| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

無欠の刃

作者:赤面
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

下忍編
  親心

 べちゃりと、首から血を流し、死んだ男の亡骸を何も言わず眺めていた白は、カトナの方を振り返る。カトナは満足気にガトーの死体を眺めていたが、サスケの方を見やる。見られたサスケは、その視線が何を意味しているのかに気が付く。伊達に何年も一緒にいたわけではない。
 はぁ、とため息を吐きながら、慣れた様子でガトーの死体によると、間違いが無い様に確認する。

「燃やして」
「首は切り取らねぇのか?」
「此奴の首、金になるの?」
「脅しにはなるだろ」

 そんな会話をしていたが、カトナにとっては決定事項らしいという事を悟ると、火遁、豪火球の術を使い、燃やす。
 ごうごうと燃え上がる死体を、何も捉えていない目のまま、無表情で見つめていたカトナは、その死体が灰すらも残らずに消えたのを見送ると、やっと安心したように息をつき、辺りを見回す。

「…これ、俺らの任務って橋を守ることも入ってなかったか?」
「入ってたよ?」
「なおさなきゃいけねぇのかよ。だるいな」
「みんなでやれば、あっという間だよ。そこにいる奴らにも手伝ってもらえばいいし」

 そういって、治療し終えた君麻呂、ガトーを殺して血だらけの白、九尾のチャクラで焼かれて火傷を負っている再不斬をさしたカトナは、にこりと笑った。

・・・

 夥しい量の火傷に、痛みを感じていながらも、まったく表情に出さないまま、ガトーを殺したことで流された血を、水遁の水で流していた再不斬の肩を、先ほどまで白を治療していたカトナが叩く。

 「怪我、みせて」

 暫し考え込んだ後、再不斬は己の腕をカトナに見せる。己が傷ついた原因の子供とはいえ、これは「橋をなおす」という依頼の代わりに、カトナが述べてきた代償だ。不用意に傷つけて気はしないだろう。もししてきたのならば、それは殺せばいいだけの話だ。
 単体での力なら、カトナは再不斬には到底敵わない。何せ、相手はA級犯罪者。まだまだひよっ子のカトナでは、生き残るだけで精いっぱいだし、ナルトを守りながらなら守りきることしか出来ない。…先程のように九尾の力を借りでもしない限りは。
 じわじわと、全身をまだ嬲りごろされているような、そんな独特の感覚と痛みが体を襲う。
 封印式が、熱い。燃えるような、焼けるような、そんなあつさを体中が訴える。
 もしも、カトナがその封印式を見れたならば、それとも、カトナがダボダボの服を着ていなかったならば、その封印式が赤く発光し、熱を持っていることに気が付いただろうが、見えないため、誰も気が付かない。
 カトナは無表情のまま、今自分に起きているであろう事態を推測する。
 カトナの知る限りの情報では、カトナに施されているのは特殊な術式であり、ナルトに封印された九尾の力を抑制する、手助けするためのものだ。
 その術式をカトナがいじってしまったため、カトナが意識的にはまだ無理だが、無意識的に、それこそ感情の暴走で九尾の力を利用できるようになっているのだろう。
 カトナのチャクラコントロールは、例えいきなり自分が扱うチャクラの量が膨大になったとしても、その能力は際限なく発揮される。つまりは、ほぼ無敵状態になる。
 おさえ込もうとして抑え込めれるレベルをとうに越している。
 …三代目に封印式を再構築して貰うように頼まなきゃなぁ、とのんびりと思いながら、包帯を巻くカトナを見ていた再不斬はふと、昔のことを思い出した。

 再不斬。その名前のとおり、一度切りあった人間を再び斬ることはない…つまり殺してしまう。鬼人、人殺し、霧隠れが生んだ怪物。つけられた名前はそんなもので…。
 忍の強さは時に嫌われ疎まれる。再不斬の強さもまた嫌われて疎まれて、彼は周りにとって、必要ない存在だった。

 最初に、そんな彼の傍に来たのは、哀れにも運命に翻弄され、親に殺されかけた、脆い、子供だった。
 脆く細く、何よりも弱弱しく。それなのに、再不斬に比べれば、とても素晴らしい才能を持ち、意思を持った強い少年だった。
 その姿を見た時、雪の様だと、再不斬は思った。
 純粋で、世の中の汚れを見てきたはずなのに、彼自身には汚れが一つもなく、いくら汚されても溶けて消え、そしてもう一度、白く生まれ変わる雪の様だと思った。
 儚いようで強く、その姿を見たままのように脆く、美しい存在。
 『白』とそう呼べば、彼は嬉しそうに自分に向かって振り返り、名を呼んだ。

 「再不斬さん」

 再不斬の名前を、本当に幸せそうに呼ぶから、まるで再不斬を何よりも大切な物のように扱って、子供が親に向けるような、理由のない尊敬と圧倒的な密度の愛情を向けてくるのだから、いつの間にか絆されて、許された。


 その次に、再不斬の手を握ったのは、自らの力を恐れられ、親に見捨てられた、儚い子供だった。
 出会いは最悪で、いきなり血継限界で襲いかかられたときは、うっかり殺してしまうところだった。
 強いのに弱く、あまりにも動きは単調で戦いなれていなくて、興味を示した再不斬が差し伸べた手を、彼はとった。
 白とは正反対で、なのに、良く似ていると思わせてしまう存在だった。
 『君麻呂』と呼べば、彼は目を何度か瞬かせ、そして無表情のまま、再不斬の前に傅き、名前を呼ぶ。

