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ロックマンX~朱の戦士~

作者:setuna
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第七十九話 North Pole Area

 
前書き
ハイマックスから辛くも逃れたゼロ。
ルインは南極のエリアに向かう。 

 
翡翠の閃光が奔り、ナイトメアの軍勢が衝撃波に呑まれる。
セイバーが振るわれる度に、群がるナイトメアが消滅する。

ルイン「さ、寒い…こんなことになるなら寒冷地用の装備をしてくればよかった……」

人間からすればレプリロイドは万能と思われがちだか、決してそうではない。
特殊加工が施されているとはいえ、水が内部機関に入ると致命傷になりうるし、強い衝撃を何度も喰らうと機能に影響が出る。
レプリロイドにもいくつか種類があり、限りなくエックス、ルイン、ゼロ、アイリス、ルナのような人型のものもいれば、ペガシオンやタートロイドのように動物に近いものもいるが、他にも共通の弱点を述べるなら極低温への弱さがある。
機械の身体は生身の人間よりも遙かに冷えやすい。そのために通常よりも激しくエネルギーを消費する。
白銀の世界は人間はもちろん、レプリロイドも受け入れないということだ。
ここの調査員は寒冷地仕様のレプリロイドである可能性が高い。
ナイトメアやメカニロイドなら充分相手に出来るが、今までの調査員の実力から考えれば少なからず不利を強いられることになるだろう。

エイリア『ルイン、大丈夫なの?』

ルイン「うん、大丈夫…ペンギーゴのとこはもっともっと寒かったから…ここの調査員はブリザード・ヴォルファング…何とか話し合いで済ませられればいいんだけど…」

エイリア『ルイン…私ね…』

ルイン「何?どうしたのエイリア?」

通信越しから聞こえて来る声にエイリアの様子がおかしいと気がついたが、彼女の胸中はいざ知らず、ただ尋ねるだけ。

エイリア『気にしないで、気をつけてルイン』

ルイン「え?あ、うん…」

通信が切れたのを確認したルインはバスターに切り替えて、奥へと進む。







































そしてハンターベースではルナから渡されたプログラムを解析して造られたブレードアーマーの微調整を終えたエックスがトレーニングルームから出て来た。
エックスの次の目的地はマグマエリア。
地下奥深くにある難所であった。
マグマはある時刻になると沸き上がり、居合わせた者を灼熱の海で焼き尽くす。
巻き込まれたら最期。
エックスはマグマが競り上がる前にミッションを終えねばならない。
そう言う意味ではレプリカファルコンアーマーを持つエックスがルインより打ってつけである。

エイリア「エックス、マグマエリアの調査員はブレイズ・ヒートニックス。もしもの時を考えて準備は万端にした方がいいわ」

彼女はヒートニックスの経歴を知っていた。
ずば抜けた戦闘能力を誇り、弱者を見下し、己の強さを誇示した。
彼がエックス程の戦士と合間見えた時どうするか……考えるまでもなかった。

