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流星のロックマン STARDUST BEGINS

作者:Arcadia
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憎悪との対峙
  34 最悪の共闘

 
前書き
久々の更新でした。
レポート発表やら色々あって更新がかなり遅れてスミマセンm(_ _)m
これから検定とか試験が続くので、このペースが続くかも... 

 
スターダストはスズカを抱えてグラウンドの生徒たちが避難した場所へと小走りで向かう。
校舎から離れていく程に燃え上がる2階と3階から伝わってくる熱が冷めていくのをスーツ越しに感じた。
だがそれと同時に体の所々に痛みが湧き上がり始め、呼吸がしづらくなっていた。

「?フゥ...」

「スズカちゃん!!」
「無事!?怪我は!?」

生徒たちは先程の銃撃で負傷したスズカに駆け寄ってくる。
だがスズカは既に助かった安堵で自分が怪我をしていることを忘れてしまったかのように喜びを露わにしていた。
スターダストはゆっくりと芝生に寝かせる。

「ありがとう...」
「礼はいい。まだ終わってない」

スターダストは一呼吸置いて再び集中力を戻していく。
そしてメリーを介抱していたアシッド・エースに近づいた。

「どうだ?」
「動悸が激しい。それに顔色が悪いし、息が荒いし、時々痙攣を起こしてる」
「マズイな...ヒナ...ヒナ!」
「うっ...ハァ...ハァ...」

スターダストは限界に迫るメリーの頬から首筋の辺りに触れる。
今まで見たことのないくらいに汗が流れ出し、必死に何かに耐えているかのように顔を歪ませた。
恐らく自分の負の感情を必死に押さえ込んでいるのだろう。
ダークチップを使われてしまったということは、誰もが抱えている心の中の醜い部分に支配され、悪に染まってしまうことに他ならない。
ネットナビなら一時の快感と能力の強化に囚われ、ダークチップが無ければ形作るデータが断片化に歯止めがかからず、ダークチップを使い続けなければ存在を保てない、そんな命令がメモリに書き込まれてしまう。
まさにネットナビにおける麻薬と呼ぶに相応しい。
最終的には、使い続けデータの劣化が進行し、自己崩壊する。
それはデリート、データの消失、存在が消えてしまうことを意味する。
現実空間ならば死んでも死体が残るが、データの世界では一瞬だ。
跡形も無く文字通り消滅する。

「急がないと...」

スターダストはメリーに背負わせて運ばせたバッグの中を確認した。
ノートPCもハードディスクも全て無傷、何も無くなっているものが無いのを確認するとバッグの中からLumiaを取り出してアシッド・エースの方に投げた。

「生徒たちを頼む」
「分かった。これは?」
「地下にいた幹部の持っていた端末だ。お前たちの指揮官が警察びいきな以上、スパイ組織のお前たちが地下に入れるとは思えない。隠れて入れたとしても、得られる情報は少ないはずだ」
「...助かる」
「別に助けるわけじゃない。WAXAが動いてくれないと困るんだ」

アシッド・エースはLumiaをキャッチすると、スターダスト=彩斗の頭の回転の速さに驚く。
メリーを助けるために焦っているはずなのに、広い視点を忘れていない。
WAXAが介入した方が、確実に事件は進展する。
それに少し嬉しくもあった。
WAXAを信用していなくとも、必要性を理解しているのは確かだが、自分に手がかりを預けるとは少なくとも信用してくれているということだ。
握り潰したりすることはないと確信している。
WAXAを動かすためとはいえ、信用出来ない相手に重要な証拠を渡すわけがない。
スターダストはアシッド・エースから目を背け、バッグのチャックを閉めるとメリーを抱きかかえようとした。
1秒でも速く脱出してメリーに何らかの処置を施さなくてはならない。
だがそれを許さない者たちがいた。