 「何か御用ですか、再不斬さん」

 再不斬をまるで王のように崇め、自分が生きる意味だと扱う彼に危うさを感じ、それ以上に、自分を崇めるその信頼に、屈託なく屈折なく、まっすぐに向けられるその思いに、彼の心は溶かされた。


 そうやって二人を手に入れて、霧を抜け、追い忍を殺し、時には依頼をこなし、人を殺し、着々と力をつけていた時、いきなり、君麻呂が病に体をおかされた。
 ごほごほと何度も咳き込み、そして彼の口から零れた赤い血を、再不斬は忘れられない。
 何度も見慣れていた筈なのに、何度も見続けたはずなのに、なのに、君麻呂からこぼれ出たというだけでそれは恐怖の対象となった。
 その時、再不斬は、ほぼ初めて、他人が理由で恐怖を抱いた。
 白が、君麻呂が死ぬときがないと、再不斬はそう言う風に感じていた。自分が死にかけても、白が死にかけても、君麻呂が死にかけても、でも死ぬわけがないのだと、どれだけ死にかけても結局は生き残るだと、確信がない、ただの希望的観測が再不斬の心を支配していたのだ。
 なのに、それは、君麻呂という儚き存在が気圧された病によって、いかに儚く脆い物かを知らされ、再不斬は二人の死を少しばかり恐れ、そして失うことを恐怖する自分に気が付いた。
 なんてことだと、弱くなった自分に驚愕し、二人の死を恐れる自分を嫌悪し、それでも二人のことは嫌えなかった。
 そして、君麻呂を失わないようにと、依頼を受けた。
 君麻呂の体を治すには、多額の医療費と腕のいい医者が必要だった。
 だからこそ、この依頼を受けたというのに、それがこんな形で叶うとは思わなかったと、再不斬は目の前のこどもを見つめた。

 背格好からして、年齢は白と同じくらいだろう。意思の強さを象徴する、赤い瞳を光らせたカトナは、再不斬の体にある火傷の痕を治療しつつ、微笑む。

 「…ちゃんと言葉にしないと、伝わらないよ?」

 その言葉にしらをきり、なんのことだと言うことは容易いが、再不斬はなにも言わずに、黙ってカトナを見つめた。カトナはその視線に何も返さず、
 しばらくの間、迷った様子を見せた後、再不斬は声を絞り出した。

 「……今更、言える立場じゃねぇよ」

 人を殺した再不斬が、今更、誰かを好きになったところで、その気持ちは汚れてしまっているし、第一、そうやって好意をまっすぐに伝えることは、大人になってしまった再不斬には、とても難しい。
 好意なんて、そんな綺麗な感情を剥き出しのまま伝えれるような、真っ直ぐさは持ちあわせていない。有るのは精々、人をいかに早く殺すかの技術だ。
 再不斬の手は汚れてしまっていて、本当は二人に触ることさえ耐えがたい。傷つけてしまいそうで、扱いにくい。

「…それだけ、大切なんだ」
「そんなんじゃねぇ。てめぇの予想とはちげぇよ」

 そういって否定するくせに、再不斬が二人を見つめる目はとても優しくて、抱く感情は柔らかくて。
 それはきっと、親が子に抱くものととても似ていた。
 理由はなく、感情が心に溢れ、思いが体中を見たし、なんの代価も代償もないのに、溢れるそれは愛情によく似ていたけれど、そんなものを受け取ったことが無い再不斬は、何も知らなかったし、気づこうとはしなかったけれど。

 けれど、その気持ちは、暖かくて、優しくて、ふわふわしていて、途絶えることはなく、表には出ないけれど、確かに再不斬の心を満たしていた。
 それは紛れもない、薬にも毒にもならない、平凡な―けれど、ありふれているからこそ、何よりも大切な水のようなそんな感情。

 まったく、鬼人も落ちたものだと思いながら、カトナは揶揄する。

「…ツンデレ」
「殺されてぇのか」
「私、貴方の大事な二人の恩人」
「俺がその程度で揺るぐと思うか」
「兼、友達」

 少しばかり、再不斬が動揺する。
 彼は二人を大切に思っていて、二人が忍びである前に子供であるという事実を分かっている。彼らが友達というものが欲していることもまた、うすうす気が付いていた。
 そんな二人が、友達と呼ぶ子供を傷つけることは、流石に躊躇われたらしい。
 その行動の、なんと忍びらしくないものか。これがあの、霧がくれの鬼人と謳われた再不斬だとは、到底思うことが出来ない。まるで普通の人間と変わらない、自分と夢を語り合った同じ生徒を殺し合い、両手を血でそめた男になんて見ることは出来ない。

 今、カトナの目の前にいる男は、ただの、『自分の子供を心配する過保護な父親』にしか、見えない。

 人は変わることが出来る。その言葉を体現しているなぁと思いながら、カトナはくすくすと笑う。 

「やっぱり、親っぽい」
「…うるせぇ」

 そうやって、こちらを睨み付けて照れくさそうにする姿は、血がつながっていなくても、二人との関係は確かに強固だと確信させるには十分なもので。
 よかったねと、カトナは、今頃ナルトと話しているであろう白と君麻呂に思いをはせ、少しばかり彼らを羨んだ。

 私の父親も、こんな風ならよかったのになぁ。
 そうしたら。


 ナルトは九尾の人柱力になんてならなくてすんだのになぁ。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