魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第55話 再び訪れる絶望
「うーん………」
不思議な事を体験した後、俺は数カ所のゲームショップを回った。
しかし何処にもあの時見たゲームは売っていなかった。
「せめて題名が分かれば探し様はあるんだけど………」
そう呟きながら無駄に歩いた疲れか身体が重く感じる。
「!?そうだ!!魔法少女リリカルなのは、ゲームってスマホのネット検索で調べれば良いんじゃないか!!」
何故今まで気がつかなかったのか不思議な位だが、今日ふと思い出すまですっかり忘れていたので仕方がないのかもしれない。何か重要な事に思えて結局しょうもない事と考えていたのも原因なのかもしれない。
「まあ兎に角、調べればどんなゲームかは一発で………」
とそんな事を呟きながらベンチに座り、スマホを弄る。
しかしそんな時だった。
「うん?加奈からか」
電話がかかって来たので作業を止め、電話に出ることにした。
「もしもし、加奈?」
『あっ、兄さんまだ帰らない?』
「いや、今から帰ろうと思った所だけど………何かあったか?」
『今日お母さんとお父さんも帰りが早いから外食に行かないかって。兄さんが早く帰るならって条件だけど………』
「分かった、じゃあさっさと帰るよ。俺も行くって伝えといて」
『分かったわ。さっさと帰って来てね』
そう言ってプツンと電話を切られてしまった。
「………何か浮かれてなかったか?」
高校3年生にもなって家族にベッタリなのはどうかと思ったが、親にしてみれば嬉しい事なのかもしれない。
「………さて、加奈の逆鱗に触れる前にさっさと帰るとするか………」
結局俺はゲームの事をすっかり忘れて急いで帰路についたのだった………
さて、カーニバルの襲撃事件から5日経った。地上部隊の再編成に手こずっているものの、混乱は大分落ち着いた。
そんな中、相変わらず管理局の上層部ではゆりかごについてまとまっていなかった。
「………以上が見つかったゆりかごの情報です」
ユーノがほぼ不眠不休で得たゆりかごの情報を上層部の会議で報告した。
「何てことだ、衛生軌道上に上がってしまえばもう手の施しようがないでは無いか………」
「いや、上がりきるギリギリで、アルカンシェルでの一斉砲撃を行えば………」
「何時起動するか分らない相手に対し迅速に準備し、確実にゆりかごを破壊する事は可能か?」
ヴェリエ元帥にそう問われ、誰も答えることは出来なかった。
「更に付け加えればゆりかごには今回の資料に載っていない機能があると思われます。言葉だけですがそれはエンジェルソングと呼ばれるものです」
「エンジェルソング?」
「何なのだそれは?」
「………分かりません、無限書庫の資料にはその言葉の文献は見つかりませんでした………」
そんなユーノの言葉に怪訝そうな顔をする重役達。
「一体何処から出た情報だ?」
「その情報に信憑性はあるのか?」
「はい、その情報はかつてその時代にあったユニゾンデバイスによって得た情報です。そのユニゾンデバイスはかつて人の身でデバイスに改造された言わば人造デバイスと呼ばれる子です」
「それは本当なのか?」
「はい。………ですが彼の国は滅ぶ寸前で彼を封印しました。その際に彼の父親がその言葉を言ったらしいのです」
「それだけの事、気にする必要は無いだろう」
「そうだな、どちらにしてもゆりかごをどうにかすればそのエンジェルソングも機能しないだろうしな。その前にゆりかごを止めれば問題無い」
と言った後、再びゆりかごに関して議論し始めた。
(なるほど、エローシュ君の言う通りとなったな………やっぱりエンジェルソングを警戒するほどの余裕は無いみたいだ。だけどエローシュ君はエンジェルソングこそ一番警戒しなくちゃいけないと言っていた。やはり最後の綱は彼等に託す事になるかもしれないな………)
そんな事を話を聞きながら考えていたユーノ。
しかし同じような事を考えていたのはユーノだけでは無かった。
