魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第54話 なのはとバルト
「聖王器ホムラ………」
「古代のインテリジェンスデバイスで能力は相手の精神を支配する………恐ろしいデバイスやな」
ジェイルは零治が操られた経緯を話した。全てラグナルの説明した内容と同じだったが、その中にジェイル自身の推測もあった。
「しかし必ずしも出来るわけじゃ無いみたいだね。戦ったバルト君は実際に重傷を負っただけで他に変化は無かった」
「だけどなのはが………」
「なのは」
「あっ、フェリアちゃん、久し振り………」
バルトとなのはは本局近くにある大きな病院に運ばれた。現在もバルトは集中治療室にいるが比較的軽傷で済んでいたなのははビップが使う特別病棟の一室にいた。
「気分はどうだ?」
「うん、大丈夫だよ………」
と弱々しく笑うなのはにフェリアは思わず目を背けてしまいそうになったが何とか踏み止まった。
見ていられなかったのだ。いつも元気で明るいなのはは見る影も無く、少々やつれた顔に目のクマ。誰が見ても衰弱している様に見えた。
(やはり精神的に何か攻撃を受けた様だな……)
ここに来る前に看護師から注意を受けていた。
『精神的にかなり不安定になっています。食事も中々食べられず、夜はうなされて眠れないみたいで、時々涙を流しながら誰かに謝っている時もあります。友達が来たことで多少でも心に余裕が生まれれば良いんですけど………』
(聞いていた以上だったな………)
そう思いながらお見舞いに持って来た花を花瓶に入れる。
「フェリアちゃん、ミッドはどうなってるの?」
「………今の所クレインに動きはない。あれだけ管理局にダメージを与えたのにな………行方すら掴めていない………」
「街の様子は?」
「今の所変化は無いな。だが、あの事件の影響で市民からも不安や不満が出てきている」
「そう……だよね………私も………」
そう言ってベットから立ち上がろうとするなのは。
「!?なのは、何をしている!!」
「私も行かなきゃ………私の力はみんなの為に………」
「しっかりしろなのは!!」
一生懸命なのはを抑えるフェリアだが、なのはは虚ろの目で「行かなきゃ……」と呟き立ち上がろうとした。
「くっ………!!」
咄嗟に近くにあったナースコールを押したフェリア。
「なのはさん!?ダメですよ!!安静のしてないと!!」
「私が!!私が!!!」
この後なのはは鎮静剤を打たれ静かになった。
「すみませんが今日は………」
「はい………」
医師の言葉にフェリアは何も言えずそのまま病院を後にした。
(なのは、私は信じてるぞ………)
フェリアはそう思いながら本局へと戻って行った………
「精神汚染?」
「まあ言い方は様々だろうけど私はそう言わせてもらうよ。フェリアの報告で聞いたのだが高町なのははとても正気では無かったみたいだ。夢でうなされ、精神的にも自分を追い込み自身の心を壊しかけている。………零治君に聞いたのだが高町なのはは以前にも空を飛べなくなるかもしれないほどの大怪我を負ったことがあるみたいだね?」
「それをあなたが言いますか………?」
敵意を持った声でジェイルに言うフェイト。
「すまない………あの時の私は自分の研究以外には何も気にしていなかった。覚えていないのもそのせいだろう」
「フェイトちゃん、落ち着いてな………今はその事を問いただす時間やない」
「………分かった」
はやてに言われ渋々静かになる。
「………済まないね、話を戻させてもらうよ。今日大悟君にお願いして聖王教会にある聖王器を取りに行ってもらった」
「聖王器?」
「そう、聖僧女リアレスの使っていた聖王器パールバティだよ」
「そんなん聖王教会があっさり手放すとは思えへんけど………」
「それがそうでもないんだな………」
そう呟きながら部屋に入って来たのは先ほど到着した大悟と加奈であった。
「遅かったやないか………」
「まあ色々とあってな。それにほら………」
そう大悟が言った後、加奈は特に白を基調とした特徴の無い杖型のデバイスを見せた。
「………?何やこれ?」
「これが聖王器、パールバティだ」
