保育園の先生
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第八章
第八章
「あの人に話すよ」
「そうしろ」
「後に悪いものが残らないようにね」
こうして、であった。彼は決めた。そうしてそのうえで先生と会ってだ。そのうえで彼が思っていることをそのまま告げたのだった。
「あの」
「返答よね、あのことの」
「はい、あのことへのです」
まさにそれであった。真剣な面持ちで話す。
「御答えさせて頂きます」
「わかったわ」
先生も彼のその言葉を受けて真剣な顔になる。
「それじゃあそれは」
「見させて下さい」
こう先生に言うのだった。
「先生のこと。もっと」
「私のことを?」
「はい、御願いします」
これが彼の先生への言葉だった。
「そのうえではっきりと答えさせて下さい」
「それが返答なのね」
「はい」
こくりと頷いてもみせた。
「そうです。今はです」
「答えるのは今じゃないのね」
「先生のことまだよく知りません」
付き合って短い。そのことに気付いたからだ。
「ですから。よくわかってから」
「そのうえで返事をくれるのね」
「一生の問題です」
言葉は真摯なものだった。
「それで気軽に短く考えて答えるなんてことは」
「そうよね、できないわよね」
「俺まだ中二ですし」
このことも話した。
「それに馬鹿ですけれど」
しかしだ。それでもだというのである。
「けれど。それでもこうしたことは」
「すぐに答える訳にはいかないっていうのね」
「そうです。ですから今はまだ」
「答えないで。それで私を」
「見させて下さい」
先生の顔をじっと見詰めたうえで言った。
「そして先生が完全にわかったその時に」
「返事。くれるのね」
「それで駄目ですか?」
今度はその目を見詰めて問うた。
「それじゃあ」
「いえ」
彼のその真摯な言葉にだ。先生ははじめて微笑んでみせた。それからその微笑みと共にゆっくりと話してみせてきた。
「いいわ」
「いいんですね」
「私もまだ貴方のことはよく知らないから」
「だからですか」
「若しもよ」
ここからも話してみせてきた。
「この場ですぐに答えてきたらね」
「その時は」
「ひっぱたいていたわ」
これが先生の返答だった。
「イエスでもノーでもね」
「そうなんですか」
「そうよ。お互いまだよく知らないじゃない」
「はい」
「それで決めるなんてことをしたらね」
その場合はというとであった。
「ひっぱたいていたわ」
「ひっぱたかれてましたか」
「そんな大事なことを短い間に決められないでしょ」
「はい、それは」
「それを決めたなんて言える人はね」
そうした人間はどうかとも話すのだった。
「詐欺師とかいい加減な人に決まってるから」
「そうした人にはですか」
「一緒にはいられないわ。だからよ」
「そうですか。それで」
「けれど淳博君は今言ってくれたわね」
ここまで話してあらためて淳博に話した。
「私をわかってから答えてくれるって」
「はい、本当にそれから答えさせて下さい」
「わかったわ。まずはね」
「まずは?」
「じっくりとお付き合いしていきましょう」
にこりと笑って淳博に告げた。
「それで御願いね」
「はい、宜しく御願いします」
「今からはじまるのよ」
こう淳博に告げた。
「私達はね」
「それじゃあ。二人で」
こうしてであった。二人ではじめた。そしてそれからだった。四年後二人は晴れて結婚した。お互いによく知った結果本当の愛を得たのである。
保育園の先生 完
2010・8・2
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