(ゆりかごを破壊するにはやはり外からよりも中から挑むしか………そしてそれをやれる部隊は今は………)
ヴェリエもそんな事を考えながら話を聞いていた。
ふと2人が目が合い、互いに相手の顔を見合う。
「………元帥、どうしましょうか?」
平行線に続く議論をどうするか後ろで聞いていた局員が耳打ちしてきた。
「………よし」
意を決したヴェリエは自分の考えを話してみる事にした………
「機動六課でゆりかごを攻略………」
『ああ、外からの攻撃よりも中から崩そうと考えたわけだ。そしてその役を高魔力魔導師が一番多く、被害の少なかった機動六課に話が来たと言う事だ』
クロノの通信を聞きながらはやては小さく唸った。
「………他の魔導師はどうするんや?」
『機動六課の突入を支援するように多面展開で君等を援護するようだが、ハッキリ言ってあまり期待できないだろうな』
「せやな………」
『済まない、また酷な役回りになる事になって………』
「まあそれでも頼もしい助っ人がおるんやけど」
『助っ人?誰の事だ?』
「悪いんやけどそれは秘密や。クロノ君にも教えられへん」
『………大丈夫なのか?』
はやての言葉に少々不満気な態度で答えるクロノ。
「大丈夫や。恐らく今一番頼りになる人物や」
『………まあいい、また大変な役回りだと思うが、任せる事になると思う』
「ええよ。私達にも目的がある事やし………」
『?』
そんな会話をし、通信を終えたはやては自分のディスクの上にあった資料を手に取った。
「私なりに一番可能性のある現実的なプラン。………あのバカ頼りの作戦やけど、実際他に良い案が浮かばへんのも確かや………」
その資料の中には作戦内容として大悟の扱う聖王器、ジルディスによる限界までチャージした魔力刃で沈めるプラン。ゆりかごに突入し、内から破壊するにも内部構造がほぼ不明の状態ではいくら高ランクの魔導師でも上手く行くとは思っていなかった。そう考えた結果の保険が、大悟の聖王器の力を使ったゆりかごの撃沈というプランだった。
「せやけど文字通り限界まで魔力をチャージするから本人の負担もかなりのもんやしどうなるかも分からへん」
大悟の魔力はSSSオーバー。その魔力の全てを使っての攻撃はどれ程の使用者の負担になるか分からない。
「大悟君もジルディスの機動実験じゃ8割ほどで維持するのに危険になって中止になったらしいしなぁ………」
それから一度も大悟はジルディスを使っての機動実験をしていない。
なのでぶっつけ本番で行わなければならないのだ。
「もし集束に失敗すればSSSオーバーの魔力が周りに被害を及ぼす………もしもの時の為の加奈ちゃんなんやろうけど………2人には酷な作戦や。せやけどこれしか保険として最後まで一番成功する作戦なんや………」
俯きながらため息を吐くはやて。
「情けないわ………私………」
その後もはやては1人、悶々と過ごすのだった………
「ドクター、ゆりかごの最終調整終了しました。防衛システム及び、前もって準備していたブラックサレナ部隊、ガジェット部隊どちらも直ぐにでも稼働可能です」
「お疲れイクト。後は休んでいてくれ………」
「はい………」
クレインにそう言われてもイクトはその場から動かなかった。
「どうしたんだい?まだ何か…………?」
「………ドクターは他の妹達は稼働させないんですか?」
「ああ、残りの5体の戦闘機人達かい?彼女達なら既に機動させているよ」
「えっ!?では何処に………?」
「彼女達はバリアアーマーを装備して戦場に出てもらう。流石に量産アンドロイドのブラックサレナだけでは機動六課の魔導師達相手では難しいだろう」
「!?それでは妹達は彼女達の足止めとして………!!」
「何を不満そうにしているんだい?どちらにしてもゆりかごのエンジェルソングが起動すればどの道世界は崩壊する。出し惜しみも温存する必要も無いだろう」
「そうですが………」
納得いかない様子のイクトの様子にクレインは困った顔で頭をかいた。
「う~む、不具合かな………人間らしい感情を少なくしたはずなのだが………一旦君も調整しておこうか?」
「………いえ、私は大丈夫です」
