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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  犬猿の仲

 背中を這う感触が気持ち悪く、目の前にいる少女の姿がひどく勘にさわる。カトナは木に全体重を預けてもたれながらも、目の前で威嚇している少女…山中いのを見つめた。
 ことの始まりは、奈良シカマルが、カトナを拾って帰ったことろから始まる。
 シカマルの帰宅に、ほっと一息をついたいのだったが、シカマルの後ろに背負われてるカトナを目撃した瞬間、顔を真っ赤にして怒りだした。
 何を敵を助けてんのよ!! といって怒鳴り、苦言を呈したいのの小言もそこそこに、カトナは必死に八班に拝み倒した。土下座もした。

 「へんな、おかまのやつ、蛇みたいに舌、長くて、口から剣吐きだしたりしてきた、のが、サスケのこと、狙ってて。多分、うちはの血、狙ってる。この試験中、サスケ、浚うつもりみたい、で。それで、それで」

 血相をかえてそういい募るカトナに、半信半疑になりつつも、その言葉を信用してくれたらしい…いや、この場合は信じてくれたというべきだろう。信じてくれたシカマルとチョウジが、第七班を捜索しにいってから、十数分、カトナは今のこの微妙な雰囲気を味わっていた。
 山中いの。カトナの天敵ともいえる少女だ。カトナは彼女を嫌い、彼女もまたカトナを嫌う。
 カトナはその姿になき母を侮辱されているように感じて嫌悪し、そして、いのの女らしい生き方というものに対して心底嫌悪し、いのはサスケとの恋路を邪魔してくるカトナを煩わしく感じ、同時にカトナが見せる表情を嫌悪する。
 どちらも自分勝手に、ゆえに素直に嫌いあっていた。
 そんな彼女と取り残されたことに、シカマルをすこしばかり恨みながらも、カトナは静かに自分の体を分析する。体はいくぶんか、落ち着いてきている。それが九尾のチャクラが消えていくと共に、穏やかになっていくことくらい、カトナは容易に気がついていた。
 チャクラ消費を誘発するためのもの。写輪眼や忍術において追随を許さないサスケを封じ込めるためには、絶好の術だろう。
 カトナは無理矢理、体の中の経絡系を、ネジが使っている柔拳の応用で流れを変えて、呪印のほうに近付けないようにしているが、それでも、刻一刻と残り少ないチャクラが消費されていくのがわかる。
 …きついな、と舌をうちつつ、今もまだ残る痛みから意識をそらそうと、カトナは大嫌いな少女に向かって話しかけた。

 「サスケのこと、好き、なの?」

 突然の問に、いのは目を見張り、カトナを見返す。暫くの間、彼女は口を開けては閉じてを繰り返したが、やがてゆっくりとだが言葉を紡ぐ。

 「そりゃあ、好きに、決まってるじゃない」

 その言葉に、カトナの瞳が一瞬赤々と光る。が、それもまたすぐさま溶けるように消えていき、カトナは無気力でいて気だるげな様子で、たんたんと告げた。

 「サスケは、好きな子、いるよ」

 その言葉に、沈黙が落ちる。黙りこみ、何も言わずカトナへと視線を返したいのは、カトナの不自然なまでに穏やかな瞳を見つめる。
 凪いだ海のように、カトナの瞳にはなんの感情も浮かんでいない。故に、これは勝手な思い込みではなく、ただの事実でしかないのだと、唐突にいのは気がついた。

 「サスケはずっとその子を好きで居続ける。絶対に振り返らない、ほかのこには見向きもしない、サスケはその子にしか恋をしない…その子以外に振り返らない」

 それもまた、純然たる事実だった。
 カトナはナルトを通してしか人を信頼出来ない。故に、これはサスケを信頼しているのではなく、それを事実として認識してるからでしかなかった。
 だからこそ、その言葉にはなんの誤魔化しも嘘も偽りもない。思い込みもなく、誤りも過ちもない。
 サスケは絶対に振り返らない。その、少女以外には。
 どんなにひどいことをしても、サスケはあその少女を見つめ続け、どんなにやさしくしても、サスケは振り向こうとしない。

「それでも、好き、なの?」
「当然でしょ」
「そっか」

 いのは即答し、カトナを睨み付けた。本当のところ、その言葉を聞いて、胸に来るものがないわけでもなかったけれど、しかし、知ってはいた。
 サスケが誰かを好いていることくらい、とっくの昔に。好きな人の恋くらい察してこその少女というものだろう。サクラもまた気がついているだろう…彼女の場合はそこから目を反らし、見ていないふりをしているが。
 いのはちゃんとわかっていた。サスケはきっとこっちをみない。でも、それでも、好きなものは好きなのだから仕方ないだろう。ミーハー気分だったとしても、それでも今、心のそこから好きなのだから、仕方ないのだ。
 その言葉を聞いて、カトナは何も言わず、目を伏せた。それがいのの勘を逆撫でする。
 まるで哀れむように、そっと、目を伏せるのだ。いのは別に辛くともなんともないのに、確かに報われない恋をしているが、他人にとやかく言われるほど、傷ついてはいないのに。
 いつだってこうやって、いのがサスケを好きだという度に、まるで哀れむように、カトナは目を伏せる。
 好きな人に振り向かれないいのを…いや、いののように振り向かれない誰かを思いだし、悼むように、カトナは目を伏せる。
 だから、いのはカトナが嫌いで仕方がない。世界中の誰よりもきっと、いのはカトナのことが大嫌いで。
 それと同じくらいには、カトナのことを気にかけていた。
 …非常に癪なことなのだが、どうにも、いのはカトナのことを放っておけないのだ。もともと、責任感が強く、クラスでもリーダーシップをとりがちのいのだ。カトナのようなタイプの子は放っておきがたい。
 はぁ、とため息を吐きながらも、いのはカトナとの会話を続けた。

