雲は遠くて
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
32章 美樹と真央、恋愛を語りあう (3)
32章 美樹と真央、恋愛を語りあう (3)
現在、美樹の交際相手の松下陽斗は、1993年2月1日生まれ、21歳。東京・芸術・大学の音楽学部、ピアノ専攻の3年生。芸能プロダクションのモリカワミュージックに所属している。クラシック、ジャズ、ポップスと多彩なジャンルの、豊潤な演奏で、人気上昇の、若手ピアニストであった。
真央の交際相手の、野口翼は、1993年4月3日生まれ、20歳。早瀬田大学、理工学部、2年生。翼と真央は、早瀬田大学の音楽サークル、ミュージック・ファン・クラブ(MFC)で親しくなり、真央が翼からギターを習ったりしているうちに、交際するようになる。
「それでさあ。このちょっと、ややこしいお話だけど、イドと呼ばれる本能と、エゴと呼ばれる自我と、スーパー・エゴと呼ばれる 超自我って、結局、どんなことがいえると思う?真央ちゃん」
「うううん、わかんない」
またふたりはわらう。
「イドと呼ばれる本能は、暴れ馬といわれるくらいだから、野性的で、原始的で、時には狂暴になったりするもので、快感をひたすら求める欲望の源だから、それを制御することは、コントロールすることは、むずかしいことなのよね。犯罪とかって、このイドの暴走なのかなって、わたしは思っちゃうの!」
「ううん。きっと、そうよ。イドが暴走したら、他人なんか、どうでもいいのよね、きっと。自分の欲望だけ満たされればいいっていう、暴れ馬なんだから。暴れ馬のほうが、まだ、かわいいわよね。イドの暴走した人間って、最悪!」
ふたりはまたわらった。
「イドと呼ばれる本能の 暴れ馬はいるのよ、きっと。わたしはフロイトのこの説を信じるのよね。だからあとは、自我や超自我で、イドをコントロールできればいいのよ。イドの悪口ばかりいってしまったけど、このイドの原始的な欲望やパワーは、生命力や食欲や性欲の源でもあるわけなんだから、本来、とても大切なものなのよね」
「うん、美樹。イドの大切さ、わかる気がする」
「そうよ、真央。真央の小悪魔的なのは、わたしも認めるけど」
「やだわ、美樹ったら」
「でもね、真央。イドといわれる原始的な本能的な欲望や衝動って、人間が健康的に生きるためには不可欠な要素なのよね。ちゃんとしたイドのある人のほうが魅力的だしね。真央のように」
「美樹もね。そんなふうに、チクリとわたしをいじめる美樹にも、じゅうぶんに、イドの力が働いているわ。美樹も、ほんとうに小悪魔的なんだから!かわいい小悪魔で、悪女ってところね」
「女性は、小悪魔で悪女っぽいほうが、かわいいのよ、真央」
「ねえ、美樹ちゃん、わたしのこの問題って、どうしたらいいのかしら?」
「真央ちゃんにとって、大切な人を、真央ちゃんが真央ちゃんらしく、守っていけばいいのかな?新井竜太郎とのつきあいがダメということもないだけど。二股かけたって、うまくいくわけがないと思うのよね。こういう場合も、フロイトの説にあてはめれば、わかりやすいと思うの。スーパーエゴ、超自我の、道徳心や良心が大切になるんじゃないかしら」
「スーパーエゴかあ、わたしのスーパーエゴって、なんだか、頼りないきがする」
「そんなことないわよ。真央ちゃん。みんな、似たり寄ったりだわよ。イドも大切だし、エゴも大切、スーパーエゴも大切で、それらのバランスを大切にしてゆけばいいのよ。真央もわたしも、小悪魔的なくらいでいいんだから、元気に楽しくやってゆければいいんだと思うわ」
「そうよね、美樹。美樹と話して、ずいぶんと、気が楽になったわ」
そんな恋愛談義に、ふたりはわらったりしていると、ちょうど1時には、グレーのジャケットにジーンズのチノパン姿で、松下陽斗が、「よお、楽しそうだね」といって、店内に入ってきた。
そのあと 1時5分頃には、ネイビーのカーディガンにジーンズで、野口翼も、 「やあ、みなさん」といって 笑顔をふりまいてやってきた。
4人は、他の客も多くいる カフェの2階のテーブルで、和気あいあい、わらい声の絶えない、楽しい時間を過ごした。
≪つづく≫ --- 32章 おわり ---
ページ上へ戻る