雲は遠くて
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32章 美樹と真央、恋愛を語りあう (2)
32章 美樹と真央、恋愛を語りあう (2)
「ああ ・・・・。そんなこと。三角関係もいろいろと大変よね。わたしも 川口信也さんと、
松下陽斗さんのことで、三角関係だったし。やっぱり悩んだもの。そして心の整理をして、信也さんに、ごめんなさいって、謝ったのよね、わたし」
「美樹ちゃんも大変だったわよね、あの時は。わたしの場合は、まだ、誰かに謝ったりするほど、深刻じゃないのよ。まだ、三角関係っていっても、まだ何も始まってはいなんだもの。自分ひとりの中で、迷っている贅沢な 悩みなんだから」
「わかったわ。真央が話していた、エタナールの新井竜太郎さんのことでしょう」
「うん、そうなの。わたしのことを気に入ってくれていて、つきあいたいっていってくれてるのよ」
「真央はモテるからな。エターナルって、 売り上げが3000億円で、マクドナルドと同じくらいの大会社なのよ。その副社長なんでしょう、新井竜太郎さんは。すごいお話よね」
「そうなの。そんなふうに考えると、ふらっと、竜太郎さんと、おつきあいしてみようかしらって、思っちゃうのよね。わたしって、ひょっとして、小悪魔的なオンナなのかしらって思ったりもして。だって、竜太郎さんのこと、何も知らないし、まだ愛してもいないのに、心が揺れ動いちゃうんだから、わたしって、小悪魔どころか、悪魔的なところがあるのかもしれないわ」
「真央ちゃん、そんなふうに、自分を責めてはいけないわ。誰にだって、小悪魔的なものは、絶対にあるんだから。精神分析学者のフロイトがいっていることなんだけど、わたしたちの心や精神には、イドと呼ばれる本能と、エゴと呼ばれる自我と、スーパー・エゴと呼ばれる 超自我があるんだって。姉の美咲ちゃんから教わった話なんだけど。フロイトのこの説をあてはめれば、現代人の心理や行動とか、犯罪者の心理とかが、わたしにも、よく理解できるのよね」
「わたしもそれは何かで読んだことある。フロイトは、イドを暴れる馬に例えるのよね、美樹ちゃん」
「そうそう。そして、エゴを、暴れる馬をなだめたり、調教したりする 騎手に例えてね。わかりやすいわよね」
「うん。その馬と騎手の例えは、印象に残るわよね。そんな部分だけは頭に残っているわ」
真央がそういうと、ふたりはわらった。
「暴れ馬と、それを操る 騎手の他に、3つめの、スーパーエゴという 超自我があるんだけど、それって、道徳心とか良心とかそんな感じの心の働きのことよね。そのスーパーエゴは3歳ころから
親の影響によって現れはじめて、中学生ぐらいまでの間に完全なものとなるらしいの」
「なんだか、きょうの美樹って、心理学の先生みたいね」
ふたりはまた楽しそうにわらった。
「陽斗くんは、1時には来るんでしょう?」
「陽くんは、1時だっていっていたわ。翼くんも、1時ころには来るんでしょ?」
「うん。そしたら、みんなで楽しく食事しましょう」といって、真央はいたずらっぽい目でほほえむ。
「真央ちゃんには、翼くんという、すてきな男の子がいるんじゃないの。新井竜太郎さんも魅力的だけれど」
「そうなの。翼くんのことは大好きなんだけどね。だから、わたしって、小悪魔的なのよ」
「そんなことないって、真央。真央のように、誰でも 迷うと思うわ」
「ありがと、美樹。美樹はいつも優しいよね」
ふたりはまたわらう。
≪つづく≫
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