そう言われて驚くはやてだがその言葉を信じられず、杖をジロジロと調べるが特に特徴的な部分を見つけられず、とても聖王器と呼ばれるデバイスだとは思えなかった。
それははやてのみならず、その部屋に居る者全員の意見でもあった。
「………まあ待機状態のこれを見ればそう思うわよね。でも………セットアップ、パティ!!」
そう叫ぶと眩い光が部屋を包み、晴れるとそこには先ほどとはまるで違う赤い宝珠の付いた立派な杖があった。特に豪華に着飾ったわけでもなく、赤い宝珠が付いただけの様に見えるが、それだけでないのは誰の目にも明らかであった。
「これで聖王器は大悟君、加奈君、バルト君の3人、残りは零治君を操っているホムラ。後1つが謎なのだけれどもこれだけあれば充分に戦えるだろう」
「クレイン博士の言っていたゆりかごの事か?」
シグナムが思わず呟いた言葉にジェイルは頷く。
「どんな能力かは詳しくは私自身も分かっていない。今現在分かっているのは昔の私が開発していたガジェットは元はあのゆりかごの防衛システムであること。そして戦艦の様な大きな船である事くらいかな………」
「どう言った能力かは分らへんて事やな………」
「そうだね。だからこそそれに対抗しうる力が必要になるんだよ」
「それがこのジルディスに………」
「私のパティ………」
そう呟く2人に視線が集まる。
「そう。そして今回の事件で重要な鍵となるんだよ」
そんなジェイルの言葉に2人は固唾を飲みながら小さく頷いた………
「エローシュ君少し休んだら………」
「………」
そんな真白の言葉が聞こえないほどエローシュは集中していた。その顔は疲労困ぱいで青く、鼻にティッシュを詰め、今にも倒れそうになりながらも作業を続けていた。
「まさかこんなレアスキルがあったなんてね………」
そう呟いたのは無限書庫司書長のユーノであった。
椅子に座り小さな机の上にあるコーヒーを飲み、菓子を食べる。
「そうだな。ほぼこの無限書庫と同等の情報量を持ち、なおかつここには残されていない古代ベルカ時代の情報もあると言っていたな」
そしてその向かい側の席には真白の父、真白リクが疲れた顔で座り、ユーノと同じ様にコーヒーを飲んで用意された菓子を食べた。
無限書庫には現在ユーノ達無限書庫の局員とエローシュ、真白親子が居た。
零治に襲われた後、バルトマンを現れたジェイルに任せた3人はジェイルの要望で無限書庫でゆりかごの情報を探して貰う様に頼んだ。
ユーノに対してはエローシュ達とも面識があったので応援に来たと言った後直ぐに迎え入れられた。それほど人が足らなかったのだ。
「だけど情報が乱雑になっていて中々目当ての情報に辿り着けないとも言っていましたね。本人とユニゾンデバイスの彼、エクス君しか探せないと」
「それでここよりも乱雑になっているか………そんな状況で有力な手掛かりが得られるとは思えないが………」
「無限書庫よりも有力で信憑性のある情報があるかもしれないとその時代に生きた彼が言っていれば試してみるしかないでしょう」
ユーノの言葉にリクは何も返さず、未だに探し続けるエローシュを見た。そしてそのままため息を吐き、立ち上がった。
「何にせよ時間が無い。クレインが今にも動くしか無い中、直ぐにでもゆりかごの情報を手に入れなければ……」
「そうですね………僕達も捜索に戻りましょう」
そう互いに話した後、2人も作業に戻るのだった………
「着いたよ」
事件の真相等話した後解散し、1日が過ぎた。取り敢えず機動六課と有栖家は協力関係として独自にクレインへ対応する事となった。これははやての独断であり、あの場にいたメンバーだけの秘匿事項となった。
なお全員完全に納得したわけでは無いが、誰もが事件の早期集結を考えてるので誰も反論する者はいなかった。
そんな事もあり次の日、早速大悟は加奈を連れ、バルトの居る病院へとやって来ていた。
「………」
「加奈?」
大悟が俯いたままの加奈に声を掛けたが反応が無かった。
「加奈!」
「…あっ、ごめん着いたの?」
「うん……考え事?」
「ええ………キャロやルー、エリオの事でちょっとね………」