「無駄な感情は事を仕損じるよ?これ以上様子がおかしかったら私も心配だから否応なく調整させてもらうよ?」
「………分かりました」
「それならいい、イクトもホムラ君の準備が完了するまで休んでおく事、いいね」
そう言ってクレインは零治の居る部屋へと向かって行った。
「………私はおかしくなったのでしょうか?」
そんな事を思いながらイクトはおかしくなった原因を考える。
最初に疑問に思ったのが海鳴市で、起動実験中のブラックサレナが暴走した時にスカリエッティの戦闘機人と戦闘した時だ。
「あの時、私は初めて自分の妹達の事を考えてしまった」
あの戦闘で助け合っていた戦闘機人達を見て、自分の妹達の事を考えてしまったのだった。
最初に作られていた8体の内、イクトの1つ下の戦闘機人は遠見市の隣の街で有栖零治に敗れた。機体もスカリエッティの回収された為、どうなったかは分からない。
そしてその次の妹は遊園地でバルト・ベルバインに敗れてしまった。こちらで密かに回収したが、修復は不可能な状態まで損傷を受けていた。
「あの時は特に何も感じなかったのに………」
今も自分達はドクターの物だと思っている。しかし新たに芽生えた物、それが物である筈の私に心を持たせた。
「私は………」
その後もハッキリと答えが出ないまま、イクトは何もない部屋で思考を凝らし続けたのだった………
「おはよう!!」
「おう」
今日も学校へ行く前にエリスと待ち合わせをした。最初こそ大変だった生活も人間は恐ろしいもので、気が付けば慣れてしまっていた。朝早く起きて、一緒に登校。その後はエリスと共に帰宅し、バイトで遅くなる。大変だがそれでも不思議と逃げ出そうと思う事も無かった。
(これこそ好きな女のためならって奴かな………)
もはやこの気持ちは疑いようもない。俺は初めて本気で女性を好きになったのだと思う。中学で経験した初恋や、高校で思った青春の恋みたいなものとは違う、この女性とこれから先もずっと一緒に居たいと思えた。
もはや愛と言ってもいいのかもしれない………
(………って付き合っても無いのに、何アホな事考えてるんだ俺………)
そんな事を考えていたら急に恥ずかしくなった。変な汗も湧き出てくる。
「ん?どうしたの?」
「な、何でも無い!!」
声をかけられ、無駄にドギマギしてしまった。普段は普通にいられたのに変な事を考えたせいで、少し緊張してしまったようだ。
「それでね、バイトの友達の愛ちゃんの家の犬がね………」
(何かいつもより綺麗に見えるな………)
と話そっちのけで俺は思わず見入ってしまう。
「あっ、そうだ!!ねえ孝介、今日はバイトなかったわよね?」
「あ、ああ。今日は何もないぞ」
「じゃあさ、今日夜ディナーに行きましょ!!昨日父から優待券をもらったのよ!!」
そう言って見せてくれたのは少々高そうなイタリアンレストランの優待券だった。
「………ん?この店、たしか加奈が見てた雑誌に載っていた様な………」
「そう!!今、巷の女の子に人気のイタリアンレストランなのよ!!ねえ行きましょ!!」
まるで子供の様に天真爛漫な笑顔で俺を誘うエリス。
(何だかな………さっきまで綺麗だと見入ってたのに、今度は可愛らしい仕草になって………子供っぽいけどまた良いなぁ………)
「ああ、じゃあ行こうか」
………と思いつつ、俺は断る理由も無いのでそのままOKの返事をした。
「うん!!じゃあ授業終わったら図書館の前のベンチで待ち合わせね!!」
「ああ、了解だ」
「忘れないでよ?」
「大丈夫だって………」
「本当?結構孝介は度忘れするときあるからイマイチ信用出来ないのよね………」
「あのな………」
とため息を吐く俺だが、内心ではもう既にディナーが楽しみで仕方がなかった。
そしてそれと同時に俺の中でも決心が付いた。
(今日正式に告白しよう)
もう言葉にしなくても付き合っている様に周りからは見えているだろう。ストーカーが俺にちょっかいを出してきた事から見ても間違いないと思う。
だからって今の関係のままこのままでいるのも納得出来なかった。
(俺の本気を見せてやる………!!)
