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無欠の刃

作者:赤面
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下忍編
  植え付ける

 チャクラの量は少ない。
 変化の術を解けば、ある程度のチャクラは得れるが、しかし、それはこの人間の前で弱点を晒すという事だ。どう考えても得策ではない。
 九尾のチャクラを引き出すのも得策ではない。木の葉の監視下だ。この前はカカシから三代目に報告されただろうが、ちゃんと統制したことも伝えられていた筈だし、任務も成功した。
 だからそこまで問題はないが、身近で起きれば、彼らはきっと文句を言ってくるだろう。
 なるべく出さないように。非常用にとっておくことにしようと、そこまで思考した時、カトナはひらりと横に踏み出した。
 瞬間、大蛇丸の口から勢いよく剣が、カトナの方向に飛んでいく。
 紙一重で、口から飛び出た剣を薙刀で弾いたカトナは、薙刀を構えなおす。
 隙のないそれに、大蛇丸は何も言わず目を細める。
 カトナは小さく息を吐きながら、目の前の男の立ち振る舞いを見て警戒する。隙を見せている様で、呼吸一つにも目立った隙はない。どこからどこまでも洗練された雰囲気は、何を言わずとも、彼が強者であることを察させた。それでも逃げない自分に違和感を持たず、カトナは薙刀を掴む力を強める。
 暫しの間、どちらとも何も言わずにらみ合い、動かない。
 じりじりと後退しながらも、相手を伺っていたカトナの耳が、それを聞きとがめる。

「…サスケ君の元に、早くいきたいんだけどねぇ」
「さすっ、け?」

 その声に、カトナの胸がどくりと痛む。明らかな隙に、大蛇丸の体がすぐさま動き、カトナの襟首が掴まれると共に、大木にがんっと押し付けられる。

 「そう、サスケ君。そういえば、あなたの班員だったわねぇ…。ねぇ、サスケ君の場所を教えてくれないかしら? そうしたら、」

 逃がしてあげるわよ?

 その言葉にカトナの目が座る。ぎらぎらとした、殺気が込められる。
 その言葉はカトナが弱者であるからといわれている様で、カトナは負け犬だと言われている様で、カトナが仲間を売るようなただの屑だと思われている様で、酷く苛立つ。
 苛立って苛立って苛立って、むかついて、歯ぎしりを繰り返す。

 それに、何よりも。 

 「…ふざけるな」

 カトナの脳に血が走る。
 逆鱗に触れられ、呆気なく、感情が暴発する。
 噛みしめた歯が、砕ける。
 握りしめた手に、突き刺さる爪が痛い。
 けれど、カトナの脳はそれを知覚しない。
 怒りが胸を焼く。
 体が熱く、息が荒い。
 それを体感しながらも、カトナは目の前の男を睨み付け、怒鳴った。

 「ふざっ、けるな!!」

 瞬間、赤のチャクラが辺りに這いだす。
 荒々しいチャクラの所為で焼き尽くされていく。豪火の思いが、全てを燃やし尽くしていく。

 「彼奴は、私の幼馴染だ!! あいつは私の仲間で、あいつは」

 ちかちかと、視界で瞬く。
 彼に自分が一体何を強いたのかぐらい覚えている。
 彼にどれほどのひどいことを、汚いことを押し付けたのかも、知っている。
 彼が自分にどんな感情を抱いているかもわかっている。
 化け物がそれを忘れても、人間のカトナが忘れない。
 サスケは、サスケだけは!!

 「あいつは!!」

 そこから先は、奔流の如き溢れたチャクラで、大蛇丸の耳には聞こえなかった。

 「お前なんかに!! お前なんかに!!!!」

 カトナの激昂した声が響き、森が、木が、カトナのまとう赤いチャクラに触れた瞬間、発火する。
 カトナの襟首を掴んでいた大蛇丸の手が、まるで水彩の絵の具に水を浸したように、輪郭があやふやになり、痛みを感じるよりも先に溶け出す。
 輪郭がぼけ、肌がめくれ、骨が覗き、血がこぼれる。

 「なっ!?」

 慌てて、子供から手を離し、自分の手がそこまで傷ついていないことを確かめた大蛇丸に向けて、激情のままに溢れるチャクラを振り回す。

 「奪わせない!!」

 二度と、大切な物は手放さない。
 カトナの背中を押してくれた彼を、カトナの背中を支えてくれた彼を、失うわけには、いかない。
 そうすればきっと、カトナは。

 うちは、サスケ。
 大蛇丸が欲す子供。次の器に彼が欲しいと大蛇丸は思っていたが、しかし、それは目の前の子どもの逆鱗に触れたらしいと、舌なめずりをする。
 なんというすさまじきチャクラコントロール…数々の才能を見てきた大蛇丸でさえも見たことの無いほどのもの。嘆くべきはそのチャクラの保有量の少なさだが、それも大蛇丸の力で改造してしまえばどうという事もない。
 にやにやと笑い、大蛇丸は嬉しそうに笑った。

 「面白い!!」

 それに対し、激怒した声で吠える。

 「あいつらには、近寄らせない!!」

 カトナの赤い瞳が燃え上がり、纏ったチャクラの衣がひらめく。
 肌が焼かれ、ぼこぼこという泡のような音が溢れ出て、世界が真っ赤に染まる。カトナのチャクラをも呑み込んだ九尾のチャクラは肥大し、紫の光が満ちる。
 大蛇丸がそれを見て笑う。

 ああ、これだ。これこそ、私が欲す素晴らしき才能!!

