パットン
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4部分:第四章
第四章
だが問題はこれからだった。北朝鮮軍はすぐに迎撃に出て来たのだ。その先頭にはやはりあのT−34が大挙して進撃して来ていた。
「来ましたね」
「ああ」
アメリカ軍の将兵達はその独特の丸みのあるシルエットを見て言い合った。
「あれをどうにかすするかですけれど」
「空はどうなっているんだ?」
「一時間程かかるそうです」
こう返事が返って来た。
「一時間です」
「その一時間を持ちこたえられるかどうかだが」
指揮官の声が鋭いものになった。
「歩兵だけで行かせるのは無理だしな」
「例えバズーカがあってもですね」
「そういうことだ。やはり」
答えは一つしかなかった。
「戦車だ」
これであった。これしかなかった。
「戦車を前に出す。いいな」
「パーキングですか?」
「それは二番手だ」
パーキングは二番手というのだった。
「当然シャーマンでもないぞ」
「シャーマンじゃ正面からあれと撃ち合ったら不利ですからね」
「ドイツ軍にあれだけやられたんだ」
第二次世界大戦の時を思い出しての言葉だった。シャーマンはドイツ軍の戦車に対して劣勢だった。そのドイツ軍の戦車を苦しめたT−34が相手ならばどういったことになるか。もう考えるまでもないことであった。
「だからだ。シャーマンは前面には出さない」
「それではやはり」
「そうだ、あいつだ」
あいつと呼ぶのだった。
「あいつを前に出せ。いいな」
「わかりました。それでは」
「あいつに賭けるしかない」
指揮官はこうも言った。目の前に砂塵と唸り声を共に出しつつやって来るそのT−34を見て。覚悟を決めたようにして言ったのだった。
「ここはな。あいつにな」
「では。今ここで」
そのパットンがやって来た。パーキングやシャーマンを圧倒するかのような威圧的な姿に見えるのはその名前のせいだろうか。だが名前通りの活躍をしてくれるかどうかはまだわからなかった。
「さて、と」
「今からこれがあの連中の相手をしますが」
またここで前方のそのT−34の軍団を見るのであった。
「どうですかね。一時間だけ持ち堪えてくれればいいんですが」
「だから言ったな。賭ける」
またこう言う指揮官だった。
「ここはな。こいつにな」
「それじゃあ。行かせますね」
「ああ。若し足止めができればだ」
実はこの指揮官も足止めができればという程度しか期待してはいなかった。
「そこからパーキングにシャーマンを投入してバズーカも撃ち込んでな」
「それで倒すというわけですね」
「そのパターンだ」
アメリカ軍の基本戦術だった。総合的かつ圧倒的な火力で敵を粉砕する。この部隊には重砲はないがあればそれも使うのである。
「それでやる。いいな」
「わかりました。それじゃあ」
「進ませろ」
あらためてパットンを進ませるよう指示を出した。
「いいな」
「了解です」
こうしてパットンは先に進められた。そのままT−34の軍団に向かう。パットンの軍団とT−34の軍団がここでいよいよ砲火を交えることになった。
最初に火を噴いたのはT−34だった。ドイツ軍を恐れさせたその八五ミリ砲が火を噴く。
それは一直線に向かいパットンを貫きそのまま炎上させる。筈だった。
だがその砲撃は見事に弾かれてしまった。パットンの装甲を貫くには至らなかったのだ。
「防ぎましたね」
「ああ」
指揮官達はパットンがT−34の砲撃を退けたのを見てまずは安堵した。
「あの強烈な砲撃を」
「まずは防いだ」
「次はこちらの番ですが」
「九十ミリだ」
パットンに搭載されている砲のサイズである。
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