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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  伝達経路

 気がつけば、カトナはどこかに向けて全速力で走っていた。どこに向かっているかは知らなかった。サスケもサクラもおらず、カトナは一人で走り抜けていた。…走りぬけるしかなかった。
 ぎりぎりと首に巻き付く蛇が、しゅーしゅーと赤い舌を伸ばして、彼女を笑おうとしたが、直前で、己の首ごと締め上げようとした彼女に怯えたように服の下に潜る。
 カトナは、しかし、それに見向きもせず、一目散に駆け抜ける。どくどくと、心臓が煩くてたまらない。肺はいたいし、体は焼ききれそうなほどに熱い。

 「やば、い、かも」

 そういいながら、真っ赤になったほほに手を当てつつ、カトナは咄嗟に近くの木のうろに飛び込む。
 どくどくと、心臓がたかなり、痛みが胸を締め付ける。と、次の瞬間、声が聞こえた。

 「どこに隠れやがったんだよぉ、クソヤロー!!!!」

 はっ、とカトナは息をつめ、己の耳を衣服で覆いつつ、目を凝らした。少女は口汚く、何度もそう怒鳴りつけながら、己が赤の髪を振り乱して、ざくざくと歩いていく。
 その顔に浮かぶつまらなそうな、それでいてにやにやとした嘲笑うような笑みが、彼女という人間の本質をよく表しているように見えた。

 「大蛇丸様に早く、ご報告しなきゃなんねーんだよなー、おい。無駄な抵抗は止めて、さっさとらくになれよ、ゲスヤロー」

 その言葉に何も返事をせず、カトナはいざというときようにクナイを構えた。最も、そんな風に何かを出来るほど、相手はカトナに隙なんて見せてくれなかった。
 カトナにとって、彼女は天敵とも呼べるかもしれたいくらいには、相性は、最悪であった。
 というのも、それは彼女が行う攻撃に理由があった。
 しばらく、辺りを見回していた少女はやがて大きく息をつくと、持っていた笛を口にくわえた。
 そう、笛をである。
 目でそれを捉えたカトナが、クナイにチャクラを纏わせて、うろの穴の空気を切り裂く。
 と同時に、音が響く。
 聞くものを狂わせる魔性の色を含んだ音は、空間という空間を駆け抜け、カトナの耳をかきまわす。
 頭の中にいくつかの違和感と、視界に生じだした、まるで絵の具が溶け出したかのように歪み出した風景を無視し、カトナはクナイを己の腕に突き刺した。
 少々の激痛。
 流し込まれたチャクラが、体内の安定性をはかり、維持をし、ゆるゆると体の中の痛みをころして、幻覚をただしていく。
 その間にも、音による攻撃は続いている。奏でられる美しい旋律は、見るものの心を虜にするだろう。最も、その心臓さえも抜き取ってしまうだろうが。
 カトナは自分のクナイに常にチャクラを注ぎつつも、頭を悩ました。近づけない理由、それは彼女の攻撃方法にある。