キャロ達3人は結局星達有栖家の面々と話すこと無く会議室を後にした。歳の近い優理や離しやすいアギト達ともだ。
気まずいのか、何も教えてくれなかった怒りなのか、加奈達の知る所では無い。
「そうだね………ちゃんと話し合ってくれれば良いんだけど………」
ライトニングは本日は休みとなっている。人数を欠いた状態では業務に支障をきたすとのはやての判断だ。
因みにエローシュの居場所はユーノから本日はやてへと伝えられ、3人は無限書庫へと向かっている。
「そう言えばエローシュが倒れたんだっけ?」
「ええ、昨日居ないと思ったら無限書庫に居たなんてね………何か隠し事してたみたいだし、エローシュもエローシュで何かなしえなくてはいけない事があるのかもしれないわね………」
「なしえなくてはならない事?」
「ずっとフェイトやシグナム達にも内緒にしてる事よ。………もしかして気が付いてない?」
そう問われ、返す言葉を失う大悟。
「大悟、仮にも副隊長なんだから忙しいだろうけど部隊のみんなを見てなくちゃ駄目よ………だからはやてにばっか負担が行くのよ」
「ごめんなさい………」
反論出来ない大悟は深々と頭を下げた。
「………まあそれでもはやてはしっかりやってるし頑張ってるわよね?」
「ああ。機動六課の部隊長としてみんなをまとめてるよ」
そう言った大悟の言葉はお世辞ではなく、アニメと比べてでもなく心から出た言葉だった。
実際にはやてが率いる機動六課が中心になって混乱していたカーニバルの事件の指揮系統を修復させ、最低限の被害で抑える事が出来たのだ。
幸か不幸か、あの事件の影響でバリアアーマーの評価が下がり、はやて共々、機動六課の評価がうなぎのぼりとなっていた。
「私も負けていられないわ………」
「ああ。俺達で出来る事をしよう」
そんな会話をしながら2人はバルトの部屋へと向かうのだった………
「………」
暗い何も無い空間。自分が地面に寝ているのか、浮かんでいるのかそれすらも分からない場所で不思議と恐怖感を感じないバルトはむしろ心地よく感じていた。
「………またお前か」
目を瞑り、ただ漂っていたバルトはゆっくりと目を開けた。目の前には前に1人で戦いを挑んだ騎士が居た。
『ああ』
「俺にあんなものを見せて何がしたい。お前を使えばいずれ俺もああなると言いたいのか?」
不意にバルバドスを起動させた時の事を思いだしたバルト。そんなバルトの言葉に少し驚いた顔をした騎士であったが、苦笑いしながらバルトを見つめた。
『あれはお前の覚悟を見たかっただけだ。ああ言う風に脅されても扱う勇気があったかを………』
「何が勇気だ………俺は昔と変わらねえ、血沸き肉躍る戦いを望むだけだ」
『だが今のお前はそれが全てじゃない』
そう返され、バルトは直ぐに反論出来なかった。
不意に浮かんでくるヴィヴィオの顔。くだらない事をしながらもバルトに笑いながら自慢してくる。
そしてそれを少し離れた場所から優しい笑顔で見つめるなのは。
『そう、お前には大事な人が出来た。自分の命を賭しても守りたいと思える存在が………』
「………だから何だよ、俺が弱くなったとでも言うのか?」
『いいや。むしろお前は強くなった。それはお前自身戦って来た男達を見れば分かるだろう』
「………ああ、そうだな」
そう呟きながら自分を負かした2人の男を思い浮かべる。
『そう、俺も守りたかった。オリヴィエもクレアも………だが、それが逆にあの悲劇を生む結果となってしまった………』
「あの騎士の大虐殺か………」
『あれは全てクレアが仕組んだ事だ。ある戦場で拾った少女が俺と肩を並べるほどに成長した事に俺は本当にうれしく思っていた。………だがクレアの本当の気持ちに気が付く事が出来なかった』
「本当の気持ち………か………」
『死ぬ寸前で俺は出来上がる寸前だったバルバドスに自分の自我をインストールさせた。今、お前と話せているのはそのお蔭だ』
「なるほどな………今、こうやって話せるのはバルバドスに宿っていたお前自身のお蔭ってわけか。………だが、何の為にこんな事をする?お前は俺に何をさせたい」
『………クレアを救って欲しい』
「救う?だが奴は大昔の人間でお前の様に………もしかして!!」
