無欠の刃
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下忍編
過程
前書き
あけましておめでとうございます。
新年早々、インフルエンザに罹ったので、更新が遅れました。申し訳ございません。
勝利を勝ち取り、さっさとこの場から逃げようとしていた湖面の背中に、声がかけられる。
「勝利、おめでとう」
思わず振り向いた湖面は、微妙に疲労しているらしいカトナの顔を見つつ、言う。
「…お前のとこのチームメイトに勝ったっていうのに、祝うのかよ」
「サクラの負けは、負け。仕方ない」
「案外シビアだよな、あんたも」
その言葉に、カトナは首を少しだけかしげたが、湖面は気にせず、何気ない様子で話を続ける。
「で、何の用だよ。あんたみたいな人が、俺に何の用事もなく話しかけて来るとは思えないけど?」
「察し、いい。けど、私は、弟の、仲間なら、普通に、話しかける、よ?」
その言葉に、湖面は一瞬、体を震わせたが、またいつものような飄々とした態度に戻る。
「で、何を聞きに来たわけ?」
「あのさ、他国とか他里の情報、詳しい、よね」
「ああ」
「印を使わない忍者って聞いて、誰が真っ先に思いつく?」
その言葉に、すっと目を細めた後、湖面は自分の狐面を暫くガリガリと引っ掻いていたが、やがてすらすらとよどみなく答えていく。
「木の葉なら、四代目火影の使う螺旋丸。砂なら、傀儡の術や風影たちが使う砂鉄を操る術が有名だな。ほかには…ああ、塵遁とかいうのもあったっけ。でも、あれは確か、血継限界だった気がするな。雷影も…なんか変な術使ってたなぁ」
語られていく、普通ならば知らないような知識に、しばしば瞠目しながらも、カトナは頭に叩き込んでいく。やはり、自分がある程度考えていることは間違いないかもしれないと思いつつも、しかし、確証が持てず、どうしたものかと考えた時。
「ああ、それと」
「鬼の国の、巫女っていうのもいたな」
・・・
「負けたか…」
全力は出し切った。自分でやれることはやりきったはずだ。
でも、負けた。なぜ負けたかは分かる。
湖面は術の使い方に富んでいるからだ。下手したら、木の葉の里の上忍と同じくらい経験があるような、そんな動きをしている。いくつもの手立てを用意したが、そのたび、臨機応変に対処され、負けてしまった。
湖面が使ってきた風遁に応対する為、苦無を使っての弾幕は、中々、良かったと思う。
風遁は湖面の思い通りに仕えるとはいえ、チャクラを使った忍術での延長であると分かっていたから、それなりに対策をねれた。
及第点は、とれる。仲間がいるなら勝てる。
けれど、自分だけでは勝てない。
「サクラ」
呼びかけられ、反射的に体が竦みそうになるのをこらえる。
サスケの話を勝手に聞いてしまったという負い目もあるが、何よりも、彼女の生い立ちに対して、未だに驚愕を隠せないでいるのだ。
言われてみれば、ナルトの容姿は確かに父親によく似ていた。でも、今まで気づけなかった。
それは間違いなく、カトナの弟―九尾の人柱力の弟であるという偏見の意識が、どこかに混じっていたからだろう。
そういう、気づかないうちに根付いていた意識が申し訳なく、なんともいえない顔になったサクラを見つつ、カトナはきっと負けたことに落ち込んでいるんだろうと、勘違いをしながら、サクラの両肩を掴む。
いきなりの彼女の行動に、ぎょっと目を見開いたサクラに、カトナは頭を下げた。
「お願い、ナルトの為に力を貸して」
「え?」
驚いて思わず、カトナの頭を見つめるサクラに、カトナは言葉を続ける。
「ナルトが、忍術をを使えるようになるかも、しれないの!」
「え、!?」
「だからお願い。サクラの協力が無きゃ、出来ないの。だから、だから!!」
「ちょっ、ちょっとまってよ。ナルトが忍術を使えるかも、って、どういうことよ!?」
