ソードアート・オンライン コネクト
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Act_1 《花の剣士》
前書き
初投降です
ユウキが可愛すぎるので書きました(まだ出ないですが)
楽しんでいただけると幸いです
※この話は割と時系列をバラバラで書く事があります
◆
一面が、花で染まった場所だった
庭園(ガーデン)──と勝手に私が呼んでいるだけだけれど──は、今日も今日とて
瑞々しく潤された花々で包まれている
アイテムを収集する事が目的で行われるのではない、無意味な過程
結果など何も無い
得るものなど何も無い
ステータスが上がるとか、レアなアイテムが手に入るとか、行ける場所が増えるとか
本当に、何も、無い
この《死のゲーム》が始まって、誰もが自分のことを考えていた
誰もが、"生きること"に向き合っていた
そんな中で、この庭園の持ち主はずっと──ゲームとしてのSAOを見つめ続けていたる
作られたのなら意味がある
作り手の考えが必ず存在する
だから、どんな理由があろうとも、その領域を踏み躙ってはいけない
いつだったか
独白のように呟かれた言葉を思い出す
あれは、いつだっただろう
どこの層での出来事だったかも思い出せない、何か大切な──大切な、言葉だった、のに
ゴロン、と
ハンモックの上で寝返りをうつ
花々の香りに包まれる此処は、何かを考えたいときや、何かを思うときに便利だ
だれかが立ち入ることは滅多にない
と言うか、ほぼ皆無だ
このエリアに入るためには、この庭園の主にアクセス許可を貰わなければならない
アクセス許可を貰ったとしても、こんな辺鄙な場所に来る人なんて、いやしない
だから、彼女は──アスナはこの場所が好きだった
目を瞑り、アスナはまどろみを受け入れる
この暖かな庭園の中で
もういっそ、何もしなくても良いのではないか、と思いたいくらい
──そんなの、許されないけれど
目を瞑れば思い出されるのは"戦いの景色"
いつかの、金属がぶつかり合う音が、そこで行われているように思い起こされた
死のゲームとなったソードアートオンライン──《SAO》
そこで戦う、仲間たちとの思い出
最悪の別れがあった
悲しい出来事があった
思い出すだけで泣き出してしまいそうな
そんな、終わるかも分からない旅での──風化しない冒険譚
そんな、今にも崩れ落ちてしまいそうな場所での──揺るがない事実の話
ゲームオーバーが永遠の死を意味するこの場所で
17歳の少女には荷の重過ぎる出会いと別れ
泣きたい時があろうとも、膝を折ることは出来なかった
膝を折れば終わってしまう
"死"が、足の下から此方を覗き込んでいることを思い出さなければ、泣きそうになる
死は、いつだって、1人1人の傍に寄り添っている
でも、どうか
この場所でだけは、
──そんな思い、忘れていたい
まどろみを受け入れるアスナの周りで、花が、揺れた
ソードアートオンライン コネクト
Act_1 《花の剣士》
◆
耳に入る声の数、雑多な地面を踏みしめる足音の数
何もかもが桁違いな、何もかもが集まるその場こそ──第50層主街区《アルゲート》
薄汚い、と言えば確かにその通り
だが、だからこそ設置出来る店舗の料金も安く済み、自然と商人はこのアルゲートを根城して活動することが多くなっていた
人ごみを掻き分けて、目的の場所へと向かう
この街には贔屓にしている商人がいるからだ
偶然とはいえ、珍しいS級食材である《ラグー・ラビットの肉》を手に、
少年──キリトは目的地へと歩を進める
キリトは、このアルゲートの雰囲気を好んでいた
薄汚くて、人が集まり、喧騒の絶えないこの街
どこかアジアの街を思い出させ、そう──秋葉原の電気街のような
複雑に入り組んだ裏道なんて、まさにそれだ
客を引く為に大声で宣伝をする商人や、
レアな装備を見せ付けるように街を歩く剣士たち
そんな者たちを尻目に、とある商人の店の前まで歩みを進めていたキリトだったが、
その目の前に小規模ながらも人だかりが出来ているのが見て取れた
──エギルの店で何かあったのか?