エックス「了解。新しいアーマーもあるから大丈夫さ」

新たなアーマーを得たことで更に強さが増したエックスは揺るがない信念を持って戦場に行こうとする。
しかし、部屋を出る途中にふと足を止めた。

エックス「ところでエイリア」

エイリア「?」

エックス「エイリアは…ヴォルファングというレプリロイドと知り合いだったのか…?」

それを聞かれたエイリアの肩が震えた。

エイリア「………知らないわ」

少し間を置いて言うエイリアにエックスも頷いた。

エックス「そうか…すまなかった…エイリア」

エイリア「何?」

エックス「辛いことがあるなら話して欲しい。俺なんかじゃあ何の力にもなれないだろうけど、すっきりすると思うんだ」

エイリアは思わずエックスの顔を見つめる。
エックスの表情には嘘偽りはなく、本当にエイリアのことを気遣っているのだ。

エイリア「ありがとうエックス…聞いてくれる?」

エックス「ああ、まだミッションまで時間があるし」

解析室を出ると、エックスとエイリアはハンターベースの屋上に出た。
深夜、風は冷たい。
エイリアは冷たい風を全身に受け、心まで凍てつく感じがした。

エイリア「(あの時も…こんな寒い夜だった……)」

エックス「今夜は冷えるな…大丈夫かエイリア?」

エイリア「ええ…エックス。ブリザード・ヴォルファングのことだけど…彼は…私が処分したレプリロイド…なの…」

思い出したくない過去が脳裏を過ぎる。



































『ヴォルファングを処分する』

北極エリア調査本部。
ヴォルファングがイレギュラーとの戦いから命からがら戻ってきたその夜、上司はエイリアにそう告げた。

『あいつは仲間を見殺しに1人で帰ってきた。許される行為ではない。』

エイリア『しかしイレギュラーが仕組んだ罠のせいですよ!?彼が全て悪いわけではありません!!』

当時北極エリアに駐在していたエイリアは猛抗議した。
既にゲイトが造ったレプリロイドが処分されだした頃だった。
上司や同僚がゲイトを嫌っているのは知っている。
だがそれだけの理由でレプリロイドを処分するのは納得がいかなかった。

『エイリア、まだそんなことを言っているのか?ゲイトは数々の危険なレプリロイドを製造し、我々の仲間を危険にさらしてきた。彼のレプリロイドのせいでどれだけのレプリロイドが犠牲になったことか。お前も知っているだろう?』

エイリア『ですが…』

『もう、決まったことだ。決定は覆らない』

冷然と言い放つ上司を彼女は必死になって止めた。
部屋から出ようとする上司の前に立ちはだかり、出口を塞ぐ。

エイリア『行かせません。…処分の決定が覆るまでは』

『………』

上司はしばらく彼女を見つめていたが、ふと視線を落とし、鍵を取り出した。
ヴォルファングが処罰を受け、収容されている施設の鍵だ。

『どうしてもと言うなら、彼を収容所から脱獄させればいい。ただ君の降格は免れないがね』

エイリア『ありがとうございます』

エイリアの胸に希望の灯がともった。
同僚に悟られないように、収容所に向かい、ヴォルファングを連れ出した。
北極エリアと他国を繋ぐ港まで急ぐ。
エリアを出てしまえばヴォルファングの足取りを探るのは難しい。
ヴォルファングは腑に落ちない顔でエイリアの後をついていく。

エイリア『私はあなたを助けたいの。あなただってこの世に生み出された、たった1つの命だもの。死なせたくない。生きることで罪を償って…それが彼の魂の救いになる』

命、魂。
エイリアは当時その存在を信じていた。
親友の影響があったのも否定は出来ないが、この時までは彼女は“夢”を持つレプリロイドであった。
出港直前の船にヴォルファングを乗せる。
ヴォルファングはすまなそうな、同時に安堵した顔で船に乗り込んだ。
船がゆっくりと北極の海を出港し、全てが終わったと思われた。
…しかしヴォルファングは処分された。
船に戦闘型レプリロイドが潜んでいたのだ。
レプリロイドはヴォルファングを射殺すると冷たい海に突き落とした。

エイリア『ヴォルファング!!』

突き落とされ、宙に投げ出された彼にエイリアは叫んだ。
ヴォルファングは白い水しぶきを上げて海に呑まれていく。
全ては仕組まれていた。
彼女がヴォルファングをおびき出し、彼を死なせた。
彼を“処分”したのだ。
その日以来、彼女は“夢”を見なくなった。



































エックスはエイリアから聞いた話に驚くのと同時に納得した。

エックス「(最初の頃のエイリアはとっつきにくかったからな…)」

ルインと共にいる時以外はどこかエイリアに対してドライというか冷たい印象を受けていたエックスは過去のことが影響していたことを知る。

エイリア「笑えるでしょ?助けようとしていたのに、逆に殺してしまうなんて…」

自嘲の笑みを浮かべるエイリアにエックスは彼女の肩に手を置いた。
エイリアはエックスの方を見ると、エックスは僅かな哀れみもないとても優しい目でエイリアを見つめていた。
暖かな印象を受ける翡翠の目に引き寄せられる感覚を覚えるエイリアにエックスは静かに口を開いた。