サクラが思わず、そう言い、ナルトを思い出す。
ほかなら、ありえるかもしれないが、ナルトはどう考えても無理の筈だ。
だって、彼には両腕がない。かけがえがなく、失ってはいけないものが無いのだ。
どう考えても無理がある筈だ。
「手で印を組むんだから、ナルトには使えないんじゃ…」
その言葉に、緩やかに、カトナは首を振った。
「違うよ。別に、手が無くても忍術は使える」
「え!?」
驚愕で目を見開いて、カトナの方に振り返ったサクラに向けて、カトナは持っていた鉛筆で紙に、すらすらと印の形を書きながら、言う。
「両手で印を組む―って、先入観があるから、駄目なんだよ」
「どういう、こと…?」
たずねてきたサクラに、うーんと暫くの間唸っていたカトナは、かりかりと、印という文字を紙の端に書いたあと、印=過程というものを付け加え、離していく。
「印っていうのは、つまり、チャクラを忍術に変換するまでのプロセスや過程。ここまではいいよね?」
「うっ、うん」
「印を組むことで、私達は、チャクラを、忍術に変換してる。けれど、印を組まなくても、変換はできる、でしょ?」
「え、そんなの、出来るわけが」
「いや。いたはずだよ」
その言葉にサクラは今まで見てきた忍者を一通り思い出していく。霧の里の抜け忍である白は、片手で忍術を使っていたらしいが、それも、後後、カトナと一緒に調べてみれば、崩し印という、隠れ里に伝わる秘術に用いられる時の印であった。カトナの言う、印を組まないには、値しないだろう。
ならば、一体誰が?
しばらくの間、カトナは待っていたが、お手上げ状態になったサクラを見て、言う。
「血継限界」
「あ!」
盲点を突かれたと言わんばかりに、サクラが驚きの声を上げ、頷く。
そう、印を組まないと言えば、何よりも血継限界があったではないか。
一番の例と言えば、やはり、班員であるサスケがあげられるだろう。
写輪眼を使う時、彼が印を組んだところを見たことが無い。詳しく聞いてみれば、どうやら、使いたいと思った時に、チャクラが瞳に集中し、発動できるらしい。
これは瞳術だけだから…ではなく、白だって印を組まずに、氷の結界を作っていた。
木の葉の秘伝忍術の一つ、心転身の術や影まねの術は印を組むが、あんな強力な技が、複雑な印を組まないで発動できるのだ。
つまりは、「複雑な印を組まないこと」及び「印の省略化」は、血継限界全体に通じる、共通事項と言ってもいいだろう。
「あれはもともとの遺伝子自体に変化が起きて、術者は、過程をある程度、省略できるようになっている…つまり、忍術を発動すること=印を組むことにはならないことの、証明となる。分かる?」
別に血継限界以外にも、印を組まないで発動する忍術は多い。
医療忍術や封印術は系統が違うため、一概には言えないが、印を組まないと言えば、ここもそれにあてはまるだろう。砂のお家芸である傀儡の術も、ここに含まれる。
カトナ達は知る由もないが、四代目火影が考えた螺旋丸などもある。
つまりは、忍びが忍術を発動するとき、別に印は、特に必要でないのである。
それでも、忍者が印を組むのは、単純に、チャクラの消費を最小限にまで抑えられ、なおかつ、きちんと術が発動するからである。
早い話が、印を組むということは、過程を一つ一つ熟している分、正確にチャクラを込めれるので消費が少なくて済むのだが、過程を一気にすっ飛ばしている分、チャクラの消費は激しく、医療忍者レベルならば、そんな問題も発生にしにくいが、普通の忍者レベルでは、それも難しいだろう。
また、「印をきちんと組まなければ忍術は発動しない」という先入観があることも要因の一つだろう。
アカデミーでは徹底して、正しい印を組むことや、印をいかに早く結べるかを重点とした授業を行っていることも多い。
それはいついかなる時でも、すぐにでも自分の身を守れるように、忍術を不発させないようにするためであるのだ。
