八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第六話 ピアニストの入居その四
「何しろ普通科だけじゃなくて商業科に工業科、看護科、水産科と農業科もあるからね」
「全部あるんですね」
「特進科なんてのもあるよ」
つまり進学コースだ。
「色々あるんだ、うちは」
「それでなんですね」
「農業科は実習で農業とかやるからね」
「田んぼや畑もあるんですね」
「そうだよ、田畑もあるし」
それにだった。
「牧場もあるから」
「凄いですね、学校に牧場もあるんですね」
「大学の農学部の牧場を借りてるんだ」
それでそこも入るのだ、高等部の敷地に。
「だからね」
「それでなんですね」
「そうなんだ、この学校は物凄く広いんだ」
「道に迷いそうです」
「実際に迷うよ」
冗談抜きでそうなる、この学園は。
「迷ったら終わりだよ」
「遭難、ですか」
「実際にそうなった人もいるよ」
本当のことだ、僕も一年生の時同級生がそうなった。
「それだけ広くて色々な場所がある学校だから」
「グラウンドも幾つもありますよね」
「普通は一つだよね、体育館も」
「はい」
本当に普通の学校ではそうだ、何でも奈良の天理高校はグラウンドや体育館が幾つもあるそうだけれどそんな学校はうちも含めて例外だと思う。
「一つだけでした、私の学校も」
「だよね、けれどね」
「この学園は違うんですね」
「普通の学校が幾つも入る大きさだから」
冗談抜きにそうだ。
「気をつけてね」
「わかりました」
千歳さんは僕の言葉にこくりと頷いてくれた、そうした話をしながら一緒に三年生の教室に行った。そうして三年A組、その一杉さんのいるクラスの前に来た。
そこでだ、たまたまクラスから出て来た男子の先輩の一人に声をかけた。
「あの、すいません」
「ああ、あんた二年の八条家の」
「はい」
とりあえず僕のことは軽く返した、また親父の話になるかも知れないと思って。
「実はこちらの一杉先輩にお会いしたくて」
「ああ、部長ね」
先輩の名前を出すとだ、男子の先輩は笑って返してくれた。
「部長ならクラスの中にいるよ」
「そうですか」
「こっちに呼ぼうかい?」
「はい、お願いします」
「それじゃあな、ちょっと待っててくれよ」
男子の先輩は笑って僕と千歳さんに答えてくれた、そうしてだった。
一旦クラスに戻ってから茶色の長い髪を丁寧に整えた女の人を連れて来てくれた。水色のブレザーとミニスカートに赤いネクタイと白のブラウスといった制服だ。黒のストッキングで脚を完全に覆っている。
目は大きくやや切れ長で睫毛の長い二重だ、鼻は高くて唇は小さい。豊かな少女漫画のお嬢様そのままの髪型と合っているお人形さんみたいな整った顔だ。
背はそれ程じゃなくて一五五位だ、両手には皮の手袋をしている。男子の先輩はその人を連れて来て僕達に言って来た。
「この人がな」
「一杉先輩ですね」
「ああ、部長だよ」
笑ってまたこの呼び名を出す先輩だった。
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