エックス「君は今まで、頑張ってきたんだな」

エイリア「………」

エックス「エイリア、ヴォルファングのことは君のせいなんかじゃない。きっと彼も君を怨んでなんかいない。」

エイリア「…っ!!」

エックスの言葉に目を見開くとエイリアの瞳が僅かに潤んだ気がした。

エイリア「うっ…」

エックスの免罪符の言葉に押さえた口元から嗚咽が漏れる。
上司に騙され、ヴォルファングを死に至らしめたにも関わらず処分さえもなかった自分はあの日からずっと涙を流さなかった。
流す資格などないと思って、しかしエックスの言葉で今までピクリともしなかった涙腺が緩んでいく。

エックス「君は彼のことで苦しんでいたんだろう?彼が処分されてからずっと…。」

恐らくヴォルファングが処分されたのは、北極エリアでイレギュラーが脱走し、処分されたという報告があった、今から3年前だろう。
まだルインが再起動したての頃だ。
3年間、ずっとずっと罪の意識に苦しんでいた彼女をエックスは救ってやりたかった。

エックス「君は…優しい人だ。誰かのために涙を流せる人だ。」

その言葉にエイリアの瞳の奥で何かが揺らいだ。
エックスはエイリアの頬に手を伸ばし、その頬を優しく触れながら、真摯な瞳で訴える。

エックス「だから……罪の意識に苦しんでる君自身を、もう許してあげるんだ。3年間、君は罪の意識に苦しんだ…もう償いは済んだはずだ。罪は誰にでもある。もういいんだエイリア。辛かったな」

エイリアはエックスの腕の中に倒れ込み、しがみついて声を上げて泣き出した。
エックスは黙って泣きじゃくるエイリアを抱き締める。

エックス「辛かっただろう、エイリア」

エックスはエイリアの背中を優しく撫でながら言う。
静寂が支配するハンターベースの屋上に、しばらくの間エイリアの静かな泣き声が響いていた。
月の光が2人を優しく照らしていた。
しばらくしてようやくエイリアは泣き止み、エックスから離れた。