「キャァ!!!」

「どうした!?」

生徒の1人が悲鳴を上げた。
そしてその返答を待たぬうちに激しい音が聞こえてくる。

「チッ...残念だが、アイツら片付けないとヒナもお前も逃げられないみたいだぜ?」
「ふざけやがって...」

音の正体は校舎の方から群れを成して向かってくるジャミンガーの軍勢の大群だった。
何処に潜んでいたのだろうと思ってしまう程の数だ。
30、40はいる。
ハートレスの話と違う。
ハートレスから得ていた情報では敵の数自体が40人から50人、今まで倒して戦闘不能にした数こそ30人から35人程、つまりここまで多くのValkyrieの戦闘員が残っているわけがない。
しかし人質の生徒たちやメリーがいる以上、スターダストの強すぎる武器は使用すれば危険が伴う。
軍事基地並みの兵器でかなりのダメージは与えられるだろう。
しかし中・遠距離の銃撃戦にでもなれば流れ弾が飛び交い、メリーやスズカなど動けないで芝生に横になっている状態の生徒が数人いる以上、火が燃え移ったりしたら、芝生や雑草が火を広げ彼らにも被害がある可能性は大きい。
スターダストは両肩から小型の翼型の柄のようなパーツを取り外し、ウイング・ブレードへと変形させる。
そしてアシッド・エースも同じくウイング・ブレードを装備し、スターダストの横に並んだ。

「二刀流?」
「こっちの方が両手を使う分、動きが読まれにくいし、攻撃のバリエーションが多い」
「何処で覚えた?」
「話すと長くなるし、今話していると時間じゃなく命が無くなる」
「それもそうだな...にしても、お前と共闘する日が来るとはな」

「こっちのセリフだよ。ある程度、数を減らせば隠し球が出せる。それまでくたばるなよ」

「隠し球があるなら隠さずに出せよ...行くぞ!!!」

アシッド・エースはため息をつくと、先陣を切った。
そして感覚を開けず、スターダストも地面を強く蹴り続く。

「「ハァァァァ!!!!」」

2人は走りながら向かってくる敵を威嚇するかのように大声を上げる。
だがどちらかと言えば、スターダストは無意識にアシッド・エースに勝負を仕掛けていた。
別に声の大きさで勝負しても仕方が無いが、アシッド・エース=シドウには少なからず対抗心があった。

『ウイング・ブレード!!!』

アシッド・エースは先頭を走ってきていたジャミンガー4体を赤い閃光となり、かまいたちの如く、斬り裂いた。
そしてスターダストはブレードを振りかざして前のめりの体勢のアシッド・エースの背中を踏み越える。

「ハッ!!」

空中で体をひねりながら回転し、落下と同時に両手のブレードで斬りつける。
そして敵の軍勢の懐に着地した。

「ヤァァァ!!」

「ぐぁ!!」
「うわ!?」

「この野郎ぉ!!」

スターダストは着地するや否やステップを踏み込み、回し蹴りで目の前の2人を同時になぎ倒した。
一瞬の出来事だった。
あまりの素早さに度肝を抜かれたのか、一瞬、その場が凍りついた。
だが次の瞬間にはスターダストの後方から攻撃が迫っていた。

「ハッ!!」

「!?」

しかし見切っていたかのように前を向いたまま、スターダストは後方に肘を思いっきり突き出して顔面を殴りつけた。
そしてアシッド・エースも攻撃を続けていた。
シドウの鍛え抜かれた肉体、磨かれた格闘術がアシッドの力で増幅され、スターダストのがむしゃらなで落ち着きのない若者のようなアクロバティックな戦いともまた違った強さを誇っていた。

「ヤァァ!!」

右手で構えたブレードで武器を弾くと、柔術のように相手を御すと、蹴り飛ばす。
続いて反対側の敵に向かって体を捻って飛び上がると、回転しながら5人を同時に蹴り飛ばした。
まさにカンフーの旋風脚だ。

「WAXAに甘やかされて鈍ってると思ってたよ!!」
「悪いが常に努力を続ける!!お前たちを救うためにな!!」

スターダストはジャミンガーの攻撃に対しても動じず、顔面に頭突きを食らわせながらアシッド・エースに声を掛ける。
しかし返答にはアシッド・エース=シドウに対して更なる怒りを覚えざるを得なかった。

「そうやって綺麗事しか言えないのは変わってないな!!」
「...そういうお前は変わったよ!!虫一匹殺せなかったくせに、今じゃ虫どころか人も殺しそうなくらいにたくましくなったな!!」

