少年少女の戦極時代Ⅱ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
禁断の果実編
第118話 フェムシンムの滅び
戦場は川辺に移っていた。
紘汰だけが上から見える。戒斗は――いた。河原と森の境に倒れている。
『紘汰くん……』
咲はきっとすぐにでも紘汰の下に降り立ち、彼の盾となりたいだろう。だが、碧沙を抱えて飛ぶ月花はそうしない。碧沙が腕の中にいるから。
(わたし、ずるい子だ)
ロシュオが倒れた紘汰に歩み寄り、斬鉄剣を揮おうとした――その瞬間だった。
突如としてロシュオの背後に、空気から滲み出すようにレデュエが現れたのは。
ぶわりと、厭な予感が溢れ返った。
「王さま、よけてええええ!!」
碧沙の叫びも空しく、レデュエが放った光弾は、呆気なくロシュオの体を貫いた。
『フッ……ハハハハハハ!! 油断召されましたなァ、王よ!』
『レデュエ……!』
月花が碧沙を抱えて着地した。
「王さま!」
『来るな!』
ロシュオの声の圧力に、駆け寄ろうとした碧沙の足は地面に縫い止められた。月花もまた同じようだった。
『この瞬間をずっと待ち焦がれていた。黄金の果実。世界の全てを弄ぶ力が、ワタシのものに!』
レデュエはロシュオに開いた穴から手を突っ込み、ロシュオの身体から金に輝くリンゴを取り出した。嘲笑が河原に木魂する。
しかし、そこで、見ていた碧沙たちにさえ、信じがたいことが起きた。
レデュエの手の中にあった果実の黄金が褪せ、ただの腐った林檎に成り果てたのだ。
レデュエは腐った果実を投げ捨て、自らの王であるはずのロシュオを蹴り倒した。
『ロシュオぉ!! 言え! 本物はどこに隠したぁ!!』
レデュエがロシュオに馬乗りになって殴りかかる。
『我らフェムシンムは、ぐ、役目を、終えた……愛する者よ、ぐはっ、これで私もお前のもとに……』
『ふざけるなぁ!!』
レデュエは杖槍をロシュオに何度も、何度も、癇癪のやまないコドモのように突き立てる。
『いいかげんに――しろぉぉぉ!!』
ついに月花が動いた。ヒマワリフェザーを機動し、レデュエを切り裂こうとした。レデュエは忌々しげに飛びのいて避けた。
その隙に碧沙はロシュオに駆け寄った。
「王さま、王さまっ」
『グ、フ……死ぬまで、離れぬ、か、ジュグロンデョ、よ……』
「いいえ、いいえっ。ただ心配だから。ただあなたという人がキズついたから、わたしたちはそばに来ただけです」
――ロシュオはシドを殺した。しかし、碧沙はその件でロシュオを恨んではいなかった。正確に述べると、恨んではいたが、死んでしまえと思うほどではなかった。12歳の少女の情念の限界だった。
むしろ、舞を通して孤独な王を見る内に、碧沙の中に彼に対する情が芽生えた。
「レデュエぇ!! お前みたいな奴は、ここで俺がぶっ潰す!!」
紘汰が立ち上がり、壊れたカチドキロックシードをかざした。
紘汰の両目が赤く光った。するとカチドキロックシードは一度、多角形の果実となり、次いで完全に修復されたロックシードに戻った。
(自分でロックシードを、直した? 果実をロックシードに変えるならともかく。そんなことできるの、わたしが知ってる中じゃ王さまくら、い……)
まさか。碧沙は慄然として、変身している紘汰を見た。まさか彼は、すでに――
碧沙の疑念を裏付けるように、戦いの中でヘルヘイムの蔓をレデュエがけしかけた時、まるでそれにやり返すように別の蔓が鎧武の後ろから伸び、ロシュオの斬鉄剣を拾って鎧武の手にもたらした。
ロシュオの形見の剣で鎧武はレデュエに斬りかかる。斬鉄剣は過たずレデュエの胴を貫いた。
鎧武は一度下がり、火縄大橙DJ銃を構え、オレンジの錠前をセットした。
火縄大橙DJ銃から発射されたエネルギー砲は、レデュエに着弾し、爆散させた。
「王さま、やりましたよ。葛葉さんがレデュエのことやっつけてくれましたよ」
呼びかけてもロシュオは答えない。その意味を分からないほど、碧沙は鈍くなかった。
ページ上へ戻る