パズル&ドラゴンズ ~Sundara Alabēlā Lā'iṭa Pānī lilī ~
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2話.減らず口と幼龍
前書き
1話を読んでくださった方、大変申し訳ないです。
始まる始まる詐欺です。
まだバトルしません。今回は”あいつら”とのお話です。
覚醒は、唐突に訪れた。
「っぶはあっ!?」
ちょうど長い潜水から上がってきた時のように口から盛大に息を吐き出しながら、勢いよく上体を跳ね上げ、男は唐突に目を覚ました。
「っ、ぜーっ……はーっ……はーっ……ふぅー……」
長い潜水から、というのはあながち比喩でもなく、男の動悸は暴れに暴れ、全身からは嫌な汗が流れ、さながら水でも被ったかのような有様だった。
中々正常に戻らない呼吸を整えつつ、男は座り込んだまま、周囲を見渡した。
そこにあったのは、”平和”そのものだった。
見渡す限りに広がるは、鬱蒼とした木々が形作る林、上を見上げれば抜けるような青さの透き通った空。おだやかな風が吹き抜け、胸深く吸い込めば爽やかで、とても空気が美味しく感じられた。
自分がいるのは、そんな林の中にぽっかりと空いた天然の広場のようだ。
そして、眼前には見上げなければ頂上が窺えない、大きな塔がそびえ立っていた。
どうやら、その塔のエントランス真ん前に、男は打ち捨てられていたようだった。
いくらか呼吸が落ち着いた男は、目頭を揉みながら、脳裏にこびりついた記憶を思い返す。
フラッシュバックするのは、恐ろしい怪物たち。暗き迷宮。
そして―――思い出すことは叶わないがとても、そう、『暖かかった』、何か。
どれもこれもが現実離れした光景だったが、男はそれらをすんなりと――傍目から見れば、異常なほど抵抗なく――受け入れられていた。
「やーれやれ……とんだ世界に放り込んでくれやがったな、あのヒゲ野郎め」
男は誰とは無しにぼやき、立ち上がりざま尻をパンパン、と払った。
そのまま、周囲を見渡した際に目に止まった、小さな泉の方へと足を向けた。
バシャバシャバシャと、不快な汗を洗い流すために男は泉の水で顔を洗った。
いくぶんさっぱりとした気分になれた男は、なんの気なしに、泉の中から自分を見返してくる姿を見やった。
体格は特に評するところもない中肉中背。身の丈は170センチ後半程度、太っているわけでもなければ筋肉がついているわけでもない、極めて平凡な体つき。
ルックスの方も、決して美男子なタイプの顔面ではない。
鬱陶しく感じられない程度の長さに刈り上げられた黒髪の下で、良く言えば鋭く、悪く言えば目つきの悪い眼差しが水底からこちらを睨み返し、更にその下では、なにか面白くないことがあるかのような様で、唇がへの字気味に引き結ばれている。
有り体に言ってしまえば、偏屈と、その一言で表すのがしっくりくる、そんな顔立ちだった。
「うむ、相も変わらずいつもどおりの、面白みもなんともない俺の顔だな。せっかく異世界に飛ばされたんだから、少しくらいアニメナイズ、もしくはハリウッドナイズされてもバチは当たらんと思うんだがね。重ね重ね、不親切なヒゲだよ、ったく」
不満たらたらな様子でまたもぼやき、男は水面から目を外した。
もう一度、深く深呼吸をし、頬をパシンと張った。
そして、眼前にそびえ立つ塔を下から睨め上げた。
「いざ、『はじまりの塔』へ、ってか……まぁ、やってやろうじゃねぇのよ」
そう呟き、男は塔に向かって一歩を踏み出した。
塔に入ってすぐ、男に向かって3つの影が、とてとてと駆け寄ってきた。
影の正体は、小さな獣――そう、例えて言うなら、龍の幼子だった。
小さな龍たちは、男の眼前で脚を止めると、ポーズを取って整列した。
一番左は、赤き幼龍、小さなティラノサウルスだった。
元気よく吠えると、口からはチロチロとこれまた小さな炎がこぼれた。
真ん中は、青き幼龍、小さな首長竜だった。
小さな噴水を吹き上げると、愛らしい音色で、一声鳴いた。
右端は、緑の幼龍、小さなトカゲだった。
ぴょこん、と跳びはねると、勇ましい様子で可愛い雄叫びをあげた。