アシッド・エースは口にすることで更にその変化を感じた。
確かに間違ったことは嫌い、人との関わりを好まない、だが本当は優しさの塊でガラス細工のように繊細という要素は変わっていないように思える。
だが確実に身も心も荒んでしまっている。
暴力や争い事は大嫌いだったはずなのにまるでアシッド・エース=シドウに自分から挑発するかのような攻撃的な言葉を使い、今、戦っているジャミンガーに対して間違いなく自分への憎しみの一部をぶつけている。
もちろん恨まれるだけの理由はある。
だがシドウの知っている彩斗ならそんな方に向けたりしない。
良くも悪くも、心に閉じ込め、1人で苦しんで決して人に打ち明けて楽になろうともしない優し過ぎる子供。
だが今は好戦的な怪物と言わざるを得ない。
どこで覚えたのだろう、格闘技にしてみれば即退場になりかねない肘打ちや首を狙った攻撃、そして素早く忍者のような軽い身のこなし。
あのやせ細った華奢な肉体から生まれるものとは思えない。
先程から何もかもから違和感を感じていた。

「お前には分からないだろうさ!!悪の組織を裏切った正義の味方ヅラした偽善者にはな!!」
「!?」

スターダストはマシンガンに変形させた腕を構えるジャミンガーを真正面から斬りつけ、そのまま顎を砕いてしまうくらいの蹴りを入れた。
その姿は悪魔のようだった。
わざと悪ぶっているわけではない。
間違いなく自分の知っている純真無垢で繊細な子供では無く、強い憎しみと辛い過去に病のように取り憑かれて変貌した悪魔と化してしまっていた。
もはや人間を捨ててしまったのではないと思える程に。
それを裏付ける要素として先程から相手の攻撃を大きな動きで交わしたりしていない。
普通の人間なら殴られそうになったら思わず目を瞑ったり、逸したり、何としてでも防ごうとする動物としての本能が働く。
しかし今のように銃口を向けられても交わすどころから正面から攻撃を加えた。
ようやく違和感の正体が分かった。

「ハァァ!!」

顔面に迫る攻撃を僅かな動きで交わすとそのまま肘で逆に顔面を殴りつけた。
先程から交わすという動作があまりにも少ないのだ。
それ故に相打ちになっていることも少なくない。
しかし速すぎて、まるで相手の思考を読んでいるかのような動きを見せる。
もちろん弾丸が放たれるよりも速く動けるような、拳より速く動ける自信があったといえばそれまでだ。
だがあの動きはダメージを顧みていない、攻撃を交わすのも最小限の動き、防ぐという行動は逆にダメージを与えられる肘や膝が殆どという攻めるためだけの戦い方だった。

「くっ!?」

アシッド・エースはスターダストの戦いに一瞬、目を奪われて防ぎ損ない腹部に蹴りを受ける。
だがしかしすぐに立て直し、反撃に転じた。

「ハァ!!」

しかし再びスターダストの方に目が行ってしまう。
何度見ても、危なっかしい戦いだった。
スターダストのスペック、もしくは彩斗の技量が無ければ成立しない。
それを感じていたのはジャミンガーたちも同じだった。

「うぅ!?...わぁぁぁ!!!」

何度攻撃してもダメージを与えられずに、数倍になって返ってくる。
怯むこと無く、本気で潰そうと向かってくる、怪物に思えて足がすくんだ。
顔面に膝蹴りを受け、鼻が折れたような激しい痛みを感じた瞬間、恐怖が抑えられなくなった。
恐怖で痛みが消え、ただスターダストから逃げたい、それしか考えられなくなってとうとう逃げ出した。

