FOOLのアルカニスト
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敵対者の契約者
前書き
今回はメタな発言と言うか、説明が多いです。捏造設定(※)もありますので、お気をつけ下さい。
※原作ゲームでは、ペルソナ変異でしか小アルカナ使えませんし、FOOLペルソナもFOOLタロット集めないといけません。
実験で強いられた極度の緊張と精神的・肉体的疲労から、卜部の車に乗せられてすぐに透真は眠りに落ちた。そして目を覚ませば、そこは見知らぬ空間であった。心を落ち着かせるような、深い蒼に包まれた空間。そして体全体どころか、魂まで染み渡るような歌声と全てを癒すようなピアノの音色が響く。さながら、そこは大海のようなイメージを不思議と抱かせた。それも無理なきことかもしれない。
なぜならそこは……
「ようこそ、ベルベットルームへ。ここは、夢と現実、精神と物質の間にあり、人の心の様々なる形を呼び覚ます部屋。
我らが主、フィレモン様の命により、貴方をお待ちしておりました。我が名は、「マインドマンサーのイゴール、ピアニストはナナシ、歌手はベラドンナ」…おや、我等のことをご存知でしたか。フィレモン様の言うとおり、やはり貴方は尋常な客人ではないようですな」
頭髪の大半が抜け落ち残りも白髪と化し、特徴的なギョロ目で長鼻、背は曲がり怪しげな笑みを浮かべている男が椅子に座り、目隠しをした男がピアノをひき、その傍らで女が歌っている。こここそは『ベルベットルーム』。『PERSONA』シリーズにおいてかかせない施設として登場し、新たなペルソナを召喚する為の場所。いわば、意識と無意識の狭間にある心の大海ともいうべき場所なのだから。
「ああ、ゆえあって知っている。しかし、なんで『ワイルド』でもない俺がここに?」
『PERSONA』『PERONA2』では複数のペルソナを全員が使えた為、そこはペルソナ使いであれば誰でも入れる場所であった。しかし、この世界の基本であろう『PERSONA3』『PERSONA4』では違う。なんらかの形で『契約』をした者だけが入ることを許される。というか、この世界における普通のペルソナ使いにとって、ここは無用な長物だ。なにせペルソナは成長するし、ペルソナを複数行使することもできないのだから。複数のペルソナを使いこなすのは、選ばれし『ワイルド』の特権だ。
『ワイルド』になれたのは、わずかに二名。それも片や死神を半身と宿す者、片や大いなる敵対者から直接力を与えられた者だ。なろうとしてなれるものではない。まして、透真は『這いよる混沌』直々に、『ワイルド』ではないと宣言されている。しかも、『這いよる混沌』はフィレモンの天敵というべき対立存在であり、その契約者とも言うべき己が、この部屋に入る資格があるとは到底思えなかったからこその疑問であった。
「貴方は確かに『ワイルド』ではなく、本来の意味での『契約』をした者でもありません。しかし、お聞きになりませんでしたかな?貴方のペルソナ能力は、本来この世界にあるものではないということを?」
「それは聞いている。つまりアルカニストであり、全部ではないにしろ複数のアルカナのペルソナを使えるということか?」
「いいえ、それは正しくはありません。確かに貴方はアルカニストだが、貴方は複数のペルソナを使い分けることはできても、複数のアルカナを使えない。いえ、使えなくなったというべきでしょうか……」
「なんだと、それはどういう意味だ?」
「貴方が宿す『FOOL(愚者)』、それは特別なアルカナです。この世界においては、『ワイルド』における『ユニバース』に至るまでの旅路の始まりを示すもの。そして、別世界では、探そうと思わなければ見つけられないものであり、非情に入手困難なそれでいて何人も拒まない特別なアルカナだ。
貴方は『ワイルド』ではありませんから、必然的に後者のものになるわけですが、本来ならありえないのですよ。彼らを最初から宿すなどということは」
話を聞くに、透真はどうやら単純に『PERSONA2』のペルソナ使いというわけではないようである。まあ、彼自身も、またペルソナの入手もイレギュラー極まりないから当然かもしれないが……。
「彼らは、興味のある者にしか手を出さない。『FOOL(愚者)』の本質は旅人であり、1つところに留まるをよしとしないものなのです。それにも関わらず、貴方は『FOOL(愚者)』を宿しておいでだ。それも専用ペルソナとして。
どうやら貴方は非常に数奇な運命をお持ちのようだ。私も長くここにますが、このような事態は初めてです。結論を申しましょう。貴方は『FOOL(愚者)』に選ばれたのです。真の意味での『FOOL(愚者)』のアルカニストとして」
興味深げに言うイゴール。しかし、そんなこといわれても透真は疑問で一杯である。
「数奇な運命というのは分かるが、真の意味での『FOOL(愚者)』のアルカニストとしてというのはどういうことだ?それに他のアルカナを使えないという制限は?」
「貴方は彼らに見込まれてしまったのですよ。興味深い存在として、彼らの写し身たる者として。結果、貴方は他のアルカナを使えないという制限を受ける代わりに、彼らを自由に召喚できるという特権を与えられたのです」
『PERSONA2』における『FOOL(愚者)』のアルカナは、唯一悪魔絵師にも描けないアルカナであり、その系統のペルソナを宿すには、悪魔との交渉で洒落にならないほどの手間をかけて、『FOOL(愚者)』タロットを集めなければならない。透真自身、エンディング後に集めたことがあるが、最初の一枚を得るのに10時間かかったといえば、それがどれだけ困難であることか分かるだろう。ぶっちゃけラスボス倒すより手間のかかる作業であった。それを思えば、彼らを自由に呼び出せるという特権は大きい。
