少年少女の戦極時代Ⅱ
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禁断の果実編
第110話 救出作戦 ③
凌馬の先導で、一同は建物をどんどん下へと降りて行った。まるで地獄へ下っていっているみたい、と思った咲だったが、口にできなかった。あの凌馬の案内なのだ。シャレにもならない。
開けた場所に出た。特に何もない工場の広い道、という印象だ。
途端にけたたましい警告音が鳴り渡り、咲はとっさに両耳を塞いだ。
「何これうるさ~い!」
「あー。そういえば侵入者対策で無人の迎撃システムがあってね」
「何で先に言わないんだよ!」
天井が開き、無人のスイカアームズ・ヨロイモードと、チューリップホッパーが無数に地面に着地した。
スイカ・ヨロイモードとチューリップホッパーは、さすが無人で、咲たちに何の酌量もない銃撃をしかけてきた。
「プロフェッサー! システムの解除は」
「あ~……内側からは簡単なんだけど外からは無理だね」
そんなことだろうと思った。緊迫した場面ながら、咲は溜息を禁じ得なかった。
「ザック! 湊! 俺たちで食い止めるぞ」
戒斗、ザック、湊がおのおののロックシードを開錠し、ドライバーのバックルにセットして変身した。
3人のアーマードライダーが躊躇なく戦場に飛び込む。バロンとマリカはソニックアローを、ナックルは両手のクルミボンバーを駆使して、迎撃システムと乱戦をくり広げている。
『葛葉! 室井! お前たちは先に行け!』
そう言われては留まってもいられなかった。ためらったものの、咲と紘汰はバロンたちに背を向けた。
「道案内は、私に任せたまえ」
凌馬が進んだ脇道に咲も紘汰も入り、砲撃を避けながら、どうにかそのゾーンを抜けた。
並んで速く歩く紘汰と凌馬に、咲は何度も小走りをしながら付いて行く。
狭い地下道は、灯りが煌々と照っていてもどこか空恐ろしくて――この先に待つのが地獄への門のような気がまたして。咲はつい、追いついた紘汰のシャツの裾を握った。
紘汰は咲の情けない所作に気づくや、笑って咲と手を繋いでくれた。
「キミたちはどこでも変わらないねえ」
歩くのをやめずに凌馬が言った。
「人がそうそう簡単に変わるわけねえだろ」
「そうかな。キミは特に、人格が変わるくらいの出来事をいくつも経てきたと思うけど? 葛葉紘汰君」
紘汰の、咲の手を握る力が、強くなった。
「それでも変わらないと言うのなら、キミのアイデンティティはどこにあるのかな?」
蟲に肌を這われたように気持ち悪い、そんな問い方だった。
紘汰が答えなかったので、そこからは無言の道行きとなった。
やがて徐々にヘルヘイムの植物が見えるようになっていき、それらが密集したドアに辿り着いた。
「こいつは…!」
「いよいよ敵の縄張り、ということだ。ここからは腹を括るしかない」
今までと変わらない歩調で歩いていく凌馬を、咲は紘汰と繋いでいた手を離して追った。
ここから戦うことになるとすれば、紘汰に甘えてばかりもいられないからだ。
ドアを抜けて進む通路は、一気に天井が高くなった。変電所のイメージだ。
そこに、雄叫びを反響させて、怪物が飛び出した。
「オーバーロード!」
「見つかったかっ」
それは大きな甲羅を背負った、二本脚で立つ亀のオーバーロードだった。背中の甲羅だけでも充分だろうに、武器に斧を持っている。
障害物の多いこの場でヒマワリアームズは逆に不利。爆発で道そのものが崩落でもしたら進めないからドラゴンフルーツアームズも無理。
よって咲は、パッションフルーツの錠前を開錠した。
「「変身!」」
《 オレンジアームズ 花道・オン・ステージ 》
《 パッションフルーツアームズ Time on the Bladedance 》
紘汰が鎧武に、咲が月花に変身した。
月花は紘汰と交替で、時計の針を模した双刃を叩き込む。しかし亀のオーバーロードは上手く背中を向けて甲羅を盾に弾いてしまう。真正面から斬り合っても、悔しいことに斧使いまで上手いため、決定的なダメージを与えられない。
『そんなものは効かぬわ!』
『くっ』
月花は、見物を決め込んでいた凌馬をふり返り、凌馬をびしっと指差した。
『ちょっとは働きなさいよ! でないとこれからプロフェッサー・ニートって呼んでやるんだからっ』
「さすがにそれじゃ格好がつかないなあ」
どこまで本気か分からない態度だ。月花は即座に凌馬に頼るという選択肢を切り捨て、鎧武の援護に戻った。
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