「!?行かせるかぁぁ!!」

「がぁ!!?」

ジャミンガーが我武者羅になって逃げようとした方向は人質たちが逃げたのと同じ方向だった。
とっさに前の敵をハイキックで蹴り飛ばすと、そのまま体を捻ってターンし左手で持ったブレードを放り投げた。
それはダーツのように一直線にジャミンガーの背中に突き刺さり、その場で戦闘不能にする。
そしてすぐさま右手のブレードを逆手に持ち変え、下から振り上げ、そのまま後方に宙返りした。
戦闘開始から約1分、戦闘不能にした数は15人程、数が多い分、少数を相手にしている間に先にダメージを受けた者が休むことが出来るため、なかなか数は減らない。
そんな時、アシッド・エースとスターダストは打開策を考えながら、目の前の敵と戦っていると、逃げようとして背中に一撃を食らって倒れたジャミンガーが目に入った。

「ん?」

背中にウイングブレードが刺さったある種のアートのような状態で、稲妻のような音と閃光が僅かに発生するとジャミンガースーツが崩壊した。
ユナイトカードが割れたか、端末のシステムエラー、もしくは装着者の身体の限界か、電波変換した状態が保てなくなったのだ。
だが問題はそこではない。
ジャミンガーの正体の方だった。
腰に装備したM92バーテック、黒のブーツに防弾チョッキ、それも「POLICE」と書かれている筋肉質な男。
先程、地下に突入した警察のSWAT部隊の1人に間違いなかった。

「まさか!?うっ!?」

最悪の仮説が頭に浮かんだ瞬間、アシッド・エース=シドウの全身に激しい痛みが走った。
まるで全身の血管が引きちぎられるかのような激痛で動きが一瞬、鈍る。
勢いに任せてブレードで周囲の敵を斬りつけ、その場に膝をついた。

『シドウ!?これ以上は貴方の身体が保ちません!!』
「ハァ...くっそ...」
『スーツを強制イジェクトして生徒たちと共に離脱してください!』

アシッド・エースはまだ未完成だった。
出力だけなら大概のFM星人を圧倒し、1人でFM星に乗り込んで行ける程の能力を発揮できる。
しかし安定性には欠陥だらけとしか言いようがなかった。
装着者の肉体に大きな負担を掛ける。
もちろん人間に超人的な能力を与え、通常の空間とは別の空間に移行する、肉体を電磁波にしてしまうというのだから、人体に負担を掛けないはずがない。
だがFM星人を代表とする生物のそれにはどうしても近づけない。

「ハァ...ハァ...」

何度も経験しているというのに、なかなか慣れない。
特に胸のあたりが苦しく呼吸が辛くなり、全身に力が入らなくなるこの感覚。
だが傍から見れば、慣れすぎて超人じみているとすら思える忍耐力だった。
最初はデータを取るためにこの激痛で何度も意識を 失い、衆人環視の中で何度も吐きまくった。
シドウの他にも数名の人間が使用したが、最後まで残ったのは彼だけだった。
だがその状況と圧倒的に違うのは、研究者たちとは違い、敵は休む暇など与えてくれないことだ。

「ぐぅ!?」

顔をゆっくりと上げると、その時には強烈な蹴りが迫っていた。
情けなくもその場に転がり、地べたに這いつくばる。
しかし追い打ちを掛けるように数人のジャミンガーが無理やり両腕を掴んで起こすと、正面からまるでサンドバッグを殴りつけるかのような攻撃を次々と襲ってきた。

「ガァァ!!ウッ!!?」

「お前らみたいなスパイ組織がチョーシに乗ってっからだよぉ!!」

「!?...やっぱり...そういうことか...裏切り者め!!」

アシッド・エースを殴っているジャミンガーが口を開く。
その声には聞き覚えがあった。
先程、地下に突入したSWATの隊長の声に間違いない。
それによって全てが繋がった。
地下に向かった者たちは最初から裏切っていた。
地下に身を隠し、緊急時、すなわちイレギュラーによるValkyrieの作戦の失敗に備えていた。

「WAXAってのはいつでも警察の上に立って、妨害ばっかりしやがって!!!オレたちはお前らの部下じゃねぇ!!!」

「ウッ!?」

顔面、そして腹部に強烈な拳が直撃し、アシッド・エースは吐血した。
システムによる負荷、そして電波変換というもの自体へのリジェクション、既に常人の耐えられる領域を既に超えていた。
それに加えた集団リンチ、自分たちの正体を知った者を消そうとするのは当然、そして組織間の対立がますますアシッド・エースへの攻撃を加速させる。
だがアシッド・エース=シドウの忍耐力はその程度では消耗することは無かった。

