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FOOLのアルカニスト

作者:刹那
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悪党と鬼女

 卜部広一朗は悪党である。
 彼は歴史ある有力な悪魔召喚師一族に生まれた生粋のデビルサマナーであり、その叩き込まれた業を見込まれ、ファントムソサエティにスカウトされてから、彼はダークサマナーとして様々な悪事に従事してきた。殺人・誘拐・破壊工作に至るまで、なんでもござれである。

 今回の調査任務も、そんなつまらない悪事の一環でしかない。任務の内容は簡単だ。最近、不穏な動きを見せている桐条グループの当主『桐条鴻悦』の監視をかねた素行調査だ。とはいえ、素行調査などという生易しいものではない。組織が気にしているのは、そこに悪魔が関わっているのかどうかだ。不老不死など、権力者がよくもつ夢想であるが、悪魔が関わってくれば話は別だ。それはけして不可能なことではないからだ。もっとも、その代償は凄まじいものになるだろうが…。

 「あるだけの生を謳歌すりゃいいのに。何でそれ以上を望むかね?下手すりゃ、人から外れるだけじゃすまんぞ」

 卜部は呆れながら一人ごちた。調査の殆どは終わっている。桐条の施設に非合法の人体実験という外道の所業を行ってこそいたが、悪魔の気配はない。彼自慢の仲魔にも確認したから、それは間違いない。研究員の一人を拉致して、魅了して尋問もしたが、悪魔の存在を知らなかった。唯一、気にかかるのは、『シャドウ』という謎の存在だが、聞く限り大した脅威とも思えない。この仕事もそろそろ終わりかと思っていた時、それは起きた。

 非合法の研究施設の隠れ蓑とされている孤児院を中心に、凄まじい力の波動が放たれたのだ。

 「くうっ、これは…リャナンシー!」

 昏倒しそうになる意識をどうにか繋ぎ止めて、GUMPから仲魔を緊急召喚する。万が一を考えて起動状態にあったのが幸いし、それはどうにか間に合った。

 「ウラベ様!パトラ、メ・ディア」

 召喚された見目麗しい鬼女は、倒れるように意識を失う主を見るとすぐさま回復させた。

 「ふう、助かったぜリャナンシー。危ないとこだったぜ」

 「いえ、当然のことをしたまでです。それにしても、どうしたことでしょう?」

 「楽な仕事だと思ったんだがなあ……どうやら、蛇だか鬼が出たらしい」

 冗談めかして答えながらも、表情は真剣そのものだ。懐から愛用の銃を取り出し、安全装置を外し、初弾を装填する。半径にして100メートル程に過ぎないが、熟練のデビルサマナーたる卜部にまで、被害をもたらしたのだ。断じて看過することはできない。

 「行くぞリャナンシー!仕事だ」

 「承知しました」

 熟練のデビルサマナーとその仲魔たる鬼女が原因を突き止めんと施設へと向かった。





 「失敗したか?連中が扉を開けるまで待っていれば良かったか…いや、これが最善か」

 己以外誰もいない部屋で透真は一人ごちた。この実験室は研究員の安全の為に、シャドウを逃がさない頑丈な作りになっている。切り札である『双界の波動』を使ったのは時期尚早かとも思ったが、この実験室にはガスを噴出する機構もあったことを考えれば、この行動は最善といえよう。いかに『ペルソナ』に目覚めたとはいえ、眠らされてしまってはひとたまりもないからだ。

 「よりにもよって精神無効だけないとか、まじないわ…」

 『PERSONA2』におけるレアアルカナ『FOOL(愚者)』には1つの特徴がある。そのアルカナに属するペルソナには投具・戦技・破魔・呪殺・神経・精神・魔力無効という破格の戦闘相性を低レベル高レベルを問わず、共通で持っているのだ。そんなレアアルカナのペルソナを手に入れたのは嬉しい誤算だったが、よりにもよって、精神無効だけ喪失するとはついてない。

 「まあ、贅沢をいったら罰が当たるか……。しかし、自らペルソナ化を選べる透夜がどうして精神薄弱なんだか?逆だろうに」

 真実を知らない透真はそんな疑問を抱きながら、脱出する方法を考える。
 〇彼がこの部屋に入れられたときの出入口
 ⇒厳重に施錠されている上に合金製。魔法で破壊するにしても、こっちが先にへばる可能性大 
 〇部屋の周囲の壁
 ⇒同上
 〇シャドウがでてきた場所
 ⇒他にもシャドウがいる可能性大、逆に奥に入ってしまう可能性大

 正直、どれもいい方法とは思えなかった。

 「せめてペルソナが物理型だったらな。無理やりこじあけるという方法もあったんだろうが…」

 確かに透真のペルソナ『トウヤ』は物理型ではない。だが、運0というデメリットと引き換えに低レベルとは思えない魔力・知恵が高い魔法特化型である。肝心の攻撃魔法はアギ。実に低レベルらしい。これがアギラオクラスなら、扉ごと吹き飛ばすこともできたのだろうが…。

 「アギじゃ無理だってなんとなく分かるんだよな。かといって、俺の力じゃ九十九針の威力も微妙っぽいし……。うん?熱と物理……!」


 何かを思いついたらしい透真は、施錠された扉に向き直る。

 「駄目で元々だ!やるだけやってやる!ペルソナ!アギ!アギ!アギ!でもって、九十九針!九十九針!」

 黒衣の賢者が顕現し、火球を連続で扉に叩き込む。そうして赤熱した扉に、とどめとばかりに高速で巨大な針が何発も打ち込まれる。さしもの合金製の扉もこれにはたまらず、ひしゃげて吹き飛ぶ。

