八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第六話 ピアニストの入居その五
「ピアノ部の部長だから皆部長って呼んでるんだよ」
「そうですか」
「ああ、ちょっと変わってるけれどな」
「変わってるだけ余計です」
その一杉先輩は男子の先輩の今の言葉に少しむっとした顔になって返した。
「独特なだけです、私は」
「まあいい娘だからさ」
先輩は笑ったまま僕達に話してくれた。
「遠慮なく話してくれよ、じゃあ俺はさ」
「何処に行かれるのですか?」
「ちょっと図書館まで行ってな」
こう明るく言うのだった。
「図書委員の噂の美女を見に行って来るよ」
「そうですか」
「ついでに図書館の中の新聞を読んで来るな」
「中日が勝ったからですね」
「ドラゴンズが勝つと岐阜人としては嬉しいぜ」
どうやらこの男子の先輩は岐阜から来ているらしい、ご自身が岐阜人と言っているのでそれで思ったことだ。
「だから昼を喜びを噛み締めにな」
「行かれるのですね」
「ああ、じゃあな」
「はい、それでは」
一杉先輩は礼儀正しい、小夜子さんのそれとは違い欧州の貴族のご令嬢みたいな仕草で応えた。そうしてだった。
男子の先輩は意気揚々と図書館に向かった、図書館のことはとりあえず意識しなかった。後でまた意識することになったにしても。
そうしてあらためてだ、僕達は一杉先輩と向かい合った。そのうえで僕達は先輩にあらためて頭を下げた。
「宜しくお願いします、先輩」
「こちらこそお願いします」
年下の僕達にも丁寧だ、言葉遣いも気品がある。
その先輩がだ、僕達に言って来た。
「一杉早百合です」
「ピアノ部の部長さんですよね」
「務めさせて頂いています」
その通りだとだ、先輩は僕達に微笑んでこのことをお話してくれた。
「それで今回はどういった御用で」
「はい」
千歳さんがだ、勇気を出している感じで先輩に言った、先輩は千歳さんを見ながらちらりと、それも何度も僕を見ていた。それが妙に気になった。
けれど僕のことはよそにだ、千歳さんは先輩に言うのだった。
「私演劇部に入部しまして」
「今度ファルスタッフを上演しますね」
「アリーチェの役になりました」
「そうですか、おめでとうございます」
「転校して初日に入部して早速ですが」
「それはまた急ですね、しかし」
「はい、やらせて頂くからには」
是非にとだ、千歳さんはこのことは強く言った。
「私もです」
「十二分にですね」
「やらせて頂きたいと考えています」
「頑張って下さいね、私もです」
「はい、演奏を担当されるのですよね」
「ピアノでさせて頂きます」
「それで挨拶に参りました」
千歳さんは年齢以上にしっかりとした様子で先輩に言った。
「宜しくお願いします」
「こちらこそ。貴女のお名前は」
「はい、東山千歳といいます」
千歳さんはここでもしっかりと名乗った。
「演劇部の一年になりました」
「そうですか、では東山さん」
「はい」
「こちらこそ宜しくお願いします」
やはり礼儀正しく受け答えする先輩だった、そのお顔も優しくて気品のあるとてもいい微笑みの顔である。
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