「ハッ...良かったなぁ...」
「なに?」

「お前らがオレの部下なら今の今まで生きてられるわけないからだよ!!」

「!?うっ!」

アシッド・エースは掴まれた両腕を無理やり振り解き正面で自分を執拗に殴りつけていたジャミンガーの顔面に強力な頭突きを加えると、そのままブレードで腹部を突き刺した。
電波人間ながら元は人間、それに妨害電波の中では強化スーツを纏った普通の肉体を持った存在だ。
当然、返り血が吹き出し、ジャミンガーはその場に倒れ伏した。
だが1人倒してもまだ大勢いる。
再び両腕を捕まれ、サンドバッグ状態にされるとリンチが始まる。

「!?アカツキ...!!」

しかし今度はスターダストがアシッド・エースの状況に気づいた。
正面の敵を蹴り倒し、その光景を目の当たりにする。
背筋に悪寒が走った。
その光景はつい2週間前までの自分の「日常」に他ならなかった。
「イジメ」、それも1人を大人数で弄び、楽しむという最低の娯楽だ。
イジメている方からすれば、イジメられている方の心理など理解できないだろう。
どれだけ辛いか、どれだけ心が痛むのか、その日は解放されてもまた明日がある、そう思うだけでどれだけ胸の辺りが重く苦しく強い吐き気といつ死ぬのか分からない不安に襲われるのか。
自然と自分と重なり、気づけば体が助けようと動いてしまっていた。

「来い!!トラッシュ!!」

スターダストはスーツに宿ったトラッシュを一時的に分離させ、バルムレット・トラッシュに変形させると空中を舞い、数人の敵を弾き、キャッチする。
そしてそのまま自分を囲んでいる6人をターンして切り裂いた。

「ヤァァ!!!」

その剣の軌跡は円を描き、スターダストを囲むようにドミノ倒しにジャミンガーが倒れ伏す。
そして深呼吸すると、右腕のガントレットをブラスターに変形させ、コンソールからコマンドを実行するとアシッド・エースの方に狙いを定めた。

Noise Force Bigbang!!

『ノイズ・フォース・ビッグバン!!ブルームーン・エクストリーム!!!』

青く輝く閃光が一直線に放たれ、誰もが動きを止めた。
日も落ち、暗くなっていたグラウンドにおいては目が眩む程の眩しさだった。
思わず目を閉じるか、目を手で覆い隠し、その光景を直視できぬまま凄まじい威力と美しさを兼ね備えた光線にアシッド・エースを取り囲んでいたジャミンガーは全て弾き飛ばされた。

「...スゲェ」

アシッド・エースは目が痛いにも関わらず、朦朧としていた意識の中では希望の光に感じていた。
そして思わず声を漏らすも、すぐに大事なことに気づいた。
スターダスト=彩斗は自分を助けた、大嫌いなはずの自分を。
だが同時に腹だたしくもあり、思わず駆け寄った。

「あんなのがあるなら最初から出せよ!!」
「お前に指図なんて聞くもんか!!それに威力が強すぎて何が起こるか分かったもんじゃない!!」
「!?お前、それってオレごと吹っ飛んでてもおかしくなかったってことか!?」
「出力はちゃんと手加減してた!本気でかまして欲しいなら望み通りにしてやろうか!?」
「...まぁ...助けてくれたことは感謝するがな」

アシッド・エースはそう言うと、力尽きたようにその場に膝をついた。
スターダストはその様子を見て一瞬、ため息をつくと生徒たちが逃げた方に向かう。
メリーも数人の生徒たちが運んでくれていた。

