いな。可能性は低いが下手したら世紀末世界にも自力でたどり着くんじゃなかろうか? ……流石に死者の世界にまでは来れないだろうが。
『私が普通に逝ってたら着いた世界だね。ところでお兄ちゃんは何で死後の世界があるのを知っているの?』
[気まぐれで手を貸した奴らが知っていたのを教えてもらっただけだ。それよりアリス、時の庭園で苦しそうにしていたが、何か思い出したのか?]
『思い出したって言うより、こう、胸の奥……魂の方から何かが頭に響いている感じだったんだ。語彙が少ないから、ちょっとわかりにくいと思うけど』
[謝らなくていい、魂の修復が進んでいる証拠だろうから大体の状態は察せられる。念のため、おまえも休んでおけ]
『りょ~か~い』
とりあえず、今日の夕食まで甘んじてはやての説教を受けるとするか……。
それからしばらくの間はジュエルシードが発動しなかったため、戦いも無く平穏だった。おれは出かける度に例のヴァンパイアを探しているのだが、この近くにある山の方に行った時に一度気配を感じたものの、すぐに逃げられてしまった。そもそも今日まであいつを放置しているのにアンデッドが蔓延っていない現状がある意味奇跡的でもある。が、楽観視は出来ない。可能な限り早く探し出さなければ……。
「あ……!」
内心で焦燥感が走っているというのに、このタイミングで出会うか、アリサ・バニングス!
「……はぁ……やっぱ今はいいや」
「……?」
明確にしたがる彼女の事だから引き留めたりすると考えていたのだが、予想に反して彼女はその場に留まり、物憂げにため息をついていた。
『なんか様子が変だね、あの子。どうする?』
[アリス、なぜわざわざおれに訊く?]
『ぶっちゃけ幽霊の私を保護する程、お人好しなお兄ちゃんが目の前で困ってる人を本気で放置するとは思えないからね。ちょっと背中を押してるだけだよ』
[余計な真似を……]
『とか文句言いつつ、手を差し出すお兄ちゃんであったとさ♪』
にんまり顔で微笑むアリスの様子を癪に感じながらも、おれはアリサに「悩みなら聞くが?」と尋ねる。おれから話しかけてきた事が予想外だったのか、アリサは一瞬目を丸くするが、すぐに暗い表情になる。
「第三者のアンタなら話してみるのもいいかもね。……大事な友達が隠し事してたら、私はどうするべき?」
「内容にもよるが……その友達は隠し事が多いのか?」
「ううん、時々凄く頑固になったりするけど、いつもは隠し事が出来ない程素直な性格。だから今回のように頑なに隠すという事はすっごく珍しいの」
「そうか」
「でも最近のあの子は授業に身が入って無いし、パッと見て妙に疲れてるっていうか……ずっと上の空なのよ。私たちが話しかけても時々聞こえてないみたいだし、私たちに黙って何かしているんじゃないかと心配に思ってその子に訊いたんだけど、なんかお互いに熱くなり過ぎて喧嘩になっちゃった……」
「………」
「私はただ、その子の力になりたいって思っただけなのに……どうして……どうしてこうなっちゃったんだろう」
話している途中からその時の感情を思い出して来たのか、胸の高さまで持ち上げた手を見つめて僅かに涙声になったアリサ。詳しい内容はともかく大体の経緯は把握した。
「少し聞かせて欲しい。おまえにとって友達とは隠し事をしない仲の事なのか?」
「ちょっとオーバーだけど前はそんな風に思ってた。でもアンタも一応知ってるでしょ? 月村家のアレ」
「ああ……アレか」
初日からずっと放置し続けているから、向こう側はとっくに堪忍袋の緒が切れているかもしれないな。
「すずかは私たちの関係を壊さないためにその事を隠していた。その一件から私は友達を巻き込まないために隠す事もあるんだと気づいたのよ。だから今回の事もきっとそんな感じなんだろうなぁって予想はつくわ」
「ほう? そこまで考えが及んでいるなら、何を悩む必要があるのだ?」
「何と言うか……その、やっぱり私の性分なのかな。どんな物事もはっきりさせないとどうしても気が済まないのよ。でもあの子は具体的な事は何一つ教えてくれなくて頭にきちゃって、それでつい……」
