少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第119話 ずっと一緒
ロシュオが、死んだ。
「王さま……っ」
碧沙の目尻から滴が落ちた。ぽたぽた、止まらない。いつのまにか自分は泣くほど彼に情を寄せていたのだと、初めて気づいた。
「――咲ちゃん、ヘキサちゃん」
戦いを終えて変身を解いた紘汰が歩み寄ってくる。碧沙は手で涙を拭った。
「葛葉さんは先に帰ってください」
「けど」
「高司さんが待ってます。わたしたちも、後からちゃんと行きますから」
「――分かったよ」
紘汰は一度だけ、痛ましいものを見る目をロシュオの骸に向けて、碧沙たちとすれ違って去った。
『ヘキサ……』
「これで、よかったのかな。わたしちゃんと、最後まで見守るって、できたかな」
“できたわよ。ちゃんとね”
優しい声がした。母というものを知らない碧沙でさえ、お母さんってこんな声かな、と思うくらいに。
歩いてくるのは、白いドレスと銀のストールをまとった、金髪にオッドアイの女性だった。
「――お妃さま?」
『え!? このひとが!?』
白い女性は、碧沙の呼びかけに、にこりと笑って、碧沙の隣にしゃがんだ。
“あなたのお兄さんがくれた生命エネルギーが、こうしてお礼を言う時間をくれた。ほんの僅かな時間だけど”
白い妃は赤と黒のオッドアイをやわらかく細め、微笑む。
“ありがとう。最後までこの人のそばにいてくれて”
「……それだけしか、ほんとに、できませんでしたよ?」
“いいのよ。それで。私にはもうできないことだったから”
白い妃はロシュオの胸にそっともたれた。
“これで、私もこの人も、あそこへ還る。あの城で、これからはずっと一緒に――”
碧沙たちが見守る前で、白い妃は粉雪のように消えて行った。
『……ねえヘキサ、さっきの、あたしのゲンカクじゃないよね?』
「うん。わたしも視て、話したから。まちがいないよ」
『そっか……』
碧沙はロシュオの傍らに座り込み、白い妃がしたように、彼の頬を撫でた。
「咲。王さまをお城に――お妃さまのそばにもどしてあげたいの。わたしの力じゃ運べないから、おねがいしていい?」
『そのくらいなら、いい、けど』
「ありがとう」
碧沙と月花でロシュオの両側に回り、背中に何とか手を差し入れる。
「『せーの!』」
物言わぬ骸の上体だけを起こし、そこにすかさず月花が後ろから抱きつき、ヒマワリフェザーを展開した。
『ちょ、ちょっち重い、かもっ。う~』
「咲、がんばっ」
――碧沙の声援を受けつつ、月花は“森”を低空飛行しながら、どうにかロシュオの骸を城まで運び遂せた。
月花がロシュオの骸を石の玉座に座らせた。
『はあ、はあっ』
「ごめんね、咲。だいじょうぶ?」
『ん、だいじょーぶ』
碧沙は玉座に向かい、合掌した。
せめて悼みたい。ここで確かに生きて、運命と戦った王と王妃を。滅びた彼らの文明の命たちを。
「……待たせてごめんね。行きましょ」
『うん。じゃ、つかまってて』
碧沙は月花に横抱きにされるに任せた。
月花はヒマワリ色の翼を羽ばたかせ、碧沙を抱えて遺跡から飛び立った。
(これからはずーっと、奥さんといっしょですよ。ロシュオ)
後書き
最後の最後にやっと名前を呼んであげられたヘキサでした。
これにて本当の意味で本作も原作もオーバーロード編が終わったのかもしれません。
本作においては最終章「運命の決着編」が次話から始まります。
自分が選んだ「運命」は原作のものとは大きく異なる点がいくつもありますが、それでも、見届けてくださるという方がいらっしゃれば幸いです。
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