機動戦士ガンダム0087/ティターンズロア
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第一部 刻の鼓動
第一章 カミーユ・ビダン
第四節 渓谷 第一話 (通算第16話)
前書き
束の間の休暇を愉しんだランバン・スクワームとカミーユ・ビダン。歴史あるグラナダにはまだまだ戦禍の跡が残っていた。心の中にわだかまりを持ちつつも、二人は任務に戻る。グラナダに忍び寄る戦いの匂いを嗅ぎながら……
君は刻の涙をみる……。
「こんなんでジオンの残党だの反乱分子の連中がきても大丈夫なのかよ?」
ランバンがぼやいた。ずらりと並んだモビルスーツはRGM-79R《ジムⅡ》だ。一年戦争で活躍した七年前の量産型モビルスーツで、近代化改修を施され、ジェネレータやスラスターなどが強化されているものの、グラナダに配備されているものは新規生産分ではなく、旧型のRGM-79A《ジム》を改修したモデルである。
「さぁな、文句言ったってはじまらないだろ」
ヘルメットのバイザーの調子をみながら、カミーユが返す。ランバンの愚痴はいつものことだ。士官学校の操縦実習の時だって、《ジム》にぼやいていたのだ。
「せめて、ジムカスタムぐらいには乗りたかったなぁ」
「仕方ないだろ。ここはグラナダだぜ?ジムカスタムに乗りたきゃコンペイトウに配置転換を希望するか、地上に降りられる様にならなきゃな」
肩を竦めてランバンを突き放す。ランバンは新しい機体に乗りたいのだろう。士官学校では《ジム》ばかりであったからだ。とはいっても、ランバンは士官学校時代《ザク》をシミュレーターの愛機にしていたぐらいジオンマニアだった。ランバンがグラナダ配属を希望したのはジオニックの工場があるからだとカミーユは思っていた。
「ランバン・スクワーム少尉、カミーユ・ビダン少尉」
女性の鋭さをはらんだ明るい声だ。整備班のアンナ・ハンナ中尉であった。
「A2とA3は整備終了しています。これから実地訓練でしょ?」
「ハンナ中尉、ありがとうございます。けど…パトロールですよ?」
「わかってないなぁ、カミーユは。パトロールにかこつけた新兵イジメだよ。シゴキさ、シゴキ!」
くすくすと、ハンナが笑う。
「カミーユ少尉、私のことはアンナでいいわよ?ランバン少尉も」
「ありがとうございます。アンナ中尉。足回り注文通りにしてくれました?」
「してあるわよ。あんなピーキーにしちゃっていいの?接地のタイミング間違えるとイっちゃうかもしれないのに」
「AMBACが利きやすい方が旋回性能あがりますから。宇宙ではそれほど接地場面も多くないですし、推進剤に無駄がなくなるでしょう?」
「げ…またあの仕様にしたのかよ。絶対、お前の機体だけは勘弁だ!」
ランバンが、カミーユの前からコクピットに上がって行く。浮いた足に手をかけて押してやる。月では重力が六分の一とはいえ、存在するので、一人では無重力遊泳の状態にはならない。ランバンはA2と大きくペイントされた機体に取り付いた。コクピットハッチは開きっぱなしになっている。
「火はもう入ってるから!」
「はいっ!ありがとうございます」これはランバンだ。
カミーユはA3とペイントされた機体にとりついた。
居並ぶモビルスーツは全て《ジムⅡ》である。カラーリングはベースカラーが淡いクリームグリーンでボディーカラーがフォレストグリーンである。連合宇宙軍ではそれが正式なカラーリングに指定されている。パーソナルカラーの概念はない。部隊カラーなどは特殊部隊や特務部隊のみということになっている。肩には部隊章、シールドは伝統的な連邦軍の標準シールドにグリーングラナダを表すGNの文字が描かれている。
「カミーユ!ランバン!遅いぞ!」管制官ががなる。
「諒解!」
こういうときの呼吸はいい。ランバンとカミーユの唱和した返答である。新兵であっても決して謝らない。これはパイロットの特権だった。
「〈アルファ・トゥ〉、〈レプラコーン〉。リフトオフ」
「〈アルファ・ツリー〉、〈チャンピオン〉。リフトオフ」
「アルファ・トゥ、発進位置へ」
「ラジャー」
「アルファ・ツリー、そのまま待機願います。」
「ラジャー」
カタパルトペダルに足を合わせる。スキージャンプの要領で、モビルスーツに体勢をとらす。発進と同時に脚を伸ばし、バックパックのテールスラスターを噴かして巡航速度を得る。パトロールでは戦闘速度は不要だ。
「先行して〈アルファ・ワン〉〈ライトニング〉と〈アルファ・フォウ〉〈キャッツ〉が出ている。模擬戦だろ?」
「うわ…隊長だけじゃないのかよ…」
ランバンのぼやきが始まった。
「ランバン、お前の負けに晩飯を賭けとくぜ!」
「カウントダウン!」
今度はランバンががなった。レッドゲージが消灯し、グリーンランプが点く。射出。急激なGがランバンを襲う。テールノズルが四つ輝いた。
「あっちゃー…噴かし過ぎだよ、ランバン…」
管制官に促されながら、カミーユも機体を発進位置に移動させる。この辺りの動作は基本的に半自動で行われようになっているが、カミーユは手動の方が好きだった。
「〈チャンピオン〉〈ロメオ・アルファ・ツリー〉発進!」
別に口にする必要のない台詞を何故か口にしてしまうカミーユだった。
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