「なるほど……結論から先に言うと、おまえは単に拗ねているだけだな」
「拗ねているだけ?」
「友達が自分に何も話してくれない事を寂しく思い、力になれない事を悔しく思った。それで自分の思う通りに上手く行かない事に、おまえは子供らしく拗ねたのだ」
「あぁ~……口に出して言われると少し癪だけど、なるほどってくらい納得できるわ。そうね、私は思った事が出来なかった事に拗ねている。ってか実際に子供なんだからしょうがないでしょ!」
「当然だ、子供が子供らしくするのに何ら問題は無い。まぁ、この件に俺から言える事があるとすれば、おまえは待つ事に耐えるのを覚えるべきだな」
「待つ事に耐える?」
「その友達は何も相談しなかった。即ち相談する程の事態になっていないか、もしくは友達の手を借りずに自力で解決したいかだろう。ならばおまえが出来るのはその友達が話すまで待っててやる事ぐらいだ」
「でもやっぱり、友達が困ってたら私は手伝いたいものよ。それでもなの?」
「無論、今のはあくまでおれの意見に過ぎない。だからおまえの言う様にそのまま関わろうとするのも一つの方法ではある。こういう話に正解なぞ無いのだから」
「は? じゃあ結局私はどうすればいいのよ?」
「人に訊くのではなく自分で決めろ。当事者でないおれが出せるのは選択肢だけで、どうするかを決めるのは結局おまえだけだ」
「それは……まぁ、そうなんだけど……」
『あのさぁ……それって見方を変えると、ぶっちゃけ丸投げだよね……』
[それを言ったら世の中の相談全てが丸投げになるだろうが……]
『身もフタも無~い♪』
半ば強引に笑いを取ろうとするアリスへ、月の力越しに軽く小突く。実はこうすれば幽霊で実体のない彼女に対して物理的に触れられる事を最近知ったのだ。彼女は彼女で長い間経験が無かった“刺激”を受ける事に喜んでいるので、俗に言うwin-winな対応である。
そんな風に周りを飛び交う幽霊少女はともかく、しばらく俯いていたアリサはいきなりバシッと自らの頬をはたき、活力のこもった顔を上げる。
「よしっ、考えてみれば過ぎた事をいつまでもウジウジ引きずるのは私らしくないわ! こうなったら私なりにやってみせるわよ!」
「という事はいつものおまえに戻れたか?」
「いつも、と言われる程私たち会ってないけど……まあそうね、一応礼を言っとくわ。ありがと。情けない姿見せちゃったけど、アンタの事だから気にしないのでしょうね」
「気にする必要性が感じられないからな。家に戻る頃には綺麗さっぱり忘れているんじゃないか?」
「いくら何でも早過ぎよ! というか私との話すら印象が薄いって言いたいワケ!?」
「おまえに大して興味が無い以上、結論から言えばそうなる」
「じゃあアンタはどんな人に興味があるの? つかアンタって好きな人とかいたりするわけ?」
興味が無いと言われた事で一瞬ピキッと頬が動いた直後、にやけながら問いかけている辺りアリサはおれにカウンターを仕掛けているつもりだろう。だがそれに答える事はおれにとって恥ずべき事でもないため即答する。
「いる。……正確には“いた”と答えるべきか」
「え……」
瞬間、ピシッと空気が鳴った気がした。……電柱の裏から。
「どどどどどどうしよう!? こ、この場合は掟とかしきたりとかどうすればぁ~!?」
「って、すずかぁ!? なんで……というかいつの間にそこにいたのよ!?」
『お兄ちゃん、あの子ともぶっちゃけ知り合いだったりする?』
[残念ながら、な。もう放っといて帰っていいか]
『なんかこれ放置したらしたで後々ややこしくなりそうだけど?』
[既に十分ややこしくなっている。この前ケーキを買いに行ったときに殺気を放ってきた店員も関係者だ]
『だからあんな怖い眼してたんだ……あの時怖くてお兄ちゃんの中に隠れてたのに寒気を感じたもの……ブルブル』
恭也のプレッシャーを思い出して震えているアリスを眺めていると、ガシッと何者かがおれの肩を掴んだ。
「ようやく……ようやく見つけたわよ!! サバタ!!」
こめかみに血管が浮かんでいる月村忍が、物凄く引き攣った笑顔でこちらを見つめてくる。……別におまえ達と仲違いしたつもりはないのだが?