 「ふう、一か八かだったけどうまくいったな。物理スキルあってくれてよかったよ」

 アギでは融解させるにも火力が足らないし、吹き飛ばすにも威力が足りない。夢見針も同じで、貫くにも吹き飛ばすにも威力が足らない。だが、アギは連続で叩き込めば、赤熱させてもろくさせるくらいはじゅうぶんにできるし、九十九針ももろくなった扉を吹き飛ばすぐらいの威力はあるというわけだ。

 実験室から出てみれば、周りは酷い有様だった。立っている人間は一人もいない。研究員のことごとくが昏倒している。

 「ぶっ殺してやりたいけど、そんな場合じゃない!とっとと逃げよう……いや、待てよ」

 殺しても飽き足らない下種ばかりだが、そこでふと思いつく。

 「ちょっと懐を確認。お、あったあった。これがないと出れないもんな、あと現金も必要だし」

 倒れ伏した研究員達の懐やポケットを探り、まずIDカードを確保し、次に財布からお札のみを抜き取っていく。泥棒もいいところだが、今は手段を選んでいられない。近所の警察では、桐条の手が回っている可能性が高いので、少しでもここから離れる必要があったからだ。

 流石、非合法研究所の所員というべきか、実に30万円近くの現金を回収できた。クレジットカード全盛の時代じゃないことに透真は心の底から感謝した。

 「よし、今度こそ逃げるか」

 まんまと現金をせしめた透真は、一目散に逃げた。研究所のエリアを抜け、孤児院へとつながる階段を昇り始めたところで、彼はありえるはずもない冷たい声を聞いた。

 「動くな。動けば撃つ」


 




 「動くな。動けば撃つ」

 照準を頭につけ冷酷に宣言しながらも、実のところ卜部は頭を抱えたかった。
 先の原因を調べるために急行してみれば、孤児院内の職員・孤児共に昏倒しているし、これ幸いと研究エリアへ向かってみれば、一人の少年が走ってきたというわけである。

 「(リャナンシー、この餓鬼が?)」

 「(はい、ウラベ様、この少年から先程の力と同質の気配を感じます。まず、間違いなくこの少年が原因かと)」

 小声で仲魔である鬼女に確認するが、答は一番あって欲しくないものだった。

 (やれやれ、面倒なことになったぜ……。)

 「貴方は誰ですか?なぜ俺の邪魔をするんですか?まさか……この研究所の人間……」

 卜部の心中をよそに、少年が口を開く。最後にいたっては子供とは思えない剣呑さと憎悪をにじませている。

 「勘違いするな。俺はここの小悪党どもとは違う本物の悪党さ」

 「そうですか。では邪魔しないでくれませんか。早くここから脱出しなかればいけないんです」

 「そうしてやりたいところではあるが、俺にも都合があってね。俺の質問に答えてもらおう。この施設を内の人間は尽くが昏倒している。これはお前の仕業か?」

 卜部とて、子供の使いではないのだ。はい、そうですかと通してやるわけにはいかない。まして相手は、あれ程の被害をもたらしたと思わしき相手だ。子供といえど容赦するわけにはいかなかった。

 「恐らくそうです。先程発現したばかりなので、俺にも詳細は分かりませんが…。そんなことより、貴方がここの人間じゃないというのなら、俺をここから連れ出してくれませんか?そうすれば、俺の知っていることは全部話しますから。このまま、ここにとどまれば遠からず人がきます」

 「(どう思うリャナンシー?)」

 「(提案を飲んでもよろしいかと。この少年が原因なのは間違いないようですし、この少年から聞き出す以上の情報を得られるとは思えません。遠からず人が来るというのもそのとおりでしょう。それに周囲には民家も少なからずあります。集団昏睡ともなれば、大騒ぎになるでしょうし、警察も出てくるでしょう)」

 確かにそのとおりだ。卜部とて、警察沙汰は絶対にごめんだし、進入が気取られるのはまずい。研究についても詳細はすでに調査済みだし、目の前の少年を確保すれば、先のことの情報も得られるだろう。長居は無用であった。

「よし、小僧。ついて来い。但し、少しでもおかしな真似をしてみろ。鉛玉を食らわすからな」

「分かりました」

 少年に反抗する意思はなさそうであったが、念には念を入れて、リャナンシーを後ろにつかせる。

幸い何事もなく脱出に成功する。まあ、障害となるはずであった警備員も、研究者も、孤児院の職員も一切合切昏睡状態にあるのだから、当然といえば当然である。逃走用に用意した車の後部座席にリャナンシーと共に座らせ、自身は運転する卜部。しばらく走らせた後、情報を吐き出させようとして、肝心要の少年が眠ってしまっていることに気づいた。

「おいおい、おねむかよ。全く今日は厄日だぜ」

「緊張が途切れて疲労が一気に出たのでしょう。よいではありませんか。聞き出すのはいつでもできます。今は眠らせてあげましょう」

ぼやく主にそう言って、忠実な鬼女はとりなしたのだった。 
 

 
後書き
[スキル解説]
パトラ:味方単体の「眠り」「高揚」を回復   

メ・デイア:味方全体を小回復

アギ:火球を放ち、敵を燃やし尽くす(敵単体に火炎属性小ダメージ)   

九十九針:無数の針を投げつける(敵単体に投具属性小ダメージ)

双界の波動(弱):二つの世界を超えて紡がれた魂の力を波動として放つ
⇨己を除く敵味方全体に、万能属性による精神or神経常態異常を引き起こす。 トウヤ降魔時専用スキル
    
  
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