dark of exorcist ~穢れた聖職者~
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第23話「アイリス・アリシアペア 喧嘩の終わり」
アリシアがアイリスを助けるため、ラボラスを殴ってから5分が経っていた。
その光景を一言で表すとすれば、“喧嘩”だった。
悪魔狩りと上位悪魔との殴り合いの喧嘩。
アリシアの左フックがラボラスのこめかみに直撃する。
一瞬怯んだが、すぐに右アッパーで反撃した。
「ぐっ!!」
アリシアは胃液がこみ上げる不快感と鈍い痛みを堪え、右ストレートを放つ。
痛みを堪えた一撃であるにも関わらず、威力と精度が落ちていない。
アリシアの放った右ストレートは、そのままラボラスの顔面を捉え、グシャリと骨が潰れる音が鳴り響く。
「ごぉっ!?」
油断していたラボラスには、アリシアの一撃は相当効いたようだ。
「やるなぁオイ!」
鼻が折れているのも構わず、ラボラスは蹴りで反撃した。
アリシアは即座に回避しようとするが、腹の痛みで行動が少し遅れ、アリシアのこめかみを掠めた。
「チッ………」
ラボラスの蹴りを掠めたものの回避できたアリシアは、即座にバック転で距離を離す。
「あ~あクソ、さすが強えなぁ~」
「アンタはアイリスちゃんに手ぇ出したんだから………この程度で終わらせるわけないでしょ……」
アリシアは苛立った様子で首の骨を鳴らし、口の中の血を吐き出した。
ラボラスは楽しげな様子で折れた鼻に手をかけ、自力で鼻を元の位置に戻した。
お互いに身体中が血で汚れていた。
「アリシアさん! やっぱり私も手伝うよ!」
「アイリスちゃん!?」
アリシアはアイリスの姿を見て驚いた。
アイリスは黒いコートを脱ぎ、白いYシャツの袖を捲った状態で立っていた。
しかも殴り合いに参加するつもりなのか、両手をグーにしている。
だが、アリシアのような迫力や覇気を感じるものではない。
「おいおい、あのガキ俺らの喧嘩に参加する気か? なんかウケるな」
ラボラスは両手をグーにしたまま突っ立っていたアイリスを見て嘲笑う。
一方、アリシアは片手で顔を押さえていた。
手を離せば、ニヤケ顔を晒すことになる。
「(あぁ~もうこんな時まで可愛いなぁアイリスちゃんは!! 早く目の前のコイツ潰して
アイリスちゃんをぎゅっとしたい!!)」
ニヤケ顔は隠せているが、涎は隠せていない。
「えっ………何? お前女のくせに同性のあのガキが……」
「そうよ溺愛してるわよ!! だって見なさいよ! 可愛いじゃない!」
アリシアの言葉に、アイリスはぽかんとした表情を浮かべ、ラボラスは引いていた。
「えぇ~、私アリシアさんが言うほど可愛くないよ?」
「いやいや、俺と殴り合いしてるって状況でそんなセリフが言えるって引くわ………」
「アイリスちゃんは自分の可愛さを自覚して! あとアンタうるさいわ!!」
「あぁ~クソ!! おいガキ! お前手出しすんな! 俺とコイツの喧嘩に水を差すんじゃねぇ!」
苛立ったラボラスがアリシアに殴りかかる。
「(アイリスちゃんに元気をもらったなぁ………)」
ラボラスの拳を冷静に回避し、カウンターの右フックを浴びせる。
続けて左正拳突きを顔面に食らわせた。
「ッ!?」
よろけたラボラスの胸ぐらを掴み、右手で思い切りぶん殴る。
そして再び胸ぐらを掴み、今度は頭突きを食らわせた。
「グォッ……! いきなり強えな……!?」
頭突きを食らった直後にラボラスが見たのは、アリシアの両足。
一瞬呆けたラボラスの顔面に、その両足が凄まじい勢いでぶつかってきた。
「ぐっ……!!」
蹴り飛ばされ、廃工場の壁に激突した。壁は派手に吹き飛び、ラボラスは土煙の中に消えた。
「……喧嘩でドロップキックなんて初めて使ったわ」
土煙を眺めて、アリシアは大きく息を吐き出し、肩を回して背を向ける。
「はぁ……終わったわ~アイリスちゃん」
「アリシアさん! 血だらけだよ! ほら、じっとしてて」
アイリスはハンカチを取り出し、アリシアの顔の血を優しく拭き始めた。
「アリシアさん、痛くない? 大丈夫……うわぁ!?」
顔を拭いてもらっていたアリシアが、いきなりアイリスに抱きつく。
強い力で抱き締め、しつこいほど頬擦りする。
「はぁ~ようやくこうしてアイリスちゃんに抱きつくことができたわ~♪」
「ちょっ……アリシアさん…嬉しいけど血を拭かなきゃ………痛い痛い……」
アリシアは上位悪魔を殴り倒した力でアイリスを抱き締めているのだ。
抱き締められているアイリスは、アリシアの馬鹿力を受けているものの、どこか嬉しそうだ。
「さて、帰ろう? アイリスちゃん♪」
「うん。ごめんなさいアリシアさん………力になれなくて……」
「いいのいいの! アイリスちゃんが元気ならそれで十分!!」
アリシアはアイリスの頭を優しく撫でながら、廃工場を後にする。
―――アイリス・アリシアが去ってから5分後
「俺に無様と言っておきながら、なんだそのザマは?」
廃工場の瓦礫に向かって毒づく灰髪の男。
瓦礫の上には、ニット帽を被る青年。
「いやいや、純粋な喧嘩じゃ楽しかったぜ?」
「ふざけるな!! この世界から屑を2匹駆除できたというのに貴様は!!」
「あのさぁ………お前は“悪魔の誇り”とかを大事にしてんのはよく分かるけどよぉ………」
「…………俺は楽しめればそれでいいタイプでさぁ。誇りなんてどうでもいいんだよなぁ……」
「……………とっとと失せろ、屑が……貴様が俺と同じ悪魔と思うと反吐が出る」
ニット帽の青年は立ち上がり、廃工場の壁を破壊してどこかに去っていった。
灰髪の男はそれを見届けた後、屋内の僅かな風を操作し、怒りのままに廃工場の壁を全て吹き飛ばした。
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