八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第九話 はじめて見たツンデレその五
「その人の名前は」
「あっ、そういえば」
ここでダオさんははっとした顔になって僕を指差して言った。
「その人大家さんと同じ苗字だったわ」
「八条さんだね」
「そう、そして名前はね」
九割九分間違いないと思いながらその名前が言われるのを待った、何か死刑判決を死刑囚の気分はこうなんだと思いながら。
「止さんっていったわ」
「よく覚えてたね」
美沙さんがここで横からダオさんに言った。
「そこまで」
「ダオ記憶力がいいからね」
「それで覚えてるんだね」
「そうよ、一回聞いたことは中々忘れないから」
「成程ね」
「その人うちの親父だよ」
僕は美沙さんの話が終わってからダオさんに言った。
「日本人でお医者さんで女好きだよね」
「そうよ、女の子を左右に侍らして大喜びだったわ」
「しかもその名前だと」
間違いなかった、一人しかいない。そんな人は。
「うちの親父しかいないから」
「そういえば苗字同じね」
「うちの親父世界中を飛び回ってるから」
そうして仕事をして愛人を作っている、そういう親父だ。
「ベトナムにも何度か行っててね」
「じゃあダオ大家さんのお父さんに言われたのね」
「そうだと思うよ、しかしね」
また言う僕だった。
「親父らしい言葉だよ」
「大家さんのお父さんって女好きなのね」
「それもかなりね」
極め付けの女好きだ、そのことについては誰の追随も許さない。
「実際女の子は誰でも花でね」
「背が小さくても胸がなくてもいいっていうのね」
「その逆も好きだけれどね」
つまり節操がない、うちの親父には。そうしたものは多分産まれた時から備わってなかったに違いないと思う。
「それでも小柄でも貧乳でも」
「好きなのね、大家さんのお父さんは」
そうした人とも遊んできている、実際に。
「だからダオにもそう言ったの」
「そうだと思うよ。絶対に」
「成程ね」
「親父だったんだ、ダオさんに言ったの」
僕はここで自分が苦い顔になっていることがわかった、けれどそれでもこうダオさんに言った。
「全く、親父らしいよ」
「ダオナンパされそうになったのね」
「いや、また違うから」
言い寄ってきたのとはまた違うこともだ、僕は説明した。
「それは」
「ただ言われただけなのね」
「その時ダオさんは子供だったっていうけれど」
「十歳の時よ」
「うちの親父子供には手を出さないから」
あと旦那さんや彼氏のいる人にだ、そうした人は本能的にわかることも親父の特殊能力だと僕は思っている。
「だからね」
「ナンパはされてないのね」
「ただ言っただけなのね」
「うん、そうだと思うよ」
「そうなのね、けれどね」
ここでだ、ダオさんは僕の顔を見てこうも言って来た。
「大家さんってお父さんに似てるね」
「親父に?」
「うん、何となくだけれどね」
「いや、似てないよ」
全力でだった、僕はダオさんの今の言葉を否定した。否定せずにはいられなかった。
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