八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第六話 ピアニストの入居その二
「まさになのよ」
「当たって砕けろなんですね」
「練習するだけしてね」
「当たって砕けるんですね」
「失敗したらそれまでよ」
それはそれで、というのだ。
「むしろ成功させる、絶対にさせるって思ってね」
「そうして前向きに行くんですね」
「そうあるべきよ、じゃあいいわね」
「わかりました、やってみます」
「別に死ぬ訳じゃないからね」
舞台で失敗しても、というのだ。
「だからね」
「当たって砕ければいいんですね」
「それでいいのよ」
美沙さんの言葉は強いままだ、この当たって砕けろは確か第二次世界大戦の時のアメリカの日系人部隊の合言葉だ。
「わかったわね」
「はい、じゃあ」
「そういうことでね」
美沙さんは美沙さんのやり方で千歳さんを励まして千歳さんも応えた、そうしてだった。
千歳さんもだ、幾分か気を取り直してこう言った。
「やってみます」
「頑張ってね、うちの演劇部は活動が盛んだけれど」
僕はとりあえず知っていることを美沙さんに話した。
「いい人達ばかりだから」
「はい、そうみたいですね」
「雰囲気のいい部活だって評判だからね」
「特に部長さんがですね」
「うん、あそこの部長さんは小柄だけれど」
女性の部長さんのことだ。
「演技力と指導力が抜群で公平でね」
「そうですか」
「うん、そうだよ。だからね」
それで、とだ。僕は千歳さんにさらに話した。
「あそこにいて悪いことはないよ」
「わかりました、あと」
「あと?」
「一つ言われたことがあります」
ここでだ、千歳さんから僕に言って来たことがあった。
「今回の舞台ピアノ部が協力してくれるそうで」
「ピアノ部が」
「はい、演劇部の部長さんとピアノ部の部長さんがお友達同士らしくて」
「ピアノ部の部長さんね」
「ご存知ですか?」
「うちの学校の有名人の一人だよ」
ただ巨大なだけではない、うちの学園は色々な人がいる。それでその中には有名人も非常に多い。その部長さんもそのうちの一人だ。
「物心ついた頃からピアノをしててね」
「ピアノが凄く上手なんですよね」
「八条大学芸術学部音楽科への推薦も決まってるらしいね」
何でもあちらからスカウトが来たそうだ。
「コンクールも何度も優勝してる」
「本当に凄い人なんですね」
「そうそう、それでお名前はね」
「一杉さんですよね」
千歳さんは自分から言おうとした名前を言って来た。
「部長さんからお聞きしました」
「あっ、もう聞いてるんだ」
「はい、まだお会いしていませんけれど」
「そうなんだ、それじゃあね」
「それならですね」
「うん、明日挨拶しに行く?」
そのピアノ部の部長さんのところにだ、僕は千歳さんにこう提案した。
「一杉さんのところに」
「三年の方々の教室に行って」
「うん、一人で心配なら」
そもそも千歳さんは入学して一日目だ、校内のマップも頭に入っていないだろう。僕は道案内も兼ねて申し出た。
「僕も一緒に行くから」
「大家さんもですか」
「それでどうかな」
こう千歳さんに提案した。
「僕も一緒で」
「お願い出来ますか?」
少し上目遣いの感じになってだ、千歳さんは僕に確認をしてきた。
ページ上へ戻る