「ありがとう。スズカちゃんを頼んだ」

スターダストはそう言って、メリーを抱えてグラウンドの体育倉庫への中に入った。
生徒たちが賢かったことが幸いした。
流れ弾を防ぐために倉庫の裏に逃げ隠れていた。

「倉庫に入ったぞ!!」
「袋のネズミだ!!倉庫ごと蜂の巣にしちまえ!!!」

スターダストとアシッド・エースが倒していたジャミンガーが少しずつ、ダメージからの痛みが引き始め立ち上がる。
全て予想通り、肉弾戦で戦闘不能にする事は不可能ではないが、数が多く同時に相手にするとなれば戦闘不能に出来る割合は減少する。
必要なのは一気にカタをつけられる切り札、そしてそれを使っても生徒たちには危害が出ないように逃げ隠れる時間だった。
幸いなことにこの体育倉庫はかなり頑丈な作りとなっていて盾としての役割を果たす。

「撃てぇ!!撃て撃て!!撃ち殺せぇぇ!!!」

ジャミンガーたちは膝をつくシドウには目もくれず倉庫の方にダッシュし、そのままマシンガンを倉庫に向かって連射する。
つい数日前まで陸上部やサッカー部が使っていたはずのグラウンドは既に紛争地帯へと早変わりしていた。
生徒たちも悲鳴を上げるが掻き消される程に激しい音でその場にいた全員は耳がおかしくなりそうだった。
やがて銃撃は弾切れと共に収まっていき、ジャミンガーたちはそれぞれリロードの手順を踏み、更なる乱射に備える。
倉庫がいくら頑丈とは言っても、相当な数の風穴が空いている。
先程まで苦戦させてくれたスターダストといっても生きているはずがない、生徒を含めた誰もがそう思った。

「ハッ!いくらロックマンでもこれなら...」

“勝った”という感触がじわじわと安心感を沸き上がらせる。
しかし反面、不安も湧き上がっていた。

先程まであれ程までに狡猾で無駄のない戦いを見せたスターダストが蜂の巣になる可能性の高い倉庫に隠れたのか?

少なくとも先程までの完璧さを考えると、コレばかりは無意味でリスキーな行為だった。
何か意図があったのではないかと不安になり始め、自然と緊張感で体がガチガチに凍りつく。
だがそれは的中していた。

「!?」

音が聞こえてきた。
それは乱射でキーンとしておかしくなりかけた耳でもハッキリと分かる何かの音。
まるで風を吸い込んで力に変えていっているようなモーター音、そして何か巨大な力を発揮したくてウズウズしている怪物の息吹のようだった。

「...何だよ、一体...」
「やべぇ...何の音だ!?」

ジャミンガーたちはリロードも忘れてその音の出処を必死に自分たちの銃撃で貫かれ、使い物にならなくなった耳で探す。
しかしその音の発信源は全員一致で蜂の巣となった倉庫だった。
思わずつばを飲み、何かが飛び出してくる恐怖で竦む。
だが次の瞬間、ジャミンガーたちの耳は全く別のタイプの巨大な音で貫かれた。

「「!?うわぁぁぁ!!!」」
「!?ぎゃぁぁぁ!!!」

次の一瞬で目の前が真っ暗になり、目の前で起こった事が信じられなかった。
何かが飛んできた。
巨大な鉄の塊、それが地面と平行に吹っ飛んできて、言葉にすらならない悲鳴と共に自分たちを押し潰したのだ。
しかしそれを横から見ていたシドウの目にはハッキリとその正体が見えていた。

「うっそ...」

ジャミンガーたちを押し潰したもの、それは体育倉庫を閉ざしていた巨大な扉だった。
重さは数トンあるでろう鉄の塊が何かの力でまるでパチンコ球のように弾き出されたのだ。
正直、目を疑った。
長い人生の中でもこんな光景を見ることは、残りの人生で1回でもあれば奇跡だろう。
今日一日、いやこの数時間で非日常な事が大量に起こっていたが、これが一番目に焼き付いた。
そしてその現象の答えは、聞き慣れない音と共にすぐに倉庫から飛び出した。

「!?...」

倉庫から白い弾丸のようなものが飛び出した。
白いフレームに印象的な青いライン、睨みつけるような眼光を思わせる双眼ヘッドライト、尖った耳のような銀色のバックミラー。
それはバイクだった。
形はいわゆるリッタースポーツ、前傾姿勢で走ることに特化した構造になっており、後ろにはArai・SZ-Ram4のカレンブルーカラーをかぶったメリーが乗っている。
様々な改良が施され、常軌を逸した構成となったHONDA・CBR1000RR、またの名を『スター・イリュージョン』。
普通のバイクとは比べ物にはならない。
それは発進からまだ数十メートルしか走っていない状態を見ただけで分かる。

