八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二十二話 秋田小町その三
「中近東から来てるし」
「アフリカからもね」
「けれどなの」
「八条荘では」
「そうなんだ、太平洋の国の人が多いね」
ブラジル人のチェチーリアさんは正確に言うとそうではない。
「アジアと北米、中南米とね」
「それとオセアニア」
「そうした国からの人ばかりなんだ」
「ええ、さっき名前が出たね」
僕は皆の国をここで挙げていった。
「アメリカ、中国、メキシコ、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピンにね」
「国際色豊かだな」
「本当に色々な国から来てるのね」
「ブラジル、ペルー、オーストラリア、ニュージーランドと」
「やっぱり多いね」
「十一国ね」
女の子のうちの一人が僕がこれまで挙げた国の数を覚えていた。
「多いわね、確かに」
「うん、自分でもそう思うよ」
「それでもなのね」
「ヨーロッパの国はないね」
本当に一国もだ。
「あそこは」
「若しもよ」
別の女の子がこう言って来た。
「イタリアから来たら」
「イタリア人だね」
「大家君はどうするの?」
「どうするって。これまで通りだよ」
そう接するとだ、僕はその娘にすぐにそれもあっさりと答えた。
「やっぱり大家としてね」
「公平に?」
「そう、接するだけだよ」
まさにとだ、僕はその娘に答えた。
「別にね」
「そうね、大家君ならね」
「そうしたことは嫌いだから」
親父はよく僕に人を分け隔てするなと言われた、そして自分の様に博愛主義者になれとも言ってきた。
とはいってもだ、親父の博愛主義はつまり女好きなので僕にとっては到底受けいられるものじゃなかった。
けれどだ、親父は患者さんを一切差別しないし男の人でも邪険にしない。そうした親父を見てきたからだ。僕にしても。
「贔屓をしたら邪険にされる人がいるから」
「そうした人のことを考えるとなのね」
「そう、好きじゃないんだ」
このことも親父が言っていた。
「よくないと思うから」
「だからどの国の人でも」
「どの宗教の人でも」
「差別はしないのね」
「そうなのね」
「そうだよ、ただね」
ここでだ、僕はあることに気付いた。今度気付いたことはというと。
「イタワッチさんは確かムスリムだけれど」
「ああ、確かインドネシアから来た」
「あの娘は」
「お酒飲んでたかな、それに豚肉とかも」
思い出すとだ、そうした食べものも。
「食べていたかな」
「あっ、それいいんだよ」
男のクラスメイトの子のうち一人が言って来た、ここで。
「別にね」
「アッラーに謝ったら?」
「そのこと知ってるんだ」
「そういえばそうだったね」
僕もここでこのことを思い出した。
「うちの学園のムスリムの子も皆そうだし」
「豚肉食べてるね」
「動物の内蔵とか鱗のないお魚とか海老とか」
「全部食べてるよね」
「犬とも親しみ合ったり」
犬の涎はイスラムでは嫌われている、コーランで豚肉と同じく不浄のものとされているからだ、何でも狂犬病を警戒してらしい。
「普通にしてるね」
「そうしたことはね」
「アッラーに謝ってからだとよかったんだね」
「うん、イスラムはそうだよ」
「その辺りは寛容な宗教だったんだ」
「ケマル=アタチュルクもお酒好きだったし」
トルコの英雄だ、言うまでもなくトルコもイスラム教の国だ。
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