魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~
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空白期 第14話 「王さまとの出会い」
ショウくんの持っている衣服を知る、なんて少々おかしいとも思える理由から、私やフェイトちゃんははやてちゃんに案内される形で彼の家に遊びに来た。個人的に洋風造りの立派な家だと思う。アリサちゃんやすずかちゃんの家に比べるとあれだけど……あそことは比べちゃダメだよね。
インターホンを押してからしばらくしてようやく扉が開いた。現れたのは事前に私達が来ることを知っていたショウくん。ただ急に遊びに来たわけではないのに微妙な顔をしている。
「ショウくん、こんにちわ」
「こんにちわ」
「言ってたとおり遊びに来たで……何か微妙な顔しとるな。何か急用でもできたん?」
はやてちゃんは態度を全く変えずにあっさりと問いかけた。彼女が言わなかったら私が聞いていただろうけど、ここまで態度を変えずに言えただろうか。
魔法関連のこともあるから急な用事で遊べなくなってしまうことは仕方がないと思うけど……多少なりとも残念がりそうだなぁ。しかも顔に出ちゃいそう……ポーカーフェイスって今はまだしもいつか必要になりそうだから練習しておくべきかな。
「いや……用事は出来てないけど」
「そうなん? じゃあ……誰か来てるん? あっ、シュテルとか。もしくはレヴィって子?」
はやてちゃんの出した名前に私は、ショウくんが微妙な顔をしていてもおかしくないと納得してしまった。もしもあの子達が来ているのであれば、彼が疲れてしまっていても何ら不思議じゃない。
――シュテルちゃんは寡黙そうに見えて人のことからかってくるし、レヴィちゃんとはあまり話してないけど凄く元気なのは分かる。見た目がフェイトちゃんにそっくりだからか、何も知らずに一場面を目撃すると衝撃的だろうなぁ。
「そのふたりじゃない」
「となると……すずかちゃんあたり?」
「何でそこで月村が出てくるんだよ?」
「だってショウくん、すずかちゃんと仲良くしとるやないか」
確かにすずかちゃんはショウくんと仲良くしているほうだと思う。私が魔法と出会う前から時々話していたらしい。多分本が好きだったり、工学系に興味を持っているから気が合うんだろう。前にすずかちゃんがそんなことを言っていた気がするし。
「まあ話すほうではあると思うけど……月村は俺の家知らないと思うぞ」
「それはアカンよ。今度呼ぶべきや」
「何でだよ。別に来たいとか言ってないのに」
「あんなぁショウくん、すずかちゃんの性格考えれば分かるやろ。あの子は自分からそういうことは言わないほうや。わたしらはともかく、男の子相手には特に」
うん……思い返してみても、すずかちゃんが自分からどこかに行きたいとか言ったりするのはないかも。話の流れで提案することはあるけど。
すずかちゃんっていつも見守ってくれてるというか、聞き手になってくれてるよね。何事にもきちんと受け答えしてくれるし……たまにお茶目な部分が出てアリサちゃんにほっぺを引っ張られたりしてるけど。
多分だけど、すずかちゃんみたいな子を大和撫子って言うんだろう。言動も綺麗というかきちんとしてるから正直憧れている自分もいる。だけど彼女と私じゃ能力が違うのでなれそうにないとも思うけど。
「それは……けど俺から誘うの変に思われそうだけど?」
「お菓子とか色々と理由はあるやろ。何ならお姉さんが連れて来てあげようか? アリサちゃんもセットで」
「その言い方はあの子に悪くないか。それに来ても困りそうだけど」
自分が嫌だというよりアリサちゃんが……、と言うショウくんと彼女の相性はそんなに悪くないんじゃないかと個人的に思う。
アリサちゃんとショウくんってあまり話さないけど、別にお互いのこと嫌ってるってわけじゃないよね。話題とかがないから話さないってだけで。アリサちゃんも今のみたいな会話だと、ショウくんが困るとか言って遠慮するし。何かきっかけがあれば、ふたりの会話って弾むんじゃないかな……。
「ショウ、別にそこで話すのは構わんが我を出してもらってもよいか?」
「え、あぁ悪い」
あれ……今の声って、と思っている間に中から出てきたのは……はやてちゃんだった。私は驚愕のあまり言葉を失い、傍に居る車椅子に乗っているはやてちゃんと今出てきたはやてちゃんに何度も視線を向ける。
――え? え? え? ……はやてちゃんがふたり!?
