dark of exorcist ~穢れた聖職者~
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第22話「アイリス・アリシアペア 拳 vs 殺戮」
―――【ロシア・ウラジオストク 廃工場】
アイリスとアリシアの2人は、目的地である廃工場に辿り着いた。
「確かここだったわよね? 悪魔の目撃情報があったのって」
アリシアがアイリスに確認するが、アイリスは何も答えない。
「アイリスちゃん?」
アイリスは周りをキョロキョロと見回している。
「何か………近づいてくる……」
「え?」
「っ! アリシアさん! 後ろ!」
ドゴォォォォン!!!
アイリスの声に反応して後ろを振り向いた瞬間、廃工場の壁が“爆発”した。
巨大な土煙から、人影が見えた。
「へぇ~、貧弱そうな女2人でも悪魔狩りって務まるんだなぁ?」
土煙から出てきたのは、ニット帽を被った青年。
ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、アイリスとアリシアに歩み寄る。
「しっかしさぁ、人間の建築物ってなんでこんなに壊しがいがあるんだろうなぁ? 俺が拳をぶつけただけ
あっさりぶっ壊れるからよぉ、楽しくて仕方ねぇよ」
ニット帽の言葉で2人は理解した。
目の前にいる青年は人間ではないことを。
「面倒くさいわね………こっちは下位悪魔を狩りにきたってのに、なんで上位悪魔がここに……」
「あぁ、悪ぃな。邪魔くせぇからその辺の雑魚共を捻り潰しちまったぁ」
ニット帽の青年は悪びれる様子も無く、ヘラヘラした調子で答えた。
「あぁ~、そう言えば紹介が遅れたなぁ。俺は“グラーシャ・ラボラス”ってんだ」
アイリスとアリシアは、“グラーシャ・ラボラス”という名前に覚えがあった。
以前、アルバートが開いた大質問会で、ベリアル の口から出た上位悪魔の名前。
“殺戮”という異名を持つ上位悪魔。
「あー、なんか少しガッカリだ。出来ることならフォカロルに重症を負わせた奴と殺し合いがしたかった
のになぁ。フォカロルの気配を追ってみれば、弱そうな悪魔狩りが2人……」
グラーシャ・ラボラスの言葉はそこで途切れた。理由は明快だった。
グラーシャ・ラボラスの顔面に、アリシアの拳がめり込んでいた。
「女だからって甘く見られんのが大嫌いなのよね」
「クッククク………いいねぇ。真っ正面から拳で攻撃……嫌いじゃねぇ」
顔面を潰す勢いで殴られたはずなのに、その表情は心底楽しそうだった。
「オラどうした? 手ぇ止まってんぞオイ!!」
アリシアの拳を払いのけ、アリシアの顔面目掛けてフックを繰り出す。
アリシアはラボラスのフックを紙一重で回避し、今度は左アッパーをラボラスの腹に見舞う。
「おぉ? やるなぁオイ」
怯むことなく蹴りを繰り出すが、アリシアはそれも紙一重で回避する。
蹴りを繰り出しがら空きになった腹に、全体重を乗せた右フックを見舞う。
「へぇ~やるなぁ。下位の悪魔なら簡単に殴り潰せるだろ? その馬鹿力……」
「当たり前よ、なんのためにこんなゴツい籠手着けて鍛えてきたと思ってんのよ?」
アリシアの武器は、悪魔を殴り潰せるほどの馬鹿力と、両腕に装着された銀色の籠手。
打撃攻撃に関しては、アリシアの右に出る悪魔狩りはいない。
そんなアリシアの攻撃をまともに何発も食らったにも関わらず、ラボラスは未だ余裕の表情を崩さない。
「並みの悪魔狩りじゃねぇのは分かったけど、なんか物足りないねぇ……それで全力なら殺すぞ?」
人を馬鹿にしたような余裕の表情が、段々と飽きたような表情に変わってきた。
「あ~そうだ。あのガキを殺すからお前ちょっと怒れよ」
そう言うと、ラボラスはアリシアを凄まじい力で押し退け、アイリスの方に全力疾走した。
「え………」
2人の戦いに気を取られ、なんの心構えも回避行動も出来なかった。
アイリスは咄嗟に腰の銃を取り出そうとするが、遅かった。
ラボラスに首を掴まれ、そのまま空中に持ち上げられた。
「っ!? ぅあ……!」
アイリスの首から、ギリギリと強く絞めつける音が聞こえる。
首を掴まれたアイリスはラボラスの腕を掴み、足をじたばたと動かして抵抗する。
しかし、どの行動も弱々しく、抵抗にすらなっていない。
「アイリスちゃん……!」
「ほらどうした? 早く俺を殴らねぇとコイツが死ぬぞ~?」
ラボラスが喋っている間にも、アイリスの表情はみるみる青ざめていく。
青ざめていくアイリスの顔を見たアリシアの中で、何かの糸が切れる。
「アイリスちゃんから………その汚い手を離せえぇぇぇぇ!!!」
グシャリッ
ラボラスの顔面から鳴った音は、殴打するような音ではなかった。
アリシアの拳が直撃した瞬間、ラボラスの顔は醜く歪んだ。
皮膚と眼球は破裂し、顎が砕け、首は脊髄の一部ごと吹き飛んだ。
首が吹き飛んだ直後、一瞬遅れて身体も吹き飛んだ。
ラボラスが砕け散り、アイリスの首から手が離れた。
「うっ……けほっ、けほっ……」
解放されたアイリスは首を押さえて咳き込む。
咳き込むアイリスのもとに、アリシアが急いで駆け寄った。
「アイリスちゃん! 大丈夫!?」
「うん、大丈夫………ごめんね、アリシアさん」
「ん?」
「アリシアさんの足を引っ張っちゃって………うわっ!?」
アイリスの言葉を聞いた途端、アリシアはアイリスに強く抱きついた。
抱きつくと同時に頭を強く撫でた。
「え~と、アリシアさん? どうしたの?」
「(あ~もうアイリスちゃん可愛すぎ! こんな時でもあたしのことを気にかけてくれるなんて……
優しすぎ! 可愛すぎ!)」
アリシアはアイリスを溺愛しているが、上位悪魔を前にしてこれでは本格的にヤバい。
「(そんな可愛いアイリスちゃんの首を………あのクソ悪魔……)」
アリシアの表情が、にやけ顔から鬼の形相に変わる。
「アイリスちゃん……アイツはあたしが相手するから、アイリスちゃんは離れてて」
「え、ダメだよ! 私も一緒に……」
「アイツはあたしがボコボコにしたいの。これから見る光景はアイリスちゃんの教育上良くないわ」
「へえ~? どう教育上に良くないわけ?」
アリシアに殴られ、吹き飛ばされたはずのラボラスがそこに立っていた。
破裂した眼球は既に再生し、皮膚も一部が再生しかけている。
「あんたはアイリスちゃんを殺そうとした………それを肉片になって償ってもらうわ……!」
「ハハハッ、怒った怒った♪ 面白くなりそうじゃないかよ」
アリシアは鬼の形相のまま。
ラボラスは今までより歪んだ笑顔で。
それぞれ拳を構え対峙した。
後書き
グラーシャ・ラボラスって名前長いな……(´Д`)
長いんで“ラボラス”と略します。
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