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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第十九話 風紀委員その五

「描いていると心が落ち着くわ」
「だからですか」
「子供の頃から描くのは好きなの」
 絵、それをだというのだ。
「マグリットなんかいいわね」
「ルネ=マグリットですか」
「ええ、あとボッティチェリもね」
 ルネサンス期の画家の名前も出てきた、美術の教科書の定番画家の一人だ。
「あと漫画なら高橋留美子さんね」
「あっ、あの人ですか」
「女の子が特に可愛いわね」
「画力確かに凄いですね」
「とにかく絵が好きだから」
 それで、というのだ。
「美術部なのよ。大学は芸術学部に行くわ」
「八条大学の」
「ええ、あちらにね」
 進学したいという希望も話してくれた、どうも嘘は言わないで自分が本当だと思うことをどんどんご自身から言う人みたいだ、お話を聞いていて思った。
「行きたいわ」
「部長なら大丈夫ですよ」
 宮下君がその井上さんに言う、彼も厳しいとか言いながら井上さんが嫌いではないらしい。表情にもそれが出ていた。
「成績もいいですし」
「有り難う、そう言ってくれるのね」
「はい、じゃあ大学の方も」
「芸術学部に行くわ」
 先輩は強い声で宮下君に答えた。
「そして画家になるのよ」
「生活の方は」
「教員免許を取るわ」
 その辺りも抜かりなかった。慎重な人だ。
「そしてね」
「先生にもなって」
「食べる分は確保するわ」
「お流石です」 
 何か何処かの赤毛の友や妹さんみたいな言葉も出た。
「ご健闘を」
「ええ、私は頑張るわ」
 こう宮下君に言ってだった、そのうえで。 
 僕に顔を戻してだ、また言って来た。
「ではいいわね」
「はい、じゃあお部屋は」
「一一八号室と言われたわ」
「あちらですか」
「何度も言うけれど若し不埒な行いがあれば」
 まさにその時はだった。
「覚悟しておくことね」
「わかりました」
「ただ、こいつはそうしたことはないですよ」
 宮下君が僕をフォローしてくれた、正直有り難かった。
「親父さんと違って」
「そう、お父上よ」
 井上さんは僕を厳しい目で見て言う、何か予想通りの展開だ。
「彼のお父上は」
「八条止さんですね」
「交際した相手は四桁を超え」
 ドン=ジョバンニ以上の女好きだ、カタログを見たら本当にそれだけの女性の名前が書いてある。あんな女好きはそうはいない。
「そして隠し子の数は」
「わからない位ですか」
「いると聞いたことはあるわ」
 詩織さんのことだ、けれど他に疑いがある人がいてもおかしくない。
「そうした方が親御さんだから」
「遺伝で」
「その教育で」
 そうしたもので、というのだ。
「万が一ということもあるから」
「だからですか」
「私は注意しているのよ」
「大丈夫ですよ、こいつの場合は」
「だから言っているわね、いつも」
「百聞は一見に然ずですね」
「その通りよ」
 まさにというのだ。 
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