八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第三話 女難、当たった!その十三
「小林小夜子様ですね」
「は、はい」
綺麗な女の人の声だった、いささかボーイッシュな趣と妙なテンションの高さが感じられるにしても綺麗な声だった。
「そうです」
「義和様、この方もです」
「入居される人ですか」
「は、はじめまして」
何か随分とおどおどした物腰と口調だった、けれど。
姿勢はいい、背筋がしっかりとしている。和服を見事に着こなしている。何か育ちのよさをかなり強く感じさせる。
その人がだ、僕にも挨拶をしてきた。
「管理人様ですね」
「はい、そうですけれど」
「八条義和様でしたね」
「そうです」
「はじめまして」
僕にも挨拶してくれた、頭を深々と下げて。
「小林小夜子、今日から八条学園高等部に通わせて頂きます」
「うちの学校ですね」
「そうです、実家は広島ですけれど」
「広島ですか」
「広島の呉の生まれです」
海軍の街だ、僕もこのことは知っている。
「両親は今も呉にいます」
「呉にですね」
「そこでお茶にお花、日舞と書道の先生をしています」
「全部ですか」
「はい」
「そして小林様もです」
ここで畑中さんが僕に言ってくれた。
「その全てで」
「茶道も華道もですか」
「免許皆伝です」
「それは凄いですね」
「いえ、そんな」
また小林さんが言う、相当に戸惑っていて慌てている口調だ。
「私はそんな」
「けれど免許回転ですね」
「そうですが」
「それは凄いですよ」
僕は小林さんに素直に感じたことを述べた。
「普通は一つでも難しいですよ」
「免許皆伝はですか」
「そうですよ、それを四つ全部なんて」
「両親に教えてもらいましたので」
やはりこう答える小林さんだった。
「別に。あと」
「あと?」
「私のことは名前でお呼び下さい」
僕と畑中さんへの言葉だった。
「その様にお願いします」
「お名前で、ですか」
「それでお願いします」
そうしてくれというのだ。
「小夜子と」
「それでいいんですか?」
「はい、お願いします」
また深々と頭を下げつつ言って来る、背は一七〇位あって僕より八センチ位低いだけだ。女の子としてはかなり高い。
けれどだ、その背でだ。
僕に深々と頭を下げて来る、黒のロングヘアが如何にも大和撫子だ。そのうえで僕に対して挨拶をしってくる。
そうしてだ、僕にまた言って来た。
「それで」
「それじゃあ」
「そうですね」
小林さんの言葉を受けてだ、僕と畑中さんは顔を見合わせた。そのうえで頷き合ってからだ、小林さんに向き直って言った。
「じゃあ小夜子さんと」
「小夜子様で宜しいでしょうか」
僕達はそれぞれの呼び方で小林さん、小夜子さんを呼んだ。
「この呼び方で」
「構わないですね」
「お願いします、小林と苗字で呼ばれるのは」
それはというのだ。
「昔から抵抗がありまして」
「だからですね」
「はい、これでお願いします」
また言う小夜子さんだった。
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