八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第十九話 風紀委員その三
「あの人が選ばれるならって思ってたし。それに」
「それになんだ」
「入居者の人は僕が八条荘に入る前に募集があって」
「それでなんだ」
「そう、その時に決まっててね」
それで、とだ。僕は宮下君に話した。
「その中に委員長さんがいるって」
「事前に知ってたのかな」
「そうかな、ただ思い当たるふしはあるね」
僕にとってはだ、宮下君にその思い当たるふしも話した。
「親父のことだね」
「ああ、親父さん」
「あの親父の息子だからね」
「それで大家君をマークしてるっていうんだね」
「そうじゃないかな」
こう話した、宮下君に。
「それじゃないかな」
「ううん、そうかな」
「委員長さんがどんな人か知らないけれどね」
「だから真面目で厳しい人だよ」
「名前とかわかる?」
「あっ、名前はね」
宮下君が言おうとしたところでだ、僕達にだ。
「井上沙耶香っていうのよ」
「そうそう、井上沙耶香さんっていうんだ」
宮下君はその声、大人の女の人の声に応えて僕に教えてくれた、ただここですぐにぎょっとした顔になってだ。
そうしてだ、僕にこう言って来た。
「その声は」
「宮下君、お疲れ様」
その声が言って来た、また。
「彼にお話してくれたのね」
「委員長、どうしてここに」
宮下君は声がした方に顔を向けた、そして。
僕もその声の方に顔を向けた、すると長身ですらりとしたスタイルの女の人がいた。
髪は奇麗な黒髪で腰を完全に覆う位に長い。絹の様な質だ。
睫毛の長い奥二重の目でその目は切れ長だ、目の光が強い。面長の色の白い顔でお鼻が高く唇は小さく舞一文字だ。凛とした感じだ。
すらりとした長身を濃紺のブレザーと物凄く短いえんじ色を基調とした黒と白のタートンチェックのスカートで覆っていて首には紅のリボンがある。カッターの色は白でハイソックスは黒だ。右手を腰に当てて姿勢よく立っている。
その人がだ、宮下君にこう答えたのだった。
「私も彼に言いたくなったの」
「大家君、いえ八条君に」
「そう、井上沙耶香よ」
その人は僕に厳しい表情で言って来た。
「今日から八条荘に入居させてもらうわ」
「そ、そうですか」あ
「宜しくと言っておくわ」
本当に厳しい口調で僕に言って来る。
「これからね」
「はい、こちらこそ」
「貴方のことは聞いているわ」
その厳しい視線を向けながら言って来た、また。
「あの八条止さんの息子で」
「はい」
「そしてアパートの管理人になったわね」
「そのことを何処で」
「友達の新聞部長からよ」
その人からというのだ。
「八条荘というアパートのことを聞いたのよ」
「それでなんですか」
「アパートに入るのは男子だけではないわ」
そのことを見越してというのだ、随分先まで見える人だと思った。
「そしてあの人の息子なら」
「入居した女の子達に」
「淫らなことをするわ」
「あの、それは」
「誤解だというのかしら」
「僕は別に」
「そうね。普段はそうでも」
僕を全然信用してない、そのことがよくわかる言葉だった。それもこれも親父のせいなんだなと子供の頃からいつも思ったことを久しぶりに思った。
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