「もしもし恭也? すぐ来て、以上!! ノエル! ファリン! 絶対に逃がしちゃ駄目よ!!」
「了解しました。すみませんがご同行願います」
「あ、あの~、もしかしてこの後予定とか待ち合わせとかあったりはしませんよね?」
おれを離さない様にしようと二人の使用人がそう言うが、どう答えようとこの先の彼女達の行動は変わらない気がした。
「見つけたぞサバタぁぁぁーーー!!!」
しかもいきなり上空からついさっきケータイで呼ばれた恭也がそう叫びながら降ってきた。あそこまで飛ぶ足場になるような場所が無いのにコレ、というあまりに衝撃的な登場の仕方に周りの人間が全員唖然とする。
「恭也……いくら派手だからと言っても上からってのはナイと思うぞ? 好きな女性の前だからカッコつけたいのはわかるが……」
「ちょっと待て!? 俺はカッコつけているわけじゃない! それに何故サバタがツッコミを入れてくる!?」
「おれと恭也以外の全員がフリーズしてしまっているのでな。仕方なしにその役目を負ったのだ」
何はともあれ、偶然にもこの場に初日の面子が勢ぞろいしたのだった。このままの流れだと夜の一族の件について色々話さねばならないのだろうな、イモータルを探す時間が取られるな、などと思っていたのだが幸か不幸か、この日の偶然は更にもう一つ重なってしまった。
――――キンッ!!
「な!?」
「これは……!?」
突然周りが色素の暗い世界になった事で魔法の事を知らない彼女達は動揺する。修羅場をそれなりに潜り抜けているはずの恭也でさえ、見たことも無い現象に焦りを隠せないでいた。
『ジュエルシードが発動した! 結界はフェイトが被害が出る超ギリギリの所で張ってくれたみたいだよ!』
[そうか、フェイトはファインプレーで間に合ったか!]
被害が出るのは俺も可能なら避けて欲しい所だし、何よりはやてが街を壊さないで欲しいと前に言っていた。故に視界の向こうで暴走している以前のとは比べ物にならない巨大な大樹に同情の余地は一切無い。
[さて、おれ達もあそこに急ごう。あいつらが勝手に暴れ出すかもしれんからな]
『それはわかるけど、なんか巻き込まれちゃったこの人達はどうするの?』
[放っておけ。こいつらは暴走体程度なら勝てる実力の剣士が守ってくれるだろう]
『魔法無しで暴走体に勝てるとかどんだけなの、恭也さんって……』
曲がりなりにも魔法文化で育ったらしいアリスが呆れた目で恭也を一瞥するが、すぐにジュエルシードの方角を伝えてくれた。走り出したおれを恭也が慌てて「ま、待て!」と言ってきたため、一旦振り向く。
「サバタ、おまえは何を知っている!? この状況は一体何だ!?」
「……知りたければ自分の目で確かめろ。この街で何が起きているのか、その目で見届けるんだ」
それだけ伝えると、ジュエルシードの発動地点におれは急いだ。後ろでは呆然としていた恭也たちだったが、思い出したようにこちらに急ぎ追いかけてくる気配を感じた。
『む~……? 何だろう、この感じ……』
[少しでも違和感や気がかりがあるなら言ってみろ。それが生き残るきっかけになる可能性もある]
『うん。なんかね……こう、上に何か乗っかってるというか、何かがいるっていうか、見られてるっていうか……』
[フッ…………そういう事か。どうやら遅ればせながら連中が来たらしいな]
事前情報で聞いた内容にしてはここに来るまで随分遅かったが。
さて、連中が最初に何をしてくるか警戒しておきながら、おれはジュエルシード発動地点に到着する。そこでは先に戦っていたフェイトとアルフが大樹の張るバリアを前に苦戦を強いられていた。
「あ、お兄ちゃん! 来てくれたんだ!」
こちらの姿を見つけた二人が一旦下がって合流してくる。何をしてくるのか警戒した大樹は攻撃の手を止めて様子見をしていた。
「やっと来てくれた、サバタ! あいつ生意気にもバリア張りやがるんだ、どうしたらいいんだい!?」
「単にバリアを抜く威力の攻撃を行えばいいだろう? フェイトには確かそういう魔法があったはずだ」
「あるけど、溜めている間に攻撃されるから撃つタイミングが作れないんだ」
「ならおれが―――」
時間を作る、と言おうとした瞬間、海鳴市代表とも言える魔導師組が合流してくる。
「フェイトちゃん! サバタさん!」
「チッ、アンタらまで来たのかい!」
「待ってください……今は争っている場合ではありません。早く封印しなければ……!」
