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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第十二話 気さくなタイ人その十一

「勝てるよ」
「じゃあ九回、ストッパーがよっぽど調子が悪いか運が悪くないと」
「勝てると思うよ」
「黒いオーラ見える?」
 詩織さんはすがる様にして円香さんに顔を向けて問うた。
「それで」
「いえ、それは」
「見えないのね」
「はい、何処にも」
 グラウンドの何処にもというのだ。
「ですからそちらでも」
「安心していいのかしら」
「そう思います」
「その言葉信じさせてもらうわね」
 美沙さんはグラウンドに顔を戻してこうも言った。
「それじゃあね」
「それでは」
 こうしたことを話してだ、そしてだった。
 美沙さんも僕達もだった、八回の裏が終わって九回の表を見守った。本当に祈る様な気持ちだった。そうしてだった。
 試合が終わって八条荘に戻ってだ、小夜子さんが微笑んで言った。
「いい試合でしたね」
「はらはらしたわよ」
 美沙さんが緊張から解き放たれた顔でその小夜子さんに返した。
「本当にね」
「そうですか」
「だってね」
「どうなるかわからなかったからですね」
「九回でね、こっちもだったからね」
 阪神側もというのだ。
「ツーラン打たれて」
「はい、ですが」
「一点差になってね」
「しかしでしたね」
「何とかね」
 美沙さんはその緊張が解けた顔で言うのだった。
「よかったわ」
「負けましたね、広島は」
 小夜子さんは残念そうにも言った。
「残念です」
「まあ正念場だったみたいだけれど」
 その小夜子さんにダエさんが言って来た。
「また次があるわよ」
「次がですね」
「そんなにゲーム差開いてないでしょ」
「はい、まだ」
「それならね」
「挽回の可能性がですね」
「あるわよ」
 それで、というのだ。
「その時に勝てばいいのよ」
「そういうことになりますね」
「戦争もスポーツも最後の最後で勝ってればいいのよ」
「最後の最後で、ですか」
「そう、途中で勝ってもね」
 例えだ、そうなっていてもというのだ。
「仕方ないのよ。最後の最後で勝ってこそよ」
「それでいいのですね」
「だって途中まで勝ってても精々二位でしょ」
 実にシビアに話すダエさんだった、そうした口調だった。
「それだとね」
「最後の最後にですね」
「勝っていればいいのよ。それでね」
「それで?」
「ダエ達が今食べているお菓子だけれど」
 ここでダエさんは話題を変えてきた。
「これタイのお菓子じゃない」
「あっ、そうなんだ」
 僕はダエさんの言葉でこのことに気付いた。 
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