八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第十一話 生粋のトラキチその九
「だからね」
「ここは、ですのね」
「うん、しっかりと観よう」
僕はグラウンドを観ながら寿さんに言った。
「ここは」
「それでは」
「あと。寿さんのことだけれど」
「何でしょうか」
「寿さんって呼んでいいのかな」
「そうですわね、奈良にいた時は円香と呼ばれていましたわ」
つまり下の名前で呼ばれていたというのだ。
「円香さんや円ちゃんと」
「円ちゃんなんだ」
「まあ。呼び名はどうでもいいですわ」
円香さんでも円ちゃんでも、というのだ。
「最も多い呼ばれ方は円香さんでしたけれど」
「そうなんだ、じゃあ円香さんでいいかな」
「どうぞでしてよ」
円香さんは扇で口元を隠して目元を微笑まさせて僕に答えた。
「わたくしはどうした呼び名でも構いませんわ」
「じゃあそういうことでね」
「どうぞ。さて我が愛する阪神は」
円香さんもグラウンドに目をやって言った。
「この試合も勝ちますかしら」
「阪神に絶対はないです」
早百合先輩はかなり心配している顔で円香さんに答えた。
「勝ったと思いましても」
「これが負けますわね」
「中継ぎ抑えはいい筈なのに」
伝統的にだ、阪神投手陣は粒揃いだ。先発だけじゃなくて中継ぎ抑えも揃っていてそちらは計算出来る。
「ここぞという時に」
「キャッチャーが二度もパスボールしたり」
これもそうそうないことだと思う。
「その後サヨナラを打たれたりとか」
「そういうことがありますから」
「確かにそうですわね」
「ゲームセットとなるその時まで」
まさにその時まで、というのだ。
「阪神は油断出来ない」
「そうしたチームですわね、確かに」
「ですから」
それで、というのだ。
「最後まで安心せずに」
「観ていくことですのね」
「はい、そう思います」
まさにというのだ。
「では今より」
「わかりましたわ、それでは」
円香さんは確かな顔で頷いてだ、そうしてだった。
その試合を観ていく、阪神の攻撃だったけれど。
いきなりツーアウトになってしまった、観ていたら本当にあっという間だった。三分もかかっていないんじゃないかとさえおもった。
けれどツーアウトになったその時にだった。
まずはヒット、また一本出て。
そこからツーベース、これでランナーが全員帰って。
ホームラン、何とツーアウトからの四連打で一気に四点だ。
まさかの四点だ、それだけあればだった。
「いけるかな」
「そうですわね」
円香さんも僕のその言葉に頷いてくれた。
「これで」
「そうだな、しかし」
ここで留美さんが警戒する顔で言った。
「まだだ」
「そうだね、阪神だからね」
「そうですわね」
「このチームに絶対はない」
ここでもこのことを言うのだった。
「四点、終盤であろうともだ」
「阪神の場合はだったね」
「負けることもありますわね」
「確かに阪神の中継ぎ抑えはよくても」
「防御率はよくとも」
「阪神投手陣は普通の試合は抑えてくれる」
それも何の問題もなくだ。楽にそうしてくれる。
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