「何だ!?」

残ったジャミンガーたちも猛スピードで迫ってくる物体に思わず足を止め、恐怖した。
あんなスピードで走っているバイクに撥ねられでもしたら、いくらジャミンガーという常人を超えた存在であっても命は無い。
しかしそれを逃げる隙は無かった。
スターダストが左ハンドルの青いボタンを押したからだ。

「「!?ぐわぁぁぁ!!!!」」

スター・イリュージョンの前輪をホイールに備えられた銃口のようなパーツが火を吹いた。
バチバチと聞くだけで痺れそうな音と共に射出された強力なプラズマ弾がグラウンドに残っていた戦闘可能なジャミンガーを一度に全員吹き飛ばした。
それによって小規模の爆発のようなものが中央のサッカーコートで起こり、地面が抉られ、どれだけ強力な兵器なのかが刻まれる。

「だからそんな便利なもんがあるなら最初から出せよ...」

しかしシドウの口からは愚痴が零れた。

「よし...」

イリュージョンは陸上競技の100メートルレーンに入る。
するとスターダストは僅かにスロットルを戻して回転を殺し、クラッチを握るとシフトアップして繋ぎ、更に速度を上げる。
スターダスト自身も何処まで速度が出るかは分からない。
圧倒言う間に100メートルを走り終え、そのまま陸上競技の用具が放置されている練習スペースに突っ込む。
そして跳び箱なんかでよく使われる踏み切り板を通過すると車体が浮き上がった。

「うっ!?」

あまりの勢いで体が吹っ飛びそうだった。
必死にしがみつき、そのままフェンスを飛び越え、駐車場で待機中のパトカーの屋根を踏み潰した。

「うわぁ!?」

パトカーの中には木場がいた。
予想外の事が多発した挙句、責任は自分には無いとばかりにパトカーの中に籠城を決め込んでいた時だった。
天井が巨大なタイヤ痕と凹みが残り、スター・イリュージョンは駐車場に着地し、パトカーの群れの中央で180度方向転換して停車する。

「ロックマンだ!!」
「捕まえろ!!」

「...っ...あれが...ロックマン」

警官やWAXAに囲まれた状態、しかしバイクでグラウンドのフェンスを飛び越えてくるというあまりにも大胆過ぎる展開に反応できなかったのだ。
映画で見たことのない展開、見たこともない装備を纏ったバイクと圧倒的な戦力を備えた人間を目の当たりにすれば驚くのは当然だった。
周囲は一瞬の膠着状態に包まれる。
だが1人だけ、そんな中でスターダストと目を合わせた人間がいた。

...僕?

スターダストと目が合っていたのは、光熱斗だった。
スターダスト=彩斗と熱斗、お互い初対面、それも彩斗に至っては仮面を付けての対面だ。
しかし2人は間違いなく何かを感じた。
そのせいでスターダストも思わず一瞬、反応が遅れた。
まるでもう1人の自分のようにお互いが同じ空間で向き合う。
逃げることしか頭に無かったスターダストにとってはまるでボディーブローを受けたような衝撃だった。
いきなり見せつけられた現実から逃避するように、自然とスターダストの左手はクラッチを握り、シフトダウンするとアクセルを開いていた。
しかし普通のバイクのスタートとはわけが違う。
ロケットスタートとしか言いようのない発進でパトカーとパトカーの間をくぐり抜けると、そのまま学校の正門から一般道へと飛び出した。
 
 

 
後書き
今回は彩斗とシドウの共闘でした。
闘いながらの2人の会話は兄弟げんかを意識したつもりでした。
少し笑い?を入れようとしたら逆に変な方に進んでいますがw

そしてとうとう秘密兵器が登場しました!
電波人間が妨害電波の中で自由に移動できなかったら?という考えから、バイクという移動手段をチョイスしましたw
一応、仮面ライダーも小さいころ観てたのでw

感想や意見、質問等はお気軽に!
 
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