『そう、有栖零治を操ったあの聖王器、あれは俺と同じくクレア自身をインストールしたデバイスだ』
「なっ………!?」
『あの聖王器の特性は幻惑の炎。相手を惑わし、持ち主の心の奥底へ入り込み、操る』
「特性?」
『聖王器にはそれぞれ特性が宿っているキルレントの使っていたジルフィスには如何なる物も両断する魔力の刃。自身の魔力で刃をコーティングすればするほどその斬れ味も威力も桁違いに上がる。リアレスのパールバティは癒しの力。どんな怪我でも自身の魔力を媒介として相手の治癒力を向上させ修復する。時間がかかるが俺の見た中ではどんな怪我でも少し経てば治っていた』
「なるほど、だから特別だったんだな………ん?それじゃあお前にも何かしらの特性があるんじゃねえのか?」
『バルバドスは………』
「バルトさん!!」
「大悟……それに加奈か………」
目覚めたバルトは、視界に入った2人の名前を呼んだ。
「………身体が軽い。これが聖王器の力か?」
「えっ?パティを知っているんですか!?」
「パティ?」
「パールバティだから略してパティです」
「略すなよ………」
と呟きながら身体を起こす。前みたく起き上がれないほどの痛みは無く、痛みはあるものの動けないほどじゃなかった。
「バルトさん、動いちゃダメですって!!」
「なのははどこに居る?」
そうバルトが聞くと2人は互いに口籠った。
「なのはは………」
「案内しろ」
「でも………」
再び口籠る加奈と大悟に何となく状況を察する事が出来たバルトはそのまま体を動かし布団から出ようとした。
「!?駄目だってバルトさん!!」
「怪我は完全に治りきってるわけじゃ無いんですよ!!」
「うるさい、あのバカの目を覚まさねえといけねえんだ………」
痛みを感じながらもバルトは体を動かす。
多少ふらふらしながらも歩く事は出来た。
「ああもう………!!」
そんなバルトの姿を見て、文句を呟きながらバルトの体を支える大悟。
「俺が案内します。………だけど絶対に無茶な事はしないで下さいね!!」
「ああ、考えておく」
そんな曖昧なバルトの答えに呆れつつも2人は病室を出ていった。
「………あっ、待って!!」
そんな2人に加奈は慌てて付いて行くのだった………
「なのは」
「あっ、バルトさん………」
部屋に着いたバルトを迎えたなのはは力ない返事で答えた。
「なのは………」
なのはの様子を見て、大悟はたまらず小さく呟いた。その姿はやつれ、目にはくまが出来ており衰弱していた。
(フェリアからなのはの状態を聞いていたけど………これは………)
聞いていた以上のなのはの様子に加奈は何も言えなかった。
そんな2人の様子とは違い、大悟から離れ、なのはに向かうバルト。
「バルトさん、怪我は大丈夫なの………?」
「俺よりお前だ。何だその情けない面は………」
「ちょっ!?」
バルトの心無い言葉に思わず文句を言おうとした加奈だったが、なのはは苦笑いしながら頬をかいていた。
「あはは………やっぱりバルトさんは怒るんだね」
「当たり前だ、自分で溜めこんでそれに飲まれて駄目になってるんだろうが………情けねえ、1人で解決できねえなら誰かを頼れよ」
「………これは私自身の問題だから………」
「はぁ………だからそれがいけねえって言ってるんだろうが………」
そうため息を吐きながらバルトはなのはの頬を両手で軽くビンタした。
「痛っ!?」
「全く、お前も本当に頑固な奴だな………」
そう苦笑いしながら頬から手を離し、そのままなのはをお姫様抱っこして歩きだした。
「バルトさん!?」
「何処に行く気です!?」
「何処って外だ」
何食わぬ顔でそう答えるバルトに2人の顔色は真っ青になった。
「なのはは墜落した時のトラウマを思い出してこうなってるのよ!?今無理矢理そんな事したらどうなるか………」
「バルトさん、やめてくれ!!」
「なのは、俺は結構呆れてるんだぜ。お前みたいな女が、刀によって思い出させられたトラウマ如きにこうなっているなんてよ………」
「………」
バルトに抱きかかえられながらも恥ずかしがるわけでも無く、ただ俯いているだけのなのは。
「荒治療だが、付き合え」