 大蛇丸の欲すすべてに通じる知識の中には、人柱力をも含まれている。
 特に九尾の人柱力たるカトナと、その九尾をも制御できかねない瞳術を持つうちはサスケにも目をかけていた。
 何の因果か、その二人が同じ班に揃っているという幸運に恵まれた。この絶好の機会を利用するしかないと思っていたが、ただの実験材料でしかなかった人柱力の力が、なんと恵まれていることか!!
 ただで死なせるには惜しい。彼の体を次代の器にするという事も楽しそうだと、うっそりと笑った大蛇丸は、無防備なカトナの首めがけて飛び込んだ。
 それを黙視した瞬間、カトナの赤き衣がうねり、大蛇丸に向けて一つの尾が突きだされる。
 しかし、寸での所で大蛇丸が立ち止る。首の皮一枚切り裂いて止まった尾が、更にコントロールされ、より長く、より鋭くとがろうとした時。

 大蛇丸の首が、伸びる。

 こればかりは、流石のカトナも予想外だったらしい。
 目を見開いた後、カトナは薙刀を構え、大蛇丸の頭を跳ね飛ばそうとする。
 が、大蛇丸の口が開き、長い長い舌が薙刀の柄とカトナの手をからめ、掴む。

 「っ、真昼!!」

 きんっ、という金属音がしたと大蛇丸が認知した瞬間、カトナの水の性質をこめたチャクラが流し込まれ、薙刀がばしゃりと水になり、柄ごと形を失う。
 液体となった薙刀は、地面に落ち、大蛇丸の舌が空を舞った。
 と、次の瞬間、瞬き一つした後に、カトナは鞘に収まっている柄を握っていた。
 大蛇丸が瞠目するより早く、カトナの手が動く。

 「夕焼!!」

 その声と共に放たれた流麗な居合は、ぐるりと空中で渦を巻いた首が避ける。
 仕留めきれなかったかと、カトナがさらに一歩を踏み出しながら、全身のチャクラを目の前の大蛇丸に向けて集中させたとき。
 首に、ちくりと、痛みがはしる。
 慌てて振り返ったカトナの短刀が相手をとらえる前に、視界にその姿が映る。
 目の前の男と、全くそっくりな姿。一瞬のうちに様々な選択肢がよぎったが、しかし、短刀が相手の腹部に深く突き刺さり、白い煙となって消えたのを視認し、一つに絞り込められる。

「かげ、ぶんしんっ…!?」
「うふふ。背後にも気をつけなきゃねぇ?」

 カトナの並はずれた、一点に対する、途切れることの無い集中力が、裏目に出た。いつの間にか接近してきた大蛇丸の影分身に、気が付けなかった。大蛇丸の隙に、全身のチャクラを前に出したのもまた失敗だろう。後ろにしておけば、ギリギリ守りきれたというのに。
 舌を打ちながらも、全身のチャクラを背後の大蛇丸に向けて尖らせようとした時、どくりと、心臓が鳴る。

 あつっ、い?

 カトナがそう思った瞬間、抑えきれない慟哭が口から出される。目をつぶり、声帯が動くがままに叫んでいるカトナの頬を、黒い墨のようなものが這う。
 それでもなんとか、木に自分の指をくいこませ、立ち続けていたカトナの体を取り巻くチャクラが、黒いもので覆われていく。
 大蛇丸はその様子を満足そうに眺めた後、カトナの首でのたうちまわっている蛇のような形の呪印に向けて笑った。
 そして次の瞬間、彼の姿が風と共にその場から消える。
 残るのは、その男があざ笑うようにして出した声だけ。

 「おやすみなさい、いい夢を見るわね」

 にやにやと笑う男の姿が瞬時にその場から離れたのをとらえながら、カトナは首を押さえつつ、気力だけで保っていた体から力を抜く。
 指が、木から離れる。
 すぐさま、支えを失った体は地面に倒れ込んだ。
 ばんっ、と衝撃が体を襲うが、それ以上の痛みが全身を貫く。
 このままでは駄目だと集めたチャクラが、すぐさま呪印の元に収束し、激痛が全身を這いまわり、目から涙が溢れかけた。
 いたいと、声にならない、かすれた吐息が漏れ出る。
 それでも、カトナは二人の元に向かおうと、地面を這う。
 爪に土が入り、地面に食い込ませた指が医師に触れる。
 痛い、痛い痛い痛い。
 変化の術を行使し続けているカトナの体に刻まれた呪印は、変化の術を維持する僅かなチャクラをも吸い上げ、カトナの体を苦しめる。
 あっという間に、カトナのチャクラが搾り取られる。それどころか、封印術にまで干渉し、九尾のチャクラをも吸いだそうとしている。
 はやく、はやく。
 さすけが、さすけが。
 さすけ。
 脳裏に思い浮かぶ傷だらけの彼を、センボンが突き刺さってまるでハリネズミのようになった彼を、自分を抱きしめた彼が自分のもとに崩れ落ちてきたときのことを、思い出す。
 もう、二度と。
 必死に這いあがって、なんとか近くの木によりかかりながらも、周りを見渡そうとした彼女の耳が声をとらえる。

 「先輩!?」

 聞きなれたその声に、カトナは大木にもたれつつも、声が聞こえた方向を見る。こちらを見て驚いた顔をした少年は、あわててカトナの方に駆け寄ってくる。
 なんでここにと、目を見開いたカトナは、小さく、その名前を呼んだ。

 「な、ら?」
 
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