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機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア

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第一部 刻の鼓動
第二章 クワトロ・バジーナ
  第一節 旅立 第一話 (通算第21話)

 
前書き
グラナダに配属されたランバン・スクワームとカミーユ・ビダンは日々の訓練で戦士へと生まれ変わりつつあった。連邦軍にあっては比較的自由な気風のある全地球圏宇宙防衛隊では、反地球連邦組織が蠢いていた。 

 
 グラナダのダウンタウンとも言うべき東エリアの外れにある雑居ビル。CNZ商会と窓ガラスに貼られたドアから微かに声が漏れている。
「その情報は信憑性があるのだな?」
 若いジオン共和国の士官服を着た男は振り向きもせずに尋ねた。
「はい……。ライドル・ハンク大尉からの情報です。」
 息を切らせて走り込んできた私服の男は、手にしたメモを泳がせて士官に示しながら言う。汗が頬を伝い、ゆっくりと床に落ちて染みをつくった。
「ハンク大尉?補給小隊のか?たしかに彼の情報であれば信用できる」
 ティターンズがいかに独立した組織であっても、軍の一部であることには変わりなく、自前で補給部隊まで揃えるには至っていなかった。戸籍等が紛失した現在では本人の申請と証拠が提出されれば、連邦軍への復帰――いや、潜入は容易であった。その証拠は〈紹介屋〉と呼ばれる裏稼業の連中が揃えるのである。
金髪をなびかせて若い士官はメモをつまんだ。一瞬、鋭い光が瞳に宿る。サングラスの奥に潜む美しいサファイアブルーが印象的な美形だ。
「ティターンズは何を急いでいる……?パイロットの補充が今日もグリーンオアシスにはいっただと……」
「スウィート・ウォーターからは何の指示もきておりませんが…」
「キグナン! その名前は軽々しく口にしてはいかん」
 キグナンと呼ばれた私服の男は金髪の士官に敬礼を返す。私服を着てはいても彼も軍人であることは仕草で判る。敬礼の仕方から海軍の出身であることも判ろうというものだ。
「申し訳ありません、准将……」
「准将はよせ、ここでは私は大尉ということになっている」
 サングラスをデスクから拾い上げ、私服の男を睨んだ。
「はっ……ですが、アポリー中尉、ロベルト中尉も指示をまっておられますし」
「本国は何を考えているのだ……?」
「ですから、准将のお覚悟次第かと……」
「准将はよせといった」
 強くキーボードをたたく音がオフィスに響く。
 カシュッ。トレイが開き、メディアカートリッジが排出された。
 金髪の士官は排出されたメディアを手にしてポケットにしまう。
 彼こそかつてジオン公国軍で《赤い彗星》とあだ名されたシャア・アズナブルその人である。シャアのまとっている軍服はかつてのジオン公国軍服とほぼ同じデザインの新しいジオン共和国軍服である。ただ一つ違うことは、大佐ではなく大尉の軍服であることぐらいか。
「キグナン少尉…」
「はい、クワトロ・バジーナ大尉」
 シャアは、自分本来の副官がいつものように答える平静さを取り戻したのを知ると、満足げに頷いた。
「准将のところへ行く。アブ・ダビアに連絡しろ」
「はい、上申書には?」
「改修監督でいい。それで誤摩化せ」
 キグナンは返答を待ったが、シャアは赤い軍服の上にコートを着込んで部屋を出て行った。
「期待しますよ……准将」
 ひとりごちるキグナンだけが部屋に残された。
 シャアの向かう先はベイエリアである。キグナンも足早に落ち合った部屋を立ち去る。アブ・ダビアにツナギをとらなければならない。ここから反対側のベイエリアにシャアが着くまで一時間はなかった。
 シャアはかねてよりの計画を決行すると決めた。
 今、シャアが属するのはジオン共和国である。父、ジオン・ズム・ダイクンの名を継いだ正統なる国。しかし、父は、サイド3〈ムンゾ〉だけの独立を望んでいた訳ではない。少なくともシャアはそう考えている。
 一年戦争でジオンが得たものは大きい。ザビ家が地球を支配しようと考えなければ、戦争はもっと早期に終結していたであろうこともシャアには判っていた。だが、あの時は父の理想を具現化するよりも、復讐を成し遂げることしか考えられなかった。今でも、父の理想を継ぐことにためらいがある。だが、地球圏に戻って知ったティターンズの動きだけは許せるものではなかった。
(それに、七年も待ったのだ……全てが期待通りに動いてくれるとは思えんが、ティターンズの思う通りにだけはさせん!)
 手を挙げてタクシーを拾うと素早く乗り込み、行き先を告げる。目的地は宇宙港のあるベイエリアだ。
 タクシーの車窓から〈グラナダ〉の街並が流れる。放射状にメインストリートが六本。環状線が十二本走る東西十キロメートルに及ぶ巨大な複合都市である。一年戦争末期、ジオン公国の撤収によって、地球連邦軍が接収した月の裏側にある工業都市〈グラナダ〉。かつてジオン公国の兵廠としてモビルスーツの開発と生産をささえた重要拠点である。現在は、地球連邦軍グラナダ基地司令が行政監督官と連邦議会代議士を兼ねて総督として赴任している。経済的にはジオン共和国との連携が保たれたまま、月面都市経済連合の一翼をなしていた。月面都市経済連合は組織としてまとまっている訳でもなく、独立している訳ではないが、永世中立として地球連邦政府に非武装中立地帯としての特権を得ていた。〈グラナダ〉と〈フォン・ブラウン〉を除いては。ただし、月面都市経済連合とて一枚岩ではない。〈グラナダ〉はジオニック、〈アンマン〉はツィマッド、〈フォン・ブラウン〉はアナハイム・エレクトロニクスと、重工業系の大企業の植民都市化しており、相互に経済的に睨み合っている状態でもあった。
 人口は二百万弱。総人口一億を超す月面恒久都市連合内では〈フォン・ブラウン〉に次ぐ大都市である。ここには各サイド自治政府軍から派遣された軍人で構成されている連合宇宙軍が駐留する月面基地もあり、シャアは連合宇宙軍に派遣されているジオン共和国軍の将校であった。 
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