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パットン

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5部分:第五章


第五章

「その九十ミリならできるかもな」
「あのT−34を倒せるかも」
 こうした期待すら胸に抱いてこれるようになってきていた。今のT-34の砲撃を退けたのが彼等をしてそう奮い立たせたのである。
「まさか」
「まだよくわからないが」
 そう、まだこちらは攻撃すらしていなかった。
「できるかもな」
「ですね。ひょっとしたら」
 こうは言っても彼等は明らかに期待していた。期待するようになっていた。パットンがT−34を倒すことを。そして今遂に。パットンの九十ミリ砲が火を噴いたのだった。
 おそらく機器のせいだろう。その砲撃はT−34のものより正確であった。そしてその正確な砲撃がT−34を正面から撃ちその装甲を貫いたのであった。
「やった!」
「やりましたね!」
 指揮官達はパットンの九十ミリ砲がT−34を貫いたのを見て声をあげた。
「T−34の装甲を貫いたぞ」
「しかも正面から」
 その装甲を貫かれたT−34は動きを止めた。そうしてハッチの辺りから煙を噴き出し遂には。炎上してそこで果てたのであった。
 見事な勝利であった。向こうの攻撃を退けこちらの攻撃は決めた。これ以上はないという程の鮮やかな勝利であった。
 その勝利を見て指揮官はすぐに指示を下した。その指示はもう決まっていた。
「撃て!」
 これだ。これしかなかった。
「撃って撃って撃ちまくれ!T−34を倒せ!」
「はい!」
「パーキングやシャーマンも進ませろ。歩兵もだ」
 この指示は予定通りだった。
「そしてあのアカ共をここから追い出せ。いいな」
「了解です!」
 こうしてアメリカ軍は一転して反撃に転じた。パットンを先頭にして無敵と思われたT−34の軍団を撃破してそのまま勝利を収めた。パットンの鮮やかなデビューであった。
「やりましたね」
「ああ」
 勝利を収めた後の戦場で指揮官は部下達の言葉を受けていた。戦場には破壊されたT−34が累々と横たわりその無残な姿を見せている。
「まさかここまで上手くいくとはな」
「思いませんでしたね」
「名前だけはあるか」
 今度はパットンを見ての言葉だ。今は進撃を止め休んでいる。
「あの癇癪持ちのな」
「癇癪持ちは癇癪持ちでしたけれどいい癇癪持ちでしたよ」
 部下の一人が笑いながら述べた。
「あの人は」
「そういえば嫌っている奴はいないな」
「わかりやすいんですよ。裏表がなくて」
 パットンは少なくともそういう男だった。
「自分の考えもはっきり言いましたしね」
「そうだな」
 そうした性格はアメリカ人の間でも有名になっていた。
「それが今こうやって戦車になってか」
「ですね」
「またアメリカの為に戦ってくれている」
「そうですね。何かそれを思うと」
「いい名前だな」
 そのパットンという名前自体への言葉だった。
「怪獣みたいな名前だけれど頼もしい」
「はい」
 今度はこう言ったのだった。
「それじゃあこのままな」
「頼りにさせてもらいますか」
「北朝鮮の奴等を一気に押し潰す」
 指揮官は言った。
「それでせめてこの半島だけはアカのいない場所にするぞ」
「わかりました」
 こうしてパットンは再び進撃をはじめた。この朝鮮戦争は後に中国の義勇軍が参戦し空ではミグ15とF−86セイバーの対決があり結果として痛み分けに終わり現在に至る。だがこのパットンという戦車が無敵と言われていたT−34を破り活躍した話は事実だ。この戦車は名前の由来になったその将軍の名声に恥じない活躍をしたのであった。


パットン   完


                  2009・1・4
 
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