無欠の刃
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下忍編
大切な物
タズナの護衛につきながら、橋に到着したカカシ班の三人が遭遇した光景は、あまり、いいとは言えない光景だった。
以前取り逃がした再不斬と、再不斬を助けに来たお面の少年との対峙。
そして、時間をおかずに、お互いがお互い、何も打ち合わせしていないと言うのに、彼らは同時に自分達の敵である存在をきめ、襲いかかった。
戦争。
表すとしたならば、そんな言葉がぴったりの今の状況で、カトナは目の前の彼を睨み付けた。
相手はサスケが真似できないような特殊な術を使ってきている、どうやら血継限界らしい。実に交戦しにくい奴だと思いながらも、豪火球の術を放ち、氷が解けないかどうかを確かめていたサスケの隣で大太刀を構える。
サスケの豪火球の術でも溶けない…ということは、相当な強度と、熱に耐えうるほどのチャクラが込められているだろう。火は通じないとみていい。ならば、力技で行くしかないだろう。
そう考えて、大太刀を構えて笑ったカトナを見たお面を被った少年は、氷の鏡の中、カトナとサスケのコンビを閉じ込めたこの先で、さてどうしたものかと、首をかしげた。
現在、彼の主たる再不斬は、憎き敵であるカカシと相対しており、その戦いを邪魔立てすることはできない。彼の仲間である君麻呂は、彼らの仲間らしい少年二人を救援に来させないように相手しており、彼の手助けは期待できないだろう。
別に、誰かに助けてもらおうと思うほど期待しているわけでもないし、今この状況に置いて、白はそこまで不利な状況ではない。
だが、彼らの成長スピードが生半可なものではないことは確かだ。
そんな風に考えに耽っていた白を叱り飛ばすように、怒声が飛ぶ。
「なにを、ぼうっと、してる!!」
そういいながら、大太刀を持っていると思えない速度で殴り掛かる。白は焦らずに、大太刀が自分の鏡に触れそうになった瞬間飛んで、横の鏡に映ると、カトナの方へ千本の束を投げる。
大太刀を振りかぶったカトナが、白が居た鏡に当てる。
びきりと、鏡にひびが入ったが、しかし、白のチャクラを込められ、直ぐに元通りになる。
ふむと頷いたカトナは、緩慢な動作で振り返ると、自分に向かっていたセンボンを無視し、次の鏡に大太刀を振り下ろす。
その背中に迫っていたセンボンが、苦無で全て弾かれる。
「サスケ、さんきゅ!」
「お前は、自分のことを気遣いやがれ!」
そう叱咤したサスケのBGMを聞きながら、カトナは次の氷の鏡へと大太刀を振り下ろし、その鏡が修復されるよりも先に、さらに新たな鏡をなぎ倒しにかかる。
この氷の鏡はチャクラによって作られている。ならば、そのチャクラをいかに多用させ、自分達を攻撃するときに使うチャクラを消費させるかが問題であると考え、カトナは振るう。
その背はとても無防備で、攻撃することも、攻撃を当てることさえもとても容易くて、なのに、彼女の背中には攻撃が当たらない。
―それは。
カトナの背中に迫っていたセンボンを全て、写輪眼で読み取り掴んだサスケは、苦無で、新たに投げられたセンボンを弾くと、無防備なカトナの背中を全力で守る。
当たりそうになった攻撃は全てサスケに任せ、背中をサスケに預けきり、カトナはただ、目の前の障害を倒すためだけに戦う。
その関係はあまりにも信頼しきっていて、無防備すぎて、まるで依存しているかのように、お互いがお互いを裏切る筈がないと思いあうような、そんな関係。
「…僕の勘違いでしたか」
似ていると思っていたけれど、どうやら、彼はまったく自分と違うようだと、白はカトナの認識を改める。
白はそんなにも無防備に信頼できるのは、彼の主たる再不斬だけだ。君麻呂も自分と似たようなものだとは知っていて、背中を預けることはできるけれど、彼の前でそんなに無防備に何てなれるはずがない。
もしものときのために、無防備にはならない。
なのに、カトナはサスケに背中を預けきってしまっている。だからといって、カトナがサスケのことを、白が再不斬を思うように思っているのかと問えば、それは全く違うと言い切れる。
カトナのその思いは、あくまでも、サスケではなく、ナルトに向けられている。
なのに、その信頼はサスケに向けられていて。
カトナの存在そのものが矛盾しきっていると思いながら、白はセンボンを勢いよく投げる。
何度投げられたかもわかられないほどに投げられた、そのセンボンを慣れたように取ろうとしたサスケは、ふと、気づく。
自分の後ろにいるカトナに向かい、新たにセンボンが投げられていることを。
そして同時に、視界の端で更に認識する。
白が光速をこえる動きで動き、多方向から一気にセンボンを投げようとしている事実を。
サスケの目が、見開く。
彼の体が、咄嗟に動く。
カトナが異変に気が付かないまま、大太刀を振り下ろした瞬間、その体を突き飛ばし、上に乗っかった。
突然のその行為に成す術もなく倒れ込んだカトナは、慌てて後ろを振り向き、そして、見る。
「無事、かよっ」
串刺しになったサスケの姿。
