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魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
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空白期 第15話 「楽しく」

 場所を玄関前からリビングに変えたわけだが、はやてとディアーチェの会話もとい漫才はなかなか終わりを見せなかった。しかし、俺が事前に作っていたお菓子と高町が持ってきた桃子さん手製のお菓子によって状況は一変。今ではすっかりティータイムのようになっている。

「美味しい……これってショウくんが作ったんだよね?」
「そうだけど、君が持ってきたのには及ばないよ」
「そうかな? 私としてはショウのもとても美味しいと思うけど」
「まあまあ、両方美味しいってことでええやないの」

 高町やフェイトは少々遠慮気味だが、はやては笑顔でお菓子を食べ進めていく。食べっぷりがどことなくヴィータに見えてしまうのは、彼女達が家族だからだろうか。それともこの中ではやてが落ち着きがないから……まあせっかく平和な時間が流れているのだ。余計なことは口にしないでおこう。

「ふむ……前よりも腕を上げておるな」
「まあ前よりも作る回数が増えてるからな」
「……すまん」
「いや、別にディアーチェが謝ることじゃないだろ」

 確かにレヴィとかが原因ではあるが、嫌々作っているというわけではない。それにたくさん食べてもらえるということは、色んなものを試せるということでもある。レヴィは感情表現がストレートだし、シュテルも味の違いが分かる奴だ。俺にとって損なことはない。

「趣味で作ってるのを食べてもらって、それで喜んでもらえてるんだ。楽しんでやってるさ」
「そうか、ならよいのだが……ところで貴様の作ったものと高町が持ってきたもの、どことなく味というか雰囲気のようなものが似ている気がするのだが」
「え? フェイトちゃん分かる?」
「うーん……私にはちょっと。はやては?」
「うん?」

 話しかけられたはやては、フォークを口に含んだ状態で意識を向ける。可愛らしくないわけではないが、少しがっつきすぎというか食べることに集中しすぎではないだろうか。

「似とると思う……というか、似てるのが当たり前やと思うよ。ショウくんって桃子さんから教えてもらっとるらしいし」
「え? お母さんに?」
「まあ偶にね」
「……私、ショウくんとお母さんが話してるところほとんど見たことないよ。お客さんで来てて話してるのは何度かあるけど」
「空いた時間にしてもらってたからね。大体そのとき君は月村の家とかに行ってたと思うよ」

 正直なところ、俺がいないときにお願いしてた部分もあるけど。少し前まであまり人と関わりたくないというか、今よりも距離感を置こうとしてたし。今は別に見られても構わないけど、会話である程度通じるようになってるところがあるからな。試作品を食べあったりするだけになってるか。

「全然知らなかった」
「へぇ……一緒のクラスになってからというか、関わり始めてからは誰かしら言ってると思ってたんだけどな」
「え……ということは」
「うん、桃子さんを含め君の家族とはそれなりに親しくしてるよ」

 それほど衝撃的な事実ではないと思うのだが、高町にとってはそうでもないようで、何やらブツブツと呟いている。その一方でお菓子を食べ進めるあたり彼女も少女のようだ。
 フェイトも普段と戦場じゃ雰囲気とか違うけど、高町もこうして話してる分には普通の女の子だよな。あんなえげつない砲撃を撃つなんて想像できない。

「……ん? あのさショウくん」
「何?」
「お父さんのことは何て呼んでるの?」
「士郎さんだけど?」
「……お兄ちゃん達は?」
「恭也さんに美由希さん」

 聞かれたことに素直に答えたわけだが高町は俯いてしまった。何かおかしなことを言ってしまったかと考えるが、今の会話でおかしいところがあるようには思えない。いったい彼女は何を考えているのだろう。

「……高町、どうかしたか?」
「どうかって……それだよ、それ!」

 シュテルと対面したときのようなテンションで話し始めた高町に自然と身を引いてしまった。テーブル越しに座っているのに何て迫力だろう。普段穏やかな子が怒ると怖いというのは、今みたいな感覚に襲われるからだろうか……なんて考えている場合ではない。