知り合いの斧使いの身を案じ、キリトは迷うこと無く、その人だかりへと混ざり込んだ
周りの人間は胡散臭そうに顔をしかめるが、気にすることは無い
やがて、その人だかりを抜けて、ようやくエギルの店先が見える場所へと陣取る
何の問題が、とエギルの店へ視線を向ければ──1人のプレイヤーが立っているだけだった
ボロボロの布切れを羽織り、顔を見せないようにフードを被っている
それだけなら、別段何処にでも居るプレイヤーの1人に過ぎない
だが、人だかりたちの注目は男の背中──大きな大輪の花が描かれた、ボロボロのマントへと向けられていた
「おい、あれ」
「あぁ、死神だぜ」
「こんな所にまで出てくるなんて……」
「人前によく顔を出せるわね……」
人だかりから聞こえる、罵声
ヒソヒソと、たった1人のプレイヤーへ向けられる罵りの言葉を背中で聞きながら、
キリトはそれでも男の姿を凝視することしか出来なかった
背中に描かれた《梅の花》、それを知っているからだ
──"PKK"の証
エギルの顔が、分かり易い程に強張っている
アイテムウィンドウとフードの男を交互に見やり、顎に手を当て、思案に耽る様など普段では想像すら出来ない姿
その様を、フードの男はじっと見つめているだけだ
やがて、エギルはフードの男にサッと指を突きつける
本数は3本
……1つが1000コル、と言う事は無いだろう
最低でも10万──もしかすれば、もっと数が上がるかもしれない
男は躊躇う事なく、アイテムウィンドウ内のアイテムをエギルへと譲渡した
モノの譲渡を確認し、エギルは男へと対価のコルを支払う
取引完了のボタンを押せば、即座に取引完了だ
「しかし、随分と面白いものをお売りになるな」
エギルの茶化すような声に、男は小さく微笑んだ
その後は言葉を紡ぐことも無く、踵を返し、アルゲートの裏道へと消えていった
人だかりも、男が消えていく最中に、自然と解散していった
小さな罵声は、やがて街の大きな喧騒の中に飲まれていく
その場には《ラグー・ラビットの肉》を売りに来たキリトとエギルだけが残っていた
「うっす」と何の気なしにキリトはエギルへと声を掛けた
先ほどまでの大仕事で疲れていたのだろう、エギルは力なく「おう」とだけ返す
大きな身体が一回りほど小さく見えて、ちょっとだけ笑える
「あんな"お客様"と、なんの買取をしたんだ?」
「ん? あぁ、コイツさ」
エギルはアイテムウィンドウから、一輪の花をコンバートして見せた
鮮やかな青色だ
萎れている様子などまったく無い
"時間が止まっている"様に、その花は今も尚瑞々しく輝いている
だが──
「普通の花だな」
「そうだな、何の特徴も無い花だ」
この花に力は無い
特殊なステータス増強も
特別な武器の素材になる事も
ましてや、薬草のような効果などもありはしない
観賞用、それ以上でもそれ以下でもないものだ
「じゃあ、さっきの指3本は30万コルとかじゃなくて──」
「3コルだ。当然だろ」
──……深読みし過ぎたかな
エギルと男のやり取りは、確かに重苦しい雰囲気だった
が、それはきっとエギルが緊張していただけのこと
取引の内容は、ホント、なんてことは無い程に小さな、子供のお小遣い程度のものだ
「時々来るのさ。何の役にも立たない花から超激レアな花の素材まで。
どんなものだって基本1本1コルだ」
「"死神"に吹っかけたのか……?」
「いや、向こうがそれで良い、の一点張りよ。流石に気が引けるんだがな……」
申し訳なさそうに頭を掻くエギルの姿を見て、ふと思い出す
「そう言えば──花が好きだったんだよな、"アイツ"」
「何か言ったか」とエギルが不思議そうに此方を見つめるが、
キリトは首を横に振るだけだった
◆
第50層主街区《アルゲート》