そう言って瞬間、バルトは体に溜めこんだ電気を体に流し、痛んでいる体を無理矢理動かす。
「行くぞ!!」
そう言った後、凄いスピードで窓を破り割り、外へ出た。
「バルトさん!!」
「大悟、外に!!」
「ああ!!」
2人も慌ててバルトを追いかけるのだった………
「どうだ、怖いか………?」
バルトの言葉になのはは何も答えずただバルトにしがみつき、震えるだけである。
「私は飛べる私は飛べる私は飛べる………!!」
まるで無理矢理自分に暗示をかける様に何度も言い聞かせる。
「なのは………なのは!!!」
「!!?」
大声に驚き、なのははバルトを見上げるとその口をバルトの口で塞がれた。
「んっ!?……………」
最初は驚いたなのはだったが、直ぐに抵抗もせず受け入れた。
「バルト……さん?」
それでもキスをした理由を問う。
「落ち着けよ。今は俺が傍にいる、何も心配する事はねえ。だからお前は何も考えず空を見ろ。下の景色を見ろ」
優しく語りかけるバルトに言われるがままなのははゆっくりと空を見上げ、下の景色を見た。
「わあぁ………!!」
青く澄み切った空に、人や建物が小さく、まるで世界の全てを見ている様な感覚。
(ああ、これって初めて空を飛んだ時みたいな………)
恐かった筈の空の上。しかし今のなのはの体は震えておらず、まるで子供の様に好奇心溢れる笑顔でその広大な景色を見ていた。
「もう大丈夫だな」
「あっ………」
下ろされ、手を離そうとしたバルトの手を離さず、なのははしっかりと握り締めた。
「………もう大丈夫だよな?」
「………」
何も言わないなのはだが、不安そうな顔で見つめられバルトは照れながらもなのはの手を握り返した。
「………ありがとうございます」
「これっきりだ。………下らねえ事で悩むくらいなら先に俺に話せ。らしくねえ事したぜったく………」
っと文句を垂れるバルトだったが、心なしか満更でも無さそうな顔をしたのでなのはは小さく笑った。
そして………
「大好きですバルトさん………」
その言葉で振り向いたバルトにキスをしたのだった………
「心配なかったね………」
「流石バルトさんね」
そんな2人を見ていた大悟と加奈。
「だけどあれ………」
「場所を選んでほしかったわね………」
荒々しく窓をぶち破り、空を飛んでキスをして、今も手を繋いで下の景色を並んで仲良く見ている。
「これはスクープになるわね………」
「一応アイドル並の人気だしね………」
既に屋上には騒ぎを聞いて野次馬が居る中、2人は深くため息を吐くのだった………
「………んあ!?」
「起きたかエローシュ」
エローシュは無限書庫の床で寝ていた。疲れて倒れたエローシュはその場で寝ていた。真白に毛布を掛けられ、そこで寝ていたのだ。自動的にユニゾンが解かれたエクスも同様で、先に起きたエクスはエローシュの様子を見ていた。
「エクス………っ!?」
鈍い痛みを感じ、思わず頭を抑えるエローシュ。
「時の記憶の使い過ぎだ。このままじゃお前の脳がもたないぞ」
とエクスは言うが内心驚いていた。
(結局こいつは昨日もぶっ続けで3時間以上使っていた。前は30分で根を上げていたのに………こいつが真面目になると底が知れない………)
と思いながらも決して口には出さない。調子に乗るからである。
「………エクス、続きをやるぞ」
「………お前話を聞いていたか?お前の脳がもたないと言っているんだ」
「エクス」
「………ちっ!!」
エクスの言葉を聞く気の無い事を感じたエクスは舌打ちしながら手を出した。
「「ユニゾンイン!!」」
すかさずユニゾンを始め、エローシュは紺色のスーツ姿となった。
「やるぞ………」
『………分かった。だが今日はお前の負担の軽減に回る』
「ふざけるな、それじゃあ効率が落ちる」
『でなければお前とユニゾンはしない』
「………分かった」
渋々納得したエローシュに内心ホッとしたエクス。
(………もしかしたら今のエローシュがこいつの本当の姿なのかもしれないな………)
変わりようにそんな事を思いながらエクスはエローシュのサポートをするのだった………
「真白!!」
「みんな!!」
ルーテシアの声に反応した真白はしていた作業を止め、無限書庫に来たキャロ達3人の元へと来た。
