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胸よ大きく

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第三章


第三章

「いきなりどうしたの?」
 お母さんはそんな素子を見て少し呆れていた。何をしているかとさえ思った。
「そんなことをして」
「ちょっとね」
 お母さんには答えない。ただ気合を入れて豆乳を飲むだけである。ゴク、ゴク、と喉を鳴らして次々と飲む。お母さんはそんな娘を見て目を顰めさせるのだった。
 だがふと。あることを思いそれを言う。
「ダイエットなのかい?」
「そう見える?」
「あんた最近太り気味だし」
「違うわよ」
 その言葉には顔を顰めさせて否定する。
「そんなのじゃないわよ」
「じゃあ何なんだい?」
 娘にそっくりな顔を怪訝なものにさせる。素子は完全に母親似なのだ。
「それじゃあ」
「まあ近いところよ」
 こう述べるだけであった。
「それだけ」
「何だかわからないけれど無理はしないでおくれよ」
 そんな娘に対してこう述べた。
「身体壊されたら元も子もないからね」
「わかってるわよ。豆乳飲んでるからそれは大丈夫よ」
 流石に豆乳の栄養はわかっている。だからこそこう言葉を返したのだ。
「それにダイエットじゃないし」
「そうなのかい。まあそれでも無理はしないでね」
「ええ」
 笑顔で言葉を返す。しかしある意味無理はしていた。素子はその日からお昼もキャベツに牛乳か豆乳でいつもしきりに身体を動かしていた。それは高志にもわかった。
 あまりにも様子が変わったので素子曰く鈍い彼も妙に思った。それで食堂でやはり特別に注文した千切りキャベツを必死に食べている素子に尋ねたのである。
「どうしたの、最近」
「何が?」
 素子はキャベツを食べている顔をあげてきつねうどんを食べている高志に尋ねた。
「いや、最近さ。キャベツばかり食べているけれど」
「ちょっとね」
 くすりと笑うだけであった。
「していることがあって」
「していること?」
「そうなのよ。高志君の為にね」
「僕の為っていうと」
 彼もここで思ったのは素子の母親と同じであった。そうした意味では普通の考えだがそもそも素子が今していることが普通とは少し違うのでこれは外れた。
「ダイエットとかなら」
「お母さんと同じこと言うのね」
 これには素子も思わず笑ってしまった。そうして言葉を返す。
「違うわ」
「違うんだ」
「ええ。けれど高志君の為よ」
 こう言ってまた笑う。
「だから安心して」
「僕の為ねえ」
「多分もうちょっとしたら結果が出るから」
 そしてこう告げるのだった。
「もうちょっとしたらね。それまで待って」
「何だかよくわからないけれど僕の為なんだ」
 そう言われると悪い気がしないのが人情である。それは彼も同じである。
「それなら」
「待っているだけでいいから」
 またキャベツを食べ出して言う。その横には当然ながら豆乳もある。
「御願いね」
「わかったよ。じゃあ期待しておいていいかな」
「是非共」
 またしても笑顔を彼に向ける。
「何があってもね。あと」
「あと?」
「今日の放課後暇?」
 それを彼に尋ねてきたのであった。
「どうかしら、今日は」
「まあ今日は部活もないし」
 彼は陶芸部である。素子は美術部だ。二人共文科系なのである。
「時間あるけれど」
「じゃあデートしない?場所は」
「場所は?」
 ここで素子は表情を変えずに頭の中であれこれと考えた。それはかなり長いようでいてほんの一瞬であった。その一瞬のうちに場所を決めたのだった。
「高志君のお家じゃ駄目かしら」
「いいけれど。けれどそれって」
「用意はしてるから」
 この場合は何を用意しているのか。それを聞くのは野暮であった。
「ちゃんとね。それも買いたてよ」
「そう。じゃあいいんだね」
「ええ。そのかわりね」
 ここからが彼女にとっては本題であった。それが目的なのだから。
「胸だけれど」
「胸!?」
「ええ。ずっと触って欲しいのよ」
 それを彼に言うのだった。場所が場所だけにかなり小声であるが。
「御願いできるかしら」
「いいけれど」
 高志は何故素子がそんなことを言うのかわからなかったがそれに頷くことにした。素子がそうしたいというのならそれに頷くだけであった。その日は放課後彼の家で始終素子の胸を触っていた。揉んだりもした。それはその日だけではなく時間があればずっとであった。そうしてそうした日が続いていた。
 そんな中で。素子はまたクラスで佐代と席を挟んで向かい合って話をしていた。話す内容はやはり同じであった。
「それでどうなの?」
 佐代が素子に尋ねてきた。
「効果あった?」
「ばっちりよ」
 素子は右手でサムズアップを作って満面の笑顔で佐代に答えた。
「それも思ったよりずっとね」
「キャベツとかの効果かしら」
「それもあるけれど高志君も頑張ってくれたし」
 やけに油の取れたツヤのある顔の述べてきた。
 
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