| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Muv-Luv Alternative 士魂の征く道

作者:司遼
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

序章
  01話 桎梏の矜持

 2000年5月26日

 中国地方出雲奪還作戦―――そこ戦場を駆け抜ける不知火の部隊が居た。
 何れも正規の日本帝国軍の色彩ではない。純白に塗装され、部隊機は何れも右肩に日の丸、左肩には組合角に桔梗の紋章をペイントされていた。


『総員、四国での借りを返してやれっ!!!』

 その中に在って異彩を放つ機体、夜の闇が凝結したかのような漆黒の不知火が戦場を疾走し、両手に保持した突撃砲による銃撃で異形を駆逐してゆく。

 右腕の突撃砲からの36mm砲の斉射で辺りに蠢く蜘蛛のような戦車級を無意味な肉片へと変えて往く。
 そしてその中に猛然と歩を進める大型種を左腕の支援突撃砲の狙撃にてその足を狙撃することで移動能力を削ぎつつ光線級に対する盾にする。

 出雲奪還作戦―――大陸への一斉撤退を開始したBETAに対し追撃を掛ける形で成し遂げた失地回復。
 京都を奪還した日本帝国は其処に一大軍事拠点を再構築し、そして今、中国地方の奪還を試みていた。

 先に奪還した四国側の瀬戸内海と日本海側からの揚陸、戦術機による吶喊で光線級を排除、続く艦砲射撃によりBETAを掃討し、残る残敵を戦術機部隊と機械化歩兵部隊により殲滅する手はずだ。

 ―――今のところ戦局は予定通り推移している。
 だが、対BETA戦はBETAの予想外の行動など日常茶飯事だ。


『―――コード991!?』

 網膜投影により戦域情報を表示された視界に映る赤い警告―――BETAの突発的出現を表すコードだった。

『どうやら日本海側からBETAが日本海を横断し上陸しようとしているようだ―――穿孔部隊の奇襲を受け米子のHQが壊滅した。』
『一條中佐!』

 新たに展開された視界ウィンドウ、そこに映る真紅の強化装備に身を包んだ妙齢の男が状況を告げる。

 一條 秋義中佐…斯の四国戦線で共に戦い抜いてきた英傑の一人であり、五摂家の一つ九條家の分家であり、一時は五摂家の一つであった名家の出身だ。
 そんな彼の表情は渋いままだ―――何かあったのかもしれない。

『あそこには嵩宰恭子大尉の部隊が展開している。―――おそらく帝国軍は指揮系統の混乱とBETAの奇襲で機能すまい。
 あそこで軍を持ち直せるのはあの方しか居ないが……あの方の部隊が撤退すれば帝国軍は総崩れとなる。』

『―――分かりました、之よりドラゴンホース中隊は一気に北上し第三大隊の救援に向かいます。壱型丙の機動力なら間に合う可能性がある。』

『すまぬな(まさき)。』
『気になさいますな一條卿。今ここで摂家の方に、それも雷神の鬼姫に亡くなられるわけには参りません。それに将軍家の盾となる――其れは斯衛の本分です。
 それにこの不知火壱型丙も自らの子である武御雷を救えたのなら本望でしょう。』
『分かった―――土佐七守護の勇名知らしめよッ!!!』

『承知っ!!』


 2年近く地獄を共に戦い抜いた紅の軍服を纏う上官に応える。彼も斯の死地に紅の瑞鶴を駆って戦っているのだ。
 (おれ)たちが駆っているこの不知火壱型丙と違い、第1.5世代機に過ぎない瑞鶴でだ。

 自らが使える主の窮地に馳せ惨状出来ない歯がゆさは押して計り知れない―――ならば、(オレ)たちが行うしかない。

『ドラゴンホース1より中隊各機へ―――聞いてのとおりだ。』

 2年前のあの日…BETAを四国に引き込む事で帝都への進撃を抑えようとしたが、結局あっという間に四国にBETAは浸透し、四国の人類圏は20%以下にまで追い詰められた。
 そこまでの犠牲を払ったというのにBETAは僅か一週間で京都へと侵攻し、多大な犠牲を出した。


 其れから何度の戦地を潜り抜け、何人の部下を失っただろう。
 部下の屍を積み上げた先にはお為ごかしの為の昇格だった―――部下を、守るべき民草を死に追いやって何が土佐七守護に連なる者か……!!

 所詮、自分はこの身に纏う漆黒に相応しく武士のもどきでしかないというのか……!
 そんな憤りを胸に只管機体を繰り戦ってきた。

 そんな中、己の半身とも言うべき愛機、瑞鶴はついにその寿命を擦切って動かなくなった。
 そんな時だ、発注キャンセルが目前であったが、予想を圧倒的に超える損耗から追加生産されたこの機体、不知火壱型丙と出会ったのは。

 元より戦域展開を予想されていなかった四国には不知火のような第3世代機は元よりF-15J陽炎のような第二世代機すら配備されていなかった。
 操縦特性の根本的に異なる機体を行き成り乗りこなせる衛士なんぞそうそういる訳もなく、そのお鉢が自分に回ってきたのはある意味必然であった。

 其れからは、斯の壱型丙を愛機としつつ明星作戦、四国奪還作戦、そしてこの出雲奪還作戦と多くの死地を共に戦いぬいてきた。
 だが、渡った戦場の数を重ねるたびに部下の死を積み重ねるだけの日々――

 其れを支えたのは、武家に在らずとも“武士の血を引いている”というちっぽけな矜持と、“例え敗者で在っても強者でありたい“という見っとも無い思いだった。


『――個体数二万超のBETAが美保湾に上陸、米子のHQが壊滅した。
 指揮系統の壊滅により恐慌状態に陥った帝国軍の御盾となりて嵩宰恭子様率いる斯衛軍第三大隊が踏ん張っているが―――如何せん彼我戦力差が大きすぎる。
 いいか!摂家の方――しかもあの雷神の鬼姫の救援などという栄誉!末代まで誉れぞ!』


 己からの通達を聞いた不知火たちのセンサーアイが戦意を表すかのように輝きを灯した。


『土佐七守護に連なりし武士(もののふ)達よ、今こそ斯衛の責務を果たす時ぞ!!―――ドラゴンホース中隊全機連続ブーストジャンプッ!!!敵を突抜けるぞッ!!!』
『『『『了解ッ!!!!』』』』 


 土佐七守護―――かつては土佐七雄と呼ばれた七つの武家だ。
 この中隊に所属する衛士は全て、その土佐七守護家の分家や外家の武家たちなのだ。

 武家に生まれながら武士としては認められない。
 武士の血を引きながら、武家ではない。

 そういった者たちが例え武士として認められなくても、武士でありたいという願いの元集ったのが斯の部隊だ。
 武士とは武を扱うもの――武とは、(ほこ)にて(ほこ)()め、(ほこ)にて敵に(とど)む。
 守る為の力、武を振るう戦士を武士と呼ぶ。

 血筋が貴いのではない、その志こそが貴いのだ。
 武家が武家として貴いのは先祖代々の志を受け継ぐからだ―――ならば、志同じくすれば何れ、(オレ)たちも武士という強者と成れる筈だ。


 (オレ)達はそんな幻想を抱いて戦場を駆ける――――

 
 

 
後書き
ドラゴンホース⇒ドラゴン・ホース⇒竜・馬⇒坂本竜馬。
ちなみに組合角と桔梗の家紋は坂本家の家紋であり、土佐に居る武家と百姓の間の家の家紋が桔梗であることを掛けてます。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