道を外した陰陽師
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第三十三話
「・・・白夜、とりあえず一発殴らせろ。立場あるやつが失言をするなんて言うふざけた真似をした罰として一発殴らせろ」
周りに聞こえないよう音を操りながらそう聞くと、向こうも周りに聞こえない音量で返してきた。
「・・・お前の一発はシャレにならないからやめろ。だが、まあ本気でスマン」
本ッ当に珍しく白夜が素直に謝ったのを見て、こいつが素直にミスったことを認めているのが分かったのでこれ以上は言わないことにした。
「あー・・・確かに、お兄ちゃん九人って言ってたね。八人しかいないのに」
「いや、それはだな・・・勘違いというか・・・」
「お兄ちゃん、そんな勘違いする人じゃないじゃん」
そして、白夜の勘違いで済ませるという手段は夜露ちゃんによって封じられた。
さすがに初対面の相手に責任を押し付けるわけにもいかないので、この責任も白夜に押し付けて今度何かおごってもらうとしよう。ってか、奢らせる。
「ってことは、今ここに残りの席組みもいるってことよね?彼女、妹みたいだし彼女の判断は正しいと思うんだけど」
「うん、家族だしお兄ちゃんの性格くらいは理解してるよ。それに、そんな勘違いをしているんじゃ第一席なんてやれないし」
・・・事情を知らない二人による、逃げ道潰し。
「ってことは、あたしと妹さん」
「あ、夜露でいいですよ?」
「じゃあ夜露ちゃん。この二人と席組みの席組みを除いた人の中にいるってことになるんだけど・・・」
と、そう言われているのを聞きながら、白夜以外の席組みにヘルプを求める視線を送ってみる。
まず、最年長者である慈吾朗は前と一緒に酒を飲むことに夢中・・・というより、こっちを完全に無視している。
面倒事に関わらないという判断なのか、若者の問題に首を突っ込まないという判断なのか・・・何にしても、国レベルの問題なので関わってほしい。
殺女は、あちゃーという顔をしたのちに、がんばれという意味合いの笑みを向け、困惑状態の美羽と表情のない匁を連れてテーブルへと向かっていく。
そして、最後の砦である鈴女と拳は・・・あ、ダメだ。
既に食事に入っている。
で、この場に残っているのは原因である白夜に、ラッちゃんから質問をされていた俺。席組みではない・・・つまりは、この時点であの二人にとって席組み候補となる雪姫と穂積。質問しているラッちゃんに夜露ちゃん。この六人だ。
「あ、わたくしはただの地縛霊なので、関係ないですよ?」
「オイコラ逃げるな穂積」
「いやだって、事実関係ないですし」
そう言って、穂積は再びキッチンへと戻り・・・最後の料理を持ってくると、そのまま慈吾朗と前に加わって酒を飲みだした。
「ってことは・・・カズのライセンスはお会計の時に見たけど・・・」
「どうなってました?」
「十五位になってた。じゃあ、雪姫さんが?あの正体不明の『型破り』?」
そして、二人の視線が雪姫に向いた。
さて、ここで取れる手段は二つ。
一つ目は、このまま雪姫ってことで誤魔化す手段なんだけど・・・それは、いつばれてもおかしくない危険性がある。
白夜も同じ考えのようで、視線を送ると頷いてきた。
はぁ・・・仕方ない、よなぁ・・・
「雪姫じゃないよ、席組みは・・・『型破り』は」
「じゃあ、誰なのよ?ここまで来て勘違いで済ませるつもり?」
「あと、まだこの家には人がいる、というのもだめですからね?これでも夜露、気配察知は得意分野ですので」
「いや、もうそんな手を使うつもりはねえよ・・・はぁ、白夜。もういいな?」
「しかたあるまい。それ以外に手がない以上、下手に隠すのも悪手だ」
よし、特に許可なんてなくても話してたんだけど、これで光也からのお小言は全部白夜に押し付けることができる。
「ふぅん・・・で?誰なの?」
「俺」
「「・・・え?」」
「いやだから、俺」
数秒、二人は固まって。
「「いやいやいやいや」」
