八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第二十一話 古代の都からその七
「観光の方もあまりいなくて」
「それで、ですか」
「生きものも少なくて」
チャチーリアさんは寂しげな顔で話した。
「中に入ると寂しいです」
「そうした場所なんですね」
「そうです、私はいると悲しくなります」
「悲しくですか」
「はい、なります」
そうだとだ、僕達に話した。そして。
その僕達にだ、こうも言って来た。
「あまりお勧め出来ません」
「いい場所じゃないんですね」
「インカ帝国の最後も感じます」
「確かあそこは」
裕子さんはインカ帝国の最後と聞いてこうしたことを言った。
「インカ帝国の生き残りの方々が逃れたと」
「そうした説もありますね」
「実際はどうだったのでしょうか」
「そう言われていますが確かな証拠はありません」
そのインカ帝国の生き残りの人が築いた場所だという説のそれは、というのだ。その人達が築いた街という説が実際にある。
「そしてあの場所はです」
「寂しい場所なんですね」
「悲しいまでに」
僕達にそのことを教えてくれた。
「ですから行かれるとです」
「それで、ですか」
「悲しいお気持ちになるかも知れません」
「ううん、そうなんですね」
「そうです、遺跡というものはそうしたものかも知れません」
マチュピチュだけでなく、というのだ。遺跡というもの自体が。
「実際はです」
「寂しくて、ですか」
「悲しいものかも知れません」
「ううん、ロマンがあると思ったんですけれど」
「ロマンといいましても様々ですね」
「はい、言われてみれば」
恋愛ロマンだけじゃない、本当にロマンといってもそれぞれだ。そして遺跡のロマンもあるけれどそれでもだ。
「寂しいロマンもありますね」
「過去の栄華、そこにいた人達の気持ちを考えて」
「特にマチュピチュみたいな場所はですか」
「若し実際にインカ帝国の方々が逃げ延びた場所なら」
その場合はというのだ、マチュピチュが。
「悲しい場所ですね」
「そうですね、スペインから逃れたとなると」
「本当に秘境にありますので」
「あそこが秘境だとすると」
チェチーリアさんのその言葉を聞いてだ、井上さんが言った。
「君の住んでいた場所も。こう言うと失礼だが」
「ええ、それはね」
「秘境になるのか」
「確かに辺鄙な場所よ」
チェチーリアさんもそのことは否定しなかった。
「あそこは」
「そうか」
「人は多いけれど」
「むっ、そうなのか」
「それなりにね」
そうした場所だというのだ、辺鄙にしても。
「人はいたから。学校もあって」
「君のご両親もか」
「働いていたの」
その学校で、というのだ。
「それで私も高校まで行って」
「そしてか」
「日本にまで来たの。けれど」
ここでだ、チェチーリアさんは少し困った様な、それでいて温かい微笑みになってだ。井上さんに言った。
「日本に出るまでが大変なの」
「そして故郷に戻ることもか」
「どちらもね」
そうだというのだ。
「大変なことなね」
「否定出来ないか」
「ええ、だから故郷は好きだけれど」
チェチーリアさんは微妙な顔を見せて話した。
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