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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
  第三節 過去 第一話 (通算第31話)

 
前書き
機動母艦《アーガマ》はかつての木馬と同じ雰囲気をまとっていた。そこに運命の皮肉を感じるクワトロ・バジーナ。そして明かされる秘密裏の作戦。刻の鼓動の高鳴りが、ギャラルホルンを鳴らすのか。

君は刻の涙をみる…… 

 
 ブレックス、ヘンケン、シャア。それぞれが緊張した面持ちでいながら、何かに期待したかの様な表情だ。
「クワトロ大尉は今回の作戦をどうかんがえる?」
「はっ。私としては時期尚早ではないかとも思えるのですが」
 歯に衣着せぬ言い方をしてみせる。ブレックスの信頼に応えるシャアなりの返礼であった。
 事実、シャアはこの時点でのティターンズ本拠地への強襲というのは無謀であると考えていた。それほどエゥーゴの戦力は乏しい。それに、地球連邦軍内におけるブレックスの立場はそれほど強固な物ではない。ジャミトフ・ハイマンの方がおそらくは政財界への強いパイプを持っているだろう。
「ただ……、エゥーゴの強みはアナハイムであることは確かでしょう」
 アナハイム・エレクトロニクス。
 エゥーゴ最大の支援者であり、『月の専制君主たち』と呼ばれる財閥の中でも最大手の企業である。もちろん、地球連邦政府議会にも地球連邦軍にも太いパイプを持つ。しかし、地球偏重主義者たちから忌み嫌われる存在であった。
 一年戦争において、軍備拡大が急務だった地球連邦軍は事実上ジムをオープンアーキテクチャーとし、ヴィックウェリントン社にその設計図をアナハイム社やコロラドサーボ社に公開させた。先行量産型四二機はヴィックウェリントン社が製造したが、量産型の生産については様々な軍需メーカーに委ねられた。大企業であるヴィックウェリントン社であっても、短期間で新技術であるモビルスーツを大量に生産することは不可能であったからだ。
 その時に非武装中立地帯であることを利用しルナツーとの連携で生産を請け負ったのがアナハイム・エレクトロニクスである。アナハイムグループのなかでも家電製品の大型工場を持っていたアナハイム・エレクトロニクスは軍需産業への参入をかねてから視野に入れていたこともあり、一躍、軍需産業の仲間入りを果たした。だが、開発能力はまだ未熟であり、あくまで生産委託を任される存在でしかなかった。
 終戦後、グラナダに本社を置くジオニック本社を合併、ツィマッド社などとも業務提携を重ね、開発力を高めていることは事実だ。先のデラーズの乱に際し、極秘裏に開発された試作型モビルスーツが活躍したことは将官で知らぬ者はない。
「アナハイムか……我々エゥーゴは軍需産業の代弁者ではないのだがな」
 誰もが苦笑いするしか無い。
 事実上、エゥーゴのスポンサーはアナハイムである。現状、連邦軍の予算はその殆どがティターンズの軍備増強に回され、エゥーゴの申請は通りにくい状況が続いている。この《アーガマ》にしてからがアナハイムによって建造されていることを鑑みても、今のエゥーゴは軍需産業の代弁者に過ぎないと言われても仕方のない部分はあった。
「それはともかく、実務レベルでどうするか……ですが」
「パイロットはグラナダの連中が使えるだろうが」
「グラナダ基地は私が説得してみよう。だが、問題はアナハイムからの注文だな」
 シャアとヘンケンの懸念をブレックスが払いながら、腕を組んで考えあぐねる。ヘンケンも良疇が浮かばない。短い沈黙の後、シャアが口火を切った。
「パイロットの選出は私に任せていただけませんか?」
「そりゃかまわんが……」
 ヘンケンはシャア――いやクワトロにアーガマのモビルスーツ隊を任せたいと思っている。しかし、多国籍軍であるエゥーゴはそうやすやすと所属を動かすことはできない。どういうことかの説明をブレックスが無言で促した。
「私の麾下であるアポリー・ベイ中尉とロベルト・フォス中尉、そして私の三人で潜入するのです。幸いなことに、ジオン共和国の人間もアナハイムの人間もサイド7には数多く働いている筈です」
「諒解した。アナハイムには私から便宜を図らせよう」
 ブレックスが様相を崩す。そこには笑顔が浮かんでいた。最も障害となっていた懸案がシャアの申し出によってクリアされたからだ。
「では、奇襲部隊は誰に任せる?」
「奇襲といっても、目的は新型モビルスーツの奪取にあるのでしょう、それならば、攻撃を仕掛ける必要はないかと。我々だけで十分です。」
 ヘンケンと顔を見合わせたブレックスは不意に笑い声を挙げた。ヘンケンも大声で笑っている。シャアは二人に困った様な顔を浮かべた。冗談を言ったつもりも、笑わせるつもりもなかったからだ。
「大尉、単身乗り込む気かね?それならば、赤い彗星の再来だよ」
「准将、私はそれほどうぬぼれていないつもりですが……」
「いや、私も准将に同感だ。だが、これほど頼もしいのは愉快だな」
 シャアを残して二人は笑って、立ち去った。ブレックスは残りの艦の受領をせねばならず、一足先にグラナダに戻る予定であった。シャアはグラナダに向かう《アーガマ》に同乗し、グラナダに帰還する予定になっていからだ。
「それにしても、《ガンダム》とはな……」
〈グリーンオアシス〉でティターンズが新型モビルスーツの開発を行っているという情報は、技術屋たちから回って来ていた。アナハイムと競合している地球のモビルスーツメーカーであるコロラドサーボが極秘裏に開発しているとの噂だった。
「そして、サイド7か……」
 七年前、シャアが潰滅に追い込んだスペースコロニーが、再建されてそこにあった。そして、再建されたスペースコロニーは〈グリーンノア〉と名付けられていた。隣接コロニーである〈グリーンオアシス〉は軍事基地化が進められているという話もある。
(どちらにせよ、私に出来ぬことではない。アムロ・レイはあそこにはいないのだ)
 シャアにとって最大のライバルであった一年戦争のエースは、地球連邦軍首脳部から疎んぜられて閑職にまわされているという。シャアに不安はまったくなかった。 
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