手を顔の前に持ってきて、左右に振るというとても分かりやすい否定の動作をしてきた。
「いやだってカズ、アンタのライセンスには十五位って書いてあったじゃない」
「ライセンスの偽造は不可能ですし、お会計で使ったのならなおさらです」
「ああ、うん。あれは偽物であり本物である、って感じになるからな・・・何せ、発行したの光也だし」
そう言いながら、俺は十五位の方のライセンスを財布から取り出して二人に渡す。
「まあ、そう言うわけだからこれは偽物なのに会計でも使えるし、本物として使えるんだよ。俺の本当のライセンスはこっち」
そして、次は空間に穴をあけてそこから本当のライセンスを取り出して二人に渡す。
渡す時に上にしておいた表面には、名前とかの情報が免許証みたいな感じに載っている。
で、裏面には・・・
―――――席組み第三席、『型破り』―――――
とまあ、とても分かりやすく俺の立場が書いてあるのを、二人は口をあけて見つめる。
ちなみに、もう一枚の方には『第十五位』とだけ書いていある。ランク持ちでない人の場合には何にも書いてないのだが、まあその辺りの都合はこの際放置。
「・・・ねえ、マジ?」
「おう、マジ」
「一切の冗談もなくですか?」
「一切の冗談もなくだな」
そして、再びの沈黙の後、
「「えーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」」
とっても大きな驚きの声が、二人から上がった。
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「・・・アンタって本当に、面倒事に巻き込まれる性質よね」
「でも、あのコミュ障のお兄ちゃんの知り合いなんて、それくらいしかないんですよね・・・むしろ納得しました」
「そんな性質を手に入れた記憶はないんだけどな・・・そして、妹からコミュ障とはっきり言われる兄って・・・」
どうにか二人が落ち着いてから、席組みになるまでの経緯に元の家のことまで説明したらこんな返事が返ってきた。
大丈夫か、日本。コミュ障が第一席って・・・
「・・・あ、そう言えばまだ挨拶もしていないのにこんな話をしてしまって申し訳ありません。夜刀神夜露、中学三年生です。兄がいつもお世話になってます。本日は、兄を参加させるためとはいえ初対面にもかかわらず参加してしまって、」
「あ、いいよそんな堅苦しいのは。家族いないから、こんな大人数で祝ってもらえてうれしいし」
正直、俺が堅苦しいのが嫌なのでそう言っておく。
「まあ白夜から聞いてるかもしれないけど俺は寺西一輝。名字が変わってる関係で名字で呼ばれるの好きじゃないから、一輝って呼んでくれ」
「分かりました、一輝さん」
承諾してくれたようなので、俺はラッちゃんの方を見る。
「まあそう言うわけで、これがもう一つの秘密だ。隠してたことを納得してもらえたか?」
「・・・一つ、質問いい?」
「なんだ?」
「アンタはアンタなのよね?」
何を言ってるんだ、こいつは・・・・
「何が言いたいんだ?」
「いや、幼馴染が席組みになって、何か一気に遠い人になったような気がして・・・・」
「はぁ・・・今日一日で、それくらいは分かったんじゃないか?」
「そう・・・ね。アンタは相も変わらず、問題児だったわ。さすがは、席組み全員公認の問題児」
そうして、ラッちゃんが元の表情に戻ったのを確認して、俺は部屋の中へと視線を向ける。
「んじゃ、せっかくのパーティーなんだ。全員で楽しもうぜ!」
そう、まだ中に入れていない人間に向けて言った。
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「はぁ・・・何だ、この惨状」
「そうだな・・・前の悪酔いの結果、だろうな」
「まあ、三人無事であったことを感謝しましょう」
「すいません・・・お兄ちゃん、お酒に弱いのにいっつも飲んじゃうので・・・」
そう、部屋の中を見ながら四人・・・俺と匁、穂積、夜露ちゃんの四人で呟く。