いや落ち着け、落ち着いて高町なのは。今までにフェイトちゃんのそっくりさんとか、自分のそっくりさん(私としては似ていないと思う)に会ってきたでしょ。それにこの前、私のそっくりさんがはやてちゃんにもそっくりさんがいるとか言っていた気がするし。
「ん? ショウの客というのは貴様達のことだったのか」
腕を組んだ状態で尊大なしゃべり方をするはやてちゃん……じゃなくて、はやてちゃんのそっくりさん。何ていうか顔も声もそっくり過ぎ。まあレヴィちゃんとかもフェイトちゃんに似てるんだけど。
「えっと……ディアーチェさん?」
「うむ、そうだが……会うのは初めてのはずだが」
「うん……でもこの前シュテルからはやてにそっくりな子がいるって聞いてたから」
「なるほどな」
と言うわりに予想していたのかこれといってディアーチェさんの表情は変わらない。
「だがこうして話すのは初めてだ。きちんと名乗っておくとしよう。我はディアーチェ・K・クローディア。貴様達は高町なのはにフェイト・テスタロッサ、それに八神はやてだな?」
喋り方は独特だけど何というか違和感がないし、きちんと挨拶してくれるあたりシュテルちゃんに比べたら常識的というか普通だ。シュテルちゃんやレヴィちゃんに前もって会っていたこともあって慣れがあったのか、私の内心は落ち着き自然と口を開いていた。
「うん、よろしくねディアーチェさん」
「別にディアーチェで構わん。ショウと同い年ならば我とも同じはずだ」
「えっと……じゃあディアーチェちゃん」
「ちゃん……少しこそばゆいがまあいい」
ちゃん付けで呼ばれることが少ないのか、ディアーチェちゃんは少し恥ずかしそうだ。どことなくアリサちゃんに似ている気がして親近感が湧く。
「その、よろしくねディアーチェ」
やや遠慮気味にだけどフェイトちゃんはディアーチェちゃんに手を差し出した。だが彼女はフェイトちゃんの手を握ろうとしない。表情は決して嫌そうにしているようには見えないけど……。
「えっと……」
「ん、あぁすまん。内気そうな割りに呼び捨てで呼ぶのだなと思ってな」
「え……ダメなら」
「別にダメとは言っておらん。気にせず呼ぶといい」
……何だろう、ディアーチェちゃんって凄く良い子に見える。シュテルちゃんとか、シュテルちゃんとか、シュテルちゃんと比べると。
レヴィちゃんだって元気なだけで悪い子じゃないし、ディアーチェちゃんはすっごく良い子。何で私のそっくりさんだけああなんだろう……フェイトちゃん達は似てるって言うかもしれないけど、やっぱり私とシュテルちゃんは似てないよ。
――だって私はからかう側じゃなくてからかわれる側だもん!
って、私は何を言ってるんだろう。こんなことをもし口に出していたなら、間違いなく変な子扱いされると思う。もしくは引かれる……。
「最後は貴様か……まあ周囲からあれこれ言われそうではあるが」
「別にわたしは気にせんよ。よろしくな王さま」
「うむ……おい貴様」
ディアーチェちゃんの声がやや低くなり、表情が不機嫌そうなものに変わる。しかし、はやてちゃんはにこにことした顔のままだ。
「何や王さま?」
「誰がその名で呼ぶことを許可した?」
「誰って、シュテルから王さまは王さまって呼ばれるって聞いたで。だからわたしもええかなって」
「あやつ……確かに我のことをそう呼ぶ者はいる。しかし、貴様と我は初対面であろう。常識的に考えて、本人が許可しておらんのに愛称で呼ぶのはおかしいのではないか?」
「まあまあ、わたしと王さまの仲やん」
「どういう仲だ! 我と貴様は今日会ったばかりであろうが!」
ディアーチェちゃんの鋭い怒声――もといツッコミが響く。予想していなかった方向への展開に私やフェイトちゃんは戸惑ってしまうが、はやてちゃんは楽しそうに笑っている。ショウくんに至っては、「やっぱりこうなるか……」のような顔をしていた。
「親しさっていうんは時間で決まるもんやないで」
「それは認める部分もあるが、少なくとも我らには適応せん。出会ってまだ数分も経っておらぬのだぞ!」
「きっと運命の出会いってやつや。ちなみに王さまは何月生まれなん?」
「こんな出会いが運命なわけあるか! というか、なぜ今の流れで誕生日を知りたがる!?」
「え、だって一緒に居ったら双子って思われそうやし、どっちがお姉さんか決めとくべきかなって」
「決めんでいい!」
ここまでふざけるはやてちゃんは初めて見る気がする。それに律儀にツッコむディアーチェちゃんに同情のような気持ちを抱くが、同じ顔の人間が漫才をしているようにしか見えないので笑いが込み上げてくる。声を漏らすと怒りの矛先がこちらに向きそうなので必死に我慢するけど。
「えぇ~、わたしとしてはお姉さんがほしいんやけど」
「駄々をこねるな、甘えるような声を出すな。気色悪い!」
「ガーン!? ……ショウくんにかて気色悪いとか言われたことないのに」
「え、いや、すまぬ。さすがに言い過ぎた。別に嫌いになったというわけでは……!」