「えっと……どれ?」
「私の呼び名だよ」
「呼び名?」

 何か問題があるだろうか……さんとかちゃんを付けろとでも? いや、会ってからずっと『高町』と呼んできたのだ。いまさら変えろと言われるとは思えない。

「何か問題でも?」
「問題というか、何でお母さん達は名前なのに私だけ苗字なのかって話。私はショウくんと学校でも一緒だし、魔法関係でも付き合いあるよね。お母さんはまだしも、お兄ちゃん達よりは親しくしてると思うんだけど!」
「え……まあそれは」

 現状で言えば確かに高町の言うとおりではある。
 えーと、この会話から高町の言いたいことを予想すると……名前で呼べということだろうか。長いこと苗字で呼んでいただけに今更変えるのは恥ずかしいのだが。

「ショウくん、なのはちゃんがこれだけ言うとるんや。素直に名前で呼んであげたらどうや?」
「いや、その……」
「我が呼べと言ったときには素直に従ったではないか。それに名前で呼ぶくらいどういうこともあるまい。知らない仲でもないのだ」
「確かに知らない仲じゃないけど……だから困るというか。……恥ずかしいし」

 桃子さん達に知られでもしたら、何か面倒なことになる予感がする。桃子さんとか「ショウくんがうちのなのはと結婚して、翠屋を継いでくれると安心なんだけど」なんて冗談を口にするときがあるし。

「ってことは、ショウくんはなのはちゃんを1番意識しとるってことやな」

 異性という意味では意識しているが、その誤解を招くような言い方は何だ。そのようにはやてに言葉を投げかけようかと思ったが、俺とはやて以外から食器がぶつかりあうような音が響いたためタイミングを逃してしまった。
 ――高町は分かるが……なぜフェイトやディアーチェも。いや冷静に考えてみれば、ふたりとも純情なところがあるし、別に不思議なことじゃないな。

「は、はやてちゃん急に何言ってるの!?」
「そ、そうだよ。ショ、ショウはそういう意味で言ったんじゃないと思う!?」
「小鴉、貴様はなぜそう人のことをおちょくるのだ!」
「そこに……人がおるからや」

 ……凄くムカつくドヤ顔で言ったな。呆れ気味の高町やフェイトはいいとして……ディアーチェ、気持ちは分かるが押さえろ。さすがに全力全開の暴力はダメだ。回復に向かっているとはいえ、あいつは一応車椅子で生活している奴だから。まあ魔法の訓練と称してやる分には誰からもお咎めはないだろうが。

「えっと……そういえば、今日ショウくんひとりなの?」
「ん? まあファラは研究の手伝いであっちに行ってるからね」
「そうなんだ。えっとお父さん達は?」

 高町の問いかけに俺は思わず疑問の声を上げてしまった。それに彼女は小首を傾げたが、冷静に考えてみるときちんと言っていなかったことを思い出した。
 俺の家族事情を知っているはやてやディアーチェから視線を向けられたが、親しくなった相手に隠しておくことでもない。これまでに何度か危ういことは言ってしまっているし、進んで言うつもりもないが前より隠そうという気持ちもなかった俺は視線で大丈夫と返して口を開いた。

「あぁごめん、そういえば言ってなかったね。俺の父さんと母さんはもういないよ」
「え……」
「あそこに飾ってる写真……その中で1番幼い俺が写ってるのにふたり一緒に写ってるだろ? あれが父さん達だよ」

 自分でも不思議なくらい平然とした声が出た。父さん達のことを忘れてしまったわけではないし、思い出せば今でも悲しみや悔しさが込み上げてくる。でもそれが強く感情に現れなかったのは、この子達や桃子さん達……何よりレーネさんの存在が大きいだろう。