「うん。でも、それがナルトが忍術を使えるかもってことに、どうつながるわ…」
そこで言葉を途切れさせたサクラは、いくつか頭をよぎる予想に目を見開く。
印を組むことは、忍術を発動することであるが、忍術を発動することは、印を組むことではない。
カトナの目的は、印を組まなくても、忍術を発動できるようにすればいいことである。
ということはつまり、
「印のかわりの過程を、作る気・・!?」
その言葉に、カトナはこくりと頷く。思わず絶句しかけたサクラは、何とか自分を保ちながら、カトナの肩を掴み、揺らす。
「で、ででで、出来るわけないでしょう、そんなの!!」
「出来るよ」
「何を根拠に…!!」
「前例があるから」
「…ぜんれい?」
「「鬼の国の巫女」っていう人がいるの、知ってる?」
「え、巫女?」
「巫女の意味、分かるよね?」
「それくらい、知ってるわよ!! 確か、神様に仕える女の人の事でしょう? それがどうしたのよ」
「その「鬼の国の巫女」は特殊な封印術を扱ってる。けど、この封印術を使う時、印は結んでないだって」
「じゃあ、どうやって発動させるのよ!?」
「手の動き、だって」
そういって、カトナはすらすらとかいた印の形と、その形をもとにしたらしい人間のポーズをいくつか書いていく。何個か不明瞭らしい点もあるが、それは、カトナ自身がこの巫女の舞というのを見たことが無いからである。
鬼の国の巫女は、舞う時の手の動きや足の動きの中に、印の代わりとなるポーズをいくつか仕込んでいるらしい。それで強固な封印術を発動させるらしい。
全ては伝聞に過ぎないが、しかし、信憑性は高いだろう。
なにせ、あの「湖面」だ。
アカデミーの成績ではトップクラスでドベの彼は、イルカも驚いてしまうほどに、他国の情報について詳しい。それもまた、彼が他国からのスパイであるという説に拍車をかけていたが、それは裏を返せば、それほどまでに信憑性が高いことしか言っていないからである。
たとえば、雷の国の雲隠れの里は、人柱力を持っているが、それは八尾であり、現雷影である男の弟の腹に宿っている。たとえば、滝がくれの里の持つ人柱力の状態。たとえば、岩がくれの里が過去にしてきた数々の行為など。
そんな、確かに調べれば分かるだろうが、普通の子供ではありえないような知識を多く持っているのだ。しかも、中には里の機密情報まである。
必然、ガセネタを掴むまされた可能性はすくないだろう。
「…手の動きでいいなら、足の動きや、態勢でもいけそうね」
「流石、サクラ。話が速い」
「なるほどね。チャクラが効率よく伝達できるのを十二種類、この一か月間で作るってわけね」
「そう。サスケに協力、頼むの迷った。けど、サスケは実践派。こういう検証は」
「私の方が熟せる…ってわけね」
「うん」
頷いたカトナに、なんて荒唐無稽を思いつくんだと内心で驚愕しながらも、表面上には少しもださず、サクラは思考する。
検証パターンは無限大だろう。足の動き、で限定しているとはいえ、角度、距離、速度、態勢など、様々な条件が必要であり、その条件の中でも特に秀でた十二種類の印を見つけ、しかも、それぞれをナルトの体に染み込ませなければならないのだ。一カ月でも足りないだろう。
だが、カトナがわざわざ自分を信頼し、言ってきてくれたのだ。
自分に出来る最善の手は尽くしたつもりだし、負けたことは負けたことと割り切れる。それでも、悔しくて仕方なかったサクラに舞い込んできたチャンスだ。
みすみす、見逃しはしない。
それになによりも、これはカトナとナルトに対する偏見の気持ちへの謝罪にもなる。
だからこそ、サクラは勢い良く頷いて引き受けた。
「分かった、やってみる」
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