エイリア「ごめんなさい…みっともないところを……」

エックス「いや、気にしなくていい…」

彼女の言葉にエックスは優しく言う。

エイリア「(ルインが好きになるわけよね…)」

あの超が三桁あっても足りないくらいの鈍感なルインが好きになったのが分かった気がした。
納得すると同時にエイリアは少しずつエックスに惹かれていくのであった。




































そして北極エリア最深部ではルインとヴォルファングが対峙していた。

ルイン「君がナイトメア調査員、ブリザード・ヴォルファング?」

ヴォルファング「いかにも…大命を受け、再び生を受けた。私のせいで迷惑をかけたのに、ゲイト様は私に生と使命を与えてくれた。」

ルイン「ゲイト…ナイトメアを操ってレプリロイドを傷つけるのが君の使命なの?」

ルインがヴォルファングに問う。

ヴォルファング「……そうだ…。ゲイト様の元へ行かせるわけにはいかん。すまぬが死んでもらうぞイレギュラーハンター。」

氷狼がルインに牙を向けた。
口から氷の弾を発射する。

ルイン「っ!!」

彼女はフルチャージショットで相殺した。

ルイン「ヴォルファング!!本当にゲイトのことを思っているなら、主の間違いを正すのも忠誠の1つなんじゃないの!!?」

ヴォルファング「再び授かったこの命、ゲイト様に使わずして何に使うと言うのだ!!」

壁を利用し、四方八方から襲い掛かるヴォルファングにルインはセイバーで弾いていく。

ルイン「速い…」

ヒット&アウェイ。
己の安全を確保した上で、時間をかけてこちちらの戦力を削ぐつもりだ。

ルイン「こうなったら…」

ヴォルファング「ぬうぅん!!」

爪が彼女の背を切り裂くが、彼女は咄嗟にヴォルファングの腕を掴む。

ヴォルファング「何!!?」

ルイン「フルチャージ!!」

零距離で放たれたフルチャージショットはヴォルファングに直撃する。

ヴォルファング「ぬう…!!」

ルイン「肉を切らせて骨を断つってね…!!」

ヴォルファングにようやくまともに攻撃を入れられたことに笑みを浮かべる。
吹き飛ばされたヴォルファングは直ぐさま体勢を整える。
更にスピードを上げて、ルインに攻撃するヴォルファング。
ルインの左足に裂傷が刻まれる。
次の瞬間、頬に裂傷が刻まれた。
相手のスピードは明らかに自分を上回り、凍りついた足場も有利に働いている。
自ら攻め込むことは困難だが、待ち構えていても勝機は見出だせない。
じわじわと嬲り殺しにされるのが目に見える。
ヴォルファングは跳躍し、壁を蹴り上げ天井へ飛び移る。
立ち竦むルインを翻弄するように縦横無尽に跳び回る。
空間全体を生かした高速移動は、見切ることは愚か、目に映すことすらかなわない。

ルイン「ソニア、全Lv解放。」

ソニア『了解!!』

全てのレベルを解放し、能力の底上げをする。
更にOXアーマーに切り換えた。
シグマとの戦いで奇跡的に無傷だったアーマープログラムを使用したルインは更に力が漲るのを感じた。
しかし、機動力はヴォルファングが上回る。
絶望的な状況の中、ルインはあえて武器を捨てた。

ヴォルファング「勝負を捨てたか!?ならば今楽にしてやる!!」

ヴォルファングは好機と判断し、両脚に力を込め、壁を蹴り砕く勢いで跳び出し、弾丸の如くの速度で突進する。
爪で腹部を切り裂かれたルインは勢いよく吹き飛ばされたが、直ぐさま体勢を整えるとアルティメットセイバーで斬り掛かる。

ヴォルファング「!?」

ルイン「円水斬!!」

目を見開くヴォルファングにルインは円水斬による回転斬りとΩナックルを喰らわせると、ヴォルファングは左腕のみを残して倒れた。

ヴォルファング「ぐっ!!ここまでか……」

苦渋の表情を浮かべるヴォルファングだが、ルインはヴォルファングに手を差し延べた。

ルイン「ハンターベースに行こう。そこで治療を受けさせてあげる」

ヴォルファング「情けのつもりか?…断る。敵に情けをかけられるのは屈辱だ。早く殺せ」

ルイン「出来ないよ。君はゲイトが…友達が造ったレプリロイドだもん。」

ヴォルファング「ゲイト様の…?」

ルイン「うん、まだゲイトがレプリロイド工学の研究員だった頃にゲイトに会ったんだ。ゲイトは君のような高性能のレプリロイドを造って世界の平和に貢献したいと言っていたんだ。そんな彼がどうしてナイトメアに関わっているのか…きっと何か事情があるはずなんだ。お願いヴォルファング。力を貸して、私はゲイトを助けたいの」

ヴォルファングはルインの瞳を見た。
彼女の瞳には何の邪な思惑は一切ない。

ヴォルファング「ゲイト様が変わり始めたのは…ゼロのDNAデータを入手した時だ。」

ルイン「ゼロのDNAデータ?」

ヴォルファング「ゼロのDNAデータを解析する度にゲイト様は理性を手放してしまう…気づいた時にはもう手遅れだったのだ……。」

ルイン「そうだったんだ…」

ヴォルファング「頼む…ゲイト様を……」

ルイン「大丈夫!!絶対にゲイトを助けてみせるよ!!」

その言葉を聞いたヴォルファングは笑みを浮かべた。
ヴォルファングがルインが差し出した手に左腕を伸ばした時であった。
ルインに押し飛ばされ、彼女が巨大な光弾に飲み込まれたのは…。 
 

 
後書き
ヴォルファング救済。
ヤンマークに続いて二体目です。
エックスが二本目の恋愛フラグを… 
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