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無欠の刃

作者:赤面
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アカデミー編
  友達

 見上げた先の白い天井に、目を見開いたカトナは、数秒の間沈黙し、天井を睨み付ける。
 その脳内では先程までの記憶がフラッシュバックのように流れ続けていたが、思考は冷静に回転し、自分がサスケに負かされたという事実に気が付いた。
 次の瞬間、自分が保健室にいること、そして、自分の今の状態が無防備であることに気が付き、ばっ、と勢いよく飛び起きたカトナは辺りを見回す。
 保健室なら、大量の薬がある筈だ。薬は時に毒となる。何も盛られていないだろうかと不安になったカトナは、ふと、自分の目の前に奈良シカマルが座っていることに気が付く。
 シカマルは突然起き上がったカトナに驚くこともなく、読んでいた本(カトナが見たことが無い物。多分将棋の本だ)を置いて、言う。

「ああ、先輩、起きたんすか」
「なんで、奈良?」

 本当に不思議そうに首をかしげたカトナに、言い方次第で間違われそうなセリフだと思いながらも、シカマルは呆れる。

 「それ、言い方次第じゃ、すげー暴言すよ、先輩」

 へらりと笑いながら、シカマルはクイッと顎で窓を指示した。きょとりと、不思議そうに首をかしげたカトナは、何も言わずにシカマルを見つめ、答えを催促する。

「そういうところ、ナルトの奴とそっくりスね」
「そう、かな?」

 ナルトのように短気ではないと思いながらも、その場から起き上がろうとしたカトナに、シカマルは肩をすくめながら答える。

「ねといてくれるとうれしいっすね、俺がサスケとナルトの奴に怒られるんで」
「…そんなに、やわじゃない」
「心配してるんすよ」
「…自分でやった、くせに」

 もっともなその台詞に内心で笑いながらも、シカマルは、ずるりと服がずれ、肩が覗き、鎖骨が見えそうで見えない絶妙なカトナの姿に、これ見つかったらあの二人に葬らされる…と思い、ブルりと体を震わせた。
 幼馴染のサスケと弟のナルトが、カトナのことを好いているのは、シカマルの鋭い洞察眼が無くても一目瞭然だ。そんな二人がカトナのこんな無防備な姿を見たと知ったらどうなるか…、ナルトとは友達なので、手加減をしてくれるだろうから、そこまで心配はないが、サスケの場合、マジギレして襲い掛かってくる。
 男だからそんなに過保護にならなくても、と普通の奴は思うだろうが…。
 見た目だけなら、アカデミー内でも群を抜いて(そして女子も抜いて)トップの美人であり、こんな風に所々無防備なうえに、無意識の内にカトナからにじみ出る色気や、いの曰く、何の手入れもしていない筈なのにきれいな肌など、不安にならない要素が無い。
 知り合って少ししかたっていないシカマルでも、そう思うのだ。兄弟であるナルトと、幼馴染のサスケに至っては、不安で胃が痛むだろうと思いつつ、シカマルは、大事そうに握りしめていた刀を指さす。
 少しばかりの踏み込んだ質問、ある程度答えがわかるその問い。

 「それ、どういう仕組みっすか?」

 すっと、カトナの目が細まり、顔が僅かに強張る。頭の中では凄まじい速さで何と答えるべきかの計算が行われていたのだろうが、やがて、低い声で尋ねる。

「…どういう、って?」
「言う必要があるんすか?」

 しばらくの間、お互い沈黙し、視線が交差しあい、にらみ合ったが、ふと、カトナは肩の力を抜くと、無防備に刀を見せる。

「どう思う?」
「…意地の悪い聞き方するっすね」

 そう言いながらも、シカマルはその刀を注意深く見る。
 カトナの身の丈よりも大きい大太刀。が、それは普通の大太刀とは違う点があった。…刀身に、銘がない。
 すっ、と目を細めたシカマルは、次の瞬間、刀身から柄へと視線を移し、それを見つける。
 普通の人なら分からないだろう、些細な、小さな傷。
 けれど、シカマルの聡明な頭脳は、確かにそれを記憶していた。
 いのが戦った時に使った短刀と、今目の前にある大太刀の柄が全く同じものであるという事を。
 その証拠に、柄の色は所々に金色があしらわれており、下地は黒色をしているが、カトナの掌でちょうど隠れるような位置に、小さな傷が入っている。刀で切ったような、バッテン。柄に刻まれたそれに、シカマルは確信しながら、言葉を選んで答える。