ギルドの活動のない休日、友人たちの顔を見に足を運んだ矢先、
アスナは、その裏道から現れた男の姿を見て、風のように人の壁を越えて走り寄った
「──こっちに来てたんだ、ね」
見知った顔──と言っても、フードに隠れて見えることは無いが──をした男
その隣に並び、顔を覗き込む
アスナの呼びかけに、フードの男は答えない
一瞬だけアスナを見たが、すぐ様に視線はその後ろへと向かった
そこには、アスナの護衛する為のメンバーが数人、此方の様子を伺っている
《血盟騎士団》
中規模ながらも、錬度の高いプレイヤーの集まるSAO屈指の強力なギルドの1つ
その中で、彼女──アスナは副団長を務める有名なプレイヤーの1人だ
それだけの重要人物である彼女が、《アルゲート》のようなスラム街へ1人で足を運ぶ事は、流石のギルドが許すはずが無い
彼女を守る為、その傍らには何人かのメンバーがいつでも待機していた
アスナの護衛、と言うことになっている男──クラディールもその1人だ
そして、このフードの男も血盟騎士団の団員の1人"だった"
護衛たちを見つめるフードの男
特に、その視線はクラディールに注がれている
じっと見つめる瞳に揺るぎは無い
値踏みするように
狩人が獲物の大きさを測るように
フードの男は、その布の端から窺い知れる瞳でクラディールの目をじっと見つめていた
「今日も庭園(ガーデン)にいるの?」
ふと、重い沈黙を切り裂く声音が響く
アスナだ
何かを伺うように、だが、何処か嬉しそうに、フードの男へ問いかけた
クラディールから視線を外し、フードの男はアスナへと向き直る
その背中からは「用済み」とでも言わんばかりの興味の移り変わりが見えた
「そのつもりだ」
若い、男の声
抑揚の無い機械的な声だ
フードの奥から覗く瞳とあわせて、あまりにも不気味な佇まいに、
クラディールは刃へと一瞬手をかける
──無礼者、と切りかかるか
その考えを、クラディールは一瞬で切り捨てる
相手は"元"とは言え、騎士団で唯一《団長》であるヒースクリフの傍で刃を振るう事を許されていた男だ
実力は折り紙つきで、しかもおぞましい"逸話"までセットで付いて来る
刃に向かおうとしていた手は、やがては何事も無かったかの様に、純白のマントの中へと静かに入っていった
その様子に気付く事も無く、そっか、と素気なく返す彼女のアスナの顔に、
少しだけ影が落ちる
その表情を見て、なのか
フードの男はボロ布のようなマントから腕を伸ばし、アスナの頭に軽く置いた
ボロボロのフードとは違い、アスナへと伸びる手は色白だ
手の甲までを覆う青地の布
柔らかそうに見えて、無駄な要素を一切省いた腕のパーツ
そこにあるのは、確かに"戦う"事に特化した手だった
その手が、2、3度ぽんぽんとアスナの頭を撫で、アスナの目の前で拳を握る
少しだけ力を込めた拳が僅かに光った
アスナの鼻先で、開かれた拳から一輪の花が現れる
何処にでもありそうな、平凡な、桃色に染まる花
それがコサージュのように、男の手から、アスナの髪へと移った
いつものやり取り──
平凡な日常
何気ない会話
──数こそ減ったけど
アスナは、自分の髪に留まったコサージュを触る
会話は滅多に出来ない
こうやって顔を会わせる事だって珍しい
あの日、なぜか騎士団を去った彼
でも、その心のありようだけはどれだけの月日が経過しようと変わる事は無かった
「ありがとう」
微笑むアスナを軽く見やり、フードの男は踵を返す
最後に、クラディールの"左腕"に視線を這わせながら──
後書き
マイペース更新になるかもしれませんが
よろしくお願いします
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