八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

「大家殿、君にしても」
「大家殿ですか」
「駄目か、この呼び方は」
「大家って呼び方はわかりますけれど」
　実際に八条荘の大家だ、だからそのことはだった。
　けれどだ、それでもだった。
「殿付けは」
「それはか」
「止めてくれますか」
「大家はこの八条荘の主、それならだ」
「殿付けですか」
「そうしたのだが」
「そこまではいいですから」
　井上さんにこう言って断った。
「本当に」
「では何と呼べばいいのだ」
「殿や様付けじゃなかったら」
「いいのだな」
「はい、そういうの以外でお願いします」
「それならだ。私は君より年上であるし」
　このことから考えてだった、井上さんは僕に答えてくれた。
「君付けでいいか」
「はい、それで」
　僕も井上さんの問いにすぐに答えた。
「お願いします」
「それではだ」
　井上さんは一旦呼吸を置いてだ、それから僕をこう呼んでくれた。
「では大家君」
「はい」
「これから宜しく頼む」
「はい、こちらこそ」
「この八条荘の規律は私が守る」
　断言だった、まさに。
「それを乱す者は誰であろうが許さない」
「わかりました」
「例え君の父上が帰られてもだ」
「親父ですか」
「容赦はしない」
「はい、お願いします」
　親父のことについてはだ、僕は即座に返した。
「もう容赦なくやって下さい」
「いいのか、君の父上だが」
「本当に誰かに性根叩きなおして欲しいんですよ」
　物心がついた時からこう思っている、あの親父の女好きと酒好き、遊び好きを誰かに叩きなおして欲しいと。
「ですから若し親父が帰って来たら」
「そうしていいのだな」
「是非お願いします」　
　こう井上さんに言った、それも強く。
「僕は止めませんから」
「わかった、しかしだ」
「僕もですね」
「他の入居者もだ」　
　詩織さん達もというのだ。
「私は注意すべきことは注意する、いいな」
「はい、わかりました」
　僕は笑顔で井上さんに応えた、そのうえでこうも言った。
「何かあれば言って下さい、少なくとも僕はそれで構いません」
「動じていないな」
「焦ったり狼狽しても何もならないですから」
「それでか」
「あの親父と一緒にいましたから」
　その歩くトラブルメーカーの親父とだ。
「もう大抵のことだと」
「動じないか」
「はい、そうなりました」
　宮下君に話したことを井上さんにも話した。
「本当に」
「そうか、大物だな」
「そうでしょうか」
「大物になったと言うべきか」
「まあ何ていいますか」
「少なくとも君が悪人でないことはわかった」
　井上さんは僕にここでこう言ってくれた。