「ほんとっ、シカマルの優しさに感謝しなさいよねー」
「奈良は、いつも、優しい。いい人」
「そりゃあ、わ、た、し、の、幼馴染みだからねー」
「………幼馴染み、なのに、どうし、て、奈良、みたいに、優しく、ない?」
「はっ、あ!? あんた、しはかれたいわけ!?」

 が、やはり嫌いなものは嫌いでしかないらしい。と、息をはいたあと、ふと、いのは思い付いたことをたずねた。

 「…ねぇ、サスケ君の好きな子って、どんな子?」

 意表をつかれたように眼を見開いたあと、カトナは数秒の間黙りこんで思考し、たどたどしくもきちんと伝えていく。

「…顔は、私の主観、だけど、山中のほうが、かわいい」
「まっ、当然ね。このいの様よりかわいい子なんているわけないしねー!!」

 奇特な色の目と髪をしていて、線がやたらと細くて、折れてしまいそうで、きっと、誰よりも脆い。

「性格は…おとなしめで、…家庭的かもしれないけど、女の子らしくはない。あと好戦的」

 料理や洗濯などは幼い頃からしているが、お洒落などと言ったことにはほとんど無縁。自分を着飾ろうという発想はなく、女としては駄目なくらい暴力的で荒事に向いていて、そしてそんな自分が大嫌い。
 それでいて…

「サスケの気持ちを知ってて見て見ぬふりする、すっごく駄目な子」

 その言葉に、いのはむっとした様子でカトナに向かって怒鳴る。

 「なによそれ。サスケ君、なんでそんな子が好きなのよ!?」

 いのの声にカトナは、自らのからだをはい回る呪印の存在を感じつつ、大きくうなずいた。
 その意見には心のそこから同意するしかない。なんてたって、そんな女を、とカトナは思う。サスケの美貌なら、たいていの女…果ては男でも魅了できるだろう。
 性格、家柄、顔、体格、血統、才能。すべてにおいて折り紙つきのくせに、なのに、そんなくだらない女を好きになった彼の気持ちなんて、誰がわかるだろうか。

 「ほんとに、サスケ以外、好きに…愛してくれるひとなんていない、ってくらい、…嫌われてて、好かれない子だよ」

 死ぬことを望まれた、生きることを否定された子。
 サスケはどうしてそんな子を好きになったのか。カトナは一生わかるつもりはない。ただ、カトナこそが誰よりも、その人間が、いかに嫌われていて、いかに憎まれていて、いかに疎まれていて、いかに誰よりも知っている。知っていて、そしてわかっている。
 そんな子を愛す馬鹿は、きっとサスケしかいないと。
 ほんとにバカだなぁ、と小さく呟きながら、カトナは自分の、力が抜けた手のひらを見つめた。
 温かくない、冷たい掌から伝わる、今でも忘れない感触に、カトナは目を伏せた。

 「…すっごく、だめな子なのにね」

 カトナはそういって、淡く、仄かに笑った。

……

 「…みつからない、わねぇ」

ぽつりと、女はそういいつつ、木陰から身を乗り出した。先程から、彼女はとある目的の人物を探しているのだが、その人物が見つからないのだ。
 …どうしたものかと思いつつ、大蛇丸は視線をしたに向けた。真下には、大蛇丸と同じく試験を受けている試験生が辺りを警戒した様子で、座っている。
 人数は二人…ちょうど大蛇丸が探しているのと同じ数である…のだが、その振るまいから見て、変化の術を使っているわけではなさそうだ。
 変化の術を使っていても、どうしようもない違和感というのは存在する。熟練の術者でも、それをなくすのは難しい。
 たかが、下忍に出来る筈がない…だが、何故だか大蛇丸の頭が彼らに警報を放つのだ。
 数秒の間、大蛇丸はその蛇のような目で二人をにらみ続け、ふっと、力をぬいた。

 「まさかねぇ…」

 そういって、彼女はその場を足早に去っていく。暫くの静寂のあと、少年と少女が、同時にぽふんっという音共に煙に包まれ、

「いったみてぇだな」
「……よ、よかったぁ」

 煙が晴れる頃には、サスケとサクラの二人が、そこにはいた。 
 

 
後書き
テスト近くになったので、一週間前後、更新を停止します。 
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