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箱舟

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第六章


第六章

「手伝ってくれました。人も動物達も」
「その心を受けてのことか」
「その通りです」
 ノアの返答は続く。
「神よ」
「何だ」
 そのノアの言葉から神も逃れられなくなっていた。
「これを罪と仰りますか」
「無論だ」
 ここでも神の言葉は己に対する絶対の自信に満ちていた。彼はここでもやはり神であった。己を疑うことを知らないのが神であるというのなら。
「御前は我に逆らった」
「はい」
 ノアもそれは認める。
「それは紛れもない事実。御前は許されぬ罪を犯した」
「承知しております」
「私もです」
 ノアは無意識のうちに頭を垂れていた。これは妻も同じだった。
「罪を犯したのは事実です」
「神に逆らいました」
 頭を垂れたまま神に答えていく。
「だからこそそれならば」
「裁きを喜んで受けましょう」
「受けるのだな」
「嘘は申しません」
 やはり言葉を隠さない。そのまま述べていく。己の心を。
「罪を受けるべきは我等だけ」
「ですから。それならば今ここで」
「ならばだ」
 ここで神は厳かな声を述べてきた。
「全ての者を導くのだ」
「なっ!?」
「神よ、それは一体」
「今言ったまでだ。罪を犯したのだな」
「その通りです」
「ですから今こうして」
「その罰を今告げているのだ」
 神は言葉を続ける。しかしこれはノアと妻にとってはすぐにわからない言葉だった。それで神の言葉を理解できないまま聞いていた。
「助けた全ての者を正しく導くのだ」
「正しくですか」
「罰を受けると言ったな」
「はい」
 そのことに偽りはない。覚悟は決めていた。
「それならばだ」
「それならば」
「御前が信じたようにするのだ」
 これが神の言葉であった。
「助けた命を。そのまま導くのだ」
「洪水の後にですか」
「では聞こう」
 今度はノアに対して問うてきた。
「ノアよ」
「はい」
「御前はただ舟に皆を入れたかっただけか」
「いえ」
 その問いにはすぐに首を横に振って否定するノアだった。無論それで終わりとは思っていなかった。そこから先まで考えているのもまたノアなのだ。
「無論それで終わりとは思っていません」
「そうだな」
「大事なのはこれからです」
 はっきりとした声で神に答えるのだった。
「洪水の後の世界で。皆が生きていくこと、これこそが大事です」
「それがわかっているならばよい」
 神はまずはその言葉を受けた。
「それでだ」
「それで」
「我が御前に与える罰はそれだ」
 あらためてノアに告げてきた。
「見事皆を導くのだ」
「それが私に与えられた罰」
「果たせぬ時、その時は」
「その時は」
「我の力の一つである雷を御前の上に落とす」
 そう宣言したのだった。言うまでもなく本気である。神もまた偽りは口にはしない。やはりそれも神なのだ。だからこそ神となっているのだ。
「そして御前も妻もその身を焼かれるのだ。わかったな」
「わかりました」
 神のその言葉にまた頭を垂れた。
「肝に命じました」
「よし。ならば見せてみよ」
 ここまで話を聞いてからの言葉だった。
「御前のその罰を。よいな」
「はい」
「我は常に見ている。空の上からな」
「空の上からですか」
「だからこそ全てが見えるのだ」
 つまり隠すことはできないと。言っているのだ。
「御前のすることもな。よいな」
「それもまた肝に命じておきます」
「言うのはこれまでだ」 
 ここまで話して話を終わりとしてきた。
 
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