告白と言うよりも強敵に挑むような決意を持ちながら俺は今から告白の言葉を考えるのだった………
「……………」
「じゃあまた授業後」
「うん!!」
校舎に着いた私は孝介とは別の授業の為、入口で別れた。
話の流れで何とか自然にディナーに誘えたけど、内心ドキドキではち切れるんじゃないかってほど心臓が動いていたと思う。
(だけど上手く誘えてよかった………)
男の人と付き合った事の無い私はどう誘えば良いかイマイチ分からなかった。最初こそ友達の様に一緒にいた孝介だったけど、彼の優しさに惹かれていく内に今まで出来ていた事が上手く出来なくなっていった。遊びに誘う事もショッピングに行くときも、前もってしっかり考えて誘わないと上手くいく自信が無かった。
そして私自身、今の関係以上になりたいと思って、思い切って父に相談した。
最初こそ複雑な顔で私の話を聞いていた父だったけど暫くして諦めた様な顔をした後、私にあの優待券をくれたのだ。
『本当はエリスと一緒に食事しようかと思ったんだが………エリスの為になるんだったら俺も満足だ』
と言ってくれた父に思わず抱き付いてしまったのは孝介には内緒だ。流石にいい歳してって笑われそう………
「後はどう切り出すかだけど………」
もう言葉は考えてきた。練習も何度もした。後は本番で言うだけ………
「ううっ~!!」
思わず頭をかかえて唸ってしまい、注目を集めてしまった。
「………オホン」
わざとらしい咳払いをした後、その場を離れる為に私は孝介の方へと駆け出した。自分の教室へ向かわず孝介の方へと向かったのは恥ずかしさのあまりその場から直ぐになられたかったため、行先を考えなかった事が原因だと思う。
そして私はみてしまった。
「あっ………」
孝介の使っていたロッカーに大量の脅迫の手紙とその他の嫌がらせで孝介が困った顔をしていたのを………
「………エリス?」
「えっ、何!?」
学校を終え、早速そのイタリアンレストランへと向かう途中だった。
「何かあったのか?」
「えっ、何で!?」
「何でって何か考え込んでるから………」
「な、何でもないわよ………」
そう言いながらも再び、考え込んでしまうエリス。
(う~ん、どうしたんだエリスは?)
緊張しながら1日過ごしていた俺だが、エリスの様子を見て、その緊張も吹き飛んでしまった。
こんな表情をしたのはストーカーに気が付いて俺に相談した時以来だった。
(俺がエリスに張り付いてから俺の方に嫌がらせが集中していたから明るくなってた筈だけど………)
今日何かあったのだろうか?
