| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第十九話 風紀委員その十四

「あります」
「では菊一文字は」
「ありますが」
「それをお願いします」
「菊一文字をご存知とは」
 畑中さんはそのお酒を所望した井上さんにここでこう言った。
「かなり日本酒に通じておられますね」
「家が酒屋でして」
 何故かここではだ、井上さんは顔を俯けさせて恥ずかしそうに言った。
「それで」
「ご存知なのですね」
「それに飲むことも」
 酒をというのだ。
「好きです」
「なら余計にいいですね」
「それでは菊一文字も」
「どれだけの量を」
「一升お願い出来ますか」
 僕は井上さんの今の言葉を聞いて驚いた、生真面目な井上さんがお酒を飲むだけでも驚きだがしかも一升ともなるとだ。
 それで驚いたがだ、井上さんはその僕の前でさらに言った。
「それだけ」
「では一升瓶をそのまま」
「頂けますか」
「はい」
 そうだとだ、井上さんは答えた。
「それではお持ちしますので」
「お願いします」
「おつまみは」
「何がありますか?」
「お豆腐があります」
「お豆腐ですか」
「京都からいいお豆腐を仕入れてきました」
 小野さんが井上さんに答えた。
「おつまみにと考えていまして」
「私達のですか」
「はい、ではそのお豆腐を」
「頂きたいです」
 井上さんは生真面目な表情で小野さんにも答えた。
「是非」
「それでは」
 こうして皆それぞれお酒を飲んだ、勿論井上さんもだ。その井上さんの飲み方はこれまた驚くものだった。
 次から次に自分から杯にお酒を注いで飲んでいく、それを何度も何度も飲んでいくがそれでも全くだった。
 酔わない、お顔も赤くならない。それで僕も驚いて井上さんに問うた。
「あの、先輩」
「何だ、大家君」
「さっきからどんどん飲まれてますけれど」
「いい酒だ」
 美味とだ、井上さんはいつも通りの顔で答えてくれた。
「菊一文字はな」
「そうですか、ですか」
「何かあるか」
「かなりの勢いで飲まれてますね」
「普段通りだが」
「先輩の」
「そうだが」
 こう平然と僕に答えてくれた。
「何かあるか」
「いえ、ですからかなり飲まれてますよね」
「普通だが、私にとっては」
「そうなんですね」
「お酒は好きだ、一日一升はだ」
「一升、ですか」
「飲むがどうかしたのか」
 本当に井上さんのお顔は赤くならないし表情も変わらない。まるでお水を飲んでいる様に飲んでいく。そして。
 一升奇麗に空けてからだ、こう言った。
「ふむ、美味しかった」
「あの、あっという間に一升」
「だから普通だ」
 やはり平然と返す先輩だった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