「心配したんだよ?どうして直ぐに連絡してくれなかったの?」
「ごめんね、私の方も色々あって………」
そう言いながら真白は別の方向を見た。そこには真白の父親、真白リクの姿があった。
「あれって………」
「真白ちゃんのお父さんだ!!」
キャロの声に無限書庫で仕事をしていた皆の手が止まり、一斉にキャロの方へ注目した。
「ちょ、ちょっとキャロちゃん………!!」
「ご、ごめんなさい!!」
慌てて謝ったキャロを見て、それぞれ作業に戻るが、リクだけはこちらへとやって来た。
「雫、この子達はライトニングの………」
「はい、私の親友です」
「初めまして、ルーテシア・アルビーノと言います」
「有栖キャロです」
「エリオ・モンディアルです」
「初めまして、雫の父親の真白リクだ。いつも娘がお世話になってるね」
写真で見ている3人だったが、実際に目にして緊張してしまい、かちこちに固まってしまった。
「い、いえ!こちらこそ!!」
「お世話になられてます!!」
「何か口調がおかしいよキャロ!?」
そんな会話をしながらも話題は居る筈なのに姿の見えないエローシュの話になった。
「あれ?エローシュ君は?」
「エローシュ君は………」
「エローシュ…………」
座りながらも一ミリも微動だにせず、目を瞑るエローシュ。眠っている様にも見えるが、その姿をライトニングのメンバーは知っていた。
「時の記憶を使ってるの………?」
「うん、今日ももう2時間以上ぶっ続けで………」
「2時間!?大丈夫なの!?」
「大丈夫じゃないと思う。昨日は鼻血流しっぱなしで作業してたし………心配してるんだけど言っても集中していて………」
そう心配している真白の傍ら、相変わらず微動だにせず作業をしているエローシュ。
「エローシュ君はずっとこうだ。起きて直ぐに再び作業を始めてるし、一旦休憩かと思ったら死んだように休んで再び作業している、食事も碌にしていない始末だ」
「嘘………エローシュが?」
「信じられない………」
リクの言葉驚愕しながら思わず呟くルーテシアとキャロ。
「………それほど今回の事件は相当危険な事なのかもしれない。エローシュが真面目にやらざる負えないほど………」
そんなエリオの言葉が重くのしかかる。
「お兄ちゃん………」
「キャロ………」
涙を浮かべるキャロをルーテシアが優しく抱き寄せた。
「零治さん………なら方法がある………」
ふとそんな声が聞こえ、皆声のする方へと視線を向けた。
「エローシュ君!!」
直ぐに真白が駆けつけ、倒れそうになったエローシュを支えた。
「全く、無茶をしやがって………」
ユニゾンを解いたエクスが文句を呟く。エクスの顔も疲労困憊で今にも倒れそうなほどだ。
「エローシュの奴、ゆりかごの調査だけじゃなくて、有栖零治を操った刀の事を調べていた」
「えっ?あんた知ってたの!?」
「………ジェイル………イーグレイ………博士が教えてくれた………バルトマンを連れ、何処かへ行く前に………俺に…ゆりかごの調査と……零治さんを救う方法を探してくれと………」
ルーテシアの問いにそう絶え絶え答えるエローシュ。しかしその顔に笑みがあった。
「ゆりかごに関して……は、まだ時間がかかるが………零治さんを……救う方法は………見つかった………」
「本当に!?」
「それには俺達が有栖零治に回路を接続し、眠り続ける有栖零治を起こす方法だ。その為には有栖零治の動きを止め、尚且つ、有栖零治の家族の皆が零治を連れ戻す方法。それがあの刀の束縛から解放する方法だ」
絶え絶えのエローシュの代わりにエクスが答えた。
「………だから零治さんを救うには…有栖家のみんなの力がいる………」
「エローシュ君………ありがとう………」
涙目で頭を下げ、お礼を言うキャロ。
その姿を見て、やっとエローシュは元のエローシュの顔へと戻った。
「真白ちゃん、ごめん………後はお願い………」
何のお願いなのかはさておき、そのまま気絶してしまうエローシュ。
「エローシュ!?」
「エクス、エローシュは!?」
「流石に限界が来ただけだ。………かなり危なかったが、倒れてくれて助かる。言っても聞かないからな俺のマスターは………」