“獣”の声に活力があまり無いように感じられるが、追求するのは後でいい。彼の言う通り、今は大樹を始末する方が先決だ。
それぞれの想いを抱きながら互いを見つめるフェイトと高町なのは、その二人の上から不意打ちで迫る大樹の枝。ハッと気づいた時には回避が間に合わなかった二人だが、暗黒スプレッドによる攻撃で枝の攻撃部分が砕け散って消滅したため事無きを得る。
「何をボサッとしている! 同じ事を何度も言わせるな!」
『す、すみませんでしたぁ!!』
敵対している関係だが息ピッタリに声を揃えて謝罪する魔法少女二名。すぐさま彼女らは砲撃の準備をし、俺はアルフと共に大樹の相手をして時間を稼ぐ。次々と繰り出される攻撃をゼロシフトや暗黒銃で、アルフはシールドか拳で対処していく。攻撃の要である魔法少女二名の守りはユーノが身を挺して行っているため、防御は万全であった。
「行くよ、フェイトちゃん!」
「……うん」
「ディバイン……バスタァーーーー!!」
「サンダー……スマッシャーーーー!!」
高ランク魔導師の同時砲撃、それは威力を倍化させて大樹のバリアを抜き、暗黒銃による攻撃の影響でシロアリに喰われた家の様に脆くなっていた大樹の本体は全く為すすべなく撃ち砕かれる。
「「ジュエルシード封印ッ!!」」
そして災厄の種はその機能を停止させられたのだった。しかし……それを挟んで封印に協力した両者は敵対関係に戻った事で向かい合う。
「ジュエルシードに衝撃を与えちゃいけないから……」
「そうだね、この前みたいな事になったらレイジングハートもフェイトちゃんのバルディッシュも可哀そうだもんね」
「でも……譲れないから」
「私だって……譲るわけにはいかないの」
そう言い、自らのデバイスを構えて臨戦状態に入るフェイトとなのは。それを見たアルフとユーノはまずい、といった表情を浮かべて大慌てで静止の声を上げる。
「二人ともダメ! ここでの戦いはダメだって!!」
「ここで戦ったらまた暴走するかもしれないよ、フェイト! また怒られたいのかい!?」
「ッ!!?」
脳裏に浮かんだ狸のオーラに一瞬ビクッと震えて頭が少し冷えたフェイトには、何とかアルフたちの声が届いた。また次の瞬間に聞こえた大勢の声に今度は高町なのはが驚愕する事になる。
「なのはっ! こんな所で何をやっているんだ!!」
「嘘でしょ……これって現実の出来事なのかしら?」
「もうこの街どうなってんのよ! 暗黒少年が助けに出るわ、ヴァンパイアが襲ってくるわ、変な倒壊事件が多発するわ、親友が裏で魔法少女やってるわ、どんだけ濃いのよぉ!!」
「アハハ……なんかもう海鳴だからって一言で何でも済みそうだね……」
巻き込まれた一般人(?)勢が到着。とりあえず安全になってから来た辺りタイミングが良いと言うべきかはさておき、実は全員と知り合いだった高町なのはは絶叫する。
「にゃぁああああああ!!? お、お兄ちゃん!? アリサちゃん、すずかちゃんまでぇ!? こ、これは、えっと、実はその……あうあう!!?」
「あの、私たちもいるんですけど……?」
「ファリン、ここは余計な事をせず空気を乱さないのが一流のメイドですよ」
向こうは向こうで混沌になっていた。ワタワタと取り乱して慌てた高町なのはは乱れた手の動きをしながら何とか説明しようとしていたが、全く言葉になっていなかった。やはり高町なのはは恭也の妹だったか……苗字が同じだったからそうだろうとは思っていた。
それにアリサ・バニングスと月村すずかは彼女の友人である事も確定した。ついでにアリサが相談した“友人”の正体も高町なのはだと判明した。以前忠告したはずなのだが、高町なのははまだ家族や友人に伝えていなかったようだ。その結果こうして場がこじれている辺り、自分でまいた種とはいえ彼女も苦労しているな。
「なんかあっち、大変そうだね」
フェイトと共に傍目で見ながら世間は意外に狭いものだと実感していた、刹那。
「ストップだ! これ以上の戦闘は危険すぎる! 時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ。詳しい話を聞かせてもらおうか!」
黒い独特な衣装に身を包んだ黒髪の少年が現れるのだった。
とりあえず一言。管理局来るの遅い。
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