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無欠の刃

作者:赤面
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アカデミー編
  毒薬

「サスケ、ごほっ、どっ、した、けほっ、の?」
「…お前、やっぱり休んだ方がいいんじゃねぇか」
「…今日、合格試験、じゃんか」

 困ったように眉を寄せたカトナに、どういうべきかと迷いながら、サスケはカトナを見つめた。
 数日前から、ごほっごほっ、と彼女はよく咳き込むようになった。風邪でも引いたのかと思いながら、熱を測ってみたが、普通の体温(35度)だったので、そこまで問題はないはずだった。
 だが、咳はどんどん多くなり、今では一分で一回ほど咳き込むようになってしまった。
 喉を傷めるどころの話ではない。医者に行くことも考えたが、カトナを確実に診て、そして毒物を入れないであろう医者なんて、知らない。
 だから、行くに行けない状況になっていた。
 さっさと、この試験を終わらせて暫く寝床に張り付けてやろうと決意したサスケが席を立つ。少しもたもたとしていたが、無事分身の術をクリアできた生徒に合格を言い渡したイルカは、いつの間にか、きていたサスケに呼びかけようとして、サスケはそれを遮る様に彼の前で指を結ぶ。
 パッ、パッ、パッ、と、指が組まれたかと思うと、サスケの分身が五体ほど、彼の横に存在していた。
 ほっ、とカトナは絶えない咳の間のなか吐息を漏らす。
 サスケがこの程度の術をできない筈がないとは思っていたが、しかし、自分のことを懸念して失敗と言う可能性もないわけではなかったので、それなりに心配だったのだ。
 よかったと、カトナが安堵の息を漏らした瞬間、ずるりと、力が抜けかける。
 慌てて気力だけで自分の体を保ったカトナは、イルカの方を見る。
 イルカは、サスケのような優秀な教え子を持てて、誇りだというその思いを隠すことなく、言い渡した。

 「合格!」

 その言葉を聞いた共に、周りが騒ぎ立てる喧騒をサスケは無視する。
 この程度の忍術ならば、造作もない。合格できない理由がない。
 それよりも今は、カトナの方が心配だった。
 サスケは急いでカトナのもとに向かおうとして、どさり、という音を聞いた。
 ばっ、と振り返ったサスケは、机に突っ伏して、ごほごほっと何度も急き込んでいるカトナに慌てて駆け寄る。

 「ごほっ、けほっ、かはっ、かっ、げほっ」

 そして、何度目かの咳を繰り返したとき、こぽりと、彼女は自分の口の中が鉄臭い味で満たされたことに気が付いた。
 恐る恐ると言った様子で掌を広げた彼女は、自分の手が血だらけになっているのを見つけ、小さく息を呑む。
 真っ赤な、血。
 それと同時に感じる、苦しさ。

「なんっ、で、え」
「おい、カトナ、どうし…!!」

 肩ごしから覗きこんだサスケは、カトナの掌に付着した血液を見た次の瞬間、カトナを背負い、試験を行うイルカのことを忘れ、教室の扉を見る。
 試験中だからという事で、カンニング行為などに似た行為が行われ無い様に、今現在、部屋は封鎖されている。
 扉にいる教師を倒して、教室から出るという手もありだが、今はカトナの体調の方が最優先だ。戦闘などして時間をかけたくはない。
 ならば、この手しかないだろう。
 次の瞬間、サスケは近くの窓枠に手をかける。
 突然のサスケの行動に、腰を椅子から浮かせていたイルカが目を細めた瞬間、サスケは戸惑いなく、開け放たれた窓から飛び降りた。
 いきなりのその行動に、イルカが慌ててサスケが落ちて行った窓から顔を覗かせて叫ぶ。

「サスケ、カトナ!!」
「わるい! カトナを病院に連れて行く!!」
「せんせっ、げほっ、ごめ、けほっ」

 その言葉が言い終わらぬ間に、サスケは飛び降りた下にあった廊下の屋根に着地し、ある場所に向かう。

「カトナ、ちっ!」
「げほっげほっ、げほっ、」

 こぷりと、股咳と共に喉から血が出た。気管を痛めている、だから血が出た。肉体的な攻撃は受けていない。即ち、毒の一種。
 どこから混入された…?
 考えろ考えろ考えろ!!
 息が出来ず、のたうちまわりたくなるような胸の苦しさを感じながらも、カトナは必死に頭をめぐらす。
 …保健室か!
 数日前行われた、この学年の最後の行事と言ってもいいほどの目玉行事である、あの試験。
 今までのアカデミー生活でどんなものが養われたのか、数日後に行われる合格試験に挑むほどの実力があるかどうかを探るためのものだった。
 あの時、カトナはサスケと交戦後、呑気にねていてしまっていた。
 サスケが自分を置いてから、シカマルが自分の看病に現れるまでの間は、彼に聞いたところでは約二十分ほどあった。プロの忍びなら、カトナに毒薬を仕込むことくらい、簡単である。
 自分には監視もあるにはあったが、しかし、保険医などのアカデミーの教師が、治療と称してカトナの体に毒薬を仕込むことはたやすい。それに、薬は過ぎれば毒となるのだ。そこら辺にある治療薬でも、カトナの体を傷つけることは簡単で、監視の目からも逃れられやすい。
 ちっ、とカトナは舌打ちする。
 やはり、気絶は不味かったか。いや、気絶自体はサスケとの戦いを終えるために仕方なかったとはいえ、シカマルが来るまでの間がまずったか。…呑気に寝ていた自分が腹立たしい。
 監視を頼ったわけではない、油断していたわけではない。だが、今更仕掛けてくる奴なんている筈がないのだと、安心してしまったのが運のつきだった。
 そう思いながらも、カトナはサスケの腕を必死に掴み、ぱくぱくと、口を動かす。