しかし、他のアルカナを使えないというのは、それ以上に最悪のデメリットである。複数のペルソナを使えるという強みは、敵に応じてその耐性・スキルを変化させられるということにあるからである。『FOOL(愚者)』のアルカナに属するペルソナの耐性は共通して非常に優秀だが、同時に弱点でもある。なにせどのペルソナも耐性が一緒なので、ペルソナチェンジしても、スキル面でしか優位に立てないということだ。これならば、まだ『PERSONA2』準拠の普通のアルカニストの方がましである。
「なんだよ、それ……。じゃ、ここに来る意味がないじゃないか」
「早とちりされませぬよう、私の説明が悪かったようで申し訳ありません。貴方は確かに大アルカナ(・・・・・)は『FOOL(愚者)』以外は使えません。しかし、小アルカナならば話は別です」
「小アルカナ?それって、確か変異で……」
「本当に良くご存知だ。そう、『ROD(杖)』『CUP(杯)』『SWORD(剣)』『PENTACLE(金貨)』、いずれも普通の方法では召喚することもできず、目にすることもない小アルカナのペルソナです。彼らはいわば突然変異から生まれるものですからな」
「だが、そもそも合体魔法がないと変異は無理だろう。それにそもそもこの世界のペルソナ使いに合体魔法が使えるかどうか……」
変異という現象を起こす為の合体魔法という概念がそもそも『PERSONA3』『PERSONA4』にはない。
『PERSONA3』には一応ミックスレイドというものがあるが、あれは『ワイルド』にだけ許された特権だろう。己にできるとは透真には思えなかった。
「ご安心を。言ったでしょう、貴方は真なる『FOOL(愚者)』たる旅人だと。旅には、知恵たる『ROD(杖)』、武力たる『SWORD(剣)』、路銀であり糧の源たる『PENTACLE(金貨)』が必要であり、『CUP(杯)』とは聖杯、旅路の果てに至るものだ。ゆえに、貴方は変異によらず、少々変わった方法ではありますが、彼らを呼ぶことができます。それに変異の方法もないわけではありません。魔法を使えるのは何もペルソナに限ったことではないのですから。
とりあえず変異の方法はともかく、これをお持ち下さい」
そういうとテーブルに絵柄を描かれた4枚のカードがいつの間にか現れていた。
一つは剣、カードの10分の1程が色を取り戻している
一つは金貨、カードの半分ほどが色を取り戻している
一つは杯、色を完全に取り戻している
一つは杖、色を完全に取り戻し、光り輝いている
「これは?」
「これは小アルカナのペルソナを召喚するために、貴方が用いる媒介となるものです。貴方の行動、旅路に応じて、それらは色を戻していき、相応しい力量を持ったときに、光り輝きます。
どうやら、1つ旅を終え聖杯に達されたようですが、『CUP(杯)』のペルソナを降魔されるには力量が足りませんな。ですが、貴方に知恵を与えんとする『ROD(杖)』を用いるにはぎりぎりですが、問題ないようです。
早速、召喚されますかな?」
「ああ、頼む」
「では、失礼しまして」
イゴールが『ROD(杖)』をもち携帯電話を取り出し、いずこかへとかける。同時にナナシのピアノ、ペラドンナの歌声が変わりる。何かが奥底から出てくるような感覚がした後、光と共に何かが現れる。
『儂は釈契此 どんなものでも何らかの役に立つものじゃ』
『もらえるものはもらっておくが良かろう』
『我が写し身よ 主の旅路に無駄などないと知れ』
袋を背負った太鼓腹のペルソナはそう言うと、透真の中に溶けこむように消えた。
「『ROD(杖)』ペルソナの『ホテイ』に御座います。有効に使われますよう。こちらはお返しします」
色を失った杖のカード、及び残りの3枚も渡される。
「ああ、ありがとう。有効に使わせてもらう。…一つ聞いていいか?」
戸惑いながらも礼を言い、少し迷った後口を開く透真。
「ええ、構いませんよ。なんでございましょう?」
「なんでここまでしてくれるんだ?俺は貴方方の敵対者の契約者だぞ。害になるとは思わないのか?主の意に反するとは思わないのか?」
「確かに貴方はかの敵対者の契約者だ。しかし、貴方は自由意思を奪われたわけではなく、彼の者の力を得たわけでもない。そして、何よりフィレモン様ご自身から、貴方の新たな心、新たなペルソナの目覚めをお助けするよう、仰せつかっております。
それに私個人としても、貴方の旅路がどういう結末を辿るのか楽しみでもあります」
「そうか、本当に人がいいんだな、あの人は……。ありがたく甘えさせてもらうわ。まあ、精々期待にそうように頑張らせてもらうわ」
「ええ、それでよろしいかと。おっと、それからこれをお持ちください」
イゴールは懐から漆黒の鍵を取り出し、透真に手渡した。
「これは?」
「『契約者の鍵』ならぬ、『愚者の鍵』といったところでしょうか。それを鍵のある扉に使えばここへ来ることができます。
では、そろそろお別れのようですな。現実の貴方を待っている方もいるようですし、急ぎ戻られたほうがよろしいいでしょう。
旅路の一寸先は闇。なれどその先には未知があり、である以上闇の中に一歩を踏み出せるのも愚者の特権でしょう。貴方の旅路がよきものにならんことを願っています。
では、また会う日まで、御機嫌よう」
最後の言葉と共に、再び透真は意識を失った。
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