エリオの問いに舌打ちしつつ、そう呟いたエクス。しかし嫌悪感は無く、何処か温かい目であったのは誰が見ても明らかだった。
「エクス君………」
「………俺も休む。こいつが起きたらまた出てくる」
キャロに微笑ましく見られたエクスは気恥ずかしさを隠すように姿を消したのだった。
「………良かったねキャロ」
「私も今度はお姉ちゃん達と一緒に………私、お姉ちゃん達にこの事を話してくる!!」
そう言って駆け出すキャロ。
「キャロ待って!!エリオ………」
「エローシュ君の事は私が見るから2人はキャロちゃんと一緒に………」
「………分かった!!」
「エローシュをお願いね、真白!!」
そう言って2人は慌ててキャロを追いかけるのだった………
「とうとう、こう来たか………」
授業で俺が使っていたロッカーに名無しの手紙があった。
そこには『彼女に付きまとうのはヤメロ』と新聞の切り抜きで文字が作られていた。
「どうしたの?」
「うおっ!?」
後ろから不意に声を掛けられ、振り向くとそこには笑顔で俺を見ていたエリスが居た。
「ん?今何を隠したの?」
「あっ、いや何でもない!!」
「………もしかして友達からエロ本でも借りた?」
「えっ、ああ!!そんな感じ!!もう凄いアングルの!!」
「へえ………」
あっ、失言だったとエリスの顔を見て後悔するが後の祭りだった。
「………エリスも見るか?」
「見ません!!」
怒ってその場を後にするエリス。
「ですよね………」
1人呟きながら俺は手紙をバックにしまうのだった………
そんな事もあった後、気にせずにいた俺だったが、手紙はエスカレートしていった。
「しつこいな………」
鑑定に出すほど表沙汰にしたくもないし、俺に接触してくるかと覚悟していた俺だったが、一向に相手から接触してくる事はなかった。しかし手紙の内容は徐々にエスカレートしていき、とうとう俺を殺すとまで脅迫してくるまでになった。
「恐いね~」
と軽い口で言う俺であるが、桐谷の影響で多少空手の腕もあり、その辺の男なら取っ組み合いになっても負ける気はさらさらなかったので変な自信があった。
「さて、今日はどうするかな………」
エリスも今日は家の都合があるみたいで今日は学校を休んでおり、バイトも休みだった。
「そう言えば前に感じた違和感の原因を調べてみるか………」
ふと、入学式の時に感じた違和感の事が気になったのを思い出した。
「前行った時はソフト無かったんだよな………今日は他の場所へ………」
と呟きながら歩いていると………
「また会ったな」
不意に声を掛けられた。外人であったが日本が上手く、普通に知り合いに声を掛けられたのかと思った。しかし俺には外人の知り合いはいないし、話したことすら覚えにない。
しかしその顔は妙に懐かしく、何故だか初めて会った気がしなかった。
「今のお前に会うのは初めてか………と言っても俺は俺自身って訳じゃ無く、あの時の残滓であるだけで長くとどまる事は出来ないんだけどな………」
「何を言ってるんです………?」
不意に痛み出す頭。あまりの痛みに脂汗が滲み出す。
「さて、もう俺も時間が無い。一言だけ言っておく。お前を待ってくれている子達がいる。それを思い出せ、そして戻ってこい!!」
「何を言って………ってあれ?」
気が付くと目の前に居た外人は消えていた。まるで神隠しにあったように………
「何なんだ一体………?」
いきなり色々と話され、覚えている事は少なかった。しかしハッキリと覚えている事はあった。
「思い出せ?俺の帰りを待ってくれている子達がいる………?何の事だ?」
一瞬、加奈の事かと思ったが、『子達』とあの外人は言っていた。恐らく加奈ではないんだろう。
「どう言う事なんだろう………」
不思議に思いながら俺は帰路に着くのだった………
「………ふぅ」
「どうしたんだい?」
「危なかったわ………まさかあんな事があるなんてね………やっぱり興味深いわ、有栖零治………」
そう言ってニヤリと零治は笑ったのだった………
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