「……じゃあ姉やんになってくれる?」
「なぜそうなるのだ!?」
う……やばい。これ以上続けられたらさすがに声が漏れちゃう。というか、意識を向けられただけで笑いを堪えてるのがバレちゃうよ……フェイトちゃんは。
視線をはやてちゃん達から移してみると、微妙に顔がにやけている姿が見えた。ただ笑ってる場合じゃないと思ったようで、頭を振って脳内をリセットさせると止めようとする素振りを見せる。
しかし、フェイトちゃんが制止をかけようとするとボケとツッコミが響く。彼女はそれに臆してしまい、結果的に言えばどうしたらいいか分からずオロオロし始めてしまった。
このままでは……、と思った矢先、はやてちゃんの元に誰かがため息を吐きながら近づいていく。その人物は彼女の前で立ち止まると、軽くチョップを落とした。
「あぅ……痛いやないか」
「大して痛くないだろ。それにふざけすぎるお前が悪い」
「ふざけてなんかない。仲良くなろうとしとるだけや」
「あれのどこが仲良くしようとしておるのだ……ショウ、こやつは何なのだ?」
「……ディアーチェに分かりやすいように言えば、感情豊かなシュテルだ」
「……貴様も大変な者と知り合ったものだな」
ショウくんとディアーチェちゃんは、互いに同情し慰めるような顔を浮かべる。ふたりから発せられる雰囲気は、何というか互いを理解しているかのような独特なものがある。ショウくんとはやてちゃんが出すような親しげなようなものとは少し違うように思えるけど。
「何かええ雰囲気やな。もしかして……ふたりは付き合ってるん?」
何で落ち着きかけたのにそういうこと言っちゃうの!?
確かにふたりは親しそうに見えるけど、そこまでの関係には見えない。しかし、ディアーチェちゃんは言動に反して純情なのか顔を赤くしてしまう。
「なな何を言っているのだ貴様は!」
「だから、ふたりは付き合ってるんって」
「聞き返しているわけではない! ショウ、貴様こやつと親しいのだろ。どうにかせんか!」
「あのなディアーチェ、それはシュテルをどうにかしろって言ってるようなものだぞ」
ショウくんの返しにディアーチェちゃんは言葉を詰まらせ、しばらく黙ったあと抑えきれない感情を発散するためか頭を掻きむしり始めた。
「えぇい……どうしてこやつといい、シュテルといい、人をからかう輩が多いのだ」
「王さま、そんなんしたら髪の毛痛んでまうで。女の子なんやから大切にせな」
「元はといえば貴様のせいであろうが!」
「ディアーチェ落ち着け」
「な……貴様はこやつの味方をするというのか!」
「そうじゃない。ただここで騒ぐのは近所迷惑だ」
その言葉でディアーチェちゃんは荒げていた息を整え始めた。かなり熱くなっているように思えたけれど、冷静さは残っていたらしい。シュテルちゃんと知り合いのようなので、このようなことには私より慣れているのかもしれない。
「そうだな…………我はここで失礼する」
「え~、もう少し話そうや」
「だからなぜそうなるのだ。貴様はショウに用があってきたのだろう!」
「それはそうやけど、知り合ったからには仲良くしたいし……まあ無理にとは言わんよ。ショウくんとかから根掘り葉掘り聞いとくから」
「――っ、……えぇい、分かった。もう少しだけ付き合ってやる!」
「ええの?」
「良いも何も貴様が居るから心配で帰れん。それに……ショウにはシュテルやレヴィが迷惑をかけているからな。我が貴様の相手をして負担を減らしてやるのが筋というものだろう」
そっか、ショウくんとディアーチェちゃんが親しいのは同じような立場だからなんだ。それにしても、はやてちゃんって思ってた以上にふざける子だったんだ。私達としかいないときはからかわれる側なのに……こっちが本当のはやてちゃんなのかな?
新たな一面を見れたようで嬉しいけど……今後からかわれるのではないかと思うと不安になる。そして、このような目に遭っているショウくんやディアーチェちゃんには同情する。だけど助けるかと言われたら微妙なところだ。ショウくん、前に私がシュテルちゃんにからかわれたとき助けてくれなかったし。
「そっか、王さまはショウくんが好きなんやな」
「なっ……この小鴉!」
「鴉? 今着てるのはたぬきさんやで?」
「あぁ言えばこう言いよってからに……!」
「えっと、ショウくん……」
「止めたほうがいいんじゃないかな?」
「そう思うなら手伝ってくれ。ある意味シュテルのときより性質が悪い」
後書き
読んでいただいてありがとうございます。
家の中でゆったり話す予定だったのですが、書いているうちにこのようになってしまいました。はやてとディアーチェ、相性抜群ですね。
さて……次回はこの続きを書くか、はたまた話を進めるか。なのは達と王さまの出会いという目的は果たしただけに迷いますね。
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