そこにあるのは、酔いつぶれた連中。いやもう、何なんだよこれは。
・・・前が全員に飲ませたからなんだよな・・・ついでに言うと、慈吾朗はこんなことになる前に帰った。
「はぁ・・・とりあえず、殺女は殺女の部屋に運ぶとして・・・美羽も、殺女の部屋でいいか」
「酔いつぶれている大人はこの部屋に放置でいいですね。お布団、運んできます」
「あー、なんかもう本ッ当にごめんなさい!ご迷惑をおかけして・・・」
白夜がつぶれているからだろう、夜露ちゃんが申し訳なさそうにしてくるが・・・
「いいよ、気にしなくて。これだけの人数がつぶれた時点で一人増えてもで変わらないから。さて、と・・・まずは殺女と美羽からだな」
そう考えながら近づくと、酔っているおかげか殺女からの反射的な攻撃はない。
そのまま二人を抱えて階段を上って行き、その俺を追い越して行った布団が殺女の部屋にしかれるのを見てからそこに美羽を寝かせる。
殺女は殺女の布団に寝かせてから、部屋を出ようとすると・・・部屋の前に、匁がいた。
「どうしたんだ、匁?」
「いや、今日は泊めてもらおうと思ってな。明日の朝、色々と大変だろう」
「それは助かる。それで・・・ああ、殺女の部屋に泊まるのか」
俺は納得して道をあけると、匁は抱えていた布団を敷きながら俺との会話を続ける。
「そうだ。渡しそびれていたが誕生日プレゼントだ。・・・大したものではないが」
「いや、ありがとう。うれしいよ」
「そう言ってもらえると助かる。ああ、それと・・・こっちは依頼の品だ」
そう言ってもう一つの小包を渡すと、そのまま殺女の部屋の扉をとじた。
思ってた以上に、早くこれが届いたな・・・今朝頼んだばっかりなのに。
「あの・・・一輝さん?」
と、そんなことを考えていたらすぐ後ろに夜露ちゃんがいた。
「どうしたの、夜露ちゃん?」
「いえ、その・・・ご迷惑かもしれないんですけど、私もとめていただけませんか?」
ああ・・・さすがに、あんな状態の兄貴を置いていくのは無理、か。
「いいよ。でも、誰の部屋を使おうか・・・」
そう言いながら、俺は他の部屋の状態を確認する。
まず、誰も使ってない部屋は埃まみれでつかえたもんじゃない。
次に、雪姫の部屋には雪姫本人と鈴女にラッちゃん。匁は自分からいったからいいんだけど、そうでないのならアルコールくさい部屋に泊まってもらおうとは思わない。
中学生ならなおさらだし、それ以前に四人も寝ると狭くなりすぎる。
そして、穂積には部屋がない。正確には、この土地自体が穂積の部屋みたいなものだから寝るときは土地に溶け込んで消えるため、部屋が必要ないのだ。
最後に、リビングには白夜、前、拳の三人がいるのでアウト。
「あー・・・俺の部屋、使う?」
「いいんですか?」
「いいよ。他の部屋に泊まってもらうわけにもいかないし。布団は今日洗ったばっかりだから俺のを使ってもいいし、いやなら穂積に聞いてくれれば来客用のが出てくると思うから」
そう言って階段を下りて行こうとすると、服を掴まれて止められた。
「どうしたの?まだ何か聞きたいことが?」
「いえ、ですね・・・一輝さんはどこで寝るんですか?」
「いや、武器庫とか・・・部屋はあるから」
「それ、どう考えても寝る空間じゃないですよね。家主なのに」
「いや、むしろ家主だからこそお客さんには部屋を譲らないと」
そう言って降りて行こうとするも、納得しれくれてはいないようだ。
「いやいや、さすがにそう言うわけには・・・」
「いいから、気にしないで。俺、どこでも寝れるから。それに、お互いに譲らないんじゃいつまでたっても寝れないよ?」
今回の俺の発言については、夜露ちゃんは納得してくれた。
うん、まあ納得はしてくれたんだけど・・・譲る気は、ないみたいで。
「なら、一緒に寝ませんか?」
とまあ、新しい提案が出された。
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