「エリス、ストーカーの件で何かあったのか?」
「えっ!?何も無いよ………私は…………」
「そうか………?」
何も無いよと言った後、ボソボソと何か話していた様な気がしたがこれ以上は話したくない様なので追及するのはやめた。それでもやはり俯いたまま、考えている。
(どうしたものか………)
そんな事を見ながら辺りを見渡すとふとゲームショップがあるのに気が付いた。
「あっ!エリス、ディナーに行く前にあそこ寄っていいか?」
「えっ?あそこって………ゲームショップ?」
「ああ、行こうぜ!!」
俺はエリスの手を引いて、ゲームショップへと入って行った…………
「いらっしゃいませ~」
店員に迎えられ、手を繋いだまま、俺は携帯ゲームソフトがあるエリアへと足を運んだ。
「何か欲しいソフトがあるの?」
「ああ、ちょっと気になる奴でさ。だけどどこを回っても無くてさ………」
「ふ~ん………」
あまり興味が無さそうに辺りを見渡す。………と言うより初めて見る光景に驚いている様にも見えた。
「さて………おっ!!」
「あったの?」
「ああ!!見てくれ!!魔法少女リリカルなのはA´sポータブル!!」
そう言って自慢げに見せたら、エリスは固まった。
「ま、魔法少女………?孝介、そういう系に興味あったんだ………」
「そういう系?まあどう言うゲームかは俺も良く分からないんだけど………何故かどうしても気になってな………」
「何か特別な理由が………?」
「まあ歩きながら話すよ。取り敢えず会計するからちょっと待っててくれ」
そう言って俺はレジへと向かった………
「何それ?」
「ですよね………」
話ながら店に付き、席に座ったエリスの第一声だ。
確かに普通に考えたら『だから何?』って思う話だと思う。だけど俺はそれだけじゃ片付けられない何かがあると思った。
「それで、ソフトを実際に買って何か思い出した?」
「う~ん………」
ソフトを手に取り、パッケージの絵を見てみる。男の子や女の子が何やら可愛らしい服を来てポーズを決めている。
「全然………」
だけど何か重要な事を忘れている様な感覚を強く感じていた。本当に大切な何かを………
『『『レイ………』』』
「!!!」
「えっ!?どうしたの!?」
誰かに呼ばれた様な感覚を感じ、思わず立ち上がってしまった。
「あっ、いや誰かに呼ばれた様な気がして………」
勢いよく立ち上がったので、周りのお客さんも何事かと俺を見ていた。
俺は謝りながら座り、ソフトを再び見てみる。
「大丈夫………?」
「大丈夫だ、後は実際にやってみるよ。そうすれば何か思い出すかもしれないし………」
そう言うと心配していたエリスの顔が一気に曇り始めた。
「どうしたんだよエリス、そんなに暗い顔して………」
「孝介………ごめんね………」
「?いきなり何だよ………」
「疲れているんだよね………私の為に時間使ってさ………バイトだって時間を変えて私の為に多くの時間を使ってくれた………」
「何言ってるんだよ………」
いきなりそんな話をされ、訳が分からない。もしかしたらゲームの話題で機嫌を損ねてしまったのかもしれない。
「俺が余計な事まで話しちゃったのが原因か?」
「ううん。………私見ちゃったの。孝介のロッカーに大量の脅迫文があったのを………」
「それは………」
「私のせいだよね………私、もう被害が無くなっていたのに気づかないフリして無理矢理付き合わせてた。………1人で抱え込んで無理して私に付き合って………本当にごめんね………」
そう言って悲しそうな顔で俺に頭を下げた。
「………なぁエリス」
「何?えっ!?」
顔を上げたエリスの顔を手のひらで掴み、中指を引っ張った。
「このアホんだら!!」
引っ張った中指を離すと勢いを付けた中指が勢いよくエリスのデコへと向かう。
デコピンとしてエリスを襲った。
「!!?いった〜い!!!!何するのよ孝介!!!」
バチンといい音を立てて赤くなるエリスの額。場所も弁えずエリスは俺に食いかかる勢いで迫った。
「好きだ」
「私は真剣に大事な話をしてたのよ!?なのにあなたは………ってえっ?」
「エリス、俺はお前の事が好きだ。結婚を前提に付き合って欲しい」
「えっ………」
信じられないと言った顔で静かに席に座るエリス。
「本当に………?」
「嘘じゃ無い。今日だって俺は言うつもりで来たんだ」
「けど私って面倒な女だよ。ストーカーの時だって迷惑を………」
「俺は美少女ゲームを持って何か忘れてるってストーリーの主人公を気取ってるイタイ大学生だぞ?」