 「音…、音か」

 そういって、カトナは息を潜めつつ、回りを見渡した。音使い、といっていたが、どうやら送信型らしく受信はしてこないらしい。
 例えカトナといえど、人間であることはかわりないのだ。心臓の音はどうやっても止めれない。
 そういう意味では、相手側が音を聞き分けることができても、音を聞き取れなくて助かった、と束の間の安心に浸りつつ、思考を広げる。
 現在、彼女は笛を吹くという行為から繰り出される、音による干渉攻撃で、カトナを攻撃してきている。
 音の攻撃は、一定の波で生み出される音の高さと大きさで三半規管を狂わせて、幻覚を見せて行動不能にする…のが、要といったところか。
 この攻撃の肝は、三半規管を狂わせることで相手の行動を阻止。音により脳内のチャクラを制御し、幻覚を見せる。そして、音による精神干渉。以上の三つであろう。
 その三つを組み合わせて産み出された攻撃…として考えると、防ぐ手だてが無いわけではない。
 音と言うのは、つまりは振動なのだから、空気に波状攻撃…つまり、風遁を使えば、この攻撃を切り崩すことは別に不可能ではない。というか、可能だ。
 たとえば、風遁で自分の周りに不可視の壁を築くとか、風遁で辺り一帯の空気を恒久的に震わせ、音の効果を切り崩すという事も、出来ると言えばできるのだ。
 が、カトナのチャクラの量と性質からして、その練度の忍術は使えないと見ていいだろう。
 無視してちかづくという手段をとれと言われれば、取れないこともない。
 が、呪印を発動してからの彼女の脚力を見るに、自分の数倍はあると見ていいだろう。決定打に欠けているカトナと、決定打に優れた少女が戦ったとき、攻撃されたら、死ぬのは自分だ。
 ならば、どんな忍術ならば、あの攻撃を防ぐことができるのか。
 音を使っての直接攻撃ならば、まだ手はある。自分が動くときに生じる空気の流れとチャクラの動きで、ある程度、音をずらすことが出来る。
 しかし、精神干渉は、ずらしたとしても耳に届けば、その時点でアウトだ。しかも、精神干渉は範囲が手広いくせに、空間内の地形にあわせて音を使い分ける、精密作業である。
 その空間に馴染むように、ある程度の乱れは織り込みずみでの攻撃だろう。無闇に切り崩せば、音の拘束にとらわれて、自滅するのは自分だ。
 …音。振動。鼓膜を振るわす。脳内のチャクラに影響。視界にいくまでの伝達経路に不備。範囲攻撃。
 …はた、とカトナは唐突にその可能性に至った。
 ああ、そういえば実に簡単で、それでいてこの場では効果的な方法が存在したではないか。
 と、彼女は思考を展開しつつ、自分の手のひらを見つめ、薄く細い形状のナイフでも作っていくイメージで、チャクラを伸ばしていく。
 よくよく考えれば、直ぐに分かることではないか。

 「術者、影響受けない。音による干渉が不可? 違う、それならば、あの体、活性化した理由が納得できない。…チャクラ伝達経路、潜る中、相手、音の構造把握し、チャクラにて、効果を転換している…? ということは、音の本来の効果を、改造したか」

 たんたんと言うが、それは生半可なことではない。
 ようは自分の頭の中をチャクラでいじくりまわし、苦しみを楽しみに変えているのだ。人体実験…だけではすまされていないだろう。
 脳を切り刻む程度のことはしているだろう。

 …あの男が、関わっているようだ。

 蛇のような、残忍で。それでいて狡猾な顔。
 思いだし、考えて。
 歯ぎしりをする。
 サスケは渡さない。何があっても、手出しはさせない。
 感情が体中を支配するが、耐えるように目を伏せる。
 きっとこれは、術の効果だ。
 カトナは、そういい聞かせて、自分の心の中にありったけに溢れている激情を押し潰し、かの金色を思い出す。
 かの金色だけが、カトナの光だ。灰色の、色褪せた色ばかり存在する、くだらないセピア色の世界で、かの金色だけが光を放つ。かの金色だけがカトナに道を与え、カトナのいきる理由を与え、カトナの全てを成す。
 私が感情を向けるのは、そう、あの子だけだ。
 だって私は選択した。あの子を守るために、私どころか世界全てを犠牲にしかねない、危険を孕んだ選択を。
 すべてを裏切ってまで、すべてをころしてまで、そういう生き方を定めたのだ。
 だからこそ、私は全うしなければならない。そこまでして定めた生き方に逃げてはならない。裏切ったことから逃げてはならない。私が彼らを見捨ててまで、かの金色を選んだのだから。だからこそ、私は守り抜かねばならない。
 この激情は、ただの呪印による幻惑だ。私の感情はあますことなく、かの金色に捧いだのだ。私のなかに、他者に向ける感情と言うものが存在しているはずがない。
 あるとすれば、それは何らかの術によって私が精神に干渉を受けているに過ぎない。
 私がかの金色に捧ぐ思いは、他の誰にも与えてはいけない。
 一刻もはやく、このような毒素は排除せねばならない。かの金色を傷つける可能性があるならば、即刻排除せねばなるまい。
 金色が望むことが第一の優先順位だ。
 金色は優しい。私の悩みを悲しむだろう。それは金色を傷つけるのと同意義だ。故に、私は一刻でもはやく、この激情を殺さなければならない。
 それはつまり、この呪印が活性化する理由である女を消さねばならない。
 ならば、と。彼女はメスを手に取った。
 ここから、伝達経路のチャクラを操るには、モルモットになる人間が足りていない。自分でするにはリスクが高い。故に、一番の安全策をとる。

 「こちらは、伝達経路を遮断する」

 青色が、鋭く、のびた。 
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