要約して言えば、めっちゃ可愛いちびドラゴンが、男の前にそろい踏みしていた。
「お、おおう……これが、御三家の破壊力か。不覚にも、クラっと来たぞ……」
男はめまいを覚えたかのように軽くふらつきながらも、その顔にはっきりと、隠しきれない喜びの色を見せた。正直、強面気味の男が軽く身をくねらせつつ、半笑いを浮かべているその様は、だいぶ気色が悪い。
気色の悪さはそのままに、ちびドラゴンたちに手を差し伸べた男は、しかし何を思ったのか、唐突に、はたとその手を宙で停止させた。
「……待てよ。やっぱこいつらって、一匹しか連(・)れ(・)て(・)行(・)け(・)な(・)い(・)、のか?」
男の頭に飛来した一つの疑問に、答える者はいない。
居なかった、のだが、不自然な格好で静止している男の目の前では、ちびドラゴンたちが何かを待ちわびているかのように、ドキドキワクワク、といったオノマトペを添えたくなるような表情で男を見上げていた。
その瞳には、実に無垢で無邪気な、宝石のような煌きが浮かんでいた。
先ほどとは違った意味でめまいを覚えつつ、男は大層困った様子で天を振り仰いだ。
「おいおいおいおい、残酷すぎるだろうよ、これは…… 俺に選べってのか? この中から? 一匹だけを? そりゃいくらなんでも、無体が過ぎるぜ……」
ここが、男の想像通りの世界なのだとしたら、このちびドラゴンたちの中から『1匹』のみを連れて、この塔を上へと登っていく。そういう手順を踏まなくてはならないはずなのである。
そう、このちびドラゴンたちの中から1匹だけを選び、他の2匹とは無論、ここでさようならをしなければならない……
もちろん、自分が知るそのルールにあえて背き、三匹まとめて『お持ち帰りー♪』することも、可能なのかもしれない。しれないのだが、そこで男の脳裏には、暗く冷たき迷宮に巣食う、あの怪物たちの恐ろしい姿がよぎる。何故か、本当に何故なのかは分からないが、あの場所から生還した体験は、この世界において危ない橋は可能な限り避けて通らねばならない、という意識を男に植え付けるには十分すぎるものだった。
あるいはそれは、男が元来持っている、『極端に死を忌避する』という性質が為せる業、なのかもしれないが。
ともあれ、こんなちびドラゴンたちに限って何かが起こることは考えにくいが、それでも触らぬ神に祟りなし、どこに地雷が埋まっているのか不明な以上、慎重に行動すべきだ、というところを男は思考の落としどころとした。
したの、だが……
「…………♪」
「……………」
「…………?」
「……………」
「…………??」
「ええい、そんな目で俺を見るな!! お前らまさか罪悪感で俺を殺す気か!? ちくしょう、かわいいなぁこいつら!!」
しかし、男にとってこの選択は、相当精神的に堪えるものがあるらしく、あくまで無邪気なちびドラゴンたちの前に、男のハートは既に尋常ならざるダメージを受けていた。
まさかこんな場所でいきなり試練に立ち向かうことになるとは。露とも思っていなかった男にとって、なんと恐ろしい世界だ、と再び自らの状況に対する認識を改めざるを得ない機会だったようだ。
この男、事を構えるに当たっては比較的肝の据わった方なのであるが、どうもこういう手合いは苦手のようである。
そして、ヤケ気味に地団駄を踏み鳴らし散々大騒ぎした挙句、男はついに決断を下した。
「よし、決めた! 決めたぞ! 決めちゃったもんね! 一世一代の清水ダイブだ! 悪く思うなよお前ら! 俺の、最初のパートナーは……!!」
後書き
正直、いっそのことダーーーーっと長々く書いて投稿するのと、細切れにしてこういう風に投稿するのと、どっちがいいのかよくわかっていません。
ただ、これだけ駄文が冗長してるのに、その上長いとなると、果たして読了してくれる人は居るんだろうか、と心配になります。
ので、とりあえずはこんな感じで行きたいと思います。
さて、次回はお待ちかね。運命のレアガチャです。
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