ごぼりと、その口から血が漏れ、カトナの頬を赤く濡らす。
カトナの目が開かれるよりも先に、サスケの体から力がぬけて倒れ込み、カトナの肩に顔を埋める。
「?」
事態を旨く呑み込めず、カトナは首をかしげて、自らの掌にチャクラを纏わせながらも、サスケの背中一面に、隙もなくつき刺さるセンボンを抜いていく。
一つ抜くたびに、サスケの背中から血が漏れていくが、カトナのチャクラですぐに止血されていく。
迅速で、それでいて乱れないコントロールで、サスケの体からみるみるうちに傷がなくなっていくが、しかし、カトナの手が突然止まる。
チャクラが、たりないのだ。
サスケを治療したくとも、それを治療できるほどのチャクラが無い。
カトナのチャクラは、カトナ自身に施された封印式を維持するために無意識の内に消費されるように、体が勝手にプログラムされてしまっている。
だから、カトナがどんなに欲しても、サスケを治療するほどのチャクラが補給されない。
サスケの体が、少しずつだが熱を失っていく。
「さすけ?」
カトナの、子供のような声だけが響く。
幼気な、汚れの無いあどけない声。
事態が理解できず、まるで難しいことを突きつけられたように、カトナの頭はサスケが死にかけているという事実を理解しない。
カトナが今理解している事実は、たった一つだけ。
『なぜか、サスケが自分にもたれかかってきている』
それだけだ。
だからこそ、カトナには何故、サスケから血が垂れているのが理解できない。
カトナ。
と、かすれたこえでサスケが名を呼び、血だらけの手で、カトナの体を抱きしめて、盾になった。
次の瞬間、サスケの体に、いく本ものセンボンが、突き刺さる。
けれど、カトナには刺さらない。
全てをサスケが庇い、全てをサスケが掴み取り、カトナには何も刺さらない。
カトナの目が遅れて見開かれ、やっと、事態を理解した。
「さす、け?」
カトナの声に、彼は起き上がらない。
彼は、何も返事をしない。
「さすけ?」
祈りを籠めるように、カトナは敵である人間の前で無防備に背中を晒しながら、自分にもたれかかっているサスケをゆする。
サスケは、起きない。
「仲間の死は、はじめてですか?」
白が言う。しかし、カトナは何も返事をしない。ただ、サスケを揺らし続ける。何かを確かめるように、何を見失ったかわからないというように、カトナはサスケを揺らす。
その無防備な背中めがけて、白は力を込めてセンボンを投げた。
「隙だらけですよ!!」
カトナの体に、センボンが近づく。
カトナは振り向かない。サスケを見つめた目が見開かれ、そして動かなくなる。
「さすけ?」
へんじを、して。
そんなかすれた声が上がった瞬間、カトナの首筋に、センボンが突き刺さり、血が、とんだ。
赤い血が、彼女の首から滴り落ち、ばたりと、彼女の体が地面に崩れ落ちる瞬間。
あかいものが、はじけた。
さっ、サスケサスケサスケサスケサスケサスケサスケサスケサスケサスケサスケサスケ、死んじゃダメ、死なせちゃダメ。
不明瞭な思考が、ただ一人を思いだし、更にぐるぐるに掻き混ぜられる。
ナルトが、悲しむ、ナルトが苦しむ、ナルトが傷つく。
ナルトをまもらなきゃ、ナルトをたすけなきゃ、ナルトの為になんでもしなきゃ、ナルトの為なら何でもできなきゃ。ナルト、ナルトしか、好いちゃいけない、助けちゃいけない。
私はサスケを好いていない、私はサスケを好きじゃない。
そうだそうだそうだそうだそうだ、それでいい、それが間違っていない。それこそが正しい。
何を間違えているひまがあった、間違えるな間違えるな間違えるな間違えるな、私が生きてもいいなんて一度も許されたことが無い。私が生きても誰も喜ばない。
私が生きても喜ばれるのは、ナルトが喜ぶから。ナルトが寂しがらないから。ナルトが嬉しくなるから。ナルトが一人にならなくてすむから。ナルトが泣かなくて済むから。それだけ。それだけでしかない。
ナルトだけが、私が生きていい理由。
―なら、私の体も、サスケの体も、どうでもいいや。ナルトを傷つける可能性がある奴だけ、殺せればいいや。それで。
思考が異常をきたし、エラーをおこす。
ゆらりと、カトナが立ち上がり、きょとりと白を見て不思議そうに首をかしげた。
何をしていたのか分からないというような程、不思議そうな目で、カトナは相手を見て小さくつぶやく。
赤いチャクラが漏れだして、カトナの体から、金色の毛並みがそろいだす。
「敵なんだから、殺さなきゃ」
その瞬間、刀が淡い光を放ち、カトナの手に吸い込まれ、その姿を変えた。
大太刀から、薙刀に、姿を変える。
腰からぼふっと、九つの尾が生える。耳が獣のものに変容し、変貌し、カトナの歯が獣のように鋭くとがりだし、爪が異様に伸び、瞳孔が縦にさける。
「なっ、それは!?」
白の驚く声を背景に、カトナはにゅるりと、自分の腰から生えた赤い九つの尾を振り、金色の獣の耳をリズム良く揺らし、薙刀を振りかぶった。
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