「そ、その……ごめんなさい」
「別に謝る必要はないよ。叔母さんが母親代わりになってくれてるし、ファラだっている。それに君の家族とかリンディさん達も気に掛けてくれてるからね。寂しくないかって言われたら寂しいと思うときはあるけど、ちゃんと前を見て歩いていけるよ」

 君やフェイト、はやてに色々ともらったから……、と続けようかと思ったがやめておいた。それを言ってしまうと、どうも恥ずかしい方に話が進んでしまう気がしたからだ。

「前から知ってたはやてやディアーチェはともかく、君はあまり驚いてないね」
「あぁうん……何となくそうかなって思ってたから。その、辛いときとかは遠慮せずに言ってね。力になれるかは分からないけど頑張るから」
「フェイトちゃんって意外と大胆やな。聞いてるこっちが恥ずかしくなってきた」
「え……ち、ちが! そういう事じゃなくて!」
「小鴉……どうして貴様は空気をぶち壊すような真似をするのだ!」
「そんなん決まっとるやないか。せっかくこうして集まってるんや。しんみりするよりも楽しく過ごしたいんや」

 そう言ってにこりと笑うはやてに、ディアーチェの怒りは完全に抜かれてしまった。いや彼女の怒気だけではなく、この場に漂いつつあった空気そのものが霧散したように思える。俺と似た痛みを知りながらも、笑顔を絶やすことなく生きてきたはやてだからこそ出来ることだろう。
 ……何ていうか、久しぶりにこいつの本当の笑顔を見た気がするな。最近はシュテルの影響からか一段とふざけることが多かったし。いつもこういう笑顔をしてくれると個人的には嬉しいんだけどな。

「はっ!? 何や熱い視線を感じる。……ショウくん、そないにわたしのこと見つめて……もしかして惚れた?」
「……はぁ」
「ちょっ、ため息はひどいで。今日はせっかくショウくんがくれたたぬきさん着てきたんに」
「たぬきは関係ないだろ……えーと」

 何でこうも視線が集まってるのだろう。俺とはやての関係は知られていると思うのだが……

「言いたいことがあるならはっきり言ってほしいんだけど」
「いや、その……別にはやてちゃんにプレゼントとかしてるのがどうとかじゃないんだけど」
「ショウが……そういう服を買ってるところを想像すると」
「なのはちゃんにフェイトちゃん、言いたいことは分かる。けどな、あのショウくんが恥ずかしさを我慢して買ってくれたんやで。もらったからには着るしかないやろ」
「小鴉、貴様そう言ってる割に本当は気に入っておるだろ?」
「あ、分かる? いやぁ~髪飾りといい洋服といい、ショウくんはわたしの好みをよう分かってくれてるんよ」

 喜んでくれているようなので、贈った側としては嬉しく思うが……何で同時に苛立ちも覚えるのだろう。

「えぇい、身をよじらせながら惚気るな。うっとうしい!」
「そんなに怒らんでも……あ、もしかして王さまもほしいん?」
「なっ――だ、誰がそのようなものを着るか!」
「本気で否定するところが怪しいな。見た目といい、実は服の好みも被ってるんやないの?」
「出会ったばかりの貴様の趣味など知るか! 大体、可愛いと思ったものが自分に似合うとは限らんだろうが!」
「ん? ということは着てみたいってことやないの~?」
「――――っ」

 にやけ顔のはやてによほど苛立っているようで、ディアーチェは立ち上がりながら声にならない声を上げた。これは当分の間終わりそうにないと思った俺は、いらなくなった食器を片付け始めることにした。高町達も巻き沿いに遭いたくないのか手伝ってくれる。

「貴様、そこになおれ!」
「あいにくやけど、まだ正座は無理や!」
「そ……それもそうだな。なら仕方ない……って、別にそういう意味では言っておらんわ!」
「おぉ、ええツッコミ。わたしと王さま、相性バッチリやな」
「貴様と相性が良くても嬉しくないわ!」

 
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