「それ、自分で言う!?」
そう言って小さく笑うエリス。しかしその直ぐに涙を流し始めた。
「え、エリス!?」
「ご、ごめんなさい………私嬉しくて……………本当は私の今日孝介に告白するつもりだったの。だけど朝、孝介のロッカーにあった脅迫文を遠くから見て、私初めて孝介にすごく迷惑をかけてると分かったの。それなのに自分だけ能天気に浮かれて、とても恥ずかしかった………だからもう迷惑を掛けない様に私に構わないで………って言うつもりだったんだけど………」
「そんなの俺が嫌だ。こんな気持ちになるのは初めてなんだ。エリスとならどんなに辛い事でも乗り越えていく自信がある。嫌な事があっても必ず俺が傍にいる。あんなくだらない脅迫文なんて何ともないさ」
「孝介………」
そんな俺の言葉に涙を拭きながら嬉しそうに笑うエリス。
「………やっぱりエリスは笑顔が似合う」
「ありがと………」
その後、俺達は少々の気恥ずかしさを感じながら料理を堪能した………
料理を食べた後も直ぐに帰る事はせず、近くの大きな川が流れる河川敷へとやって来ていた。
「静かね………」
「ああ………」
互いに体を寄せ合い、存在をしっかりと確かめるかの様に俺達は密着していた。
「今日の事は絶対に忘れない………」
「俺も………」
流れで告白をしてしまったような気がするが、恐らくその方が俺に合っていると思う。結局考えた台本のセリフは一言も言わなかった。
「孝介」
「何だ?」
「大好き」
そう言って俺の唇に優しく口づけをしてくるエリス。不意にされたので少し固まっていたが、俺も肩を抱いてそれに答えた。
「ん……………んふふ」
嬉しそうに小さく笑うエリスが本当に可愛らしくどうにかなりそうだった。
しかし………
「えっ………?」
不意に襲う背中の痛み。熱を帯び、激しい痛みが俺を襲った。
「お、お前がいいいいいけないんだ!!!僕の………エリスちゃんを!!!」
その後、後頭部を何かでぶたれ、俺は横に倒れ込む。
「えっ、孝介!?」
いきなりの事でエリスも固まっていたが、殴られた所で、俺に駆け寄って来た。
「な、何でそんな奴なんだよ………僕だって、僕だって!!!!!」
狂ったような雄叫びを上げた後、エリスに襲い掛かる男。
「くっ!?」
痛みと頭を襲う痛みで、体も意識も事切れる寸前だった。
だけど俺は体を振るい立たせ、エリスの前に立った。
「死ねええええええええ!!!」
男は血塗られた包丁を突き刺そうと迫っていた。
(これは駄目だ………)
直ぐに直感した。男の包丁は俺の心臓をめがけて真っ直ぐ迫っている。
(ごめんみんな………)
走馬灯の様に記憶が頭の中で流れていく。両親に加奈、桐谷。そしてエリス。
(ああ、だけど………エリスを守れてよかった)
だけど不思議と心は晴れやかだった。大好きな人を守れた事なのか、恐怖も無い。
(だが、ただじゃあ死なねえ!!)
そして意識を失う寸前、それだけが孝介の意識を失わずギリギリの線で保っていた。
一矢報いる。せめてエリスを襲わせない為に一緒に河川敷の丘の下に引きずり降ろして逃がす時間を作る。
途切れそうな意識の中、その思考だけはハッキリとしていた。
それなのに………
(なっ………!?)
俺の目の前に立ちはだかったエリス。
「ああっ………ああああああああああああああ!!!」
男の刃は止まる事は無く、エリスの左胸を突いた…………
「ああ、エリスちゃん………エリスちゃん………あはは!!何処に行くつもりなの?僕も一緒に行くよ!!」
そう言って男は自分の首をスパッと斬り裂いた。血を吹き出し倒れるが、通行人も誰もおらず、静かな河川敷に男の最後を見た者はいない。しかしその死に顔は不気味に微笑んでいた。
「エリス………」
もう動かない体を精一杯引きずり、エリスの顔を覗く。
「こう………すけ………」
「エリ………ス…………」
互いに虫の息だった。孝介はそれでも必死に救急車を呼ぼうとポケットのスマホを取ろうとしたが、腕も碌に動かない。
「ご………めん………ね………」
(何で泣いてるんだよ………笑えよ………)
そう口を動かそうとするが声も出ず、口も動かなかった。
(ああ、瞼が重い………)
そして孝介はエリスを守るように覆いかぶさり、そのまま動かなくなった………
『さようなら………有栖零治』
「準備は整った。さあ、世界を終わりを見よう」
そして男は動き出す。大きなゆりかごに乗って…………
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