「それ、チャクラによって形状が変わるんすか?」
「…どうして、そう、思った?」
「柄」

 シカマルはそう言いながら指で、深い黒色をした柄を指し示す。
 普通、刀は全く同じではない。同じ系統―同じ短刀ならば、柄も似るかもしれない。だが、大太刀と短刀の柄が似ることなどは、あるのだろうか…。
 同じ職人にならば、まだ微々たる可能性とはいえありそうだ。だが、柄に全く寸分たがわず、傷を―しかも同じ形につけることなどありえない。

「…柄が同じ、なのに、刀の形状は違う。全く同じ形をした柄、って可能性はあるけど、その柄、傷ついてますよね」
「…うん。傷、っていうか、多分、作った人の、サインみたいなもの?」
「ああ、なるほど。なんで、んなところに傷がついてると思ったら、刀の銘ってことか…。柄ってのは今まで聞いたこともねぇが」
「銘?」

 不思議そうに首をかしげたカトナに、シカマルは少しだけ身を乗り出して、大太刀を抜かせると、大太刀の刃の部分を指し示す。

 「刀には、普通裏表があって、それを判別するのは銘…先輩で言うところのサイン、刀工が自分が作ったっていう印で見分けるんすよ。普通なら茎なんスけど、太刀の場合は刀身に掘られてるんすよ。だから、普通は柄じゃないんすけど…」

 そこで言葉を切ると、シカマルは何もかもわかったような顔でにやりと笑う。

「それ、形状が変化するから、柄のほうにつけた…ってとこっすね。大太刀の時に刀身に銘が打たれていないのは可笑しいし、逆に、短刀の時に刀身に銘を打たれてたら、おかしいからな」
「…流石、奈良。よくわかったね」

 内心で舌を巻く。
 柄にあった傷。刀身に銘が打たれていない。そして、カトナの使いかた。
 その情報しかないのに、彼は見事に真実を言い当てた。
 よくこれだけの情報で分かる物だと、思いながら、カトナは青い鞘にチャクラを込める。
 するりと、刀身が一回りふたまわり小さくなり、大太刀は短刀になる。
 見せられたそれに驚愕しながらも、平坦な顔を保ったままシカマルは、どうして今この光景が見せられているのかという事を、頭をフル回転して考える。
 カトナは、みすみす自分の秘密を晒すような奴ではない。秘密を見せた分として(何もシカマルが見たがった訳ではないのだが)それなりの対価を要求してくるつもりだ。ならば、何を取引してくるか。
 …シカマル自身の、カトナが晒した秘密と同じくらいの秘密だろうかと、そこらへんの見当をつけたシカマルが覚悟を決めた時、カトナはのんびりとした挙動で立ち上がる。