 「ここ、だっ、め」

 ひゅーひゅーと、口からはかすれた、吐息のような声が漏れ出たが、サスケは一体カトナが何を言っているのかを理解し、アカデミー内部から外へと全力疾走する。

「火影邸に行くか?!」
「なる、ごほっ、ちゅーし、しちゃっ、げほげほっ」
「ちっ…。しかたねぇ、暗部の奴に呼びかけるか」

 そういいながら、サスケはアカデミーの扉を蹴破るがごとき勢いで突破すると、カトナの家に向かう。

「で、お前の監視っ、だれ、だ!」
「…ごほっ、変な人」

 サスケに背負われながら、もう一度深く咳き込んだカトナは、どうこたえるべきかと迷いながら、自分の監視の存在を思い出す。
 ナルトとカトナの監視であることを告げる、木の葉では最早禁忌の狐の面を装着した、銀色の髪の毛を持つ男。
 監視である以上、過干渉はしてこないが、二人が買ってきたものに毒が仕込まれていたりしたら、勝手に交換していてくれたりする。…交換した方には毒は仕込まれていないし、栄養が足りないと、違うものを買い足してくることもある。
 この前なんか、野菜を食いたがらないナルトの為に、こっそりと、「美味しい野菜の食し方」というレシピを置いてくれたこともあるから、理由はよくわからないが、カトナ達には好意的な方だとは思う。
 だけど、大丈夫だろうか。
 少しだけふわふわとした頭で考える。
 理由がわからないのに、信頼なんかしたら、駄目じゃないのだろうか。でもそれをいったら、理由があるからって信頼することも、どうなのだろうか。
 …どうでもいいや、なんだか、凄く眠い。
 カトナはだらりと体から力を抜き、サスケの背中に顔を預けた。
 いきなり重くなった体に、これは本気でやばいかもしれないと焦りながら、カトナの家(ナルトと二人で住むようにと与えられた家で、結構小さい二階建て)に入る。
 不用心にも鍵はかけられておらず、扉は開けっ放しだったが、かたりと、一瞬、扉の傍にあったバケツが震えたが、サスケのチャクラを感知したらしく、すぐに震えるのが止まる

 「…家にトラップなんかしかけるなよな」

 鍵なら針金で開けられるから、防犯と言う目的に限るならば、トラップの方が役に立つ…。だからといって、玄関に仕掛けるなよと思いながら、靴を脱ぎ散らかし、ベットにカトナを寝かせた時、

「ご苦労。ここから先は、俺がやるよ」
「…カトナの監視か」

 突然現れた気配に、サスケは緩慢な動作で振り返った。
 先程まで、いることにすら気が付かなかった。一体どこからつけていたんだと思いながら、サスケはその人物を睨みつけつつ、カトナの手を握りしめた。
 暗部はそんなサスケの様子に、呆れたような息を吐いた後、カトナの手を握るサスケの腕を、なるべく優しい力でつかむ。

「治療の邪魔だから、手を離してくれるとうれしいね」
「…お前が信用できる人物だって分かるまで、こいつの手は離さねぇよ」
「…俺はその子を傷つけないよ、あの」

 そこで言葉を切った男は、仮面の中で目を伏せた。
 惨劇の文字が似合う、あの現状を生み出した男の姿を思い出し、そして言う。

 「ナルトを傷つけた、監視みたいにね」

・・・

「君の兄、うずまきカトナがある人物に狙われているらしい」
「は?」

 信じられない様な、信じがたいような、怒り狂っているような、そんな、言葉にすることが難しい、感情をぐちゃぐちゃに混ぜた顔で、ナルトは目の前に教師、ミズキを見つけた。
 試験はまだ、始まっていない…というか、受けていない。姉であるカトナが体調不良で帰ったとなれば、弟であるナルトが呑気に試験を受けられるはずもなく、そのまま欠席して、家に帰ろうとしていた。
 そんな中、ミズキはナルトに声をかけ、そう言い放った。
 頭の中がパニックになったような気がした。ぐるぐると、思考が混ざりだす中、ナルトは冷静な頭の部分で結論付ける。
 うずまきカトナを、自分の実の姉を守らなければ、と。

「その人物が誰かは分からないが、私の計画に参加してくれるなら、その人物のことを誘き寄せられるかもしれないんだ、ナルト君。手伝ってくれないかな?」
「…じいちゃんにいったほうが、いいんじゃ」
「確かに、火影様ならすぐにでも発見されるだろう。だが、その間に君の兄が殺されるかもしれない」

 嘘くさいと、そう思った。表情も仕種も言葉も声色も目も、全部が全部嘘くさい。真実ではないように思える。けれど…、もし、万が一、この話が本当だったならば、姉を、傷付けられてしまう。
 けれど、無鉄砲に動いて、姉を悲しませたくない。
 そう、ぐずぐずと考え込んだナルトに、苛立ったように、ミズキはナルトの両肩を掴むと、叫ぶようにして言う。

 「ナルト君、君は、兄を守りたくないのかい?!」

 その言葉が、最後の砦を崩した。

 「…分かったってば」

 これは正しい判断なのだろうか。此奴がいっていることが嘘だったとしたならば、自分はどうなるのだろうか。今は目覚めていないクラマに聞けば、分かるのだろうかとか、そんなことを考えながら、ナルトは頷いた。

 ―ねぇちゃんは、おれがまもるってば。
 
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