「奈良、なにしてくれる?」
「え、それ、俺に聞くんすか」

 予想外だとでも言うように、カトナは目を見開くと、おろおろとした様子で辺りを見回す。
 その様子に毒気を抜かれたシカマルは、はぁ、と内心で息をつく。

 「先輩の好きにしてくれていいっすよ」

 その言葉に、少しの間黙った後、カトナは困ったようにシカマルを見つめて質問する。

「今、ナルトの試合?」
「え、まぁ、そうっすけど」
「じゃ、一緒に行く」
「…それで、いいんすか?」

 その言葉に、カトナは本当に不思議そうに首をかしげた。

 「友達に、何かする必要、あるの?」

 それはあまりに無防備で、馬鹿みたいに信じきっていて、疑うなんて微塵も考えていなくて。

「…サスケとナルトが心配する理由がわかるな」
「?」

 カトナは、あまりにも優しい。
 敵と認めたものには、何よりも厳しいのに。味方と認めたならば、無条件で許してしまう。…まだサスケ達しか知らない秘密だってある筈だ。 
 それでも、無条件に、友達からだと話してしまう。
 カトナは覚悟を決めている。けれど、それに感情が付いて言っていない。ナルトの為に死ねても、ナルトを泣かすことには戸惑ってしまう、そんな弱くも脆い覚悟だ。
 これは駄目だと思いながら、シカマルは線引きを間違えさせないようにと、カトナに向けて言葉を放つ。

「俺、すっげぇ、面倒くさがりなんスよ」
「うん」
「だから、テストも授業もぎりぎり不合格にならないくらいに調整してるんすよ」
「へぇ」
「…実際のIQとかは知らないっすけど、俺の父親に聞いた限り、180よりは上っぽいっす」
「凄い?」
「まぁ、凄いんじゃないんすかね」

 調子狂うなぁ、と思いながらも頭をかいたシカマルに、カトナは少し意外そうに首を傾けた。

 「ナルトの友達でいてくれるなら、なんでもいいよ」

・・

 繰り広げられる試合に、日向ヒナタは息を呑みつつ、金色の少年を見つめた。
 予行演習、どうせ、うちはが勝つ。体術だけだから、負ける。
 試合が始まる前に確かに響いていたそんな声の持ち主は黙り込み、誰もが目の前の戦いに見ほれた。
 忍術VS体術。
 そんな言葉が似合うような、そんな試合が繰り広げられていた。
 うちはサスケが忍術を使い、うずまきナルトが体術を使う。
 どう考えても、圧倒的にうずまきナルトが不利なこの状況。両手が義手で体術しか使えない。体術も忍術も使えるサスケと比べれば、どう考えても不利だ。
 なのに、一歩も物怖じしない。負けるなんて微塵も思っていない。何度吹き飛ばされようと、何度拳が防がられようと、彼の歩みは止まらない、彼の目は死なない、彼は、諦めない。
 ヒナタは柔拳を使う。だからこそ、ナルトが今行っている体術が如何に洗練されていて、それ以上に、サスケの忍術を捌く体術が素晴らしい物であるのがわかる。
 拳が、空を切る。
 ナルトの体に、サスケの蹴りが叩き込まれ、忍術がもろにあたる。
 直撃。
 しかも、うちはサスケの得意技、豪火球の術である。直撃だったせいか、いくつかのやけどを負ったらしく、ナルトの口から小さな悲鳴が漏れる。
 もう駄目だと、誰もがこの勝負に見切りをつけたなか、一番危機的な状況である、ナルトだけが、諦めていなかった。
 誰だって諦めても仕方ないような状況なのに、なのに、彼は諦めない。
 ヒナタが拳を握りしめ、小さく言葉を漏らす。

 「ナルトくん、がんばって…」

 小さなその声は、きっと元気な彼の耳には届かなかっただろうけれど。
 にっ、と元気そうに彼は笑った。
 次の瞬間、一気にその場を駆け抜けると、勢いよく、サスケの足に向けて。
 ナルトの蹴りをサスケがかわして忍術を叩き込もうとするが、追撃が来る。
 二合三合、四合。防がれて防がれて防がれ防がれて、それでも、諦めない。
 何度も何度も何度も何度も、ナルトの拳がサスケに向かう。そしてついに、ナルトの拳がサスケの鳩尾に深く叩き込まれる。
 一瞬の沈黙の後、サスケの体が少し沈み、審判がサスケに確認を取る。

 「優勝者は、うずまきナルト!!」

 優勝は、誰もが予想していなかった、うずまきナルトのものだった。 
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